51 ~冬休み 7~
「部屋はどうするんだ?」
「そのことなんだけどさ……、部屋替えしない?」
「何で?」
「別に、俺はいいと思うけど」
「今の部屋の配置ってさ、引っ越してきたときに段ボールを渡された順だっただろ? それだと、結構不都合が多いから、変えたいなとは思ってたんだけど……」
「カケの部屋を変えることはなよな?」
「え、カケの部屋まで変えるんだったら、やりたくない」
「俺の部屋は変えない。俺も動かすの面倒だし」
「カケ兄の部屋って、そんなに大変なことになってるの?」
「まぁ、見たらわかる」
「で、他の部屋は?」
「他は変えていいと思う」
「どうする?」
「やっぱ、部活ごとじゃないか?」
「でも、すぐにサツたちは部活やめるでしょ?」
「そうなったら、年齢ごと?」
「あとで、好きなところを選べばいいだろ。まずは、ご飯だ」
「だな」
全員がご飯を食べ終わり、食器を洗ってから屋敷に戻る。
「で、どうするんだ?」
廊下に着くと、稔が言う。
「どこがいいとか、希望あるやつは?」
「俺、一番端がいい」
皐が言った。
「カケの部屋を移動しないとしたら、アユの部屋も移動しないよな?」
「ノゾは?」
「移動してもいい」
「他、要望あるやつ」
「私、薫の近くは嫌だ」
「近くってどのぐらい?」
「できれば、端と端がいい」
「了解。他」
他の意見は出なかった。
「で、どんな配置にするんだ?」
歩が俺を見て言う。
「俺が決めていいのか?」
「カケ以外に誰が決めるんだよ」
「……はあ、えーっと、」
俺は、部屋の並び順を考える。
俺とアユが固定で、カオとシオを離して、サツが端。部活が同じ人どうしで隣、サツたちの学年は近くした方がいい……。いや、サツが端な時点で無理じゃね? まぁ、いいか。サツだけ離せば。サトとスグも出来れば端と端。
「こっちのライン。左端から、一つ空けて、カオ、シズ、ノゾ、タツ、スグ、ミノ、アユ。こっちは、右端から、サツ、サト、トオ、アキ、カナ、シノ、シオ」
「何で、カケの隣、空けるんだ?」
「なんとなく、この後使うような気がして」
「ふーん。ま、カケがそう感じるなら、それでいいや。自分の場所、覚えた?」
「覚えた」
「じゃあ、とりあえず、今、空いてる部屋を使うやつから運ぶか。結局、廊下は一つしかないから……。うーん、カケ、あと頼んだ」
「え?」
今の今まで考えてたよね?
「考えるのが面倒になった」
「知らないよ」
「俺、勉強してきていい?」
「どーぞ。あ、移動するときは、呼ぶから」
「了解」
「じゃ、俺も」
歩と望がそれぞれの部屋に入っていく。
「んじゃ、とりあえず、カオの家具は何も来てないから……、あ、布団、洗濯も何もしてないな。……今からしても間に合わないか……」
「いや、一昨日洗濯したから、それなりにきれいなのがある」
「二枚?」
「二枚」
「じゃ、いいや。誰か……ミノでいいや。二人と布団取りに行ってきて」
「もう一人」
「シズ」
「了解。行くよ」
稔が雫、薫、栞を連れて、裏玄関があるほうに向かった。
「誰の場所から変えていくんだ?」
「順番だけ決めてくれ」
「順番は、サツ、サト、シノ、トオ、タツ、アキ、カナ、スグ、シズ、ノゾ、ミノ」
「覚えられん」
「チャットに送っとく。クローゼットの中はとりあえず置いといて、家具だけ移動して」
「了解」
「家具を移動し終わったら、クローゼットの中も移動して」
「わかった」
「後は俺らでやっとくから」
「カケは休んでろ」
皐が言う。
「いや、休んでたら動けなくなるから、ここにいる」
「ダメだ。自分の部屋で休んでろ」
