61 ~体育のサッカー 前編~
本編に戻ります。
翌週の体育の時間。
今日はサッカーだ。冬の大会でサッカー部が全国の結構いいところまで行ったとか行かなかったとかで、やることになったらしい。稔も忙しくしていた。
今回は、ミノに全振りしよ。端の方で突っ立ってるだけがいいな。
冬馬様たちと一緒にグラウンドに向かう。
「お、来た。カケ―、どうする? ポジション」
先にグラウンドにいた暁たちに話しかけられる。横では傑がボールと戯れていた。
「どうしますか?」
「僕たちは、DFでいいよ。攻撃は任せた」
「わかりました」
「一応、決まったら教えて」
「はい」
冬馬様と千明様と別れ、暁たちがいる方に向かう。
――サッカーのポジションは、大きく分けると、四つ。
一つ目、GK。自陣のゴールに一番近いところにいる人。フィールドの中で唯一手を使えるポジション。相手の攻撃から、自陣のゴールを守る。一番後ろで一番フィールド全体が見えているから、味方に指示出しもする。攻撃の起点にもなり得る、とても大事なポジション。
二つ目、DF。GKより少し前にいる人たち。ディフェンスをするうえでとても大事なポジション。相手の攻撃を止めたり、攻撃の起点となったりする。高い判断能力がいる。
三つ目、MF。フィールドの中間にいる人たち。オフェンス、ディフェンスもするポジション。DFから渡されたボールをオフェンスにつなげたり、相手のMFを止めたりする。MFの中でも比較的前のほうにいる人たちは、FWへのアシストや、自分でシュートを打ったりする。比較的後ろの方にいる人たちは、相手のMFを止め、攻撃させないようにする。
四つ目、FW。一番相手陣側にいる人たち。オフェンスで一番重要。とにかく、点を取ること。自陣に攻撃されないように、相手陣内で攻撃を止めることもやる。
以上。野球よりは簡単だと思う。まぁ、俺らにとってはあまり関係ないけど。指示だしとかはできるやつがやってる。――
「ハーフコートで、五分だって」
「ん。じゃあ、オフェンスとディフェンスの交代はなしでいいか」
「どーすんの?」
「全員揃ってから決める。サトとスグは、FW?」
「ああ」
「もちろん」
「シノとシズは、DFとGKだよなぁ」
「それでいいよ」
「俺も」
やって来た忍と雫が言う。
「シズ、GKでいい?」
「いいよ。元々そのつもりだったし」
「じゃあ、シノ。冬馬様たちと千明様と並んでDFな」
「えっ……」
忍が絶望したように言う。
「そんな顔すんなって。大丈夫だから」
「……トオ。トオ、頂戴」
「トオはボランチにする予定」
――ボランチとは、MFの比較的後ろの方にいる、ディフェンスをするMFのポジション。――
「なら、まぁ、頑張る」
「頑張ってくれ」
「えぇー。俺が見てなきゃいけないの?」
合流した亨が言う。
「別にみてなくても、ミノが止めるから、シノとシズだけ見ておいてくれれば」
「カケも、だからな」
亨と一緒にやってきた稔が言う。
「俺を当てにするなよ。全員そろったな?」
「うん」
「じゃあ、ポジション、どこがいい?」
「さっきカケが言ってたやつでいいよ。俺は」
「俺も」
「うん」
全員から賛成が得られたため、冬馬様と千明様のところに行く。
「あ、決まった?」
何らか話をしていた冬馬様が俺に気付いて言う。
「はい。サトとスグがFW、俺とミノとトオがMF、シノと冬馬様と千明様がDF、シズがGKです」
「誰の指示に従っておけばいい?」
「シノとシズは、多分何も言ってこないので、何かを指示するとなったらトオだと思います。ですが、適当に動いてもらって大丈夫なので」
「了解」
「でも、翔君たちが前の方で止めてくれるから、僕たちのところまで来ないんじゃない?」
「できるだけ止めたいとは思っていますが、後ろまで行ったら、お願いします」
「うん」
くじ引きの結果、全体の三試合目が初戦となった。二試合ずつやっていくため、次の試合だ。
他のチームは十一人以上いるから、人数的には不利だが、戦力的には確実に俺らのほうが上だろう。
俺は、特に何をするでもなく、ぼーっとしているうちに、試合が終わる。
「よっし。カケ、ちゃんとパスしてくれよ」
暁が立ちあがりながら言う。
「パス出す相手はどうやって決めんの?」
「じゃんけん?」
暁と傑が俺を見る。
「今日はサトとスグしかいないし、順番?」
「えー。俺もシュート打ちたい」
「じゃあ、じゃんけん?」
「トオとかシノが上がってくることはないのか?」
「あったら、その時はその時だな」
めんどい。
