47 ~冬休み 3~
「翔、ありがとう」
大広間に着くと、冬馬様に出迎えられる。
「いえ。こちらは問題ないです」
「今日は、もう大丈夫だから、ゆっくりして。明日は、また連絡する」
「わかりました」
「翔さん! 明日、遊べる?」
「サトたちは暇だろうから、遊びたくなったらいつでも言ってください」
「わかった」
「失礼します」
俺は、大広間を出て、家に戻る。
「おかえり」
両手に茶碗を持っている皐に言われる。
「今日はもう終わり。明日はまた連絡するって」
「って言っても、ほぼカケが対応してるから、俺はあまり関わってないんだけど」
「俺も、冬馬様がいなかった一週間よりは、千明様と一緒にいないからな」
俺は居間に入り、座る場所を探す。すると、眠そうにしている歩が右隣の空いている座布団をたたく。俺は、その座布団に座った。
「父さんたちって、いつまでこっちにいるんだ?」
ご飯を食べ始めると、望が訊いた。
父さんたちと一緒にご飯食べるの久しぶりだな。元々、あまり一緒に食べてなかったけど。
「一月三日の午前だったかな。なぁ、翔」
父さんが俺に視線を向ける。
「何で、俺に振る」
「大輝君から聞いた。旅館の割り振りはほとんど翔がやったって。覚えてるだろ?」
「一月三日の午前であってる」
「だって」
「じゃあ、その間って、なんの予定が入ってる?」
「えーっと、大晦日と正月は、一日予定入ってる。明日の午前中は空いてるかな。二日は、今のところ一日空いてるけど……。結月は何かある?」
「ない」
母さんが首を横に振る。
「じゃあ、明日の午前中、話させて。進路のこと。連絡はしてたけど、ちゃんと話したい」
望が言った。歩は、相変わらず眠そうにしている。
「いいよ」
「……なぁ、体動かしたい」
「だな」
「明日、借りられないかなぁ。どっか」
「えぇー、もう、そこでいいだろ」
「カケは別に来なくていいって。試合をするわけでもないし、アユたちも連れて行かないし」
「晴樹君たちは、連れていける?」
「なんで?」
「暇そうにしてるから」
「頼まれたら、連れてく」
「了解」
「……それなりに行儀が悪くなっていると思っていたが、そうでもなさそうだな。さすが子供の時に叩き込んだだけある」
「俺らも、悪くなると思ってたんだけど、近くに優斗様とか当主様がいると悪くならないもんだね」
その後は雑談をしながらご飯を食べる。ご飯を食べ終わると、両親は旅館に戻った。
「アユ、起きてるか?」
「うーん」
普段以上に眠そうな返事が戻ってくる。
「早く風呂入って寝ろ」
「うーん」
「ノゾもな」
「とりあえず、風呂沸かしてくる」
暁が立ち上がりながら言う。傑も立ち上がった。
「あ、ここの隣の風呂、一回沸かしたから、温めるだけでいい」
「隣って、どっち?」
「右」
「隣接してる方か」
「了解」
暁と傑が先を争うように家を出ていく。
「アユとノゾは、ここだろ。あと、どうしようか」
「俺、ここでもいい? 疲れた」
「だとすると、カナもここだな」
「りょーかい」
「他は……、まぁ、どこでもいいか」
普段使っている家の風呂も温め、ほとんど寝ている歩を風呂に入れる。その後、望、俺、要の順で風呂に入り、それぞれの部屋に戻る。
普通に疲れたな。
翌日。
千明様が熱を出して女中の家の方で隔離したいから準備してほしい、という連絡が冬馬様から来た。
千明様が体調を崩すのは、俺たちがこっちに来てから二回目か。前回でそれなりに傾向はつかめてるから、何とかなるか。
とりあえず、稔と亨と一緒に布団やら食器やら生活必需品を整える。千明様の部屋の近くには皐が待機している。
「カケは、一緒に過ごすのか?」
「多分。サツは無理だろ」
「できれば一人だけがいいよな」