今、この場にいる一番年が上の皐に言われ、反対する気も起きず、とりあえず、部屋に戻ることにする。
「カオとシオが来たら……」
「ここは手伝わせない。これ以上人が増えても邪魔なだけだ。今でも、少し多いぐらい」
「じゃ、自由な時間にするって伝えといて。暇だったら、俺の部屋に来るように」
「了解」
俺は、自分の部屋に入り、ベッドに腰を掛ける。
ねむ。
少しぼーっとしていると、扉がノックされる。返事をすると、薫と栞が入ってきた。
「どした?」
部屋に入ってきて呆然としている二人に話しかける。
「いや、本の量、すごいなって、思って」
「読みたいのあったら、勝手に読んでくれていいぞ」
「だから、カケ兄の部屋は動かしたくなかったんだ」
「……あの、カケ兄さん」
本を探し始めた薫を横目に見ながら、栞が俺の前に座る。
いつも通りのことなんだろうな。
「予定、教えて……ください」
「口頭でいい? 何かに書いてもいいけど」
「口頭で大丈夫」
「カオには聞かせなくていいのか?」
「できれば聞かせておきたいけど、今は、本に心を奪われてるから、聞く耳持ってない」
「シオは、興味ないのか?」
「本より、予定を知ることのほうが大事だから」
えら。俺だったら、絶対本を取る。
「いつの予定?」
「冬休み中の」
「自由。ご飯は全員で食べるけど、他は決まってない。部活あるやつは、部活行くかもしれないし、アユとノゾは勉強してるだろうし」
「みんな部活入ってるの?」
「俺以外は入ってる」
「カケ兄さんだけ入ってないんだ」
「まぁ、な。その代わりと言ったらあれだけど、本屋でバイトしてる。暇つぶしに」
「冬休み中は行かないの?」
「元は、暇だったら行くつもりだったけど、二人が来たから、行かないつもりでいる。二人がこっちの生活に慣れることのほうが大事だから」
「ありがとう。一日のスケジュールも教えて」
「結構、その場その場で動いてるから何とも言えないんだけど、適当な時間にご飯を食べてる。あとは、さっきも言ったように自由時間」
「買い物とか、洗濯とかの家事一般は? お風呂も」
「お風呂は大体ご飯の後。部活行ってたメンツ先に入ってることもあるけど。四つのお風呂に分かれて入ってる。買い物は、ノゾ、アキ、トオ、シズが担当してて買ってくる量とかその場にいないとかで行くメンツは変化する。大体、二日おきくらいに行ってるかな。アキとトオは絶対かな。冬休み中は一日に一回のペース。洗濯は、一日に一回、タツ、スグ、カナ、シノがやってくれてる」
「うん」
「あ、一緒に洗濯されるのが嫌だったら、自分でやって」
「大丈夫」
「他は、なんかある?」
「……その時々で聞いてもいい?」
「いいよ。元々そういうつもりだったし」
栞が頷くのを見て、いまだに本棚とにらめっこをしている薫に視線を移す。
「なんか面白い本でも見つけたか? カオ」
「読んでみたかった小説がたくさんあるから、どれから読もうか迷ってる」
「カケ兄さんのおすすめは?」
「自分がこれだって思った小説」
「つまり、カケ兄のおすすめは俺が読みたいと思ったやつ、ってことね」
「そうだな」
「薫のおすすめは?」
「カケ兄みたいにかっこいいこと言いたいけどなぁ。俺は、この辺にあるシリーズがおすすめ。栞、まだ読んだことないでしょ?」
「ないね」
カオ、シオが読んでる小説、把握してるんだ。
「カケ兄ってなんでも読んでるね。好きなものの方向性ぐらいつかめないかなと思ったけど、どれもこれもある」
「そうだな」
「俺は、結構偏ってるから」
「じゃあ、薫の部屋にはなかった小説がいっぱいあるんだね」
「それもそうだし、種類も豊富」
「シオは、カオから借りて読んでたのか?」
