63 ~暁と傑、翔の話し合い&バスケ部の練習試合~
「まぁ、好きなだけ泣きなよ」
やっぱ、カオはすごいな。カオと一緒に居て、シオが泣いてるとこ見たことないし。……いや、カオの前ではなけないだけか?
数分すると、落ち着いてきたようで、逆に、俺に横抱きにされている状態が恥ずかしくなってきたのか、スッと俺の膝の上から降りた。
いつものシオに戻ったな。
「ごめん、なさい」
「いいよ。俺も、泣いてる人にどうしたらいい分からなくて、何もできてないし」
「ううん。すごく安心したから、ありがとう」
「どーいたしまして。この後は、ここにいる?」
「うん。お昼になったら、向こうに行く」
「わかった」
俺は、恥ずかしさのあまり、俺の方を向いてくれなくなった栞を置いて、薫の部屋を出る。そのまま自分の部屋に戻ろうとして、扉の前で立ち止まる。中から、言い争いをしている声が聞こえてきたからだ。
俺の部屋でやるなよなぁ。アユの部屋なら今は誰もいないし、そっちの方がいいだろ。ってか、反省しろって言われてたよな? 全く反省してないだろ。これだから、話し合うかって聞いたのに。
とりあえず、立ち止まっていても意味がないと思い、部屋の扉を開ける。
まぁ、俺の部屋だし。
すると、今まで喧嘩していたのがウソだったかのように、静かになる。
「ノゾから、反省しろって言われてたよな?」
「っ……それは、そうだけど……」
「言い訳は聞かないからな」
「……」
二人は黙りこくる。
「……はぁ。これだから、七人で話し合うかって聞いたのに」
「それは、他の四人に悪い、と思った」
「俺はいいのかよ」
「まぁ、カケだし」
扱いが、ひどいな。
「……二人はさ、今回、何について反省すればいいと思ってる?」
これ以上、俺の部屋にたむろされていても、栞が入ってこられないため、嫌だが、二人の仲裁をしようと決めた。俺は、自分の椅子に座りながら、二人に問う。
嫌だけど。できればやりたくないけど。
「喧嘩しなきゃいいんだろ?」
「スグも同意見?」
「うん」
「はぁー」
俺はため息をつく。
喧嘩することは別に悪いことではないからいいんだけど。
「何が悪いんだよ」
「ノゾが言いたかったのは、そういうことじゃないと思うけど」
「じゃあ、何?」
「それを考えるのが、反省、だろ?」
「うーん」
「ん……」
二人は真剣に考え出すが、数分経っても、一切思いつきそうにない。
「別にさ、二人が喧嘩することは、何も問題ないんだよ。俺たちには関係ないから」
「じゃあ、何で?」
「二人が仲良くなくても、喧嘩してても、他の人の前でやらなければそれでいい。他の人の前でやるから、ノゾは怒ったんだよ。兄弟の前で険悪な雰囲気は出すな」
「……それは、」
「悪かったと思ってるけど……」
「普段は、俺たちだけで解決してるから、怒られてなかったけど、今回は、二人が断ったんだからな」
「う……」
「二人が険悪な空気を流すことで、こっちも嫌になってくるから。シオとか初めてで、結構怯えてたからな。兄として、家族としてどうかと思う」
「兄であることは抜きにしても、悪かったと思ってる」
「じゃあ、今後は気を付けて。俺たち七つ子を巻き込むまでは、俺が許すけど、ノゾたちまで巻き込むのは、本当にないから」
「ごめん」
「謝られたいわけじゃないんだけど」
「謝る以外に方法ないし」
「今後一切やらないって約束してくれる方が俺はうれしいけど」
「っ……その、自信は、ない」
「一切やらないにしても、そのぐらいの心意気で頼みたいね」
「それは、努力する」
さすがに、俺もここまで言うのはそうそうないため、二人はそれなりに落ち込んでいる。
「二人はさ、仲がいいって、どういうことだと思う?」
「それが、今回のに関係あるのか?」
「関係を見つけるのは、二人の仕事だろ? 俺はつながってると思ってるから、話してるだけ。今からカレーの具材の話をするわけでもないし」
それが、反省。
「……確かに、カレーの具材は、関係ないな」
