59 ~体育のバスケ 後編&忍と翔の話し合い~
「サト。ちょっと頼んでいい?」
俺が呼ぶとすぐに駆け寄ってきた暁に言う。
「了解。絶対ボールが飛んでこないところで休んでろ」
俺の肩をたたき、暁が自分のポジションに向かっていく。俺は、言葉に甘えて、コートの端の方で休憩する。
四対五の試合が始まる。じゃんけんをして誰がシュートを放つかを決めないため、普通のバスケに近い形だ。逆に、マークマンが定まらないため、俺たちにとってはちょうどいいのかもしれない。俺はコートの端でぼーっと眺めていた。
ボールなんて飛んでこないだろうと気を抜いていたら、突然、暁からパスが飛んできて、少し慌てる。が、マークはついておらず、相手は呆気に取られているため、誰も反応できていない。俺は、その位置からスリーポイントシュートを放つ。ボールはリングに当たらず、ゴールに吸い込まれていった。
サトが自分で絶対ボールが飛んでこない場所って言ったのに、飛んできたじゃないか。どういうことだ。
「そろそろ回復したか?」
暁が俺のところまで来て言う。
「ああ。サンキュ」
先ほど思ったことは自分の胸にしまっておく。休ませてくれたのは、まぎれもなく暁だから。
文句言ったらこれからやってもらえなくなるかもしれないし。
「でさ、ちょっと提案があるんだけど」
「ミノ、トオ、スグ。ちょっと来て」
俺が呼ぶと、三人が近寄ってくる。
「何?」
「サトから提案があるんだって」
「……そこまでの案じゃないんだけど、カケが大変そうだから」
「早く、その案を言え」
「手、あげたらマークマンつくだろ? だから、それを逆手に取る。手を挙げる人とシュートを決める人を変える。全員考えてたと思うけど」
「じゃ、次からそれで。一番最初に負けた奴が手をあげればいいだろ」
「だな」
「カケは、それでいい?」
「声を出した人に渡せばいいんだろ?」
「そ」
「いいよ」
兄弟の中では、全員違う声だから聞き分けられるが、他人から見るとそうでもないらしい。よくよく聞いてみると、違うというのが分かるらしいが、すぐには判断できないと前に千明様が言っていた。結構な武器になるだろう。
「じゃ、それで」
「おう」
五対五の試合が再開する。暁が立てた案は、残り数分の中ではうまくいった。良い具合に惑わせていただろう。数分しかなかったため、向こうが対処法を思いつく前に、試合終了のブザーが鳴る。圧勝だ。
「おいっ、お前ら! 今日の部活の最初は、反省会だからな」
結果を見ていたバスケ部の顧問の先生が言う。俺たちと試合をすると聞いて、やってきたのだ。
「はいっ!」
バスケ部のほうはいい返事をしている。
「まじかー。面倒」
一方の暁は、憂鬱そうな顔をしている。
「まぁ、必要だろ。さすがに」
忍と雫が座っているところに向かいながら傑が言う。
「本気出しすぎなんだよ。もう少し抑えてくれたっていいだろ」
「ノリノリだったのはどこのどいつだ?」
「それは、スグの方だろ」
「ま、部員相手だし、カケと一緒にできたし、そりゃあ、少し力入るだろ」
「兄弟相手だと、ほとんどシュート決めらんなくて楽しくないし」
「カケもいないしね」
「楽しかったな」
稔と亨まで暁と傑の話に加わっている。普段は止める側だというのに。
「俺は疲れたよ」
「お疲れ」
「お疲れー」
忍と雫が座っているところに着くと、ちょうど授業終了のチャイムが鳴った。
「忍、雫。どっちが書いてた?」
「俺」
忍からノートを受け取り、今の試合のページを見る。しっかりと書き込みがされていた。……俺が休んでいるというところまで。
「サンキュ」
「普段、試合しながら合間に書いてるカケが怖くなったよ」
「そんなことないよ。普通。普通」
翌日。
土曜日のため、各々部活に行ったり、勉強をしたりしている。俺は、バスケのデータを打ち込み、分析していた。二年生もやったらしく、二年生のデータももらった。それなりの量があるため、すぐには終わらない。
気配も探らず、集中するためにヘッドホンをつけて作業をしていたため、ヘッドホンを取られるまで誰かが部屋に入ってきていたことに一切気付かなかった。
まぁ、ヘッドホンを取る時点で、シオではないことは確定だけど。
「誰?」
突然、ヘッドホンを後ろから取られ、振り向く。
「俺。ちょっと相談」
いつもより元気のない忍だった。
「ちょっと待って。今、いいところだから」
「どのぐらい?」
「二分」
「わかった」
俺はキリのいいところまでやり、ベッドに腰を掛けぼーっとしている忍に話しかける。
「どんな相談?」
「えっと……、カケの考える意見を教えてほしい」
「了解」
「って言っても、どこから離せばいいのかな。うーん……」
「ゆっくり考えてくれていいぞ」
「えっと、どうしたら一人にしてくれるかな?」
一人にしてくれる、ということは、俺たち関係ではない。俺たちは自分が一人になりたいと思ったら、いつでも一人になれる環境がある。
ってことは、学校か?
