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73 ~サッカー部との練習試合 後編~

「待て。集合っ」

 もう一度試合をやろうとしていた二年生を止め、監督が全員集合させる。

「お前ら、一年には勝てるって言ったよな?」

「相川が入っているのでは勝てません」

「稔も一年だ。稔も含めて勝てないと一年に勝ったとは言えないだろ」

  そりゃそうだ。ってか、さっき、ミノが入らないなんて一言も言ってないのに、ミノはいないものだと思ってたってことか?

「相川は試合に出ないじゃないですか。先輩たちがいた時も。先輩たちの誰よりも強かったのに」

「来年からは出ますよ」

 稔が言う。

  どういう風の吹き回しだ?

「そっか。俺らも来年からは出れるのか」

 傑も、そういえば、という感じで言う。

「何かあったのか?」

「こっちの話。カケは知らなくていいよ」

「……あっそう」

  知らなくてもいいなら、まぁ、いいか。

「だそうだ。まぁ、勝てないのなら、来年は現一年のチームにするだけだからな」

「まだ正式な紅白試合ではないですよね?」

「正式な紅白試合ならば勝てるのか? ただの練習試合だったら手を抜くのか? それなら、なおさら一年に任せるか……」

「それは、この部の規則と違いますっ!」

  そんな怒らんでも。

「まだ、正式に任せるとは言っていないが……。はぁ……。一年、相川兄弟と手合わせしてもらえ」

「はい」

  よっぽど一年の方が使いやすそうだな。

「カケ。どうする?」

 こちらにやってきた稔が訊いてくる。他の五人は先にフィールドに降りている。

「俺はどちらでもいいけど……」

 多分、二年の説教に付き合うかという話だろう。

「監督」

「行ってくれていい。ありがとう」

「はい」

 稔とフィールドに向かう。

「ってか、ミノは一年の方に行かなくていいのか?」

「何を目的としてやるのかだけは話し合ったし、俺いなくても統率採れるから問題ないだろ」

「そうか」

 俺たちがそれぞれのポジションにつき、一年との試合を始める。

「アユー。どうする? 作戦はー?」

 適当に動きながらボールを持っている歩に尋ねる。作戦を立てる前に試合を始めてしまったのだ。

「支持しないから適当に動いてー」

「りょーかい」

  今回はスグがワントップで攻めることになるだろうから、人を集めてもらって、俺かミノがゴールを狙っていくことになるのか? まぁ、そんなセオリー通りにはいかないか。

 とりあえず、歩と同じラインで敵陣に攻め入る。一歩先にいた傑と歩には人数差を活かして、何人かのマークがついている。

  そういや、さっき、ポジション取りを意識するとか言ってたか。面倒な位置に動いてやろ。

 相手のポジション感覚を見て、その間にある空間に入る。フリーでなくても何ら問題はないが、マークマンがいないことに越したことはない。

 そんな俺の動きを見ていたからか分からないが、歩からパスを出すぞ、と視線で言われた。

  えぇ……。ミノに出せないのかな。俺じゃなくていいでしょ。

 稔の方に視線を向けると、マークが一人ついていた。稔ならば簡単にはがせそうだ。傑には二人のマークマンがついている。

  スグに出すか。中に入りたくないし。少し意地悪してやろ。

 歩からパスを受け、周りがどう動いて来るかわからないため、少し待っていると、近くにいた二人が近寄って来る。

「遅いよ。どちらかは、もう少し近くにいないと」

 俺は、寄ってきた二人にそう言い捨て、ドリブルで少し中に入ってから、傑とゴールキーパーのどちらが先に触るかわからない場所にパスを出す。

「くそっ。面倒なところに出しやがってっ」

 傑が文句を言いながらボールに向かって走っていく。傑をマークしていた二人は完全に置いていかれている。傑がゴールキーパーがボールを捕る寸前に少し触り、ゴールを決める。

「あぶねー」

 俺は、傑がゴールを決めたのを見届けると、自陣に戻る。すると、後ろからすごいスピードで走ってくる足音が聞こえた。

「カケーっ! なんであんなところに出すんだよっ!」

 傑に怒鳴られる。

「少しヒリツキがあったほうが良いだろ? どうせ点を取られることはないんだから。それよりも、スグ。マーク付きっぱなしにしておくとか、相手のことなめすぎ。ワントップなんだから、いつでもパス出せるように動いておけよ。もしくは、もう少し引き付けておけ」

「うっ……。ちゃ、ちゃんと動くから、次は普通にパス出して」

「スグの頑張り次第かな」

「えぇ。それ、全部鋭いのになるやつ」

「カケ、スグ。来るぞ」

「はーい」

 歩に言われ、傑が自分のポジションに走っていく。試合が再開すると、一年生は人数差を利用して攻めてくる。そこまではよかった。

  相変わらず、十番は自己中心的に物事を考えてるんだな。

 歩と対峙しても一人で抜こうとしている。俺たちが、パスを出しやすそうな人たちは野放しにしているというのに。

  バカすぎる……。もっと周りを使えよ。

 歩もそう思っているのか、簡単にボールを捕れるにもかかわらず、取らずにパスを出しやすい形で守備をしている。その間にも時間は過ぎていく。そろそろ周囲の人たちの堪忍の緒が切れる頃だろう。

