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60 ~薫と栞~

「戻ったら、俺からカケ兄の部屋で話す、でいいんだよね?」

「って、三十秒前に決めたけど?」

「再度確認だよ。何回確認したっていいでしょ」

「いや、くどいと面倒だなって思う。間違われるよりかはましだけど」

「俺が間違わないためには、四回ぐらい確認が必要なんだよ」

「わかった。そう記憶しておく」

 栞は、一人は嫌だからと言って、歩の部屋に入っていき、薫と俺は俺の部屋に入った。

「さて、と。話せること、話して」

 俺が椅子に座りながら言う。

「何が知りたいの?」

 薫がベッドに腰を掛けながら言う。

「何でもいい。話せることならな。本当は、少しずつ知ろうと思ってたことだから」

「うーん。何でもか……」

「じゃあ、好きな食べ物は?」

「焼うどん。栞が作るやつ」

「嫌いな食べ物は?」

「……女中が作るご飯」

「食べ物」

「トマト」

「ふーん。じゃあ、俺らの中で一番話しやすい人は?」

「カケ兄」

「一緒に行動するなら?」

「栞」

  それは分かってる。

「シオ以外」

「うーん。アキ兄とタツ兄とサト兄とスグ兄以外だったら誰でも」

「やっぱり、そこは嫌か」

  俺はさすがに慣れたけど。

「まだ、付き合い方が分かってないだけで、嫌ってわけじゃないよ」

「わかってる。あいつらは難しいよな」

「うん」

「じゃ、カオの体調について、教えて」

「多分、栞のほうが知ってるから、栞に訊いてほしい」

「本人から訊かないと分からないことだってあるだろ」

「うーん。体調を崩しやすいのは、俺。一定量疲れたら必ず体調を崩す。でも、栞よりは疲れにくいから、動けてるうちは結構動ける」

「なるほど。じゃ、シオは?」

「栞?」

 薫が先程栞に訊いてほしいと言っていたのと同じように、もう一人にも訊こうとは思っていたのだ。

「カオが知ってるシオのこと。言えることだけでいいから」

「うーん。栞は多分、人前で話すの苦手なんだと思う。だから、大体俺が答えてる。こっち来た時も最初はそうだったように。今は、それなりに兄さんたちに慣れてるから、俺がいなくても兄さんたちとは話せるようになってるけど、他の人と話すのはまだ緊張してると思う」

「俺も、そうだと思う」

「だから、学校でも浮きがちなんだよね。俺が一緒にいれば慣れることができるかもしれないけど、ずっと一緒にいられるわけではないし、俺がいないと慣れるどころか、まず、その場にいるってことに労力使っちゃうから、慣れるっていう状態まで行けないんだと思う。前の学校は、成績順だったから、あまりクラスメイトが変わらなかったけど、あの学校の雰囲気は慣れられてなかったし」

「クラス、一緒じゃなかったのか?」

  成績順だし、二人の成績同じくらいだし、クラス一緒だと思ってたけど。

「うん。テストは、どっちも満点だったけど、俺が休みがちだったから、一つ下のクラスだった」

「ふーん」

「で、こっちは、成績順じゃないから当然同じクラスになれなくて、しかも、環境が違うから、本当に慣れてない。結構疲れてると思う。だから、そろそろ倒れそう」

「それ、シオは分かってるのか?」

「本人に訊いてみないと分からないけど、多分、わかってる。でも、自分から休むとは言うタイプじゃないから、俺たちから休めって言うか、倒れるのを待つかの二択だと思う」

  まぁ、そういうタイプだよな。

「倒れられると、俺たちも困るけど、それ以上にシオが困るんじゃないか? ただ、どのぐらいで倒れるかはわかっておきたい気もするな。休めって言ったら、本当に休むのか?」

「どーだろ。向こうにいた時は休めてたけど、こっちでは休めない可能性もある」

「何で?」

「向こうにいた時は、幼稚園からも含めると約十年はいたから休んでも大丈夫っていう心持ちだったかもしれないけど、こっちはまだ慣れてないから、休むことが怖いって思ってるかも」

