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62 ~体育のサッカー 後編~

 サッカー部から誘いは来ないまま、試合開始のホイッスルを先生が鳴らす。

  一番、楽しみにしてるのは、先生なんだろうな。

「相川っ! 今日は勝たせてもらうからなっ」

「俺のチーム、全員相川なんだけど。誰に向けて言ってんの? カケだったら、喧嘩売る相手間違えてるね」

 ドリブルで切り込んできた一試合目に戦った十番と稔が対峙する。俺は、周りを警戒しながらポジション取りをする。さすが、サッカー部だ。人数は俺たちのほうが少ないため、俺や稔には何人かのマークがつく。

「俺は、お前に売ってるから、間違ってないな」

「まぁ、それはそれで、つぶすだけだからな」

 ニヤッと笑った稔は、十番からボールを奪い、ドリブルを始める。普通に走っているマークマンのほうが追いかける形となる。

 俺も稔がドリブルを始めのを見て走り出す。後ろからボールが飛んでくるのを確認し、落下地点に入る。ダイレクトでボールを蹴り、暁と傑の間にパスを出す。

 暁がシュートを決め、一点目が入る。

「カケ―。次、頼んでいい?」

 自陣に戻ると、先に戻っていた稔に言われる。

「別にいいけど。あいつ、パスしないのか?」

「するときはするんだけどねぇ。俺相手になると、一人で抜こうとするんだよ」

「じゃあ、俺の時はパスがあるのかもしれないのか……」

  それは、面倒な。できれば抜きに来てほしい。

「いや、多分、ない。抜けると思ってる。まだな」

「後、何回?」

  抜けると思われなくなるのは、面倒だな。パスを出し始めると、いろんなところ見なきゃいけなくなる。

「二回かな」

「了解」

「パス出されたら、やっとトオたちの仕事が始まるな」

「周りはパスしろって言わないのは、何でだ?」

「あいつ、サッカー部の中では、今のトップ下の先輩とも普通に戦えるから、周りも強いって思ってる。俺相手だと、周りがどう考えてるのかはわからないけど。カケ相手は、多分、抜いてくれるだろって思ってると思う」

「そんなに信頼されてんのか? そうは見えないけど」

「後は、あいつに対しては皆強く出れないからな。俺ぐらいしか」

「そんなんでいいのか?」

「まぁ、だから、今、崩れてるんだろ」

「なるほどねぇ」

  ミノがいないと成り立たないってどういうことだよ。相手にもならないな。

「来るよ」

「はーい」

 今度は俺と対峙する。

「何だよ。あいつじゃねぇのか」

「ごめんなぁ。こっちもやりたくないんだけど、ミノに任されちゃったからさ。それに、俺はミノほどやさしくないから」

 俺は、隙だらけの相手からボールを奪い、走り出していた稔にパスを出す。

「は……? あんな速いボール、誰が取れるっていうんだよ……」

 俺たちの自陣の中央あたりから、相手陣のゴール前に届くようにボールを蹴ったら、十番が呆れたように言う。

  ミノなら届くけど、普段、ちゃんと走ってないのか?