「それは、学校で?」
「うん」
「話しかけられたのか?」
それは、それで驚きなんだけど。前の学校では話しかけられたことほとんどなかったし。……俺は。
「というか、囲まれた。バスケやってから。あの日は、俺の運が良くて、たまたまじゃんけんに勝てたから、得点王になっただけで、俺よりサトとかのほうが全然うまいのに。俺に話しかけることなくない? こっちは考え事してるっていうのに」
考えるのをやめたのか、思っていることをすべて吐き出すように忍が言う。
「まぁ、俺的には、一番話しかけやすいのがシノなんだと思う。サトが一番うまかったとしても、同じクラスにはスグがいるし、一人になることはほとんどないから、話しかけづらいだろ? それに、他クラスまで行って話すのかっていうこともある。シノが同クラスに居るのにさ」
「話したがるのは、サトだし。サトに話しかければいいと思う。他クラスのやつも俺のところに来たし」
「話したがってるかなんて、俺らは知ってても、他の人は知らないだろ? だから、シノが話したくないのを知ってるのは俺らだけで、他の人は知らないから話しかけて来たんだろ?」
「それは、……そうだけど」
「あと、考えられるのは、今まで話しかけづらい雰囲気だったから、放っておいたけど、シノと話したかったかもしれない」
「そんなことない。俺なんかと話したがる人なんていない」
なーんで、そこまで否定するかね。シノと話すの、普通に楽しいのに。
「いるかもしれないだろ。シノは一緒にいて居心地良いし。それに、すごいことをした人に群がるのは、一種の習性みたいなものだから。諦めたほうがいい」
「俺と一緒にいて居心地が良いかは別だけど、習性なのはわかる」
「大丈夫だよ。心配しなくても、この後どんどん人が増えていくだろうから」
「どこが心配ないんだよ。ヤダ。目立ちたくない」
「俺らと兄弟の時点でそれは諦めたほうがいいだろうな。俺も、最初はそう思ってたけど、俺らがどう頑張っても、目立つ。やりたいことをやりたいようにやってたらな」
「そうだよねぇ」
「諦めはついたか?」
「多分、諦めるのが一番エネルギーを使わないんだろうけど、集まられるのも嫌なんだよなぁ」
「じゃあ、隣のクラスに居るミノと一緒にいたら? いちいち移動するのは面倒だろうけど」
「ミノも囲まれてたら意味なくない?」
「そうでもないだろ。話しかけてくる数は減ると思う。それに、話しかけられたら、ミノに任せればいいしな」
「それもそっか。でも、結局、話しかけられるってことだよね?」
「仕方なくね? それなら、俺のところ来るか? 絶対寄ってこないぞ。冬馬様たちのおかげで」
今までに近寄ってきたのは学級委員の一人だけ。しかも、半分義務的に近づいてきただけで、それ以降近寄ってくる人は誰もいない。
「遠いんだよ」
「なら、話しかけるなオーラでも出しておけば?」
「出してるつもりなんだけど」
「寄ってくるってことは、出てないってことだろ。もしくは、微弱すぎるか」
「それはあるかも」
「シノが弓引いてるときとか、近づきがたいオーラ出てるし、カナからも出てるけど、それはどうやって出してるかわかるか?」
「え、出てる?」
少し驚いた表情の忍が言う。
「シノよりカナのほうがずっとその状態だけど、出てる」
「全然わからない」
「なら、どんなのか聞いてもできないだろ」
「そんなことない……と思う。できないと、困るし」
忍が困ったような顔をしながら言う。
「じゃあ、俺は説明できないから、違うやつに訊いて」
「……カケが説明できなかったら、誰も説明できないし。諦めるかぁ」