「まぁ、違う人から見たら、あるのかもしれないけどさ。俺は、関係がないと思ってるから、その話はしてないだろ? そういうことだ」
「で、何だっけ?」
「二人は、仲がいいってどういうことだと思う?」
「喧嘩をしない」
「でも、喧嘩するほど仲がいい、とも、よく言うよな」
「それって、どういう意味だと思う?」
「って、言うと?」
「喧嘩するっていうのは、お互いに自分の意見を主張し合って、そこがすれ違うから、喧嘩するんだろ? 二人も同じように」
「うん」
「つまりさ、お互いに自分の意見を主張し合える関係でないと、喧嘩っていうのは起こり得ない。一方的に意見を主張しているだけだったら、ただ、相手に自分の考えを押し付けているだけだ。ある意味では、叱ることもそれだな。でも、喧嘩はそうじゃない」
「……お互いを信じてるからこそ、ってことか?」
「まぁ、そうだな。初めて会った人とか、知り合って間もない奴と、何かを目指してるわけでもないのに、喧嘩っていう喧嘩、するか? サトとスグで言えば、お互い以外と、喧嘩するか?」
「そんなに、しない」
「しないだろうな」
「だろ? だから、まぁ、仲がいいというよりかは、そのぐらいの親密度を持った奴としか喧嘩しない」
「うん」
「少なくとも、俺は、そう思ってる。だからさ、サトはスグに、スグはサトに当たるみたいな雰囲気を醸し出してると、そこまで親密度がない、……まぁ、今回はシオだな。シオは、怯えてた。そこまで二人を知らないから。放っておいていいのかもわからないし、これがいつも通りのことなのかもわからないからな。俺とかミノは、いつも通り放っておいたけど」
「確かに、カケとかミノは今までの俺らを知ってて、スグぐらいに親密度があるから、何もしなくていいと思ってるし、怯えることはないけど、シオとはまだそこまでのものがないから……」
「ちなみに、カオもまだ難しいって言ってたからな」
「カオもか……」
「俺らもやめてほしいけどね。二人はずっとやりあってるから、そのままでも疲れないかもしれないけど、俺らは、別にそういうわけじゃないから、普通に疲れる」
「俺も、疲れないってことはないんだけど」
「負のことしか生まないんだったら、やめるべき。ただ、全否定はできないんだよな」
「なんで?」
「喧嘩、って、一つの話し合いの方法だと思って。話し合いって、いろんな人の意見を聞くものだろ? 喧嘩も、普通に落ち着いてやる話し合いのヒートアップした版みたいな感じだから、それでしか話し合えないやつもいるかもしれないし、そうしたほうが効果的なこともあるし、仕方ないが、今回は、別に、そうじゃないよな?」
「……ごめんなさい」
「だから、謝ってほしいわけではない」
「喧嘩するのは、親密の問題なのは、わかった。でも、それじゃあ、喧嘩をしないにはならないよな?」
「だから、喧嘩はしてもいいんだって。そのあとが問題。よく言われるのは、」
「仲直り」
「だな。でも、別に、喧嘩したから、仲直りしなければならないわけでもない」
「どういうことだ?」
「仲直りって、考え方的には、喧嘩して減った親密度を回復させるっていう意味だと思うんだけど、それをさ、喧嘩後すぐにやらなくてもいいわけでさ。喧嘩が収まったら、そこから少しずつ回復していくものだろ? 親密度って。それに、喧嘩する程度まで親密度が高かったら、そこまで落ちることもないだろうし。そのあとも関わりたいと思ってるやつとはな。それから一切話さなくなったら、親密度が高くなかったってことだし」
「……俺らは、いつも仲直りしてない。勝手にいつも通りに戻るから」
「俺は、それでいいと思ってる。まぁ、他の人はどうかわからないけど。で、二人は、どう考える? っていうのが本題」
「俺は、今まで通りスグと関わっていく。それが、一番だと思うから」
「俺も。今まで通りが一番いい気がするから」
「まぁ、それが二人らしいから、いいと思うし、そのままでいてほしいけど、ノゾたちの前では、その雰囲気を持ち込むなよ」
「わかった」
「じゃ、後は好きにしてくれ。俺は、言いたいことは言った」
「サンキュ」