「もう、二人の間にボールが行くようにするから、好きにして」
「カケが考えるのを諦めた……」
「あぁー、見捨てられたな」
「ミノ。頼むわ」
「え、嫌だよ。カケに言って」
言い争いをしているうちに、サッカー部の審判役の生徒が試合開始のホイッスルを鳴らす。
相手チームからのキックオフだ。
「ミノー、誰つくー?」
「十番っ。サト、スグ、走り出しとけ」
「「はーいっ」」
俺は、ボールを持っている十番のマークに行った稔のフォローに入る。前に走って言った相手チームには、亨たちがいるから大丈夫だろう。暁と傑も前に走り出している。ハーフコートのため、すでにゴール前に到着していた。
「カケ―。あと頼んだ―っ」
相手の十番からボールを奪った稔からパスを受けて、ゴール前にいる暁と傑に目を向ける。ちょうど二人の間は空いていたため、そこに縦回転をかけたパスを出す。
すると、落下地点めがけて暁と傑が走っていき、それに追随するように相手チームのDFが走る。
DFが追ってどうするんだよ。絶対追いつかないから、GKと一対一だな。
案の定、すぐに二人から離され、そこにフォローするために稔が走っていく。俺は後ろの方で見守る。
「おいっ、サト! そこ、どけ。当たるっ」
「スグこそどけよっ! 俺のほうが近いっ」
ボールに触れる前からそんな言い争いをしている。
言い争いに集中してたら、ミノに取られるぞー。
俺は、見守りながらそんなことを考える。
結局、暁のほうが先にボールに触り、そのままシュートを放った。GKは反応できず、ボールはゴールに吸い込まれていった。
「ナイス―」
「カケー、次、俺に頂戴」
「は? スグがちゃんととればいい話だろ」
「サトが今決めたんだから、次ぐらい俺にやらせろよ」
稔がほめるのとは反対に、暁と傑は言い争いを始める。
「言い争ってるなら、二人にはパス出さないから、そのつもりで」
相手がゴールからハーフラインまでボールを持ってきて、リスタートする。
「カケー、今度はカケが行ってー」
稔から指示が飛んできて、俺は、再びボールを持って攻めてきた十番の前に立つ。俺はサッカー部ではないため、稔と対峙した時よりもなめられている気がする。先ほどよりも、抜いてやる、という覇気がない。
まぁ、そのぐらいで来てくれるとありがたいんだけどね。抜きやすいから。
俺は、遠くの方で様子を見ている稔の位置を確認し、相手からボールを奪う。
「ミノー」
俺がドリブルをしながら、稔を呼ぶと、稔は前に走り出した。さすがに、ドリブルをしている俺のほうが遅いため、すぐに抜いて行って、ゴール前に到着する。そこにパスを出した。
「ナイス」
稔は、俺の出したパスをノートラップで直接シュートを放った。再びGKは全く動けないまま、得点が入る。
「「カケーっ!」」
パスを出されなかった二人が叫びながら走ってくる。
「サト、スグ。さっき、カケが行ってたの、聞こえてただろ?」
稔がすぐに戻ってきて、俺と、暁と傑の間に入る。
「ミノ。さすがに、サトとスグには俺が話すよ」
「ん」
稔が俺の前から退き、暁と傑と向き合う。
「さっき、言ったよな? 言い争ってる間は、パス出さないって」
「さっきは、言い争ってなかったよな」
「うん」
こういうときだけ、仲がいい。
「まぁ、そうだな。……ただ、今……」
「わかった。これで終わりにするから、パス出して」
「俺らの間でいいから。トオと変えるとか言わないで」
「トオと変えるとは言ってないけど、わかってんなら、早く戻れ。相手が待ってる」
「おうっ」
「うん」
二人がそれぞれのポジションに散っていく。
「ミノー」
「なんだ?」
「次、ミノが行って」
「りょーかい。そのあとは、カケに頼んでいいか?」
「ああ。多分、それで終わりだからな」
「じゃあ、俺が二点決めて得点王になろうかな」
「俺が入れるっていう選択肢はないのか?」
「入れたい? お膳立てするよ」
「まぁ、その時次第かな。ミノが入れる方が確実だろうし」
「いや、カケが入れる方が確実だと思うけど?」
「そんなことない」
稔が、こちらに切り込んでくる十番を止めに入る。俺は、少し前でその様子を見守る。稔から来たパスをダイレクトで暁と傑の間にパスを出す。今度は傑がボールに先に触り、シュートを放った。三点目が入る。
「カケ。どうすんの?」
「ミノに出す。準備しといて」
「りょーかい」
プレーが再開され、俺は、ボールを持っている十番と対峙する。
「何だよ。相川じゃねぇのかよ」
この相川は、ミノを指してるんだよな? 多分。ちょっとからかっとく?
