7 ~従兄と本家&暁と傑のケンカ~
本編に戻ります。
翌日、いつも通り学校に行き、冬馬様達と一緒に帰ってきて、一応、Tシャツとジーパンというラフな格好に着替え、スマホと財布だけ持つ。深司さんに言われた通りに道を歩いて、深司さんの住んでいる家に向かった。深司さんは実家暮らしらしい。
まぁ、まだ家は建てられるし、使ってないところを建て直すこともできるけど、そういうのどうでもよさそうな人だったからな。
その家に向かう途中にすごく大きな門があり、よく見たら、相川と書いてある表札がついていた。
えっ、相川? 同じ相川だよね? こっちが表門?
いつも見ている門より、豪華である。
どう見ても表門だよね。この奥、すごい太い道があるからな。へぇー。ん、ちょっと待て、そうなると、俺らがいつも使っていた門は、裏門って事だよな?
一本道の先には、当主様や、俺らが住んでいる家が見えた。
こっちから見た方が、家、すごい綺麗。いや、裏から見ても、綺麗なんだけどね。
とりあえず、深司さんの家に向かう。
「いらっしゃい、翔」
「どうも。一人ですか?」
俺は、居間に通してもいながら言う。
おばさんとかがいたら、あいさつしようと思ってたけど、いるのかな?
「いや、母さんは、今、出かけてるよ」
「そうですか」
よく考えてみたら、深司さんが一人暮らしをするって事、ほぼない気がする。ゴミ屋敷に住むことになるよ? 深司さん。
「何か飲む?」
「いや、いいです」
「じゃ、僕の部屋に行こう」
「はい」
俺は、深司さんに続いて、深司さんの部屋と呼ばれる部屋に向かう。
どんな部屋なんだろう。さすがに、俺のところみたいにはなってないだろうな。あそこは、俺にとっては天国だけど、他の兄弟に言わせれば、地獄らしい。
「どうぞ」
さすがに、俺の部屋みたいにはなってないか。
俺の部屋まではいかないが、二面は、上から下まで本棚で覆われていた。机の上は、大変なことになっていたが、床は綺麗だったので、多分、おじさんかおばさんが部屋に入って掃除をしているのだろう。
「何も仕掛けてないから、大丈夫だよ」
あ、警戒してるの気づかれてた? まだまだだな。ちゃんと考えてないと、感情を隠せない。
その後、深司さんと三時間以上語り合った。ここにある本や、ここ最近はまってるのとか、俺の一推しとかの話だ。
俺が知ってる本、結構あったな。まだ語りたい事が大量にあるし。兄弟といるのも楽しいし飽きないけど、こういう人も必要なんだな。
深司さんに聞いた話だが、俺らが普段使っていたのは、裏門であっていたらしい。当主様や俺らが住んでいる屋敷と、裏門の間には女中の家しかなく、ここ一帯で働いている女中たちの家らしい。
アユとノゾに伝えておくか。
深司さんの家をお暇して、出て、家に戻ると、歩の部屋に直行した。
「お、誰かと思ったら、カケか。なんかあったの? そんなに急いで」
部屋の中では、歩と望がいつものようにくつろいでいた。
「えっと……」
話したい事は決まっているのに、言葉が出てこない。二人に向かい合うように座りながら、少し考える。
どうやってつなげよう。何から話そう。
二人は無言で、俺の次の言葉を待っている。
「……アユたちは、俺達がいつも出入りしている、門が裏門だってこと、知ってた?」
「え? あれ、表門じゃないの?」
「やっぱり?」
歩は普通に驚いていたけど、望は、元々知っている風だった。
「ノゾは、知ってた?」
「いや、知ってたわけじゃなくて、なんとなく、もう一つ門があるだろうなとは思ってた。俺らと、当主様たちぐらいした出入りしてなかったし」
「よく、気付いたね。ノゾ」