  ちゃんと、見てるんだな。シオのこと。いつも無関心に見えて。

「ってなったら、休めってこっちが止めても、あまり意味はないな。カオは? シオが、そろそろ倒れるって言ってたけど、そうなのか?」

「今の状況で栞だけを学校に行かせたくないから、できるだけ休みたくないけど、多分、そろそろまずいと思う。俺は、そこまで体強くないから」

「カオも自分の体調は分かってる感じ?」

「まぁ、栞よりは分かってると思う」

「カオは自主的に休むのか?」

「倒れた時に周りに申し訳ないから、自分から休むって言う。……まぁ、今はあまりあてにしないでほしいけど。俺の体調より、栞のほうが大事だから」

「さっき、カオのほうが欠席数が多くて一クラス下にいるって言ってたけど、向こうではカオがいけなくても行けてたってことだよな?」

「うん。小さいころ……幼稚園くらいの子は、俺が行かないと栞も行ってなかったけど、小学校に上がってからは、俺が行かなくても行くようになった」

  シオの中を確認すると、慣れてないから休むことが怖くて、あまり休みたくないけど、カオがいないなら休みたいって感じか。

「シオの中で、やりたいこととやりたくないことが重なったときって、どっちを取る?」

「その時によるかな。今で言うと、休みたいと休みたくないってことでしょ? 多分、休まない方を取ると思うな」

「それは、経験則?」

「うん」

「カオがなんて言っても折れない?」

  今のところ、一番シオに物を言えるのはカオだろうから、カオで折れなかったら、俺らは使えたもんじゃないし。

「いや、そこまでの確証はない。話し方によっては折れるかも。ってか、何で俺なの?」

「俺らが言ったってあまり響かないと思ったから。最近まで全く知らなかった人のことを信じるってことをあまりしないと思うんだよね。カオがいるから、カオの言ってることを信じる方が普通だと思う」

「それは、そうかも」

「とりあえず、この後シオと話すからなんとなく聞いてみる。カオは、自分から言ってくれるんだよな?」

「うん。毎回、絶対言うって言う確証はないけど、自分から休む行為はする。ずっと寝てるとかね。一応、栞には連絡を入れるようにしてるから、栞に訊いたらわかるよ」

「手間かもしれないけど、俺にも送れるか?」

  その方が楽だ。シオも倒れそうという今だから。

「習慣化してないから、最初のほうは忘れるかもしれないけど、送るようにする」

「サンキュ。あとは……。俺から聞きたいことはないけど、なんかある? 話しておきたいこととか」

「関係ないかもしれないけど、普通にすごいなって思ったこと、話してもいい?」

「どーぞ」

「カケ兄とアユ兄すごいなって思った。俺とか父さんと母さんは、生まれた時から一緒にいるから慣れてるのもわかるんだけど、こんなに早く栞が慣れたことってなかったから。俺の記憶にある限り、女中にも慣れてなかったし、満さんにも慣れるまでに時間かかったし。だから、すごいなって」

「シオの中に何か許せるものがあったんだろうな」

  俺も、まだわかってないけど。

「そう。それが何だったんだろうなぁって、最近考えてる。今までは、俺がいないとほとんど誰とも話せなかったのに。兄弟だからって言う感じでもなさそうだし」

「カオってさ、どのぐらいシオに干渉してる? 暇な時間とか」

「わからない。俺の暇な時間は大体小説読んでるから。まぁ、居ることだけは確認してるけど、それ以上でもそれ以下でもない」

  俺とかアユと似たような感じか。

「それ、だろうな。俺とかアユは、何も話しかけないから。一緒にいても何も話しかけられないっていうところが大事なんだと思う。何か話しかけられるのも嫌だけど、でも一緒に居たい、みたいな感じ?」

「ふーん。特に何も意識したことなかったけど」

「じゃ、俺も関係ない質問していい?」

「うん」

「生まれてから、どこに住んでた?」

  これは、シオには訊かない方がいいだろうなと思ってたし、ちょうどいい。

「女中の家。理由は聞いたことなかったし、よく分からないけど、朧げに覚えてるのは、栞がいるからって言ってたのを聞いたことがある」

  千明様が女中と同じよことをやっていたって言ってたのと同じ感じな気がするな。向こうって、代々当主一族の傍系が管理してるし、女中たちも結構本家にいる人たちと同じような考え方をしてるって言ってたし。

「でも、去年の夏? に、母屋に移動するって言われて、移動した。女中の家が足りなくなるからって」

  完全にすれ違ってるな。

「なるほど。だから、会ったことはあったとしても分からなかったわけだ」

  ってか、父さんたちは、そのことを許したのか? わかってはいただろうし。わかってたなら、絶対にそんなことさせないと思ってたんだけど。……裏があるってことか。まぁ、もう、確認しようがない気がするけど。満に聞いたら、分かったりするのか?

「逆に、カケ兄たちは、母屋に住んでたの?」

「俺らは、生まれた時から母屋」

「そうなんだ」

「以上?」

「うん。栞、呼んでくる」

「ありがとう」

 薫がそう言って出ていき、部屋の外で少し話声が聞こえていたから、栞が部屋の中に入ってきた。

「いらっしゃい」

「ん」

 栞は、扉のすぐ前に座ろうとした。

「こっち来てよ。そこがいいなら、そこでもいいけど」

「どこに座ればいいかわからないから」

「どこに座ってくれてもいいけど、大体ベッドの上に座るかな」

「なら……、失礼します」

 栞がおずおずとベッドに腰を掛けた。

  まっすぐ、ベッドに座ったカオとは違うな。

「さて。じゃあ、シオが自分について思ってること、話せるだけ話して。話したくなかったら、話さなくていいから」

「えっと……、私の体質から話すね。これは、カオにも言ったことないんだけど、私は、安心できる人がいないと焦って頭が真っ白になるの。だから、周りとうまく話せなくて……」

