6 ~翔のバイト 後編&学校での歩と望~
「あのぉ~、すみません」
俺が、本を整理しながら、下に入れているところで、結構高めの女性の声が掛かった。
「はい」
俺は、声をかけられた方を向いて返事をする。
「その本の三巻って、ありますか?」
中学生だろうか、制服を着ている女子が、俺の持っている本を指しながら言う。
「三巻なら、ここにありますよ」
さっき積んだからな。
そう思いながら、俺は目の前に積まれている、そのシリーズの三巻を指した。
「ありがとうございます。あ、そっか、積まれてたのか」
まぁ、積まれてるだろうな。昨日発売だし……。俺はさっきもらったけど。さっきもらった中では、一番マニアックな本じゃないと思う。
女子は他のゾーンに向かって行く。俺は、全ての本を置き終わり、箱をたたんで、部屋に向かう。元々重ねてあったところに、戻し、部屋を出て、指示をもらいに二階に向かう。
「終わりましたけど……」
レジの奥の椅子に座っている、拓真さんに話しかける。
「おお、じゃあ、地下も頼めるかい。深司君が二階と三階をやってくれてるから」
「分かりました」
この会話を聞いていたのか、深司さんが、本棚と本棚の間から、顔を出した。
「地下が終わったら、手伝って」
ちゃんとやってるんだろうけど、飽きてる顔な気がする。苦手なのかな?
「良いですけど……」
結構好きなんだよね、本の整理。
「じゃ、待ってる」
深司さんは、それだけ言って、顔を引っ込めた。
「店長ー、ヘルプお願いします」
下の階から、男性の声が聞こえてきた。
多分、高校生たちが来たんだろうな。この時間に終わるのか。どっかの部活は。
「深司君、全部、翔君に押しつけちゃダメだからね」
拓真さんはそう言って、立ちあがる。
押しつけなんだろうけど、別にそう思ってないから、良いんだけどね。
「翔君は、まず、地下をよろしくね。多分、誰もいないから、並んでるかもしれないけど、その時は対応しておいて」
拓真さんは、俺の肩をぽんとたたいて、階段を降りて行く。俺も後に続いて階段を降り、地下まで行く。
降りてすぐに、レジを見たが、誰もおらず、一階と同じような位置にドアがあったため、そこに入る。
相変わらず、段ボールだらけ……。
振り向いて、一階と同じサイズのモニターを見る。誰もいない部屋の中で、在庫状況を永遠と映していた。
何なら、電気もついてなかったからな。テレビだけちゃんとずっと仕事してるんだな。△は一階よりも多めだけど、×はないんだな。ここは、児童書か。
部屋の中を周り、△の児童書たちを探す。見つかっては、画面を見て何冊足りないか確認し、真ん中の机に置くという作業を繰り返す。最後に、プラ箱を組み立て、机の上に置いた本たちを入れて行く。
先ほどの教訓を活かし、近くに置く本たちをまとめて箱に入れる。
三箱になっちゃったか……。
本を詰めた箱を持ち上げて、部屋を出る。
箱も大きめだし、三箱も持っている人なんていないだろうな……。俺からしたらもうちょっと持てる気がするけど。
なんて考えながら、最初の目的地に向かって歩く。時々、客とすれ違う度に驚いた顔をされたり、不可解な顔で見られる。
そこまで驚くことでもないと思うんだけどな。他のメンバーだったら、もっと普通に持ってるよ。俺が一番弱いから。
案の定の反応に心の中でうなずきながら、本を積んだり、下に入れたりと片づけて行く。
「あの、その本、取ってもらえませんか?」
児童書の有名なところの本を積んでいると、少女らしい声が聞こえてくる。声のほうを見上げると、そこには案の定、少女が立っていて、積まれている本を指していた。
「これかな?」
俺は、多分これであろう本を指して言う。少女がうなずいたのを見て、上から二番目のものを取り、渡す。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
少女はそう言って、本を抱えて違うスペースに向かって行った。
あっちは、漫画系だった気がするけど、読むのかな?
俺は、その場を片付け、少女とは逆向きの違う場所に向かう。通りすがりに、さりげなくレジのほうを見ると、先ほどの少女がきょろきょろしていた。レジには、人がいなかったので、俺は、箱を抱えたままレジに行き、奥にある机の上において、少女が立っている前のレジに立った。
これが初めてか。まぁ、大人じゃなくて子供で良かった。
「お会計かな?」
俺が声をかけると、少女は、走り寄ってきた。
「お、お願いします」
ずっとうつむいたままで、先程少し顔が見えたぐらいだった。
先程、俺が渡した本と、もう一冊を置いた。俺は、バーコードをスキャンし、合計金額を伝えると、図書カードを一枚だしておいた。俺は、先ほど教えられたのと、今まで見てきたのを見よう見まねで、会計を済ませた。
案外、簡単かも。前にスーパーでやってたってのもあるのかな。ま、何でもいいや。
「カバーは、つける?」
俺が聞くと、少女は少しだけ首を動かして頷いた。
この小さな反応に気づける奴、そうそういないだろうな。……別に、俺がすごいといってるわけじゃないからな!
