55 ~大輝さんのお手伝い 後編~
本編に戻ります。
「じゃ、決定。修と淳は上行って」
「ねぇ、やっぱり、俺、修とペアがいい」
「ダメだ」
俺じゃ不満、か。
「翔。條兄は、翔と組むのが不満じゃなくて、ただ、修兄と組みたいだけだから」
淳さんが耳元でこそっと言う。
「それは、何とも思ってないので大丈夫です」
「いや、そういう顔してたぞ?」
隠れてなかっ……た? それとも、見慣れてるから?
「何とも思ってないのは、嘘です。でも、條さんが修さんとペアを組みたいのもわかります」
「ふーん。そういうもんなんだ。條兄が異常に修兄のこと好きなんだと思ってた」
「あながち間違いではないと思います。俺も、アユたち兄より、ミノとか七つ子のほうが一緒にいたいし、ペアを組むなら七つ子のほうが楽ですから」
「俺がよく聞くのは、歩君と一緒にいるってこと」
「一緒にいたいのと、一緒にいれるのは違うんで、最近がアユたちと居ることのほうが多いのは事実です」
「ってか、なんで?」
「安心します。やっぱりが学年が違うと、会わない時間が多かったり、長い時間一緒にいたほうが慣れてたりするので。一体感、みたいなものもありますしね」
「ふーん。俺は、同い年の兄弟いないから、わかんないなぁ」
「そろそろいいか?」
大輝さんが、俺と淳さんの前に立って言う。
「あ、條兄と決着ついた?」
「あぁ。何も変えない」
「じゃあ、紙、頂戴」
「修に渡した。早く行け」
「はーい」
淳さんが倉庫を出ていく。もう、修さんの姿はなかった。真さんと少し不満げな條さんが棚を拭いている。
「じゃ、ここ、翔と條に任せるから。終わったら、俺に声掛けに来て。で、これ、並べ順。わからないとこあったら訊きに来てくれていい。下の倉庫にいるから。上に行く場合は條に連絡するから。まぁ、翔ならわかると思うけど」
「わかりました」
「真、移動するぞ。條、ちゃんと働けよ。翔任せにはするな」
「うぃー」
大輝さんと真さんが倉庫を出ていく。
「翔くーん。呼び捨てにしていい?」
相変わらず不満そうに棚を拭いている條さんに声を掛けられる。
「自由に呼んでください」
俺は、真さんが置いて行った布巾で棚を拭きながら言う。
「翔。大輝兄が連れてきたぐらいだし、こういう作業得意なんだよな?」
「まぁ、それなりには」
本屋でバイトしてるし。深司さんの分も、こういう作業してるし。
「じゃあ、……」
この流れは、あれか。
「俺だけに任せないでくださいよ」
「何で分かったんだよ」
「流れが深司さんと同じだったので。さすがに、深司さんとは違うんでしょうから」
「あれ、深司と知り合い?」
「いとこ、らしいです。といっても、こっちに来るまで接点なかったので全然知らなかったんですけど」
「ふーん。まぁ、深司とは一緒にされたくないな。ただ、期待されても困る」
「最低限のことをするぐらいには期待してます」
「どの程度が最低限なのかわからないけど、最低限なら何とかなりそ」
「何とかしてください」
すべての棚を拭き終わると、床に散らばっているファイルをしまう作業に入る。
「どうするのが効率的?」
「とりあえず、入れる棚ごとにファイルを分けて、それから棚に入れているのが早いと思います」
「じゃ、それで。大輝兄からもらった紙は?」
「これです」
俺はズボンのポケットに折って入れておいた紙を出す。
「どういう部類で分ければいい?」
「同じ種類のファイルですね。背表紙に書いてある同じ名前のやつを一塊にしましょう」
「りょーかい」
二人で黙々とファイルを分ける。
「……あの、疑問なんですけど、なんで、俺の意見が採用されるんですか?」
特に、修さんとか條さんは今日が初対面だし。でも、俺に訊いてくるのには理由があるんだろうし。普通に気になる。
「みんな、それぞれの理由はあるだろうけど、一番大きいのは、大輝兄がこの場に連れてきてること。他のメンツ見たらわかると思うけど、全員兄弟だから、それなりに信用してるやつしか連れてきてないはず。その中にいるから、同じくらい信用してるってこと。大輝兄が信用してるやつが言ってることを俺ら弟が信用しないわけないだろ」
俺に対してではないってことか。
「それは、大輝さんへの絶対的信頼があるからですよね?」