  はぁ……。アユが優しくしているうちにパスを出せっての。

「アユー。もう行っていいよ」

 呆れたように稔が言うと、歩は鬱憤を晴らすように猛スピードで十番を抜き、そのまま一人で敵陣の中に攻めていく。何人かが止めに来るが、歩を止めることはできず、歩がゴールを決めた。

「一人で勝負をするならあれぐらいやってもらわないとな」

「まぁ、あそこまでできたら完璧だけど、少なくとも三人ぐらいは抜けないとな」

 フィールドの中央で立ち尽くしている十番に向かって、傑と稔が言う。

「次はパスを回せよ。これは何の練習だ?」

「一度くらい勝負したっていいだろ」

「一度試すにしては時間を使いすぎだ。普段の公式試合だったら命とりだぞ。引き時を考えろ」

「悪かったよ」

  いつの間にこんなに話を素直に聞くようになったんだ? 何があったんだよ。

「頼むぞ」

 それからは十番が一人で攻めてくるようなことはせず、パスを回して攻めてくる。人数差をしっかり利用して。

  利用してこないような人たちとは試合もしたくないけど。

「カケ。適当に止めて」

 サッカー部のパス回しを眺めていた歩に言われる。

「一人で?」

「できるだろ?」

 歩はできないことは指示してこない。が、それにしても分が悪い。

  できなくはないけど……。やりたくはないよな。

「できないって言ったら?」

「やれ」

「はぁ……。了解」

 歩に命令されたら、やるしかない。特に策がないわけでもない。

 相手は、必ず十番にパスが集まるようにしているからだ。十番が誰かにパスを出すと、二人ぐらいパス回しをすると、絶対にどこに居ても十番に返すのだ。そういうポジショニングになっている。

 稔や傑をかわすためかと思っていたが、二人が前線に走って言ってもまだやっている。統率を取るためにやっているのだろう。

  弱点にもほどがあるだろ。そう見せているのかもしれないけど。

 とりあえず、気付いてない風に動く。適当にダッシュすれば、あの程度のパスは止められるだろう。ポーカーフェイスは得意分野だ。

 歩に指示された傑が敵陣の深いところまで走っていくのが見える。と同時に右サイドにいた選手が十番にボールを戻す。パスカットをされるなんて到底思っていないようなゆっくりとしたパスだ。

  行ける。

 俺は走り出し、パスカットをする。そのまま少しドリブルしてから、少し前を走っていた歩にパスを出した。

「は……? 気づいてなかっただろ……」

  やっぱ、そう見られてた? よかった。

「お前にパスを集めるのは、そう思わせるため? それとも、そういうルール?」

「半分はそう思わせるため。半分は統率を取るためのルール」

「それは、ミノが決めた?」

「いや。相川が来る前から俺たちの世代はこうだった。一番統率がとりやすいから」

  弱点を抱えてるのは、気付いてるのか? 気づいてないことはないと思うけど……。

「なるほど。でも、そしたら君が囲まれて終わりだよな?」

「お前ら以外にこの戦法で負けたことない」

 確かに、二年生とは対等に戦えていた。上回る力はなかったが。

「だから、ミノも許してるのか」

「許してるってどういうことだよ」

「そんな簡単につぶされそうな作戦で良く戦わせてるな、と」

「相川がいればもう少し戦えている」

 傑にパスが渡り、ゴールを決めた。

「ミノがいなくてもこれだけ戦えていれば、それなりには勝ち上がれる気がするけど、全国はどうなんだ?」

「全国に行ってもお前らより強い奴はいない」

「別に、強さはあまり気にしていない。ミノがいれば、ミノが一人で全国に連れて行けるだろうから」

「サッカーはチーム競技だ」

  ふぇ? そんなこと、彼の口から聞けると思ってなかった。一番わかっていなさそうなのに。

「そうだな。じゃあ、君たちはミノに追いつかなきゃいけないんだ。大変だねぇ」

「わかりやすく強いから助かっている」

  それは、練習する上でのモチベにつながっているということか? 強すぎると逆にモチベ下がりそうだけど。

「カケ。話すならフィールドの外に行け」

 自陣に戻ってきた歩に言われる。

「はーい」

 俺はその場を離れ、自分のポジションにつく。

 試合が再開し、相手が攻めてくる。今度は、十番にボールを集めず、サイドからドリブルで攻めてくる。

  やっぱこう来ないと、止め甲斐がないよな。

 俺としては、パスカットよりもドリブルで攻めてくる方が止めやすい。俺が止めに行くと、相手は俺と対峙する前に逆サイドにパスを出した。

  逃げられた……。まぁ、ミノが止めてくれるからいいか。

 案の定、逆サイドでパスを待っていた選手より先に稔がボールに触り、パスカットをする。稔はそのままドリブルを始めた。

 一応、俺も前線に上がっていたが、あまりこっちを見ていないだろう。そのまま一人でゴールまでもっていきそうだ。俺は途中であがるのを止め、少しずつ自陣に戻る。その間にも稔は進んでおり、何人か躱してシュートを放ち、ゴールを決めた。