「広めたくないから、隔離するんだろうしな」
「本当は、女性のほうがいいんだろうけど」
「その辺は、あまり気にしてないかもな。そもそも、女中がいたのに裏切られたってことは、女性じゃない方がいいのかもしれないし。当主様たちに訊かないと分かんないから、なんとも」
「だな」
そんな話をしているうちに準備が終わり、冬馬様に報告をすると、当主様の部屋に来るように言われた。
「俺だけで行ってくる。二人は好きにしてくれていいよ」
「りょーかい」
裏玄関で二人と別れ、当主様の部屋に向かう。扉をノックして、名乗る。返事が戻ってきてから部屋の中に入る。
当主様が一人だけ座っていた。
「座って」
俺は、当主様の目の前に座る。
「冬馬を介して連絡した通りなんだけど、千明が熱を出したんだ。で、優斗とか歩君とか望君がいるから、こっちにいさせると、うつったりする可能性があるかもしれないのは分かるよね。だから、できれば、隔離したい」
俺らも、会わないようにしようと考えていたから、同じか。
「だが、女中と一緒にはいさせられない。本当は、冬馬に任せようかと思ってたんだけど、優斗が本格的に受験対策をしだすと、私の代わりがいなくなってしまうから、冬馬には任せられない」
まぁ、俺なんかに頼むより、冬馬様のほうが安心できるだろうし、いいんだろうな。
「晴樹と夏樹は、なんかあったときに、対応できないからね」
俺も、対応できるかどうかは分からないけど……。
「だから、悪いんだけど、翔君が一緒にいてくれないかな? 千明が一番安心できるのが翔君だっていうから、翔君に頼んでるだけで、翔君じゃなくてもいいんだけど……」
冬馬様がいるから、俺と居ても安心できてるわけじゃないのか? 確かに、他の奴らよりは一緒にいる時間は長いけど。だから、安心できるってわけじゃないだろうし。
「やってほしいことは、一緒にいること。同じ部屋ではなくてもいい。ご飯とかはこっちから支給するから、受け取りと返却もかな。お風呂とかも沸かしてくれると嬉しい。……まぁ、その辺は千明と相談してほしい」
「僕でよければ、引き受けます」
却下できる雰囲気じゃないし、俺じゃなかったら、誰がするんだよってなって、当主様たちも困るだろうし。俺一人で何とかなるなら、何とかしたほうがいいよな。
「じゃあ、お願いする。今、千明は千明の部屋にいて、優斗と冬馬、晴樹と夏樹は大広間。午前中は全員大広間にいるから、移動は午前中にお願いしたい」
「わかりました」
「随時ほしいものがあったら、連絡してくれたら持っていくから。冬馬でもいいし、千明でもいい。ただ、私たちに言うと、女中に任せることになってしまうから、皐君たちにお願いする方がいいかな。私たちにしか触れないところにあるものだったら、皐君たちにも話を通しておいて、運んでもらうのがいいかな」
「何日くらい隔離というか、家で過ごしてもらう予定ですか?」
「五日くらいかなと思ってるけど。あ、そうすると、一月三日までになるから、蓮たちと会えなくなるね。それはさすがに蓮たちに怒られるかなぁ」
「長崎にいたころも、父さんたちにはあまり会えていなかったので、父さんたちも何も言わないと思います」
「長崎にいたころは、同じ場所では過ごしていたから、すれ違うこととか少しだけ会うこととかできたでしょ? こっちではそれすらないから……」
「昨日、それなりに話せているので、大丈夫です」
「じゃあ、その言葉に甘えさせてもらう。翔君の方の準備終わったら、千明と一緒に移動して」
「わかりました」
「あぁ、後、鍵。出たらかけといて」
当主様から鍵を受け取る。
「はい。失礼します」
俺は当主様の部屋を出て、自分の部屋に向かう。鍵はズボンの後ろポケットに入れた。