「まぁな。慣れてるから」
慣れさせてるのは、俺らなんだろうけど、主にアユだろうな。
「表門のほうは、住宅街だったよ。多分、店はない」
「へ~、こっち側しか見たことないし、明日にでも見に行こうかな?」
歩が、今にでも出て行きそうな勢いで言う。
「明日な」
望に止められる。
「ノゾも、興味ある?」
「まぁ、少しは」
「じゃ、一緒に行こう」
「明日、だからな」
「もちろん」
結局この二人は、翌日に見に行ったらしい。
俺は、一週間の平日の放課後は、深司さんの家にお邪魔して、語り合った。
初めて行ったときも思ったけど、兄弟の中じゃ語り合えないから、すごい楽しいんだよな。
一応、兄弟たちも、本を読むことは嫌いじゃないし、漫画も読んだりするけど、俺並みに読みこんでいる人がいないから、語り合える人を待っていた。
本屋も天国だけど、語り合える空間と人がいるっていうのも、天国だよなぁ……。
本屋の隣の改築が終わった初日、学校でちょっとした事件が起きる……というか、今、現在進行形で起きている。
廊下がざわついている。
さっきの、体育の時間のが、長引いてんのか?
この前の時間が、この学校に来て、初めての体育だったのだが、案の定、ずっと暁と傑は睨みあっていた。
あの時のどうしようもない感じは半端じゃなかった。冬馬様達に迷惑はかけられないし、前で何もできないしな。
なんて、考えながら、俺は自分の席に座って、ぼーっとしている……ように見えて、そういうわけではない。
今月は読んでいる小説の最新刊が十冊以上出るから、いつ買いに行くか悩んでいるのだ。
十冊以上の続編を待っているということだ。小説と漫画を含めてだけどな。
最新刊まで買いたいものもあるし、運転手さんに運ばせるのは少し気が引けるから、自分で運ぶしかないだろう。そうしたら、二回以上に分けなければならない。でも、今月はそこまで空いている時間がない。
「カケ、ヘルプ」
雫の声がやけに近くで聞こえる。しかし、俺は、返事も振り向きもしなかった。
今、計算中だから、ちょっと待ってくれよ……。さっきまで、あいつらの相手してたんだから、少しぐらい休憩させてくれよ。
「カケ! 聞いてる? 返事ぐらいしてよ」
耳元で、少し大きい声が聞こえる。
シズがこんな声出すことないし、シズじゃないのか? まぁ、いいや。えっと、どこまで行ったっけ? あぁ、そうだ、これだ。えっと……。
記憶をたどりながら、いつ行くか、何円持って行くか、などと考えていると、ついに、頭に何かが降ってくる。
叩かれた? やっぱり、シズじゃない……となると、ミノか。トオもあり得るけど。
俺は、やっとふり向く気になり、先ほど声が聞こえたほうを振り向くと、雫もいたが、稔もいた。
「翔、授業開始まであと三分だ。それまでに、あいつらを止めないと、皆が授業に集中できないだろ。止めてくれ」
ミノが呼び捨てにした。……結構怒りモードか。他の心配もあるだろうけど、サトとスグが心配なんだろうな。
「トオとシノは?」
俺は、席を立ちあがりながら問う。
「どちらも、周りに被害が出ないように見張ってる」
「ミノじゃ、止められないの?」
「止められてたら、カケにヘルプは求めてない」
あ、戻った。
「そうか、仕方ないな。体育の時間だけじゃおさまらなかったんだもんな」
「体育の時間から、やってるのか?」
「あぁ」
「なんで、止めなかったんだ?」
「いろんな人がいる手前、さすがに何もできないだろう。その時はまだ、口げんか程度だったし。戻ってきた後見てないし」
「そうか、なるほど」
「取っ組み合いか?」
「あぁ、周りから聞いた話によると、口げんかから、そこまで発展したらしい」