「礼を言われる筋合いはございません」
俺はそう言って、栞がやってくる前にやっていた作業に戻る。二人は、それぞれ消化した後で部屋を出て行った。
夕食の全員集まるタイミングで、暁と傑はそれぞれ謝り、望に許され、再び、部活に行けるようになった。
一日居なかっただけで、皐と樹は二人が必要だということを実感したらしい。俺のところに感謝をしに来た。
特に何かをやったわけでもないのにな。
翌日。
バスケ部が他校と練習試合を組んだが、けが人が増え、チームを組めなくなったから、と言って、呼び出された。
俺、バスケ部じゃなんだけど……。ってか、俺でいいのかよ。
「あ、来た来た」
のんびり体育館に入った俺を見つけた暁が言う。
「俺でいいのか?」
「顧問の先生からのご指名です」
皐も合流して言う。
「うえぇ。それ、ちゃんとやらなきゃいけないやつ……」
「しかも、相手は、全国行ってるからな」
「二人で頑張れよぉ」
「さすがに、人数はいないといけないから」
「しかも、全国行った相手のな」
「で、今は?」
「休憩中」
「何分後から?」
「十分」
「一試合目は?」
「……」
「……」
二人とも答えてくれなかった。
「次は、勝つぞ」
「カケがいたら勝てそうだな」
「いや、俺は、人数合わせなんだろ?」
「来たからには働いてもらうぞ?」
「ですよねー」
休憩中にすこしだけ準備運動をして、試合が始まる。
「連係プレーとか、無理なんですけど」
「いいよ。カケはゴールだけ狙いに行って」
「了解」
いつも、俺がバスケの試合をやるときは、大体PGで、しかも、他のPGとは全然違うような戦いをしてるため、普通にバスケをやるのはとても久しぶりな気がする。
いつもの方法で戦ってみたい気もするけど。
二人バスケ部員がいるため、いつもの方法ではやらないらしい。
さすがに、相手は全国に行っただけはあった。それなりにマークがきつかった。
抜けないわけではないけど。
簡単にスリーを決められるような感じではなかったため、レイアップで頑張って得点を稼ぐ。そこまで点も取られないが、俺と暁でしか得点が取れないため、点差はあまり開かない。
これじゃ、いつものやり方でも、厳しいとこあるなぁ。せめて、スリーが決められたらいいんだけど。
何回か試みてみたが、そううまくはいかない。
もうちょい跳躍力あったら届かないかなぁ……。いや、遠くからやるか? それこそ、自陣から。ボールを取られた時が怖いけど、そこまでマークはきつくないし……。ちょっとやってみてもいいな。サツに相談してみよ。
俺は、第2Qが終わった後のハーフタイムで、皐に話してみる。
「やってみるか? カケなら託せるけど」
「俺がそんなに好き勝手にやっていいのか、が聞きたいんだけど」
「得点が取れたら別に問題ない」
「じゃあ、二回ぐらいやってみたい」
「了解」
「なぁ、カケ。いつものやりたい」
暁がやってきて言う。
「えぇ。疲れるから嫌だ」
「そううまくはいかないだろうな」
「二、三回。得点差、ちょっとでも離したいし」
「まぁ、奇襲にはなるかもしれないが……」
「他の二人に振れないのが問題なんだよなぁ」
「そもそも、二人は得点決められないし、一緒じゃね?」
「普段、サブのサブだからな」
「じゃあ、第3Qの最初は、カケに遠くからスリー決めてもらって、第4Qでカケと俺がスイッチする」
「疲れてるんだけどなぁー」
「行けるだろ? 疲れてても」
「まぁ、二人なら。相手が交代しなければ」
「じゃ、やってもらうから。そのつもりで」
ハーフタイムが終わり、コートに戻る。相手のフリースローから試合が再開する。
攻撃を止めて、皐にボールを回す。少し前に出て、皐からボールが回ってくるのを待つ。
案の定、マークの付き方が先程よりもきつくなくなった。ボールが回ってきて、一度抜くそぶりを見せてから、後ろに飛び、スリーを放つ。
ボールは、リングに当たることなく中に吸い込まれていった。この試合、初のスリーポイントだ。
もう一回できたらうれしいけど、無理かなぁ。次は抜いてみる?
