46 ~冬休み 2~
「あ、おかえり」
家に向かっている途中の廊下で、亨と雫に会った。
人が多すぎて、気づかなかった。
「全員行ってるわけじゃないのか?」
亨たちと横に並んで歩きながら言う。
「うん。あ、でも、多分、俺ら以外は全員行ってる……と思う」
「気配、探ればわかるだろ?」
「人が多すぎて疲れるから、ほどんど広げてない」
「俺らだけわかるとか、ないのか?」
「使えたらいいな」
「使えないってことか」
「そんなに万能じゃないんだよ」
「ふーん」
そんな話をしているうちに家に着き、居間に向かう。庭で遊んでいるやつも含め、全員そろっていた。
「おかえり。次、いつから?」
望が俺らを見上げながら言う。
「わかんない。とりあえず、夕飯ぐらいまでは空いてる」
俺は、部屋の隅でスマホと睨めっこをしている歩の隣に座りながら言う。
「了解」
「カケ、父さんたち、いつ来るんだ?」
「今日の夕方。夕飯はこっちで食べる予定……だったはず」
「なら、夕飯一緒に食べれないかな?」
「旅館側が夕飯を準備してると思うけど、こっちでも食べれるんじゃないかな。淳さんにでも訊いてみるか?」
「俺は、いいけど、他はいいのか?」
「別に、二人分くらい増えた内に入らない」
「「いいよー」」
「……サトとスグには聞かなくていいと思う」
「というか、聞こえてないと思うから」
「じゃ、決まり。カケ、一応聞いておいて」
「了解」
「カケ―、冬の飯って、どういう予定? 俺らだけで食べない日とかってあるのか?」
縁側と居間の間に座っている彰が俺を見ながら言う。冬だというのに、窓も襖も全開なのは、居間に十三人もいると狭いからだ。
ご飯の時は我慢してるけど。
「特に誰かと一緒に違う場所で食べるのは聞いてない。いつも通り過ごしてって言われてる」
「じゃあ、食材買いに行くか」
「俺も行った方がいい?」
「うーん……。……カケ、俺以外に五人ほしいんだけど、誰がいい?」
望の質問に対し、彰は少しだけ考えてから俺に振った。多分、考えるのが面倒になったのだろう。
「トオとシズはいつも通り行った方がいいだろ。あとは……、サト、スグ、シノでどう?」
「それでいい。行くぞ」
彰が立ち上がって言うと、庭で1on1をやっていた暁と傑が居間に上がってきたり、縁側に座ってぼーっとしていた忍が立ち上がったりする。亨と雫もそれぞれ立ち上がった。
彼らがいなくなると、急に居間が寒くなる。
「カケ、残された俺らには何かあるのか?」
稔が訊いてきた。
「アユとノゾは、自由にしておいた方がいいだろうし、俺とサツはいつ呼び出しがあるかわからないから残した。タツは自分の世界に入ってるし、カナも寝てるから起こさない方がいいかなって。ミノは特に理由はない。ただ、サトだけ残すとか、シノだけ残すとかはできない」
「確かに」
「サトとスグは一緒にしてよかったのか?」
「まぁ、元気有り余ってそうだし、どっちかだけ行かせると何が起こるかわからない。それぞれ見える範囲にもう一人がいたほうが一番楽」
「なるほど」
「アキが大変そうだな」
稔がそう言いながら立ち上がり、庭に出て、暁たちが置いていったサッカーボールを高く蹴り上げる。
「トオのほうが大変だと思うけどな」
俺は、隣座っている歩に目を向ける。相変わらず、スマホを睨んでいた。
「どうかしたのか? アユ」
珍しく、一言も口を利かない。
「別に」
いつもより声が沈んでいる。
「ノゾと喧嘩?」
「してない」
「模試の結果?」
「違う」
「父さんたちが来ること?」
「違う」
それなりに思いつくことを訊いてみたが、違うらしい。
「なら、何?」
「何もないって」
「何もなかったら、こんなにへこんでないだろ」
「……へこんでないし」
へこんではいるんだよな。どうしようか……。
と、思っていたら、歩がスマホを渡してきた。スマホを受け取り、画面を見ると、どこかの試験結果が表示されていた。
100……98……100……100……100……100……100……100……。
「これ、向こうの試験?」
「あぁ」
「98があるけど……」
「……」
「だから、へこんでたのか」
「別に、へこんでないし」
「98でも一位だから、ノゾも落としたってこと?」
「落としたよー。二問ぐらい」
のんきな声で望が言う。
「そんなに難しいのか?」
「俺は、時間なくて落としたのが何問かあるけど、アユは凡ミスだからね」
ノゾに訊いた方が早そうだな。
「珍し。何落としたの?」
「マークミス」
「何やってんのさ」
「うるさい……」
「まぁ、そんな感じなら大丈夫そうだな」
「何もないって言っただろ」
「何かはあったぞ。何かは」
「……そういう、カケはどうだったんだよ」
「まだ、見てないけど……」
俺は、ポケットに入れていたスマホを取り出し、試験結果が届いていないか確認する。