「どっちも?」
また、少しだけ首を動かして頷く。俺は、そのサイズのブックカバーを取りだし、二冊につけた。
少女は初めて上を向いたかと思ったら、俺の動かす手に夢中だった。
そんなにすごいことじゃないと思うけど。まぁ、いっか。
「袋は?」
「いらない」
やっと、ちょっと話したよ。
「はい、どうぞ。ありがとうございました」
俺は、ブックカバーをつけた二冊を差し出すと、少女は少し笑って、階段のほうに駆けて行った。俺は、少女を見送ってから、箱を持ち上げ、先ほど向かっていた場所に向かった。
そのあとは何事もなく、片付けが終わり、一階に上がった。
「拓真さ……」
俺が拓真さんを呼んで、終わったことだけ伝えようとすると、深司さんが先に出てきて、勝手に二階につれて行かれる。
忘れてないし、伝えたら行こうと思ってたのに。それに、この速さで出てきたって事は、ほぼ上の空って事でしょ! 何やってんの深司さん!
「ちょ、深司さん、何ですか? 忘れてないですよ。行こうと思ってましたよ」
「拓真さんに報告したら、また違う課題を課せられるでしょ」
「いや、っていうか、深司さん、まだ終わってなかったんですか?」
分かっていたことだけど、一応聞いておく。
「終わるわけないだろう。コミックはすぐ消えて行くんだよ。とにかく手伝って」
「良いですけど、終わったことの報告を……」
一応、拓真さんに入っておいた方が良いと思い、俺が引かないと、深司さんは、ぐいぐいと引っ張っていく。
「大丈夫だから」
反論する間もなく、大量にプラの箱が積みあがっている場所についた。
「これの半分、手伝って」
「はぁ……」
俺は、言われるままに積んであった箱の半分を持って、知りもしないけど、今までの記憶を頼りに中に入ってある漫画の場所を特定していく。
すべての漫画が片づけ終わり、箱を戻しに行こうと思ったが、どこにあるのかよく分からず、階層をうろうろしていると、どう見ても飽きている深司さんに会った。
「あの、これ、どこに片付ければいいですか? 他の階層と同じところに扉がなかったんですけど……」
「えっ、終わったの? じゃ、ちょっと手伝ってよ。僕、片付けというか、整理好きじゃないんだよね」
うん、言われなくても、分かってましたよ。手伝わされることまで、すべてね。
「じゃあ、ここは片付けますから、これを置く場所を教えてください」
「やってくれるの? まじ、ありがとう。これぐらいだったら、すぐ戻してくるよ」
あとの半分は聞いていなかった反応だ。
「片づけてきてもらって結構ですので、これを置く場所を教えてください」
「二階にあるよ。一階とか地下一階と同じ位置。じゃ、行って来るね」
「いってらっしゃい」
俺としては、一人のほうが作業がはかどるので、予定通り一人になれて、ほっとする。
まぁ、片づけてくるって言うよね。一緒にやろうとか言われたら、即逃げ出すだろうから。まぁ、俺は、一緒にやろうなんて言わないけど。
深司さんは、ウキウキな顔で立ち上がって、階段を降りて行った。
俺は、一息ついてから、先ほどと同じ作業を繰り返す。
なんか、今日、これしかやってない。いや、ありがたいんだけどね。スーパーでもこんな感じだったから。うん。……ブックカバーだけつけさせてくれないかな。
そんなことを考えながら、すべて片づけ終わり、二階に降りて、部屋の中に入り、箱を戻した。二階には、拓真さんがいなかったので、レジに誰も並んでいないことを確認して、一階に降りる。
「あぁ、翔君、ちょっと手伝って」
一階に降りると、レジのところに居た、拓真さんに呼ばれ、俺は、レジに向かった。
「この二十冊、ブックカバーをかけて。精算は終わっていて、ブックカバーをつけるだけだから。袋はいらないって言うから、横でやって」
そう言われて、拓真さんの前にある本に視線を向ける。
この本、すっごいおもしろいんだよなぁ。一巻からじゃないから、続編が知りた過ぎて、一気買いしてるんだろうな。俺も、この本は、その時出てたやつ一気に買ったもん。三冊だけだったけど。
「おーい、翔君?」
「あ、すみません。すぐ、やります」
お客の方は、拓真さんが誘導し、俺は、拓真さんの隣のレジに立ち、ブックカバーをつけていく。購入した客は、男子高校生だった。
「どうぞ。ありがとうございました」
すべてのブックカバーをつけ終わり、軽く会釈をして見送った。
そういえば、深司さん、どこに行ったんだろう。
その日は、その後何事もなく、七時には車で迎えに来てもらい、家に帰った。他のメンバーはまだ部活から帰ってきていないのか、玄関に靴がなく、俺ら兄弟の部屋がある廊下に向かうと、歩の部屋から明りが漏れていた。
俺は、自分の部屋に戻り、机の上にバッグを置き、学ランをハンガーにかけて、スマホだけ持って、部屋を出て、歩の部屋に入った。
「あ、おかえり」
案の定、歩と望がいた。
