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68 ~歩の記憶 中編~

「どこが分からないの?」

 望が訊いた。こういう時は、望に任せておくのが一番だ。僕が口をはさむと余計にわからなくなるらしい。僕は何も言わずに、二人の会話を眺めていた。

 それから約五分後の一限の予冷が鳴ったときには、彼は理解して違う問題と向き合っていた。

  やっぱり、望に任せておくのが一番だな。

「歩。前、向きなよ」

「わかってるよ」

 僕は、前を向き、国語の準備をする。

 他行には朝の学活というものがあるらしいが、この学園にはない。連絡事項は、親にはメールで、僕たちには掲示板で伝えられる。配布物は、係の人が職員室まで取りに行き、自分で取るという方式だ。

 一限の授業開始五分前に席についていないと遅刻扱いである。

  まぁ、遅刻してくる人なんて、誰もいないけど。

 まもなくして先生が教室に入ってきて、出席確認をする。教科担当制で、教科ごとに先生が違う。


 その後は何事もなく、いつも通り授業を受けていると六限の国語の授業が終わる。

 帰り学活もないため、僕たちは身支度を済ませると、学校の校門の前にとまっている車に乗り込み、帰宅する。

「先に予約に行くのと、宿題をするのと、どっちがいいと思う?」

 僕は、窓の外を見ていた望に話しかける。

「アユが決めていいよ。僕はどちらにせよ付き合うから」

 望の目線が僕の方を向く。

「なら、先に予約取りに行こう。その方が他学年の人と会わないだろうし」

「わかったよ。けど、しっかり宿題をやる時間を取らないといけないからね? 手を動かすだけだと言っても、時間は取られるんだから」

「わかってるよ。すぐに取りに行って、皐たちが帰ってくるまでに宿題を終わらせる」

「それがいいね」

 玄関の前で降ろしてもらい、荷物を置きに自分の部屋に向かう。臨むと部屋の前で集合すると決め、自分の部屋に入る。

 部屋の中は、きっちり清掃されており、布団のシーツもピシッとはってあった。女中が僕たちが学校に行っている間に整えているのだ。僕たちが敷地内にいるときは、部屋に勝手に入ってはいけない決まりがある。逆に、いないときはいつ入っても良くて、勝手に清掃されている。