あぁ、来てた。二十分前かよ。
俺は、試験の結果を確認せず、歩に渡した。
「……うわっ、相変わらずだな……」
「オール満点?」
「うん」
そうだったんだ。へぇ。
歩が面白くなさそうにスマホを返してくる。
「ミノは?」
望が庭でボールと戯れている稔に訊く。
「1ミス。本当にわからなくてさ」
「今は、理解してんのか?」
「まだ。あとでカケに訊こうと思ってた」
「そっか」
俺、聞いてないんだけど。
その後、彰たちが買い物から帰ってきて昼ご飯を食べる。話題はもっぱら試験の話で、オール満点を取ったのは俺だけらしい。
今までだったら、普通に過ごしててみんなオール満点だったのにな。やっぱり、自力じゃきついところがあるのか。かといって、俺もそこまで自習をしてるわけじゃないし、試験前だからと言って詰め込みもしなかったけどな。満点取りたいと思ったこともないし。
それぞれ、好きなように過ごしていると、俺のスマホが鳴った。千明様からのメールだった。メールを開き、内容を確認する。
父さんたち、もう着いたんだ。予定より少し早いな。
「何だって?」
隣に座って外を眺めていた稔が訊いてくる。
「父さんたちが着いたから、これからどうするのかを決めるために来てくれって」
「カケだけ?」
「何も書いてない。とりあえず、俺だけで行ってくる」
「了解。どうするか決まったら教えて」
「うん」
俺は立ち上がり、スマホをポケットに押し込みながら家を出る。屋敷に入り、大広間に向かう。
大広間に入ると、部屋の端に座っていた千明様に手招きをされた。千明様の周りには、冬馬様と晴樹君と夏樹君が座っていた。部屋の奥には当主様と優斗様が座っていて、向き合う形で手前に俺の両親が座っていた。
俺は、とりあえず、千明様の元に行く。
「あの、女中がこっちにいるから、僕と晴樹と夏樹は翔君たちが使ってるお風呂を使わせてほしいんだけど……」
「わかりました。いつこちらに来ますか?」
「今日来る人たちのあいさつがあと一時間もすれば終わるから、そしたら、かな」
「お風呂を沸かしておくので、連絡ください」
「わかった」
「夕飯は、どうされるんですか?」
「こっちで食べるよ」
「わかりました」
「翔君、そっちの話、終わった?」
千明様たちとの話が一区切りつくと、当主様から話しかけられる。
「はい」
当主様のほうに身体を向けて答える。
「夕飯は、どうする予定になっている?」
「向こうの家で食べますが……?」
「蓮たち」
「旅館でご飯が出ますが、僕らの方でも準備はしようと思っています」
「どちらがいい? 蓮」
「翔たちと食べようかな」
「わかった。旅館には連絡しておく」
「いや、いい。俺が行くから」
「このぐらいやらせて。こっちに翔君たちを呼んだのは私だから」
「……わかった。任せる」
「うん」
当主様は満足そうにうなずく。
「翔、行くぞ」
座っていた父さんが立ち上がりながら言う。その隣では母さんが立ち上がる。
「それじゃ」
「なんかあったら呼び出すよ」
「……できればやめてくれ。こっちに来てまで仕事をしたくない」
父さん、母さん、俺の順で大広間を出る。
父さんと当主様って本当に従兄弟だったんだなぁ。あんな風に当主様が話してるとこ、晴さんと一緒にいるのを見た時以来な気がする。
「久しぶり、父さん、母さん」
俺が大広間の扉を閉めるのを後ろで待っていた両親に言う。
「あぁ。元気にしてたか?」
「うん。まぁまぁ」
俺は、家に向かいながら言う。
「それならよかった」
父さんが俺の後についてきながら言う。
「母さん、身長縮んだ?」
全然話してくれない母さんに話を振る。
振り方は……ともかく。
「翔が伸びたのよ。私は変わってない」
「そこまで伸びてないよ。二センチぐらいかな。……やっぱり、母さんたちが縮んだんじゃ……?」
「伸びてるわよ。最後に会った時から」
そんな話をしているうちに、家に着く。
「ここ、元女中の家か?」
「うん。改装するのを待つの面倒だったし、風呂いっぱいあるし、少しだけ残してもらって俺らが使ってる。中の物は全部取り換えたけど」
「そうか……」
「あ、俺らが使いたいって言って使わせてもらってるから。本当は、食堂で食べてくれって言われてるところを、こっちを使わせてくれって言ってるだけだから」
「別に、大地を疑ってるわけではない。ただ……、使いづらさはないか? 改装してもいいんだぞ?」
「ないよ、俺は。他のみんなは知らないけど」
「翔がないなら、大丈夫だろうな」
俺は、玄関を開け二人を家に入れる。居間に向かうと部屋の隅にいた歩が立ち上がる。
「久しぶり、父さん、母さん」
「あぁ、元気にしてたか?」
さっきも聞いたな。レパートリーというものが……。
「元気だよ」
「そうか」