忍は、仕方ない、という顔をしている。
「俺たちとなら話せるんだから、そこまで気負うこともないだろ」
「そういう問題じゃない。カケたちは寄ってたかって話しかけてこないけど、……あいつらは来るから。向こうの学校ではそれがなかったから慣れてないし」
「なかったな。今でも、俺には寄ってたかってこないけど」
「それは、冬馬様たちと一緒にいたら誰も近づきたがらないよ。俺も、できれば近づきたくないし」
「んで、どう? 解決案、思いついたのか?」
俺は、初めから解決案なんてないと思っていたから、ほとんど何も考えていなかったが、忍は何か思いついたかもしれない。
「解決しないってことは、わかったよ。ただ、解決案がないわけでもないってことも」
「それなら、いいな。解決案が実行できるように頑張ればいいだけだし。良いんじゃないか?」
「よくはないけど。まぁ、うん。ありがとう」
「この後は、部活か?」
「お昼食べたらね。カケは?」
「これ、もう少しやったら昼かなぁ」
「ちゃんと食べてよ」
「食べるよ。カオたちいるし。アユたちの分も作らないとだし」
「ちょうどいいね」
忍は、部屋に入って来た時よりはいくらかすっきりしたような顔をして部屋を出て行った。
俺は、忍を見送り、もう少しで終わる分析を終わらせる。
さて、ご飯食べるか。
俺は、薫たちがいるところを確認する。
二人は、薫の部屋にいた。薫はベッドに寄りかかって小説を読んでいて、栞はそのベッドの上で布団をかぶって寝ていた。
二人が離れてるなんて珍し。
二人の中ではこれが普通なのかもしれないが、少なくとも俺は見たことがなかった。
「ご飯、食べないか?」
俺が部屋に入って来たことに気が付いた、薫が俺一瞥してまた、小説に視線を落とす。
「ん~……。もうちょっと」
「後、何ページ?」
俺は、ベッドに近づきながら言う。
「三ページで一章終わるから」
「了解。シオ―、起きれるか?」
「ん……」
「おーい、シオ―」
「んん……」
「栞、起きるまで、長いよ」
小説を閉じながら薫が言う。
「どのぐらい?」
「十分」
「長いな。シオ、後から来れるか? それとも連れてってやろうか?」
「連れてくって、どうやって?」
「抱っこ」
「え、ちょっと見てみたい。カケ兄、やってみて」
薫が興味津々な目を向けてくる。
「やだよ……」
まだ眠そうにしている栞が言う。
「いいだろ。どうせ、動けないし」
「う……」
俺は、栞がかけていた毛布を端に寄せ、抱き上げる。
「お姫様抱っこできるの!? すげぇー。栞、結構重いから俺はできなかった」
栞は寝ぼけた顔をしながらも、すごく驚いた顔をしている。
「まぁ、二人はまだほとんど同じ体格をしているからな」
「他の兄さんたちはできそうだなぁと思ってたけど、カケ兄もできるんだ。さすが、兄さんたちから信頼を寄せられてるだけはあるね」
「まぁ、な」
そんな風に言われると思ってなかったというか、何というか。
俺たちは、そのまま家に移動する。家には、もう昼ご飯を食べ始めていた、要と忍がいた。
「どうしたの? シオ」
食べ終わり、忍が食べ終わるまでの時間暇そうにしていた要が俺たちを見て言う。
「全然起きないから、連れて来た」
「カケが誰かを抱いていることも珍しいし、それがシオだって言うことにも驚きなんだけど」
「うん」
要の横で忍もうなずいている。
「珍しいんだって。よかったね、栞」
「何も良くないよ……」
うれしそうにしている薫とは裏腹に、まだ本調子ではない栞が嫌そうに言う。
「アユとノゾは?」
「呼んできた方がよかったかな?」