「俺も相川だけど?」
「お前を指してないことぐらいわかるだろ」
「まぁな。けど、ミノに頼まれちゃったからねぇ。止めないと、後でなんて言われるか……」
何とも言われないだろうけど。
「おまえで止められると思われてんのか。なめられたもんだな」
相変わらず、稔と対峙するときより覇気のない相手だから、こちらも相手をする気になれない。すぐにボールを奪い、走り出していた稔にパスを出す。
「あっ」
稔はダイレクトでシュートを決めた。
「一応、さっきも戦ったんだけどな」
ミノしか眼中にないか。まぁ、油断してくれるだけありがたいけど。
「興味ない。あいつしか」
普段戦ってるのはミノだから、そりゃあ、そっち行くよな。
「ガンバレー」
試合終了のホイッスルが鳴る。
「終わ……った? 俺が何もできないまま……?」
十番は半分絶望している。
「ナイスー。カケ、次の試合さ……」
稔が戻ってくる。
「おい、相川。どういうことだ?」
十番は稔を睨みながら言う。
「どういうことって……? 何もないけど?」
「何もないわけないだろう。俺が……」
「あぁー。だって、君、カケ相手に俺よりなめてかかったでしょ? それじゃあ、抜けるわけないよ」
「うん、うん」
「そうだな」
暁と傑も入ってきて言う。
んなことないってのに。
「は? だって、こいつ、サッカー部じゃないだろ?」
「それがいけないんだって」
「どこがだよ」
「カケは、俺たちより全然強いんだから、なめてかかったら、やられるに決まってるだろ。なぁ?」
「うん、うん」
「だな」
俺以外の兄弟が納得している。
「まぁ、戦ったら分かる。……行こ」
稔に促され、移動する。
「あいつ、サッカー部?」
「そ。俺らの代のトップ下」
「あいつがぁ? カケだけでなく、ミノにすら一歩も手が出てなかったのにぃ?」
「ミノがやったほうがいい」
「俺は、ボランチがいいんだよ。少し後ろから見てるのが」
「勝てなくね?」
「別に、俺はどっちでもいい。勝負は」
「それが楽しいんだろ? スポーツって」
「普通に動いてるだけで楽しいけど? シノとかって、どっちかというと、俺よりじゃない? 考え方」
「うん。弓、弾いてるときが一番楽しいから、勝負は、二の次かな」
「な。だから、俺はボールを蹴ってるときって言うか、フィールドに立ってボール追っかけてるときが一番楽しい」
「なら、いいけど」
暁や傑は納得できない、という顔をしていたが、話は終わった。
その後、何試合かこなし、俺たちの試合は終わる。
結局、稔が得点王で、四試合やって八得点だった。暁と傑はそれぞれ四得点。俺は一点も取っていないのに、各チームにいるサッカー部全員に喧嘩を売られた。
ミノに任されるって、俺らなめてんのかっ、って……。俺がやりたくてやってるわけじゃないってのに。はぁ……。
もちろん買わなかったし、稔がすべて止めてくれた。
「よしっ! 相川っ!」
体育の先生に大声て呼ばれる。
「何ですか?」
稔が応える。
「サッカー部と試合やってくれ」
「……拒否権は、ないですよね?」
「ないな」
はぁ。もう、結構疲れたんだけど。試合やるたびに喧嘩売られて。
「ポジション、そのままでいいよな?」
「ああ」
「カケ。疲れてないか?」
「疲れてないと言ったら嘘になるな」
「動けそうだから、大丈夫だな」
「サッカー部の方、行かなくていいの?」
「別にいいだろ。人数はいるし、俺がいなくても何とかなる」
「なら、いいけど」
「ミノはボランチじゃなくていいの?」
「まぁ、トオにこっちは任せられないし」
「俺も、できればやりたくない」
「冬馬様と千明様は、ずっとDFでいいんですか?」
俺たちのせいだよな。お二人を振り回しまくってる。
「いいよ。ほとんどボール飛んでこないし、攻撃に参加するより楽だから」
「うん」
「さすがに、サッカー部相手にそうはならないと思うんですけど……」
「いや、カケがいたら止められるので、安心してください」
「俺が安心できない」
「うん。まぁ、来たら何とかするから、大丈夫だよ」
「うん」
「お願いします」
「サト、スグ」
稔が、1on1をやっている二人を呼ぶ。
「「なにー?」」
「まだ、走れるな?」
「もちろん」
「おうっ」
「シノ、シズ」
「あい」
「何?」
「GKとDFのままでいいのか? サトとスグと変えられるけど」
「いいよ。楽してるし」
「俺も」
「交代したくなったら、言って」
「うん」
「ミノ、本当に、サッカー部のほうに行かなくていいのか? チラチラこっち見てるけど」
「いいよ。逆に、カケは一人でこっち、何とかできんのか? 俺がボランチで入ったら、パス、通らないと思えよ?」
「やっぱ、行くな。ミノ」
「わかってるよ。だから、俺はこっちにいる」
サッカー部から誘いは来ないまま、試合開始のホイッスルを先生が鳴らす。
一番、楽しみにしてるのは、先生なんだろうな。
サッカーです。何気に、サッカー書くの初です。兄弟練習ではちょこちょこ出てきてますけど、試合を書いたことはなかったです。楽しく書けました。
稔はサッカー部の中では断然うまいですが、それを認めたくないのが相手の十番の子です。稔としては全く敵視していないですが、十番の子は稔との実力が同じぐらいだと思い、ライバル扱いしてます。
次回は、 体育のサッカー 後編 です。