相手はダンクを決め、こちらのスローインで試合が再開する。もう一度、先ほどの位置に立っていたが、先ほどより、マークがきつくなったため、暁に回してもらう。
ここからは、さすがに抜くのがめんどい。
二回、普通にレイアップとダンクを決め、もう一度、先ほどスリーを決めたあたりで止まる。皐から回ってきたボールを、ついて、マークマンを抜き、そこからスリーを放つ。
ボールはリングに吸い込まれていった。
さすがに、これくらいかな。次は無理かなぁ。角度つけたら、行ける?
と考えていたら、第3Qが終わる。
あぁ、終わってしまった……。
俺は、皐とスイッチし、PGのポジションに移動する。
「はぁ。もう疲れたよぉ」
俺は、そうつぶやきながら、相手のPGと対峙する。あまり隙がなく、止めるだけで精いっぱいである。パスカットには、皐と暁が走ってくれるため、止めるのが俺の仕事ではあるが、ボールを取りたい気もする。
何回か攻撃を止め、暁と皐がじゃんけんをして、勝った方にパスを出す。二人でじゃんけんをやるため、すぐに決着がつく上に、目の前でやってくれたため、二人が声を出すこともなかったから、それなりに相手を混乱させられた。
最初の五分だけ。
あとの五分は、普通に試合になってしまった。さすがに、二人とも疲れてきて、そう簡単に抜けなくなってきたからだ。
試合が終了し、七十六対五十八で勝った。
ちなみに、第4Qは相手の得点を0に抑えた。
結構仕事したんじゃないか?
「ふいぃ」
相手は、監督にしこたま怒られていた。
まぁ、全国行ったのに、1Qとはいえ、無得点だったんだからな。
「さて、と」
「カケ、ちょっと一人で戦ってきて」
「は?」
「なんか、行ける気がする」
「俺も」
「やってみる?」
「今から? もう、疲れたよ」
「抜いて、決めるだけでいいから」
「二人で決めていいのか?」
「あんだけ怒られてるし、カケ一人にも勝てないようじゃ……って感じになるんじゃない?」
「ちょっと、やってみようぜ」
「やだよ」
「いいから」
皐と暁に手を引っ張られ、相手チームのベンチについていかれる。
「ちょっと、この人と戦ってもらえませんか?」
「一対一か?」
「一対五です」
「いいだろう。やってこい。レギュラーでいいな?」
喧嘩って、何でしょうね。反省って、何でしょうね。全部が悪いこととも、全部がいいこととも言い切れないものですね。考え方の衝突は人が二人いる限り必ず起きるものですから。それを何で対処するかによって、いろいろ変わってくるんでしょうね。
全国大会にいった相手に対し、翻弄できるこの人たちは、おかしいなと改めて思いました。
次回は、 体育の野球 前編 です。




