49 ~冬休み 5~
本編に戻ります。
「……その計画を立てた人たちは、女中……ですね?」
半分くらい確信してるかのように望が言う。こういう推理ゲームに望は強い。大体、一発で当てる。
「……正解だ」
当主様は少し驚いた顔をして言う。
「今回の事故……事件を起こしたのは、女中だ。そして、その女中たちにはある共通点がある」
「全員こっちから移った女中……ですか?」
稔が言う。
「正解だ。今回の事件を起こした女中は、全員ここから長崎に移動した者たちで、冬休みの間、こちらでこそこそ動いていた人たちだ」
「なるほど」
望は事件が読めたのか、そうつぶやいた。
「自分たちの家の前で起こせば、そう簡単には気づかれませんね」
女中は大抵、同じ時期に引っ越してきた人たち四人ぐらいで同じ家に住むことになる。つまり、こっちから長崎に移動した人たちは、同じ日で大人数で移動したため、その人たちしか気づかないような場所で事故を起こしてしまえば、そうそう気づかれないということだろう。
「そこを、ついたんですね」
望の一言一言に怒りがこもっている。
「その……、事故を起こした女中たちは、無事だったんですか?」
久しぶりに、暁が口を開いた。
「全員、軽傷か、無傷だったそうだ」
「そうですか……」
「……今後の話をしてもいいかな?」
質問が出てこなくなったところで、当主様が次の話題に移行した。
「はい」
当主様からの質問に答えるのは、歩の仕事だ。
「君たちの保護者は私になった。こちらに来てからあまり変わっていない気がするけど、改めてよろしく。……あと、この事件については、こちらで処理させてもらうけど、いいかな?」
今までと変わらないわけがないだろうが。当主様が保護者だぞ? 変わるに決まってるだろ。
「両親のことを考えてくれるのであれば……。僕たちでは良く分からないところもあるので」
「わかっているよ。私も従兄弟が亡くなったんだ。しっかり対処はさせてもらう」
「お願いします」
「……学校は、まだ始まらないけど……、あ、部活があるのかな? まぁ、行くか行かないかは、自分たちで判断して。気持ちの整理ができていても、できていなくても、無理はしてほしくはないから。この話は、拓真と晴にしかしてないから、優斗たちに話したければ、話してくれてもいい。いつか知られるとは思うけど。二人には口止めしてあるから」
「わかりました」
「それじゃあ、私はこれで。……これから、情報がもっと入ってきて、呼び出すことがあるかもしれないから、それは承知しておいてほしい。……家を壊さない程度だったら、好きにしてくれていいから。なんかあったらいつでも来てくれていいよ」
そう言って、当主様は部屋を出て行った。
いや、いつでも行けるわけないだろ。
その後、体感五分くらい誰も話さず、動かなかった。各々整理をしているのだろう。俺は、もう整理ができていたため、この後どうするかを考えていた。
アユは、整理ができていないだろうから、後で付き合ってやらないとな。あとは……、アユが使い物にならないとしたら、ノゾが対応することになるだろ。……そうなると、一緒に行くのはサツのほうがいいな。俺よりは、ノゾのやりたいことがわかるし。他のメンバーは……、各々自由にさせておくのが一番か。四つ子は本当にほっとけばいいし、ミノとトオは勝手に解決するし、サトとスグはすぐに復活しそうだし……。シノとシズがどこまでふさぎ込むかだな。
そんな、軽率には動けない空気を変えるのは、歩だ。隣に座っていた俺に寄りかかっただけなのに、部屋の空気が変わる。
「もう、いないのか……。……父さんも……、母さんも……」
歩は、無意識に頭の中で考えていたことが、声に出ているようだ。
「その日に……話せてたから……よかった、のかな?」
雫がぼそぼそと言う。
「まぁ……、交通事故は……いつ起こるか、わからないからな」
「今回のは、故意だった」
「もう、起きてしまったことは、そうやって受け入れるしかないんだよ」
望が、自分も受け入れられないと言う感情を隠しながら言う。
隠しきれてないけど。
「だとしても……、受け入れきれないものもある……よ」
「はぁ……、……ツカの次になっちゃったなぁ」
ツカって誰だ?