 稔はダイレクトでシュートを決めた。GKは反応したが、ボールにかすりもせず、ボールはゴールに突き刺さった。

  さすがに、サッカー部は反応するよな。さっきは、GKやってなかったからわからなかったけど。

「カケー。ちょっとやりたいことあんだけど」

 戻ってきた稔が言う。

「面倒なことはやりたくない」

「うーん。面倒じゃないかと言われたら、面倒かも」

「じゃあ、サトとスグ、使って」

「カケがいい」

  仕方ないか。ミノの願いだし。

「……何するんだ?」

「ツインシュート打ちたい」

「は? 今? ここで? 俺と?」

 さすがに驚いた。

  ミノがツインシュートを打ちたいなんて言ってくること、今までなかったし。

「うん」

「……どうやんの?」

「トオに止めてもらって、パスをもらう。ダイレクトのほうがタイミング取りやすいから、ダイレクトで」

  まぁ、そうするしかないよな。

「……トオ。ちょっと来て」

 後ろの方で俺たちを眺めていた亨を呼ぶ。

「ん? 何? 面倒なこと?」

「面倒なこと。ちょっと付き合え」

「えー」

「ミノがツインシュート打ちたいから、パス出せって」

「俺に頼むなよー。どうせ、その前に止めるって仕事もあるんだろ? 俺、カケたちみたいに簡単に止められないし」

「それでもいいから」

「わかったよー。仕方ないなぁ」

 相手のキックオフから始まり、俺と稔は走り出す。暁と傑が、一瞬、は? という顔をしたが、すぐに追いかけてくる。相手の十番も、一瞬呆然とするが、すぐに切り替え、亨と対峙する。すぐに、亨はボールを奪い、鋭いパスを出してきた。

  なんだ。トオも案だけブーブー言ってたけど、できるんだよな。それに、パスも躊躇ないし。

「カケー。ミノー」

「ナイス。トオ」

 飛んできたボールをダイレクトで蹴る。ボールは少し左にそれてボールに突き刺さった。GKは一歩も動けなかった。

「これは、どっちの得点?」

「ミノでいいよ。俺は、無得点のままがいい」

「じゃあ、貰うわ」

 自陣に戻りながらそんな話をする。

「おい、スグっ! 俺らもやろうぜ」

 俺らの後をついてきた暁が合流した傑に言う。

「俺もそのつもりだった」

  何度もそれができるようなパスを出してるのに、争うから……。

「「カケ」」

「はいはい。いつも通り出すから、後は好きにして」

「じゃ、俺が止めるのか」

「できればあいつと対峙したくない」

「それは俺も。あいつ、面倒って言うか、苦手だから」

  ミノに苦手って言われるのは、相当だぞ?

 相手のキックオフで試合が再開する。今度は、十一番がドリブルで攻め込んでくる。さすがに三回求めてられ輝から、十番で攻めるのはやめたのだろう。

  あまり変わらないけど。どうせ、ミノは止められるし。

 案の定、稔が十番と対峙した時よりも早くボールを奪い、俺にパスを出す。俺は、パスを受け取ると、暁と傑のいる場所を確認し、二人の間に落ちるパスを出す。二人はダイレクトでボールを蹴る。まっすぐ飛んで行ったボールは、GKごとゴールに突き刺さった。

  反応したというよりは、サトとスグが放ったシュートがまっすぐ飛んで行って、GKごと持ってったって感じだな。止められてたらどうするんだよ。たくっ。

「「おっしゃあっ!」」

「あいつらもできるのに、何でやってなかったんだ?」

 近づいてきた稔が言う。

「俺に訊くな」

「もっかいやる? 俺らも」

「トオがかわいそうだから、やめとけ」

「えー。俺、やりたい」

「我慢しろ。あいつらも、一回だけだろうから」

「じゃあ、次、俺に頂戴」

「わかったから。俺はもう走りたくない」

「頼むよー」

 試合が再開する。残り時間があと少しのため、俺のほうから仕掛ける。少し怯んだ相手からボールを奪い、稔に今まで一番鋭いパスを出す。稔がゴールを決めると、試合終了のホイッスルが鳴った。