  よくわからないけど、今のところ不満に思うことはないから、良いことにしてる。

 机の上に、今日の課題に必要なテキストやノートを開いておき、嫌でも目に入るようにしてから、自分の部屋を出た。

 扉の前で望と合流し玄関に向かう。

 女中を連れないで外に出ることはあまりいいことではないが、敷地内であれば許されている。必ず二人以上で行動しなければならない、という制限付きだが。

  まぁ、そのぐらいは自由をくれないと困る。初等部に上がるまでは、それもダメだったし。

 この島にあるすべての施設を管理している部署の入っている建物に向かう。

 建物に着くと、受付には男性が座ってぼーっとしていた。

「あの、一週間の予約をしたいんですけど……」

 僕が声をかけると、男性は、はっとしてこちらの世界に戻ってくる。

「すみません……。どうぞ」

 男性は受付台に一週間の施設利用予定表を乗せた。僕と望は予定表を覗き込み、どこに予定を入れるか決める。そして、その時間の利用届を望に書いてもらう。

  望の方が字がきれいだから書いてもらってるんだ。別に僕が書きたくないわけではない。

 望が利用届を書き終わるのを待っていると、中等部ぐらいの体格をした少年が二人入ってきた。少年たちは、僕たちに気付くと頭を下げる。

 僕は、受付の前から退くために、望の左隣に移動する。望も少年たちに気付き、少し避けた。

「すみませーん。今週の施設予定表、見せてもらえませんか?」

 背が高い方の少年が受付の男性に声をかける。

「えーっと、歩様たちのが終わってからでお願いします」

 少年が、「わかりましたー」というのと同時に、利用届を書き終わった望が顔をあげた。利用届を提出する。

「お願いします」

「はい。少し待っていてください」

 男性は、予定表に書き加えたり、コンピュータに入力したりして、最終的に細長い紙を受付台の上に置いた。望が礼を言って受け取る。

 その紙には、施設名と予約時間、QRコードが印刷されている。QRコードは、その施設の鍵の代わりで予約している時間に読み取り機にQRコードをかざせば、鍵が開く仕組みだ。このQRコードがなければ施設を利用することはできず、再発行もされない。一度施設の鍵を空ければ、利用時間中は自由に出入りができる。

 少年たちは予定表を見ながら、今日について何かを話しているの聞こえた。

「あの、今日、サッカーやる予定だったら、この後十六時から十八時で一緒にやりませんか?」

 僕から誘ってみる。

  人が多いほうが楽しいからね。

 少年たちから願い出るより、僕から誘った方が、どちらも気持ちが楽なのである。

「いいんですか?」

「はい」

「それなら、お願いします。えーっと……、土手のグラウンドですね?」

 少年が予定表を確認しながら言う。

「はい」

「わかりました。待ってます」

 少年たちの意識が予定表の方に戻っていくのを確認してから、望と共に建物を出る。屋敷に戻る途中で、歩いて帰ってきた皐たちと合流したため、今週の予定と、今日の件を伝えておいた。