父さんはそう言いながら畳に座る。その横に母さんも座った。両親と歩や望たちとちょっとした情報交換をしたり、近況報告をしたりする。そのほかは縁側に座って雑談をしたり、庭でボールを蹴ったり、部屋の隅に座り壁に寄りかかってうとうとし始めたりと様々だ。
俺は、そろそろ迎えに来てほしい、という千明様からのメールを受け取り、俺たちがいつも使っている家の風呂を沸かし、隣の家の風呂を沸かしに向かう。風呂を沸かすと、屋敷に向かう。裏玄関から入り、大広間に入ると、晴樹君と夏樹君が走ってきた。その後ろから、冬馬様と千明様が歩いてくる。
「こんばんは、晴樹君、夏樹君」
「「こんばんは、翔さん」」
「翔、風呂から上がったら、またここに来てほしい」
「わかりました」
「頼んだ」
冬馬君はそう言うと中に戻っていき、晴樹君と夏樹君は裏玄関に向かって歩き出す。俺は、前を歩く晴樹君と夏樹君についていきながら、隣を歩く千明様の様子を探る。大広間にいた時よりは緊張しているが、昼よりも女中の人数が減り、昼よりは緊張していなかった。
三人の部屋に向かい、風呂に入る用意をすると、家に向かう。
「誰がどこのお風呂に入りますか? 一応、二つのお風呂は沸かしましたが……」
「……晴樹と、夏樹は……、同じ、でもいい?」
「「いいよー」」
「二人が一緒に入れるほどお風呂は大きくないですよ」
「大丈夫……。……どこの家の、お風呂を、沸かしてくれたの?」
「俺らが普段生活しているところの家と、その隣の家です」
「じゃあ……、翔君たちが、いるところで、晴樹と、夏樹、を入れて……いいかな?」
「わかりました」
「僕が、入っている、間は……、いつもの、家に、いてくれて、いいから」
「それは、できません。居間で待ってます」
「暇……でしょ?」
「問題ありません」
「……そ、っか」
先に、普段俺たちが使っている家に向かい、晴樹君と夏樹君を暇そうなメンツに任せる。そのまま、隣の家に向かい、お風呂が沸いていることを確認し、千明様にお風呂に入ってもらう。俺は居間に座り、スマホをいじろうかと思ったが、思った以上に家が埃っぽかったため、掃除を始めた。とりあえず、居間と廊下、台所の掃除が終わると、千明様が風呂から上がってきた。
「ゆっくりできましたか?」
「うん。……ありがとう。……あの、これから、女中たちが、いなくなるまで、お願い、してもいいかな?」
「わかりました」
「ありがと。……向こう戻ろう」
「はい」
俺と千明様は、俺たちが普段使っている家に戻る。家では、彰と亨がご飯を作り始めていた。
「おかえり」
「こんにちは」
「ただいま」
「この後は、どうする予定?」
父さんが、千明様に話しかける。
「屋敷に戻って、ご飯を食べます」
「髪は、乾かしますか?」
「あるの? ドライヤー」
「一応、ありますよ。使えるかどうかは……わかりませんけど」
「借りていい?」
「どうぞ」
「晴樹と夏樹は、どうなっていますか?」
「もう上がってて、庭で暁たちと遊んでるよ。お風呂入ったのに、ごめん。汗かいてるかも」
「わかりました。ありがとうございます」
千明様は、洗面所に向かう。
「晴樹君、夏樹君、そろそろ向こうに戻るよ」
俺は、壁に寄りかかって寝ている歩の隣に座りながら、庭でサッカーボールを蹴りあっている晴樹君たちに声をかける。
「「はーい」」
サトたちより、全然素直だな。
「翔は、向こうに三人送ったら、戻ってくるのか?」
「多分。向こうに冬馬様たちいるし」
「そうか」
「アユ、いつから寝てんの?」
「翔が出てって少ししたら」
「充電切れたようにパタッとね」
「翔が電源なのかもな」
「なにそれ」
「あながち間違いじゃないかも」
そんな話をしているうちに、千明様が戻ってきた。
「翔君、ドライヤーありがとう」
「使えましたか?」
「えっ? あ、うん」
「戻りますか?」
「えっと……、さっき、冬馬兄さんから、もう少しここにいてくれ、っていうメールが来てたから、いてもいいかな?」
「どうぞ」
「って言っても、もう、ご飯できるんだけど。……誰かテーブル拭いて」
彰がローテーブルに布巾を放り投げながら言う。
「あの……、気にしないでください」
千明様は、そういいながら居間の隅に腰をおろした。
「冬馬様から、なぜ戻ってはいけないのか、訊いてますか?」
「……わからない」
女中たちか……。
二十分後に冬馬様から戻ってきてもいい、というメールが俺宛に届いたため、千明様と晴樹君と夏樹君と一緒に屋敷に戻った。
「翔、ありがとう」
翔たちの両親、初登場ですね(名前は前回出ていますが……)。
そして、いつも通りな歩たちの試験の点数……。ここには触れないでおきます。
歩の電源は、翔です。電源というよりかは、……この続きは、小説で。いつか出します(多分)。
次回は、 冬休み 3 です。
書き貯めているくせに、投稿を予約するのを忘れてました。許してください。