「まぁ、大輝兄だからな」
「他にないんですか?」
「他? 他かぁ。俺は、冬の帰省ラッシュ捌く予定を立てたのかな。あの予定を組んだの、翔なんだろ? 昨日淳から聞いた」
「まぁ、一応は。最終決定をしたのは淳さんと大輝さんですけど……。基盤は作りました」
「基盤を作れない淳にとってはうれしいと思うし、単純にすごい。俺も基盤を作れるようになるまではそれなりに時間がかかったから。結局ほとんどできたとは言えないまま淳に渡したから、いい感じに引き継げてないし」
確かに、淳さん最初のほうは嫌そうにしてたけど、データが揃ってからはほとんど淳さんの独壇場だったから。
「そうですか……」
「あと、大輝兄の指示がうまく通じてないとことか、フォローしてくれてるらしいし」
ちゃんと、條さんには言ってるんだな。
「それは、読めばわかると思うんですけど……」
「わかるけど、理解するまでに時間がかかる。結局、淳なりに解釈したもので出したら大輝兄の思った通りのものだから、大輝兄はその指示で分かったと思ってるし、指示出しにこれ以上時間がかけられないとかいろいろ絡んで、いつも変わらない指示を出してるんだと思う。まぁ、変えたら変えたで、淳が対応できないかもしれないから何とも言えないけど。ただ、淳は理解するのに苦労してるのが実際のところだな」
そっか、変えたら今までのやり方で解読できなくなるから、それはそれで大変なのか。でも、大輝さんだし……。
「言えば、変えてくれると思うんですけどね。大輝さんのことですから、それなりに指示の種類があるだろうし、淳さん相手だし」
「うん。変えてくれるとは思うよ。大輝兄だから。ただ、淳が言うかどうかのほうが問題。大輝兄のことも考えてるんだろうから。まぁ、淳がそれでいいと思ってるから言わないんだろうし、外野である俺らが何かを言う必要はないと思う」
「そうですね」
すべてのファイルを分け終わり、ファイルを棚に入れる作業に入る。上のところまで届くのは條さんのため、俺が順番に並べ條さんが棚に入れていく。
「翔。さっきさ、俺と修が一緒にいたがる理由がわかるって言ってたけど、双子だったりするのか?」
「俺は七つ子です」
「七!?」
久しぶりのその反応されたな。こっち来てからよく会う人たちは、ほとんどもう会ったから、最近はこういう反応されてない。……ってか、長崎にいたのは知ってるけど、何人兄弟かは知らないんだな。父さんが話してないだけか。
「七つ子だと、どうなるんだ?」
「どうなるんでしょう。一番下とかですかね? 條さんに近いのは」
俺と一緒にいたいなんて言う人、いない気がする。ミノのほうが懐かれてる気がする。
「翔は、何番目なんだ?」
「何番目だと思いますか?」
條さんなら当ててきそう。
「一番上。修に近い雰囲気を感じる」
「俺もわかります」
「ってことは、一番上か」
「はい」
そんな話をしているうちに全てのファイルを仕舞い終える。
「大輝兄からは何も連絡来てないから、まだ下にいると思うけど」
俺は、気配を探り、どこにいるか確認する。
「いますね。下に。行きましょう」
「なんでわかるんだ?」
「なんとなくです」
まだ言う必要はないだろ。
「ふーん」
俺と條さんは掃除が終わった倉庫を出て、大輝さんたちがいる倉庫に向かう。
「お、終わった?」
「おう」
「じゃあ、ここの隣の倉庫をお願い。この順に並べて」
「りょーかい」
修さんが大輝さんから紙を受け取り、指定された倉庫に向かう。同じように棚からファイルを出し、棚を拭いてファイルを整理して仕舞う。
すべての倉庫の掃除を終え、大輝さんの仕事部屋に集まる。
「條兄。翔と仲良くなった?」
「もしかして、そのために俺と翔をペアにしたのか?」
んですか?
「いや、そういうわけではないけど、仲良くはなってほしかったし、ちょうどよかったな」
俺が淳さんとよく仕事をしてるからか?
「俺は、淳が立てた予定でしか動かない」
「別に、これからも條の予定は淳に管理してもらうつもりだから安心しろ」
「なら、いい」
やっぱり兄弟に計画立ててもらう方がいいよな。
「ってか、まだ、翔君には最後までやる仕事は何も振れないから」
高校生だからか?