えーっと、五日だっけ。とりあえず、この部屋には来れないだろうから、ノーパソは持っていくとして、小説は、何冊持っていこうか……。どのぐらいの時間読めるかわからないけど、五日分って考えたら、相当読めるな。とりあえず、最近の読めてない本は全部持ってくか。それでも、五日分はないからな。
とりあえず、机の上に積んである読んでいない小説をその辺から引っ張り出してきた紙袋に詰める。ノーパソと充電器などを用意し、服の用意もする。
洗濯するとしても、三日分はあったほうがいいだろ。まぁ、面倒だから、五日分持ってっとくか。
その辺からスポーツバッグを引っ張り出し、洋服を入れる。
まぁ、なんかほしいものがあったら、誰かに持ってきてもらえばいいか。
俺は、服を入れたスポーツバッグを肩にかけ、本を入れた紙袋とノーパソ、充電器を手に持って部屋を出る。
「あ、もう行くんだ?」
ちょうど部屋から出てきた雫が言う。
「まぁ、午前のうちに移動してくれって言われてるし。千明様の移動もあるからこのぐらいからやっておかないと、時間なくなる」
「大変そうだねぇ」
「どうなるかわからないから、なんとも。シズはどこに行くんだ?」
「家に行く」
「何しに?」
「遊びに」
「誰がいるんだ?」
「さぁ? 誰もいないかも」
そんな話をしながら、家に向かう。雫はいつも使っている家に向かい、俺は、その家の斜め前にある家に向かう。
俺は居間の隣の部屋を使うことになっているため、その部屋に持っていたものを置く。
「さてと、千明様を迎えに行きますか」
なんとなく準備をしてから屋敷に戻り、千明様の部屋に向かう。
「サツー。おーい、サツー」
心ここにあらずといった感じの皐に話しかける。
「んー、あぁ、カケか」
「戻っていいよ。サンキュ」
「後、がんばれ」
「おぉ」
皐が肩を叩いて、階段を下りて行った。俺は、千明様の部屋の中の気配を確認する。
二人いる!? サツは何をやっていたんだよっ!
扉に耳を近づけ、耳をそばだてると、女中の声が聞こえてきた。千明様は一言も話していない。
声が小さすぎて聞こえないだけかもしれないけど。
とりあえず、扉をノックし名乗る。返事が聞こえないため、中に入ろうか迷っていると、千明様の「助けて」という微かな声がしっかりと聞こえた。
俺は、扉を開けて中に入る。床に正座していた女中は驚いた顔をしている。ベッドの上に座っている千明様は、顔が赤くなっている上に目には涙が浮かんでいる。
体調が悪い人に何をしてんだ……。
俺は千明様の前に移動する。
「どうしてほしいですか?」
千明様の顔を覗き込みながら言う。部屋に入ってきたときより安堵した顔をしている。
「……この部屋から出して。……屋敷で、生活してるの、だとしたら、優斗兄さんにも、うつっちゃうかも、しれないから。……私と、あまり、触れ合わない方が、いい」
「わかりました」
俺は、女中と向き合う。
「あなたは、何をしに来たんだ?」
「千明様が当主様にきちんと伝えて頂けたかの確認をしに来ました」
「具合が悪そうなのにか?」
「それは、知りませんでした」
まぁ、千明様の弱みになってしまうことを冬馬様たちが女中たちに言うわけないよな。
「そうだったとしても、見ればわかるだろ」
「千明様は体調を崩しがちでしたから、いつも通りだと認識しています」
それはないだろ。さすがに。
「とりあえず、そんな確認は今でなくていいし、千明様は出て行ってほしいと言っているから出ていけ」
「そんな確認ではありません。私達にとっては重要ですっ!」
「それが人にものを頼む態度か? 千明様にとっては全く重要ではない。今一番重要なのは休むことだ。それを害しているあなたは、ここにいてはいけない。早く出て」