「廊下でやってくれてよかったな」
「あぁ、それは、そうだな」
「シズ、バケツに水。半分でいい」
「あ、うん」
今まで、俺と稔の会話を、横でおろおろしながら見ていた雫に指示を出す。
雫はいったん教室を出て行った。
「ミノ、水でいったんおさめる。それでもおさまらなかったら、俺が二人を離すから、スグの方、担当してくれ。あと、来た先生に説明」
「了解」
俺らが廊下に出ると、ちょうど先生が職員室の方から駆け寄ってきた。
「何が起こっているのですか?」
「あぁ、ちょっとしたけんかです。止めるので、ちょっと待っててください。あ、あと、ちょっと水をぶちまけますけど、ちゃんと片づけをするので、許してください」
先生は、訳が分からないといった表情をしながらも、稔の説明にうなずいていた。俺は、開けてくれた道を通り、みんなが集まってできた円の中に入る。
「こりゃ、自分達しか見えてないやつだな」
俺と稔が円の中に入ると、亨と忍が真ん中に寄ってきた。超特急で水の入ったバケツを持ってきた雫も円の中に入ってくる。
「はい、カケ」
雫が差し出してくるバケツを受け取ると、何をするんだ、という感じで、見物人も少し増えた気がする。
「サンキュ、シズ。トオ、シノ、こいつらの直線状に人を入れるな。周りを抑えるの頼んだぞ」
亨と忍は頷いて、二手に分かれて、周りの人に話し始める。
「俺らが、学校で全員集合したのって、一週間ぶりぐらい?」
「嫌な集まり方だけどな」
雫は、サトとスグを見ながら、おろおろしている。
シズは、いっつもおろおろしてる感じだけど、運動になると、がらりと変わるんだよな。
すぐに、俺らを360°囲っていた円が、二つに分かれた。
「それじゃ、やりますか。吹っ飛ばしたときは、二人ともよろしく」
二人は頷き、少し離れた位置で待機する。それを見てから、俺は、二人の上で、バケツをひっくり返す。
二人はいったん止まったが、また再開した。
いつもより、ひどいぞ。これ。
俺は、バケツを斜め後ろに置き、稔と雫とアイコンタクトを取り、二人から了承を得る。ついでに、亨と忍の位置も確認しておく。
暁と傑の間に両手を入れ、二人の口を押さえて、一気に引き離す。
他の人にはそう簡単に吹き飛ばされない二人が、俺の手だけで、五十センチは後退した。すぐさま稔が近づいてきて、二人が近づかないように、傑を押さえた。俺も、暁を押さえる。
二人から、怒りの視線が向けられるが、俺が睨み返すと、二人ともシュンとしたので、離してやる。稔も俺に倣って傑を離した。
「まったく、ふたりとも、ここがどこだかわかってんのか?」
俺が聞くと、二人は思いかえしたように、周りを見る。
「学校……」
暁が言うと、先生が円の間から入ってくる。
「二人とも、一旦職員室に来てもらいます。その前に着替えてきてください」
先生はそう言うと、全体を見回す。
「そろそろ授業が始まるから、教室に戻りなさい」
ぞろぞろと、集まっていた生徒が離れて行く。
「先生、二人だけじゃ、取っ組み合いになったときに押さえられる人がいないので、俺も行きます」
俺が言うと、先生が少し考え込む。
「そうね、来てくれた方が良いのかもしれないけれど、授業があるでしょう? 兄弟も心配だろうけど、まず、自分の心配をしなさい」
「いえ、別に、授業を受けなくても、理解してるんで、大丈夫です。それより、他の人が被害を受けないようにするのが俺の役目なので」
「そう……。教師が、生徒の勉強よりも、私たちの安全を優先してしまうのは悪いのだけれど、ついてきてもらおうかしら」
「はい」
「ちょっと待ってください。俺も行きます」