「振れるようになっても、俺の予定管理だけはやめろ」
「わかってるよ」
「これ以上やることないなら、俺は戻るよ。睦月に任せてきちゃったけど唯がやばそうだったから、多分、そっち行ってると思うし」
「ない。サンキュ。今日は帰ろうと思ってるから」
「了解」
真さんが部屋を出ていく。
「俺も、戻る」
「待って、俺も一緒に行く」
本当に、修さんと居ると安心するんだろうな。
「あぁ、待って、修、條。実家の荷物片づけといて。三月中旬あたりに引っ越す予定だから。條とかほとんどいないだろ」
「修、一緒に……」
「修はダメだ。連れていくなら淳にしろ」
「なんでだよ。淳が修のところにいればいいだろ」
「淳に修の代わりができないことぐらいわかるだろ。修は、ずっとこっちにいるから今日じゃなくてもいいし。淳も、ほとんど帰れてないから片付けとけ」
淳さん、ほとんど帰れてないってどんな生活してんだ? 條さんは分かるけど。
「……わかったよ。淳、行くぞ」
「うん」
修さん、條さん、淳さんが出ていく。
淳さん、俺と二人の時は兄って感じだけど、大輝さんたちがいるとどう見ても弟なんだよな。……そして、帰るタイミング見失ったな。どうしよ。
「翔も、手伝ってくれてありがとう。今はバイト行ってないのか?」
「カオとシオがこっちの生活に慣れるまで行かない予定で、今は行ってません。ただ、そろそろ行こうかなとは思ってます」
「じゃ、なんかあったら手伝ってもらおうかな」
「暇だったらいいですよ」
「いつ、暇なんだ?」
「俺が暇だと思った時です」
「それがいつだって訊いてんだよ」
「俺にもわからないです。予定は入ってないんですけど、突発的に予定が降ってくるので。特に当主様あたりから」
「何もしてないときが暇なときっていう判定でいいのか?」
「そうなりますね」
「まぁ、でも、淳がいないと呼び出せないから、まずは、淳がこっちにいることが前提だな」
「できるだけないようにお願いします」
あまり大輝さんに呼ばれるような仕事はしたくない。なんかやらかしたら怖いから。
「わかってるよ。翔の最優先するべきことは、高校生らしい生活をすることだから」
「高校生らしい生活って何でしょうね」
「それは、翔が決めることだな」
「戻ってもいいですか?」
「あぁ、引き留めて悪かった」
「失礼します」
俺は、大輝さんの部屋を出て、階段を下りる。受付にいた女性に会釈をしてから、事務所を出た。屋敷に戻り、裏玄関に靴を置いてから自分の部屋に戻る。椅子に座り、パソコンを立ち上げる。
それから、部活メンバーが帰ってくるまで、データの打ち込み、分析をしていた。薫と栞に関しては、まだデータがほとんどないため、ベースを作るところから始めたらそれなりに時間が経っていた。
兄弟練習に付き合い、家に帰ってきてご飯を食べる。
本格的にいつも通りに戻ってきたな。
「カケは、いつからバイト復帰するの?」
兄弟が順々に入浴してる間に皐が訊いてきた。
「来週からかなって思ってるけど、もう少しいかない方がいい?」
「いや、俺らは何でもいいけど」
「カオとシオは?」
皐が、テレビを並んで見ていた二人に声をかける。
「来週までは待っててほしい、かな。その、何かがあるわけではないんだけど、今週は頑張れたけど、来週は倒れるかもしれないから」
「まぁ、一番キツイのは二周目だからな」
「っても、バイト行ってなくても帰ってくるのは、カオとシオのほうが早いだろ」
「そういう問題じゃないの」
「じゃあ、バイトは行くけど、体調悪かったら連絡頂戴。バイト切り上げて帰るから」
「そんな簡単に抜けられるの?」
「まぁ、な」
「なら、それでもいい」
「じゃ、来週から復帰する」
「りょーかい」
連絡しとこ。
「なぁ、今週末、俺ずっと部活だから誰かご飯作る人決めて買い物行った方がいい。土日はほとんど人がいないから、買い物に行けないと思うし」
お風呂から上がってきた彰が言う。
「誰作る?」
「私でよければ、作るよ」
栞がこちらを振り向きながら言う。
「ありがとう。いつ、買い物行く?」
「明日しかいないと思う」
「だな。練習後何人かで行くか」
「アユとノゾは? なんかやってほしいことある?」
「特にない」
「大丈夫」
「もう、戻ってもいいか?」
「別に、俺らに許可を求めなくても……」
「いや、まだ何かあるなら、聞いてから戻ろうと思って」
「たぶんない。大丈夫」
「じゃ、戻る」
「俺も、戻るね」
歩と望が家を出ていく。
その後、俺も風呂に入り、自分の部屋に戻る。まだ、データ分析が終わってないため、眠くなるまでその作業をし、眠くなったら寝る。
大輝に対する絶対的信頼は翔たちの兄弟にはないものですね。こういう兄弟もいいですね。すこしずつ、相川家の上層部と仲良くなっている翔は、どんどんいろいろな仕事を任されることになっていくんでしょうね。
主に当主様から降ってくる突然の仕事。ほとんど千明と一緒に何かをしてほしいということがほとんどですが、本当に突然にやってくるので、困ったものですね。
次回は、 歩と望の進路&望と翔の話し合い です。