  カオ、大体わかってたな。

「いつもカオに助けてもらってるんだけど、そろそろやめたいなぁって思ったりしてる。カオにはもう気付かれてるかもしれないけど」

「カオは、半分気付いてて半分気付いてないって感じかな。人と話すのが苦手だってところまでは分かってるみたいだから、話してくれてるって感じ」

「やっぱり、わかってるよね……」

「まぁ、十何年もずっといたらな。バレたくなかったのか?」

「ううん。そういうわけじゃないんだけど。何なら、気付いてもらわないと、ちょっと私が困ってたんだけど……。でも、あまりバレたくはないって言う感じでもある」

  分からなくもない。

「そっか」

「……それで、ね。あまり、周りの人と話せないから、学校は、あまり好きじゃなくて……。でも、勉強は好きだし、テストも嫌いじゃない。前の学校はさ、ほとんどグループ活動なんてなかったから、何とかなってたんだけど、こっちでは結構あるから……」

  確かに、向こうの学校はないな。そういう感じじゃないもんな。

「学校、行きたくない?」

「……行きたい」

 栞は、いろいろなものに挟まれて葛藤している中で、その答えを出した。

「なら、行けばいいんじゃないか?」

「そうなんだけど……。そう簡単でもなくて……。馴染めてないと、疲れるから」

「休みたいなら、休めばいいし、行きたいなら、行けばいい。ただ、俺だけに相談されるのは困るから、当主様にも相談してほしい。俺もついていくから」

  小学生の休みの連絡を入れるのは、保護者だろうから、俺に言われてもどうもできない。

「うん」

「カオがそろそろ休まないとシオが倒れるって言ってたから、俺としては休んでほしいけど」

「うん。……あの、休むとしたら……どうしたらいい?」

「俺たちと、当主様に連絡。できるだけ早く決めてくれれば、昼ごはんの食材買ってこれるから、言って。冷蔵庫にある具材も使ってくれていいし」

「うん」

「他は? カオには相談できないってこととか、ある?」

「あの、ある。うん。……でも、どうやって話せば……」

  シオの考える、カオには言いたくないこと、か。何かあるか?

「それさ、部屋、カオから離したのと関係ある?」

 栞のよくわからない行動を、来た時から振り返って考えてみると、それぐらいしか思いつかなかった。もう一つあったが、それは先ほど解決したし。

「うん。……あの、さっきも言った通り、薫がいないとだめなのを何とかしたいなって思ってるんだけど……。まだ、無理」

「ちょっとずつ離れればいいんじゃないか? そんなに急がなくても。……すぐにはいなくならないだろうし」

  ……父さんたちみたいにすぐにいなくなったら、分からないけど。

「いいの? ゆっくりで」

「いいだろ。悪いことがない」

「だって、薫に、迷惑、掛かってるし……」

 栞が申し訳なさそうに言う。

「カオに迷惑だって言われたのか?」

「言われたことは……ないけど。でも……」

「大丈夫だろ。良い意味でいてもいなくてもあまり変わらないから。カオ的には、ご飯作ってくれるし、一緒に居てくれるとありがたいんじゃないかな? カオがシオの安心する場所を与えて、シオは、カオにご飯を作ってあげる、って言う関係でいいと思うけど。俺は」

「そうなの?」

「少なくとも、カオは文句を言ってないし」

「そっか……」

「だから、慣れるまでは、カオの隣に居させてもらえよ」

「そう、する」

  意外と俺の話も聞いてくれるんだな。これなら、カオが説得しなくても何とかなるだろうな。

「で、休むのか?」

「もう少し考えてみる。もう少し頑張りたいとも思うし。ちゃんと休みたくなったら言うから。……当主様に話しに行くのは、付き合ってほしいです」

  そりゃあ、俺も、一人では行きたくないからな。

「了解」

「話したいことはもうない、です」

  なんかあるかなぁ。うーん。あぁ、あれ、訊いとくか。

「カオの体調って、シオ、どのぐらいわかってる?」

「なんとなく感覚だけど、薫の元気が少しずつなくなってくのは、分かるんだよね。だから、それを見て、なんとなくそろそろかなって言うのはある」

「それは、経験則だな。十年の」

「うん。でも、薫は、私みたいに抱え込まずに、言ってくれるから、全然優しいよ。こっちも、顔見てれば、そろそろ倒れるなって言うのが分かるから、あぁ、倒れたんだ、ぐらいの感覚」

「結構適当だな」

  でも、ちゃんとカオのことは見てる。

「もう、ない?」

「ない」

「じゃあ、戻るね。……薫、どこにいるかわかる?」

「俺の使い方が分かってきたな。ちょっと待て」

 俺は苦笑しながら、気配を感じる範囲を広げ、気配を探る。

「カオの部屋にいると思う」

「ありがとう。それじゃ」

「ああ」

 「薫と栞」題名がこんな感じなのは、晴樹と夏樹の回以来ですね。そして、中身も薫と栞。他の兄弟たちとは、今までゆっくり重ねてきていた時間を一気に飛んだ感じですね。薫は無関心のように見えて、ちゃんと栞のことを見ているし、自分の体調よりも大事にしています。栞には気づかれていませんが……。栞はちゃんと薫のことを見ています。同じ双子なので、歩と望と同じ感じですね。上と一番下という違いはありますが。


 次回は、 登場人物紹介 暁編 です。

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