「薫から読めって言われた本を読むことのほうが圧倒的に多くて……、だから、必然的に薫から借りたことになる」
「自分から読みたいと思った本はないのか?」
「それを探す前に薫が新しい小説持ってくるんだもん。薫のほうが読むスピード早いし」
「小説を読むの、好きじゃないのか?」
「好きだけど、薫ほどじゃない」
「そっか」
「カケ兄さんは、薫以上みたいだね」
「かもな」
「カケ兄、これ、読んでいい?」
「好きにしろ」
薫が本棚から二、三冊取って床に座って読みだす。確かに、紙をめくるスピードは速かった。
俺は、ベッドの上に寝転がる。栞が薫の横に座って、薫が読んでいる本を覗き込んでいるのが見えた。
「誰かが呼びに来たら教えて」
「わかった」
俺は、腕を両目の上に載せ、目を閉じる。ものすごい睡魔に襲われ、俺は、抗わずに、夢の中に入った。
またここだ。
周りが見渡す限り闇で、自分の足元だけがガラスのようになっていて、そこから光が漏れている。だが、ガラスの向こう側の景色は変わっていた。
動いたら、また、なんかある……気がする。
今回は、廊下のようなところだ。六人ぐらいの集団と、三人の集団が向き合っている。
「歩兄さんっ」
歩? アユのことか?
「話しかけてくるな。お前のせいで父さんと母さんはなくなったんだぞ」
そう言って、六人ぐらいの集団の先頭に立っていた少年は、反対側に歩いていく。
アユだったら、あんな対応しない。
「これ以上人を巻き込まないように、しっかり見ておけよ」
そう言って、六人ぐらいの集団は、少年を追いかけていく。
「翔、こんなところで何をやっているんだ?」
三人の集団の後ろ側から、再び六人ぐらいの集団が近づいてくる。先頭を歩いている少年は、先ほどとは違う。
翔って呼ばれてたな。前に見た夢も、翔様って呼ばれてたから、同一人物か? 俺ではないことは確かだけど。
「……」
「おーい、答えてくれないと分からないよー」
「皐兄さん……」
今度は、皐か。
「どうしたんだ?」
「……なんでもないです」
そう言うと、三人の集団は先ほど六人の集団が歩いて行った方向に歩いて行った。
「歩兄さんか……」
ガラスの向こうからの光が消え、足元がガラスから闇と化す。
今回は、歩と皐と翔か。
それからは夢を見ることなく、ぐっすりと眠った。
翌日。
本家は、この日に初詣に行くらしい。ほとんどの人が出払っている。俺たちは、行かなかったが、大広間に集められ、おみくじだけは引かされた。
……また、大凶……。
「何だった?」
「大吉!」
「中吉」
「俺は、小」
兄弟たちの結果は、大吉が二人、中吉が三人、小吉が五人、吉が四人。凶以下は俺だけだった。
なんか、大凶以外の文字、ここ数年ずっと見てないんだけど。
優斗様と冬馬様と千明様は全員大吉だった。晴樹君と夏樹君もだ。
どうなってんだ、この兄弟。
「カケ、大凶なの何年連続?」
暁が呆れたように訊いてくる。
「七年連続」
「運、悪すぎね?」
「運が悪いとは言い切れない。もしかしたら、このおみくじの中には、大凶が三枚しか入っていなくて、大吉が百枚入っていたとしたら、俺のほうがより確率的には低いものを引いてる。それに、俺は同じものを七年連続引いていることも、確率的には低いと考えられる。だから、人間が勝手に、これを引いたら運がいいとかっていうのを確率の上にのせたから、俺が運が悪く見えてるだけ。大吉を引いたから運がいいかどうかは分からない」
「カケが語りだしたよ……」
「しかも、筋は通ってるんだよな……」
「そうかもしれないんだよな……」
「極論、運がいいかどうかは自分で決めればいいから、他の人がとやかく言うことではない」