  翔が少し嫌そうな顔してたけど、どうしてだろ。

 屋敷に戻り、自分たちの部屋に向かう。僕たちが宿題を終えてから全員で行く気まりのため、皐たちには居間で待っていてもらう。

 僕は、自分の部屋に入ると、勉強机に広げていたテキスト類を部屋の中央にあるローテーブルに移動する。

 すると、部屋の扉が開き、テキスト類を持った望が部屋に入ってくる。向かい側に座ると、テキストを広げ始めた。普段から一緒にやっているわけではないため、少し驚く。

「何か、あったの?」

 僕が座ったことを確認した望がテキストをめくりながら言う。

「……」

 僕が何も言わないでいると、望はクスッと笑った。

「歩は隠すのが下手だから、バレバレだよ。……彰はもっと早く気づいてたと思うな」

  僕、そこまでわかりやすくはないと思うんだけど。

「……。翔が、不満そうな顔をしてた……気がする。中等部の子たち誘ったって言った時」

「へぇ。僕は気づかなかったけど、歩がそう見えたなら、そうなんだろうね。……けど、何でかはわからないね。カケはいつも喜んでいた気がするから」

 望が手を止めずに言う。僕も宿題のページを探す。

「そうなんだよ。……だから、確信はないし、気になった。いつも通りふるまってたし」

「とりあえず、様子見てから……だね」

「うん」

 その後は、会話もなく二人で黙々と宿題をやり、居間に戻る。

「あ、宿題終わったぁ? 今日、どこでやるの?」

「さっき、言わなかったっけ?」

「言われてない……と思う」

 皐が自信を無くしたように言う。

「言われてないよ。サッカーだから、多分、土手だと思ってたけど……。違う?」

 彰は、僕を見上げながら言う。

「土手であってる」

 僕はそう返しながら、周りを見回す。翔はいつも通りの顔をして、いつも通り部屋の端に座っていた。

  僕の見間違いかな……。

「準備して、行こうか」

 望がそう言いながら、居間に入って来た女中に目を向ける。

「準備いたします」

「うん。よろしく」

 頼まれた女中が居間を出ていく。僕たちも居間を出て自分の部屋に向かう。動きやすい服に着替え、タオルを持って部屋を出ると、望が部屋の前で待っていた。

「僕、今日は翔の隣に座る」

「わかった」

「あと、先に行ってる」

「うん」

 望は、規則上あまり良くないことをしていると分かっていても、何も言わずに了承してくれる。

  僕は望のそんなところに甘えてるんだろうな。

 僕は、もう着替え終わり、自分の部屋の前でぼーっとしている翔を連れて屋敷を出る。

  こんなにぼーっとしてるけど、運動始めた瞬間、人が変わったように動き出すんだよなぁ。

「どうしたの? 歩兄」

 僕の後ろを少し早歩きで追いかけてくる翔が言った。

  それを訊きたいのは僕の方だ。

「何か、嫌なことでもあったの?」

 僕は、翔が僕に追いついてくるのを待ち、少しゆっくり歩きながら訊く。

「歩、体調悪そうだなぁって思ってたけど」

  は……ぁ。翔にはバレてたか。

「僕はもう平気。それより、翔の方。嫌なことあったの?」

「ん? 僕の方? ないかなぁ。何で?」

 本当に心当たりがなさそうな顔をしている翔が言う。

  隠してるな……。

「さっき、嫌な顔、してたから」

「してた?」

 翔が少し驚いた顔をして訊いてくる。

「してた」

「隠れてなかった?」

「それは……、どうだろう。気づいたのは、僕だけかも。望は気づいてなかったから。他のみんなも気づいてないかも」

「はぁ……。歩兄さぁ、普段は鈍感なくせに、何でこういうときだけ敏感なの?」

「望にも似たようなこと言われた。翔の異変にだけ敏感だって。翔が分かりやすいのが行けないと思うんだけど」

「普段、他の人の異変に気付いてる望が気付いてないんだから、わかりやすいわけではないと思う」

「僕にとっては分かりやすい」

「まぁ、歩ならいいけど」

「何が?」

「気づかれてもいい」

「なら、隠そうとするなよ」

「それはできないよ。女中たちに隠しなさい、って言われてるから」

「僕らの前だけでも隠さないで言われない?」

「歩兄と一緒にされたくない」

「どういうこと?」

  僕はそんなにわかりやすくないと思う。隠してる、つもりで入るし。……望たちにはわかりやすいって言われるけど。女中には気づかれてないし。

「歩兄はわかりやすいよぉ」

「女中たちには気づかれてないから、そこまででもない……と思う」

「それは、女中たちが鈍感なのがいけないんだと思う。あの人たちは何を見てるのかよくわからないから」

  翔でもわからないんだったら僕にわかるわけがない。理解する気もないけど。

「歩君、翔君。他の子たちはどうしたの?」

 玄関を出ると、満さんが言う。満さんは、父さんについている運転手さんで、僕たちが移動するときも、車の運転をしてくれる。他にも十人ぐらい運転手さんはいるが、僕たちは絶対に満さんでないといけないと言われている。