ノゾの部屋からは明りが漏れてなかったからな。
「どうだった? 本屋は」
「楽しそうなところで良かった。従業員の少なさにはびっくりしたけど」
俺は、二人と向き合う形で、床に座った。
「そうか。なら、問題ないな」
歩は話の後半を聞いていなかった反応をする。
「あ、でも、二週間、隣の改築工事をするために、本屋が休業するって」
これは、帰り際に拓真さんに言われたことだ。隣を本屋の倉庫にするから、色々な移動があったりなんだりで、二週間休業、後の一週間は、本の整理などやるから来てほしいと言われた。
一週間、本屋という天国に入れないのは、悲しいけどな。
「どうするんだ?」
「まぁ、暇つぶすのに苦労したことはないから、大丈夫。それに、本屋で働いているいとこに、家に誘われたから、行って来ようかと」
「えっ、いとこがいたの?」
案の定、二人とも驚いた顔になる。
まぁ、当たり前だけど。
俺らの両親は、全くといっていいほど、自分の兄弟とかのことについて話してくれないから、俺らは、いとこがいるとかいう情報は全く入ってこない。それに、向こうに居たから、こっちにとか、他の地方にいる親戚の話なんて全く知らない。
そりゃ、びっくりだよな。うん。深司さんのほうも知らなかったっぽいけど。
「うん。今年、社会人になったばかりだって」
「へぇー」
「社会人って事は、父さんのお兄さんかな?」
「多分ね。あと、冬馬様たちの叔父さんもいたよ」
「ふぇ?」
望にしては、珍しい、拭抜けた声が出た。
「ノゾ、どんだけ驚いてんの?」
歩に突っこまれてる。そう言っている、歩の声もいつもより落ち着いていなかった。
「いや、だって、驚くだろ。カケは、驚かなかったのか?」
「まぁ、あまり……。もう、ここ最近は驚きっぱなしだったから、もう、驚き飽きたっていうか、ねぇ……」
「そういえば、冬馬様達、カケのところって言ってたな」
「あと、サトとスグが同じクラスで、体育が一緒って言うのも聞いたな」
二人から同情の目を向けられる。
「うぅ……。二人は、体育一緒なの?」
「隣のクラスだけど、体育はバラバラ」
「隣だから、毎時間どちらかが会いに行ってるよね。昼食も一緒に食べたし」
相変わらず、仲良いな。
今日から、弁当が始まった。弁当は、俺らで当番制にして、弁当を作っている。
ちなみに、冬馬様と千明様と優斗様は、自分たちで作っているし、気にしなくていいといわれたので、気にしていない。
「カケたちは? 今日、誰と食べた?」
「俺は、冬馬様達の隣で一人、ポツーンと」
「って言いながらも、話に混ざってたとか?」
「いや、してないよ。他のメンバーは知らないけど」
「冬馬様達がいると、離れづらいよな」
「まぁ、なんかあった時用にいるけど、何もなさそう。二人と一緒に居れば、誰も近寄ってこないし、最初にすごいインパクト残しちゃったから。それこそ、どっちも優斗様と一緒じゃないの?」
「俺が、一緒だよ。でも、優斗様は、そこまで浮いてる感じじゃないから、俺が一緒に居なくても大丈夫な感じなんだよね」
望が言った。
アユが一緒にならなくてよかったような? ノゾが一緒になって良かった?
「冬馬様達は、浮いてるって言うか、存在感ありすぎてねぇ、何とも言えない」
「まぁ、そんな感じだろうね。千明様がついてるから、少しは減ってるんじゃない」
「うん。そんな感じはある」
「まぁ、いとこさんの家に行くなら、気をつけろよ。多分、大丈夫だろうけど」
「うん。もちろん。ところで、二人は、何してたの?」
「何も。受験勉強もする気がないから、ぼーっと二人で話してたところだよ」
「ご飯は、まだ食べてないの?」
「うん。部活メンバーは帰ってきてないから、俺らだけ別って事にしてもらってる」
「そっか」
「お腹空いてる?」
「まぁ、部活メンバーよりは、空いてないでしょうな」
「それは、当たり前だろ。そこまで体動かしてないんだし」
「いや、結構本運んだよ。スーパーと同じくらいには、動いてるよ」
「そっか。」
「二人は、動かさなくていいの?」
「いや、元々女中が住んでいた家の道で、バレーやったり、サッカーやったりしてた」
「それならいいか」
二人に鬱憤が溜まったときの、家の空気といったらなんのって話だからね。もう、大変だったよ。普段、そんな感じじゃないからね。
「なんか、良いところでも知ってるの?」
あ、そういう感じね。
「いや、知らない」
「なぁーんだ」
歩が面白くないような顔をするが、当たり前のような気もする。
まぁ、なんとかしておくか。
拓真さんと深司さんの話が、歩と望にも行きましたね。そして、深司さんの家に行く約束まで。(学校の友だちとかの家には行きそうにないですけどね)
さて、そろそろ、兄弟たちが話しているところも出したいですね。(次は本当にやるのだろうか……)
次回は、深司さんの家に行く&暁と傑のケンカ(予定)です。