「どうだろ。自分のタイミングで食べたがる人たちじゃないから呼べば来ると思うけど。ほっとくと食べないし」
「また、向こうに行くのか」
「なら、俺が呼んでくるから、カケ兄たち、先にご飯の準備しておいて」
薫がそう言って家を出て行った。俺は、栞を居間の畳の上におろし、台所に向かおうとすると、栞に服の裾を引っ張られた。
「待って。私がやるから。カケ兄さんは座ってて」
俺は、おとなしく、栞の隣に座る。
「俺、そんなに信用されてないのか?」
「違う。私が作りたいだけ。でも、もうちょっと待っててほしい」
「わかったよ。手伝うのは?」
「テーブル拭いて、箸並べるだけでいい。あ、あと、どんぶり」
「了解」
少しして、栞のエンジンがかかり始め、動き出すと同時に、俺も言われたことをやる。
普段は、指示する側のことが多いから、指示されるのは、楽でいいな。
その間に、忍がご飯を食べ終わり、要と一緒に家を出て行った。その入れ替わりで歩たちを連れた薫が帰ってくる。
「すぐ作るからちょっと待ってて」
「手伝うぞ」
「あ、俺も」
「俺もっ」
「アユ兄さんだけでいい。薫と、ノゾ兄さんは、カケ兄さんと一緒に座ってて」
「はーい」
「戦力外通告……」
特に何も気に留めていない薫と、明らかに落ち込んでいるのが分かる望が居間に入ってきて好きなところに座る。
「ノゾまではじかれるとは思わなかったなぁ。カオはいつも通りだな」
「まぁ、栞が手伝わせてくれたことないからね」
「はぁ……。それは、良いのか悪いのかわからないな。信頼されてないのか?」
「わからない。ただ、俺が手伝おうとすると、頑なに拒否してくるから。一応、毎回、手伝う意思は見せてるけど、毎回拒否されるから。慣れた」
「ふーん。……ノゾはそんなに落ち込むなよ」
三人で雑談をしているうちに、昼食が作られ、運ばれてくる。
「サンキュー」
「ありがとー」
「いただきます」
歩と栞もそれぞれ座り、食べ始める。
「カオとシオは、もう慣れた?」
「うん。だけど、そろそろ栞が体調崩すかも」
「それは、薫もでしょ」
「定期的に来るものなのか?」
「俺のはね。栞は、別に違うけど……」
「何かあるのか?」
「こっち来て、三週間ぐらい経ったから、そろそろ緊張が解けて体調崩すころだと思う」
「慣れたからこそ、か」
「カケに伝えておいてくれるとこっちも助かるから、伝えられることは伝えておいて」
「何で、俺なんだよ」
「兄弟のことで全部把握してるのがカケだから」
「カケに任せておけば、俺らは知ってる範囲で動けばいいし。何も知らなかったら、カケに訊けばいいし」
「わかった。一人ずつでいい? カケ兄」
「一人でも、二人でも。どちらでもどうぞ」
反対することを諦めた俺は、やけくそになりながら言う。
「ありがと」
「どーいたしまして」
そんな話をしているうちにご飯を食べ終わり、歩と望は、自分たちの皿を洗って家を出て行った。残った俺たちは、食器を洗ったり、鍋などを洗ったりしながら、いつどこで話すかを決める。
「戻ったら、俺からカケ兄の部屋で話す、でいいんだよね?」
はい、バスケ部との試合が終わりました。まぁ、説教があるのは確実ですね。勝ったのに巻き込まれる暁と皐は大変ですね。まぁ、負かしたのは彼らなので仕方ないでしょう。
そして、忍との話し合い。忍は、ぼーっとしている(ように見える)ので話しかけることはできるが、話しかけるタイミングがなくてクラスメイト話しかけられずにいたんですね。そんなときにちょうど、話しかけられるタイミングができてみんながどっと行ったから、忍は無理ー、となってしまいました。
次回は、 薫と栞 です。