「後から来るよ。僕たちだけ先に来た」

「どうしようかなぁ。女中がいないから車取りに行けないな……」

「僕たち、ここで待ってるから、行ってきていいよ」

「そんなことしたら、俺が女中頭に怒られる」

「ここにいない女中が悪い」

「そういわれてもねぇ……」

「今日は約束があるから早く行きたい」

 僕が何を言っても満さんは折れてくれない。翔は黙って見守っているだけだった。

「申し訳ございません。歩様、翔様。満さん。まだ車を取りに行ってないのですか? 早く行ってください」

 僕らには、やさしい口調で話しかけてくるのに、満さんに対してはあたりが強い。

「あなたが早く来な……」

 反論しようとしたら翔に止められた。

  満さんが責められる必要ないのにっ。……でも、翔に止められたってことは、任せろ、ってことだし、任せておくか。

「僕たちがここにいてほしいって頼んだの。満さん、ありがとう」

 翔は作った笑顔を浮かべながらやさしくそう言った。

  ありがとう、翔。

「いいえ。車を取ってきます」

 満さんはそう言って、車庫があるほうに歩いていく。

「望様たちは、どうされたのですか?」

「後から来る」

 先ほどの優しい声ではなく、とても鋭い声で翔が言う。

「できれば、一緒に来てほしいと伝えてありますよね。私たちにも準備がありますので、呼びに行くまでは待っていていただきたいです」

  あなたたちに従う必要ないでしょ。別に。まだ屋敷の中だし。

「歩兄。さっきの」

 翔が僕に小声でささやく。

「何ていえばいいの?」

 ちゃんと翔が考えている言葉を言わなければならないと思い、尋ねる。

「さっき、女中に言おうとしてたこと。来ないのが悪いっていうやつ」

「あぁ、うん。あなたが遅いのがいけない。いつも同じくらいの時間で移動してる」

「望様たちはいらしていませんが?」

「ゆっくり来てほしいって頼んだ。僕たちが二人きりで話せるように」

 翔が止めに来ないってことは、そのまま話してもいいということだ。

「何のためでしょう?」

「僕たちが二人きりで話せるように、って言った」

「そうですか」

 女中が納得いかないような顔をしながらも反論はしてこなかった。僕が溜息をつくと同時ぐらいに望たちがやってきた。

「望様。歩様たちと一緒に来るように頼んでいますよね?」

  あっ、望に当たるのは許さない。

 何かを言い返そうと考えている間に、望が口を開いた。

「僕は、あなたたちよりも歩を優先する」

「歩様から目を離したすきにケガをしていたら、どうするのですか?」

  そんなの、望に訊くことではない。

「歩はそんなことしない。絶対」

  望がそう思ってるなら、僕はちゃんと応えよ。

「……わかりました」

 女中はまだ納得いかない様子だったが、知らない。そもそも来なくていいと言っているのにもかかわらず、ついてきているのは女中の方だ。文句を言われる筋合いはない。

 ちょうど、満さんが車を目の前に止めた。女中は、荒々しく車のドアを開ける。

  ものに当たらないでほしいんだけど。

 最初に僕が乗り込み、その次に翔が続く。弟たちが順々に乗り込んできて、最後に望が乗り込んだ。女中が車のドアを閉める。

 望が目的地を満さんに伝えると、満さんは車を発進させる。

「寝るから、着いたら起こして」

 隣に座っている翔がそう言って、僕の肩に寄りかかって寝だす。

  十数分で着くのに。そんなに疲れてるのか? 今日の翔、ちょっと変だ。

 そんなことを考えている間に、今日予約していた土手のサッカー場に到着する。約束していた中等部の人たちはもう着いてた。

 僕たちは車を降りて、サッカー場の中に入ると、中等部の人たちもついて来る。

「こんにちは。今日は何をしますか?」

 中等部の人たちは全部で九人だった。

  初等部の人も交じってるかもしれないけど、分からない。

「何がいいですか?」

 僕から尋ねる。

「試合はどうでしょう? 僕たち対歩様たちで」

 僕は弟たちの方を向いて、意見を求める。過半数から了承を得たため、良いですよ、と返事をする。

  翔は、返答を渋っていた気がする。

「準備運動をしたら、すぐにやりましょう」

「はい」

 それぞれで準備運動をして、軽くボールを蹴りあってから試合に入る。僕たち十三人対中等部の人たち九人でオールコートでやる。

 ゴールキーパーはおらず、前後半はそれぞれ三十分。

 中等部の人たちとは、大体身長が30㎝から40㎝違う。頭上でパスを回されたら、僕たちは手も足も出ない。だが、そういうことはしてこない。正々堂々、ボールを転がしてくれる。

 前半が終わって、少しだけ休憩をして後半に入る。

 ―――そこで、事件は起きた。

 歩たちは、一応、この地域で一番立場が上の存在です。普段は、本家にいるため、当主様たちの方が上なのであまり感じませんが、結構立場が上の人です。

 この頃から翔は仲裁役でした。

 ここで出てくる満は、翔たちの両親が亡くなったときに、本家に連絡してきた満です。48話~冬休み 4~ で出てきてます。


 次回は、 歩の記憶 中編 です。

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