ちゃんと話を聞いているだけ許してほしい。本当だったら普通に追い払ってもいいところを。
「……分かりました。また、訪ねます」
「その件ではもう来るな」
「いえ、また来ます」
本当は当主様に内容まで伝えたいところだけど、それじゃ相手の思うつぼだから絶対に伝えてはいけないな。
女中は部屋を出ていった。
「どのぐらい居たんですか?」
再び、視線を千明様に向ける。
「……翔君が来るニ分前くらい」
「サツが気づかずすみません」
「……私が、皐さんに入ってほしいと言えなかったし、皐さんにどうやって対処してほしいとも伝えてなかったから、仕方ないの。皐さんを怒らないで」
「部屋の前で止めてないんですか?」
「……いや、部屋の前で止めてくれたんだけど、女中が話を聞かなくて……」
「分かりました。……荷物の準備はどうなってますか?」
「できてる。そのバッグ」
千明様が床においてあるスポーツバッグを指す。
「他は、無いですか?」
「うん」
「向こうに移動しますか? それとも、もう少しここに居ますか?」
「もう、向こうに行きたいんだけど……」
「何か気になることでも?」
「うまく力が入らなくて……。多分、力が入るのを待ってたら、夜になっちゃうし……」
「つかまってなら、歩けますか?」
「分からない」
「とりあえず、やってみますか」
俺は、スポーツバッグを肩に掛け、千明様の方に手を差し出す。千明様は、俺の手を握ってフラフラしながらも立ち上がる。が、そのまま俺の方に倒れてきた。
「……無理……。ごめん……」
いや、これ、絶対に冬馬様に睨まれるやつだって。ねぇ! ちょっと!
「……。……。……抱き上げても……いいですか?」
「えっ……!?」
熱があるのとは別の意味で千明様の顔が赤くなっている気がする。
これでも、相当考えたんだって。冬馬様に睨まれるの覚悟してるし、許してよ。
「……い、いよ。お願い、します」
「……枕とか、持たなくても……大丈夫ですか?」
「……枕、取って……」
俺は、千明様を支えながら手を伸ばし、枕を取って千明様に渡す。
「……ありがと」
「スマホと充電器は、大丈夫ですか?」
「スマホは……、机の上……。……充電器は、バッグの中……」
「じゃあ、とりあえずは、大丈夫ですね。……えーっと、鍵です」
俺は、ズボンの後ろポケットから鍵を取り出し、千明様に預ける。
「……あ、うん。……ここの?」
「はい」
「向こうのは?」
「これです。お願いします」
ズボンの前ポケットに入れていた鍵も渡す。
「うん」
「抱き上げますよ?」
「……う、ん」
少し緊張している顔の千明様の背中と足に手を回し、抱き上げる。
軽っ。……あ、失礼か。いや、それにしても軽いよな。
電気を消してもらい、部屋を出る。何人かの女中とすれ違ったが、全員から怪しげな目を向けられた。
あとで、冬馬様に連絡しとくか。俺が睨まれる。……いや、でも、女中たちにそれを教える勇気はないか。
あまり気にせずに屋敷の中を歩き、裏玄関から外に出る。千明様は、恥ずかしいのか緊張しているのか分からないが、持っていた枕に顔を当てている。
「千明様、鍵、開けてもらえますか?」
「……え、あ、ごめん」
千明様は枕から顔を離し、鍵を開ける。
「先に部屋に行きますか? それとも、居間ですか?」
「部屋で」
「分かりました」
俺は、靴を脱いでまっすぐ二階の奥の部屋に向かう。
「ありがとう」
千明が体調を崩しました。少しだけ崩すことは多々ありますが、動けなくなるほどなのは、ほとんどないです(僕が千明を翔に抱っこさせたかっただけ)。翔も驚き戸惑ってます。千明ほどではないですけど。
二人の生活はこれからどうなるのでしょう。
次回は、 冬休み 4 です。
そろそろ2周年ですね。特別編でも出そうかな。