「ツカは……、ほぼいないのと同じだから……」
「実質、アユが一番上だな」
「……一番、上、か……。みんなを守らないと……」
これは、絶対、全部抱え込むやつだぞ。どうにかして止めないと。
「一人で抱え込まないでよ」
「それでなくとも、一人で全部できないくせに、すぐ抱え込んで壊れかけるんだから」
「アユは、今のままでいいから」
「これ以上無理されたら、こっちが困る」
四つ子が口々に言う。
そうだ、そうだ。
「でも、確実に……、何か言われるようには……なるだろうから」
「それは、そうだろうな」
「なんか言われたら、誰かに言ってよ」
「うん。ちゃんと話聞くから」
「何なら、誰かに押し付けてもいいから」
「カケとか、どう?」
「サトがやるんじゃないのかよっ! 人に押し付けるな」
俺も含めた七つ子が好き勝手に言う。
「わかった。……抱え込まないように、……努力はする」
「その間が怖いな」
絶対抱え込むやつだな。何としても、吐き出してもらうか、俺が一緒に行くか……。俺が一緒に行こう。
「それで、話、変えるけど、部活はどうする? みんな、明日からあるだろ?」
望が皆を見回しながら言う。整理が一向に進んでいなさそうな歩のことを待っていたら、いつまで経っても話が進まないと感じたのだろう。
「俺は、行こうかなって思ってるよ。毎日とってるデータとかあるし」
樹が言う。何が起こっても、まったくぶれないところが、樹のいいところかもしれない。
まぁ、動揺はしてるだろうから、それを落ち着けるため、っていうのもあるのかもな。
「俺も行く」
皐が言った。理由はちゃんとあると思うが、それは、俺にはわからない。
「二人が行くとなったら、俺も行こうかな。だって、二人だけ行ってたら不自然に見える」
彰が言う。
「別に、そんなこと気にしてないだろ」
「前の学校に置いてきたね」
「そんなこと考えてたら、今頃、不登校になってるだろうな」
彰を除く、四つ子たちが口々に言う。
「……俺は、明日になったら決める」
「俺も、そうする」
忍の意見に雫が乗った。
「他は?」
望が、要、稔、亨、暁、傑に順々に視線を向ける。
「サツが行くなら、俺も行く」
「俺も、タツを止める役割があるから行く」
「俺も、行く。誰もアキの相手はできないだろうし」
暁と傑と亨が言う。
「俺は、気が向いたら行こうかな。あぁ、シノが行くって言ったら、行くけど」
要がいつもの調子で言う。
「ミノは?」
「明日までに決める」
「了解。それじゃあ、次。ご飯どうするか。全員で食べるか、誰かが作っておいて、好きな時に食べるか」
「全員で食べるに一票」
「「俺も」」
過半数が手を挙げたため、全員で食べることに決まった。
「じゃあ、昼ごはんまでいったん解散。アキ、トオ、シズ、食材買いに行くの付き合って」
「ノゾはいいよ。他の誰かを連れていくから」
「わかった。昼ごはんまでに……」
「わかってるよ」
各々立ち上がり、部屋をぞろぞろと出ていく。俺は、歩に寄りかかられているため動けない。
「……なぁ、カケ」
歩がボソッと言う。
「何?」
「この後、ちょっと付き合ってくんね? そろそろ、パンクする」
わかってた。
「了解。その代わり、肩から退いて」
「もうちょっとしたらな」
しばらく退いてくれそうにないため、俺は、気配を感じる範囲を広げる。すると、廊下の一か所に気配が固まっていた。
何してんだろ。一人だけ外れてるから、誰か来たのか? でも、ここに一人で来るような人、当主様と美佳様と晴さんぐらいな気がする。千明様は、多分、冬馬様と一緒に来るし、優斗様は来ないだろうし。……淳さんとか来るかもしれないな。
「アユ、カケ、当主様から呼び出し。どうする? 誰が行く?」
望がドアから顔を出して言う。いつもより焦っていた。
「誰が伝えに来たの?」
「千明君」
「一人?」
「うん」
「珍し……」
冬馬様、許したんだ。当主様も。
「今、誰が対応してるんだ?」
「ミノ。カケを呼んでって千明君に言われた」
指名か。それなら、行くしかないか。
「アユ、行ってくるから、離して」
「カケ、俺が行くから、そう伝えてきて」
歩が俺の肩から離れながら言う。
「は? アユはダメだ。俺が行くから……」
「ノゾが、俺より先に何かをやる必要があることを知ったにもかかわらず、俺に伝えに来たときは、やりたくないか、俺にやってほしい時のどちらかだから、俺が行く」
アユも、ちゃんと兄弟のことは見てるんだよな。ノゾは特に。
「とりあえず、俺が聞いてくるから。それから決めよう。……ノゾ、ちょっとアユのこと抑えといて。この部屋から出さなければいいから」
「……あ、……あぁ、わかった」
呆気に取られていた望の意識がこちらに戻ってきて、少し遅れて言う。俺は、望に歩を預けて、立ち上がる。部屋を出て、廊下に集まっているみんなのほうに向かう。一番奥にいた千明様の前に立つ。
「あ、翔君。あの、お父さんから呼び出しで……」
「誰でも、大丈夫ですか?」
「うん」
「人数制限とかはありますか?」
「ないけど……、できれば、二、三人ぐらいがいいかな……って」
「当主様以外に誰かいますか?」