「ミノ。今度はパス回せ」

 自陣に戻ってきた稔に歩が言う。

「アユに?」

「四人で。サイドチェンジとかもしよう。練習になってないだろ」

「りょ」

 試合が再開され、歩が相手の攻撃を止めると、俺にノールックでパスを出してくる。俺は、来ると思っておらず少し驚いたが、しっかりボールを受け止め、一人躱して、逆サイドを駆け上がっている稔にパスを出す。ボールはぴったり稔の足に納まった。

  あとはやってくれるだろ。この辺から眺めておくか。

 稔は歩にパスを出し、歩はすぐに稔に返す。もう一度、稔が歩にパスを出す。

  ずいぶん遊んでるな。まぁ、でも、あまり引っ張られてないし、及第点か。意識してるだけかもしれないけど。

 歩が傑にパスを出すと、傑はすぐに稔にパスを出す。パスを受けた稔はダイレクトでシュートを決めると見せかけて、傑にパスを出す。傑がダイレクトでシュートを放ち、ゴールを決めた。

「うぇーい」

 傑が稔にハイタッチをしに行く。

「さすが、スグだな」

 傑を避けながら稔が言う。

「いや、今のは完全にミノのおかげだ」

「そう言うことにしておく」

 俺が自陣に戻るころには、稔たちも戻ってきていた。

「そろそろ最後の攻撃か。どうする、ミノ? 何したい?」

 試合のタイマーを一瞥した歩が問う。

「カケとツインシュート」

「それはこの前やっただろ」

  もうやりたくない。

「じゃあ、俺とやる?」

 歩が訊いてくる。

  俺と、ってことか?

「嫌だよ。何を言われてもやらない」

「だろうな。どうする?」

「最後だし、アユが全部やってくれてもいいよ。俺らはハーフラインより後ろ側にいるから」

「最後、それでいいのか?」

「最後、だからね」

「了解」

 それぞれのポジションにつくと、試合が再開する。残り一分だ。

  まぁ、アユなら十分か。

 歩が相手からすぐにボールを奪い、何人か止めに来た選手をかわし、ゴールを決めた。

 試合終了のホイッスルが鳴る。

「お疲れー」

「カケ。今日のって、メモしてる?」

 稔が尋ねてくる。

「いや。してないけど……」

「できるか?」

「覚えてる範囲だったら……。どのぐらい覚えてるかわからないけど」

「覚えてる範囲で頼む」

「りょーかい」

  やばい、全然意識回ってなかった。一応持っては来たけど……。

 選手たちより先に、監督に呼ばれる。

「今日は、相手をしてくれてありがとう。一年にはいい刺激になった」

 俺たちが集まると監督が口を開く。

  二年生は……、この後が大事か。

「二年の方はどうにかしておく」

 お願いします、と言うのも何かおかしくて、返事に困る。

「試合はもういいが、時間に余裕があるのだったら、一年の指導を頼みたい」

 俺たちは一斉に歩の方を向く。こういうのを決めるのは歩の仕事だ。

「わかりました。指導と言えるかわかりませんが、やらせていただきます」

「あぁ、頼む。稔は好きにしてくれ」

「はい」

 今度は一年が集められる。俺たちは少し離れたところに移動する。

「アユ。ノート書いててもいい?」

「いいぞ。頼もうと思ってた。持ってきてるのか?」

「一応」

「さすがだな」

  記録するのは忘れてたけど。

 ベンチを借りる気も起きず、立ったままノートに書き始める。すると、雫が隣にやってきてしゃがみ込む。

「どうしたんだ?」

「俺、教えられることないし、カケの隣に居ようかなと思って」

「なら、思い出すの付き合ってくれ」

「いいよ」

 雫と話しながら、できるだけ正確に記録をしていく。その間に、監督の怒鳴り声が何度か聞こえた。多分、二年に対して怒っていたのだろう。一年は、歩たちの指導を真剣に受けていたから。

 六時を過ぎると、解散となる。他の部活も終わったようで、高校生組が全員集合する。

「なんで、アユたちがいるんだ?」

「あれじゃね? サッカー部の練習付き合うってやつ、今日だったよな?」

「正解」

「じゃあ、今日の兄弟練習なし?」

「どっちでもいい」

「俺は、今日やらなくてもいいかなぁ。なんか疲れたし」

「俺もー。なんか、疲れた」

「じゃあ、今日は良いか。ゆっくりしよう」

「うん」

 のんびりと屋敷に帰る。

「おかえりー」

 荷物を置き、家に入るとご飯の準備をしていた栞が廊下に顔を出して言う。

「ツカとカオは?」

 翔は本人が思っているより表情に出ないタイプです。兄弟の中でも翔は表情からは分からないと思われています。

 相川兄弟は全員他の人よりどの競技もうまいですが、やはり、部活でやっている競技は他の兄妹よりもうまいです。今回で言うと、歩と稔ですね。ずば抜けてうまいとまではいきませんが、歩と稔の二人で兄妹四人ぐらいと同等に戦えます。


 次回は、 稔と翔の話し合い です。

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