「ミノーっ! 全部持っていきやがってっ!」

「俺らに出番くれよっ」

 ブーブー言っている暁と傑を宥めながら、稔が俺のところまでくる。

「ナイスパス。サンキュー」

「お疲れ。まぁ、このぐらいならな」

「やっぱり、カケとやると楽しいなぁ「」

「俺は、そこまででもないけど」

「俺が楽しいからいいんだよ」

「あっそう」

「本当に、一回もボールが飛んでこなかったんだけど」

「今日、二十五分、フィールドに立ってただけ?」

 忍と雫も合流する。

「だから、交代するか? って聞いただろ」

「走りたくなかったから、ちょうどよかった」

「うんうん」

「次回は、活躍してもらうから」

「次回って、野球?」

「だった気がする」

「じゃあ、スグが活躍すればいい」

「野球は九人でやるもんだ」

 傑が少し本気(マジ)になって言う。

「少しは頑張る」

「頑張ってくれ」

 試合が終わって、一番うれしそうにしていたのは、先生だった気がする。

 校舎に戻る前に、歩と望に会った。

「ミノ。さっきのサッカー部か?」

「見てたの?」

「うん。最後だけね」

「そ」

「一応、強豪だったよな?」

「強豪だよ。この県の中では一番強い」

「本当に?」

「ほんとだよ」

「あれじゃあ、ミノが入っても、点とれなさそうだけど」

「相手が俺らじゃなかったら、取れるから問題ない。今のレギュラーとも戦える」

「ふーん」

「それより、俺は、サトとスグがツイン打ってた方が気になったんだけど」

「あぁ、あれは……」

「カケとミノがやってたから、やりたくなった」

「カケとミノがやったのかっ!?」

「うわぁ、見たかったぁ」

 歩と望が至極残念そうな顔をする。

「見ても、何も面白くないでしょ」

「よかったな。ミノ」

「俺の特権ですから」

 稔がうれしそうに言う。

「そうかよ」

「じゃ。俺ら着替えあるから」

 歩と望と別れ、教室に向かう。

  まぁ、久しぶりに俺も楽しかったな。絶対、誰にも言わないけど。


 翌週の週末。

 歩が受験のために長崎に戻っている。望も受験が目の前に控えているため、少しピリピリしていた。

 そこに、暁と傑のいがみ合いの雰囲気を持ち込み、何人かに八つ当たりをした結果、望が激おこし、部活に行かずに反省していろ、というお達しが望からあった。

 七人で話し合うか、という話を二人にしたら、二人で何とかすると言われたため、他の四人は部活に行っている。

 二人で何とかすると言っていた二人は、おとなしく自室で反省している。……わけでもなく、二人そろって何を言うでもなく俺の部屋に居座っている。端と端に。

  しかも、二人の間に流れてる空気は気まずいものだから、やめてほしい。

 俺の前ではやりあわないが、二人が睨み合っているのは、気配で分かる。俺は、二人から何も言われないため、二人を無視し、サッカーの結果を入力、分析していた。

 すると、誰かが部屋に入って来た気配がした。しかし、すぐに出て行ったため、そのまま入力作業を続けていた。何回か人の出入りが繰り返されると、俺の肩がつつかれた。

「んー?」

 振り返ると、ひどく狼狽している栞が立っていた。

「どしたの?」

「薫が……」

「カオは、どこにいるの?」

「部屋……カオの」

「じゃ、行こう」

 俺は、栞を連れて部屋を出る。

「……カケ、兄さん。あの、二人、は?」

「ほっとけばいい」

「えっ……」

 栞は何回か振り返って俺の部屋に視線を送っていた。

 薫の部屋に入ると、ベッドの上で苦しそうに呼吸をしている薫がいた。

「カオがこんな風になってるのは、初めて?」

「うん」

 俺は、奏多さんに電話をかける。すると、ワンコールで出た。

  暇なのか?