稔が話に入ってくる。
「あ、じゃあ、俺も」
「俺も、行きます」
雫と亨も近づいてきて言う。無言のままの、忍も行く気満々だ。
「もう、全員ついてきてもらって結構よ。隣の多目的室で待っていて頂戴。暁君と傑君はちゃんと着替えておくんだよ」
先生は呆れながらそう言い、職員室のほうに歩いて行った。すれ違いで、いろいろな先生がそれぞれの教室に向かって行く。
「なんだ、お前ら。そろそろ授業、始まるぞ」
「いろいろあって、出れません」
「あぁ、さっきの騒動か。了解」
俺達と少し話した先生も、教室に入って行った。
「サト、スグ、早く着替え持ってこないと、入りづらくなるぞ?」
俺が言うと、二人は教室に入って行った。
「まったく、運がないよな。あいつらを同じクラスにしたら、いろいろ大変だってのに」
「まぁまぁ、しょうがないでしょ」
「仲が良い時はいいんだけどね」
「うん。なんか、もう、気が合いすぎて、こっちが怖いって言うか、ね」
「運が悪いのって、誰なんだろう」
「今年のおみくじは、カケが大凶だったよね」
「俺は、中吉だった」
「俺も、小吉だったよ」
「俺も、小」
「俺は、大吉だったし、あいつらも、中か小だったから、カケが原因かもな」
「俺? でも、直接的に俺と関係なくね?」
「間接的に影響してるんじゃない?」
「俺らの中と小が重なったんじゃない?」
「あり得るかも」
「そもそも、先生たちが知らなかったからでしょ?」
「ま、確かに」
「それが最有力だな」
「なぁ、あいつら、全然で来ないんだけど……」
亨が見たくない物を見るように、二人の教室に視線を向ける。
「なんか……あったのかもな」
稔がつぶやくと、二人のクラスが、少しざわつきだした。
「やっぱ、なんかあったんだよ」
雫の声を背中で聴きながら、俺は、二人の教室に向かう。すると、ちょうど、扉が開いて、誰かが顔を出した。
「あ、先生、向こうから来ましたよ」
俺が、教室の扉から顔をのぞかせると、一人の生徒が言った。
「あぁ、翔君。二人が倒れたんだけど、大丈夫なのか?」
は? 二人が倒れた? 二人が倒れることなんて、そうそうないけど、まじで?
「どこで倒れてますか?」
自分の中で沸いてくる、焦りと疑問を抑えながら、尋ねた。
「後ろだけど……」
「ミノ! 来い」
俺が言うと、稔が一瞬驚いた顔になり、すぐに近寄ってくる。俺は、後ろの扉を開けると、確かに二人とも倒れていた。
二人の教室に入り、二人の近くに駆け寄る。稔もすぐに後ろをついてくる。
呼吸が荒いな。これ、疲れからきてるのか? どんだけ体力と精神使ってんだよ。
「ミノ、一旦、多目的室に移そう」
「……了解」
この中で、姫様ダッコするわけにはいかず、背中に担いだ。持っていた着替えが入っているであろうバッグを拾い、稔と教室を出る。
「大丈夫なのか?」
「様子を、見てみます」
俺はそれだけ言って、多目的室に向かう。廊下で待っていたメンバーも一緒に移動した。
「全く、これじゃ、着替えられないじゃないか。風邪ひくぞ」
「まだ熱は出てないみたいだけど、出てくるかも」
椅子の上でぐったりしている、二人の額を触っている、亨が言う。
「おい、二人とも、これは疲労から来てるのか?」
深司さんの家に行きました。表門のほうがすごい豪華です。(当たり前です。裏門が表門より豪華だったら驚きます)
そして、暁と傑の喧嘩です。(しっかり、兄弟たちが話しています。……喧嘩ですけど)こんな感じかなぁーって思いながら書いたので、迫力が伝わっているのか、少し不安です。まぁ、翔君、最強ということで。
次回は、七つ子の話し合い&兄弟練習です。