「わかったよ」
「結論出たなら、戻ろうぜ」
「だな」
「失礼しました」
兄妹全員で部屋を出る。
「ご飯、どうする?」
「のどを通らない気がする」
「食べないと体に悪いだろ」
「部活組は、これから動くんだろうし」
「何食べる?」
「アキが決めてくれていい」
「了解。トオ、シズ、買い物付き合って」
「うん」
「三人で平気?」
「まぁ、そんなに量を買うつもりはないし」
「カオとシオ、好みの味とか、好きな料理とか、ある?」
「うーん、なんか、女中のご飯はどれもおいしくなかったからなぁ。栞が作ったのが一番おいしかった」
「シオ、料理できんのか?」
「あ……、うん」
「食べてみたい」
「さすがに、十六人分は……」
「時間、かかってもいいなら、やるよ」
「じゃ、買い物、ついてきて」
「栞が行くなら、俺も行く」
「……カケ」
「俺もか?」
「さすがに、人数多くね?」
「でも、カオとシオのこと一番理解してるのは今のところカケだし、いてくれた方がありがたい。ノゾもいないし」
「まぁ、いいか。いってらっしゃい」
その後、買い物に付き合い、昼ご飯を食べる。栞のご飯はおいしかった。
味にうるさいアキも感嘆してたし。
「カオ、シオ、どうする? この後」
自分の部屋に戻りながら、後ろを歩いている薫と栞に話しかける。まだ、家具が届いていない薫と栞の部屋には布団以外何もない。こっちに来てからは、大体、俺の部屋で本を読んでいる。
「カケ兄の部屋にある本って、持ち出してもいい?」
「返してくれるならな」
「じゃあ、自分の部屋で読む」
「シオは?」
「私は、薫と一緒にいる」
「了解。勝手に入ってくれていいから」
「わかった」
俺は自分の部屋に入り、ベッドに寝転がる。薫と栞も入ってきて、本棚を見上げる。何冊か持って部屋を出て行った。
俺は、目をつむる。
シオ、ほとんどカオと一緒にいるのに、部屋は離してくれって、どういうことだったんだろ。寝てるときはそれぞれで寝てるっぽいけど。そもそも、こんなに男だらけのところ、本当は一番知ってるやつが一番近くにいたほうがいいんじゃないか? だから、ずっとカオと一緒にいるんだろうし。
そんなことを考えながら、睡魔に襲われるのを待つ。
最近、うまく寝れないんだよな。全然疲れが抜けない。変な夢のせいか、精神的にキャパオーバーしてるのか、アユみたいに吐き出しづらいから、キャパオーバーしてもすぐに直せないんだよな。あぁー、最近はあまり溜まってなかったから大丈夫だと思ってたんだけどな。無意識的に溜まってたのか。他の奴のメンタルケアをする前に、自分のメンタルケアをすればよかった。でも、アユを立て直すのは大事だし、俺しかできないし、仕方ないか。シノとかシズのメンタルケアはノゾに任せよう。
俺のメンタルケア方法は、とにかく寝ることだ。とりあえず、頭を整理するだけの状態にすること。起きてると、勝手に他のことを考え出すから、何も考えずに寝る。
どうせ、俺が必要になったら、誰かが起こしに来るからな。
俺は、深い眠りに落ちた。
やぁっと冬休みが終わりました。と言っても、全七話だったので、長い休日とほとんど変わらないですね。
歩が表の大黒柱で翔が裏の大黒柱だということを翔自身も理解しているため、勝手に自分のメンタルケアを後回しにしがちですが、歩のようにできるわけではないので、結構苦労しています。
次回は、 冬休み明け初日 前編 です。
本当は彼らがスポーツをやっているところを書きたいのに、まったく書かせてくれなさそうな展開で、いつになったら書けるんだろうと思っている今日この頃。