「はい。どうした?」

「今、本家にいますか?」

「いるけど……」

「カオが体調を崩したので、診てもらいたいです」

「それはいいけど、こっち、連れてこれる?」

「動かしてよければ」

「うーん。……じゃあ、僕がそっち行くから。えーっと、翔君たちの部屋のほうに行けばいい?」

「はい」

「了解。ちょっと待ってて」

「わかりました」

 電話を切り、ベッドのそばに座っている栞の方に目をやる。

「シオ。とりあえず、医者を呼んだから、落ち着いて」

  奏多さんを医者と言っていいのか分からないけど。

「う、ん……」

「一人では、話せないよな?」

「うん。無理」

 栞がこれでもかっていうぐらいに首を横に振る。

「でも、カオについての説明は、シオにしてもらわないと困るんだけど」

「カケ兄さんの後ろからだったら、できる」

「奏多さんって、知ってるか? その人、呼んだんだけど」

「奏多さんなら、知ってる。けど、そんなに話せない。大体、私の意識が朦朧としてるときにしか会ったことがないから」

「わかった。でも、説明は、してよ」

「うん。それは、する」

 そうしているうちに、気配が近づいてきたため、部屋から出て、奏多さんを迎えに行く。

「カオ、って、薫君のことだよね? 長崎にいた」

 廊下を歩いてきた奏多さんは、俺に気付くと、そう言いながら近寄ってきた。

「そうです」

「栞ちゃんが対処できなかったの?」

「シオがどうしたらいいのか分からない、って言ってきたので、連絡しました」

「なるほど。了解。でも、栞ちゃんとは、話せないよなぁ。多分」

「俺を盾にすれば話せると本人が言ってたので、話せると思います」

「翔君を盾にしたら、ね。どっかの妹もそうなってたな」

 奏多さんが苦笑しながら言う。

「ですね」

 多分、千明様のことだろう。冬馬様が倒れた時に俺を盾にして奏多さんと話していた。

  声が小さすぎて届いてなかったし、盾にしててもあまり話したくなくて、動きで伝えようとしてたから、まったく意思疎通出来てなかったけど。

 奏多さんと共に薫の部屋に入ると、栞がぴゅっと移動して俺の後ろに移動する。

「そんな、脱兎のごとく逃げなくてもいいと思うんだけどなぁ」

 奏多さんは、そう独り言を漏らしながら、薫の身体に触れていく。

「うん。栞ちゃんに訊かなくても、わかった。大丈夫だよ。いつもより、すこーし疲れてるだけだから。すこーし熱がいつもより高いだけで、他は特に何もないから。でも、熱がすこーし高いから、治るのもすこーしいつもより遅くなるかも」

「遊んでます?」

「だって、栞ちゃんが僕の前に出てきてくれないから」

 栞は、俺の腕の横から少し顔を出している。

「ま、でも、大丈夫だよ。心配ないから。寝かせといてあげて」

「ありがとう、ございます」

 すごくか細い声で栞が礼を言う。

「なにぃ?」

 確実に聞こえていたであろう奏多さんは、意地悪そうにそう訊いた。

「ありがとうございますっ」

 栞は、俺の後ろに隠れ、俺のシャツを引っ張りながらそれなりに大きい声で早口にそう言った。

「どーいたしまして」

「からかってます?」

「栞ちゃんがかわいいなぁーと思って。ま、後は頑張れ。お兄ちゃん」

 奏多さんはそう言い、俺の肩をポンっと叩いてから部屋を出て行った。

「シオ」

 俺は振り返って、後ろに立っていた栞の方を向き、屈んで目線を合わせる。

「むりぃ……。ほ、んとに……む……りぃ……」

 半泣き状態の栞が、涙をぬぐいながら言う。俺は、床に座り、栞を横抱きする。どうしたらいいかわからないが、とりあえず、背中を撫でる。

  確かに、奏多さんも遊ばれてたからなぁ。苦手だろうな。シオは。

「人と話すのが? 奏多さんが?」

  こういう時、なんて言ったらいいかわからん。普段、泣く奴なんていないからな。俺の周りに。

「人、と、話す、のが。……遊、ばれた、のも……」

「そ。まぁ、少しやりすぎ、だよな。うん」

 栞が泣き止む様子はない。

「まぁ、好きなだけ泣きなよ」

  やっぱ、カオはすごいな。カオと一緒に居て、シオが泣いてるとこ見たことないし。……いや、カオの前では泣けないだけか?

 サッカー部との試合でした。毎度のごとく、相手をぼこぼこにするんですけどね。

 翔に我儘を通せるのは、稔の特権です。って言っても、ツインシュートってそう簡単に打てるものじゃないと思うんですよね。それを引き受けちゃう翔もどうかと思います。少しだけ裏設定が入っているので、考えてみてほしいです。


 次回は、 暁と傑、翔の話し合い&バスケ部の練習試合 です。

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