「優斗兄さんと、冬馬兄さんがいるけど、多分、追い出されると思うから、お父さんだけになると思う」
当主様一人だったら、アユでもいいな。ノゾたちに共有するのは後でいい。まだ、整理できてないだろうし。
「わかりました。アユを連れてくるので、少し待っていてください」
「うん」
俺は、歩の部屋に戻り、開いている扉から中を覗く。部屋の中には、俯いていて表情の見えない歩と、その横でおろおろしている望がいる。
「アユ、行こ」
「え、カケ、ちょっと待って……。お、俺と、サツで行ってくるからっ。……カケは、アユを何とかしててほしい」
望が止めようとするが、歩は望の言葉を無視し立ち上がり、俺のところまでくる。
「ノゾ、他のメンバーのこと見ておいて。何が起こるかわからないし。……そんな状態の奴らを当主様の前には連れていけない。ノゾも含めてな」
「……わかった。カケ、アユのこと、頼んだ」
望が深呼吸をしてから言う。
「うん。了解。ノゾも、こっちよろしく」
俺は、歩とともに千明様のところに向かう。
「千明様、冬馬様はどうしたんですか?」
当主様の部屋に向かいながら訊く。
「いつも、僕と冬馬兄さんが一緒に行動してると思わないでよ。って言いたいけど……。今日は、お父さんからの指令だったから、冬馬兄さんはついてこれなかったんだよ。行きたそうにしてたけど」
「そうなんですね」
そんな話をしているうちに、当主様の部屋の前に着く。
「お父さん、連れてきました」
千明様が扉をノックしてからそう言い、返事があってから扉を開ける。
「ありがとう、千明。優斗と冬馬と一緒に戻っておいて」
「はい」
部屋に入った俺たちと入れ違いで、冬馬様たちが出ていく。
「二人とも、座って。さっき、君たちに報告して戻ってきたら、情報が入ってきてね。本当か確認していたんだ」
俺と歩は、当主様の前に座った。
「……君たちは、自分の兄弟が、他にいることを知っているかい?」
「……それは、ここに住んでいる兄弟を除いて、ということですか?」
普段だったら、歩が質問をするところだが、まだ整理途中の歩に質疑応答は不可能のため、俺が代わりにする。歩もそうなるだろうと思っていたのか、気持ち少し後ろに下がっている。
「そう」
「知りません。僕だけかもしれませんけど」
「それは、どういう意味?」
「五歳までの記憶が全くないので、それまでに会っているのだとしたら、わかりません」
「歩君は、知ってる?」
歩は何にも言わず、少し首を縦に振る。
「それは、誰?」
「司です」
歩はそれだけ答えると、再び黙り込む。
司って誰だ? ツカって言ってた人か?
「なら、弟妹は知らないということでいいのかな?」
「歩が知らなかったら、誰も認識していないと思います」
「では、説明しておこう。君たちの実弟、実妹であるらしい。今、十一歳の双子だ」
「なるほど。アユは、知ってる?」
年や、弟妹ということを聞いたら、今の歩でも引っかかるかもしれなかったら、再度聞いたが、歩は首を横に振った。
「それが、事実だとしても、僕らは知らない可能性は十分にあります。……どうするんですか? その双子」
「至急、こちらに向かわせているところだ。あと、一時間後には到着する予定だ」
仕事速っ。さすが当主様。……ってか、そんな早くこっちに来れたっけか? あぁ、飛行機に乗れるのか。
「荷物が届くのは二日後。部屋の準備は、任せてもいいかな? できるだけ女中は入れたくない」
「大丈夫です」
「じゃあ、弟君たちがこっちに到着したら、呼び出すよ。迎えに行ってる間は、晴が使えないから」
「はい。失礼します」
俺と歩は、一礼して、当主様の部屋を出る。
「今の、頭の中に入った?」
「入れることには入れた」
「じゃあ、整理すれば何とかなるか。いったん、俺の部屋に戻っていい? すぐ行くから」
「忘れるなよ」
「忘れないよ。……多分」
「頼むぞ」
歩の部屋の前で分かれ、俺は自分の部屋に入る。部屋の扉を閉め、扉に背中を押し付けながら、しゃがむ。
あぁー、無理。もう、ダメだ。はぁー……。辛い……。疲れた……。もう、いいよ。
頭の中で情報は全部整理できていて、理解も出来てるが、感情は追いつかない。多分、他の兄弟以上に父さんと関わった時間は長かった。他のみんなが運動に行ってる時間に、仕事を手伝っていたから。だからといって、他のみんなより傷ついているということはない……と思うが、それなりには食らっている。
なんで……。なんでだよ……。あぁー、ダメだ。俺が一番ちゃんとしてなきゃ。アユを持ち直させることができるのは、俺しかいないんだから。
俺は、立ち上がり、部屋を出る。隣にある歩の部屋に入った。
「遅い」
難しいですね。悪者を書くのは。苦手です。悪者にみえているかどうか。
そして、兄弟たちの推理(って言えるのか分からないぐらいの推理)。両親とはあまり会えていないですが、すごい気にかけています。家族思いなので(言葉にしたら、あまり……って感じですね)。
司……新キャラの予感……。翔は知らないけれど、歩は知っている。何があったんでしょう。
次回は、 冬休み 6 です。




