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45 ~冬休み 1~

 冬休み。

 冬休み初日だしのんびりしようとしていたら、当主様に呼び出された。仕方なく、歩と皐と一緒に当主様の部屋に向かう。

「アユとカケはさぁ、よく呼び出されてるから慣れてるかもしれないけど、俺はまだ慣れてないんだからな。忘れるなよ」

 後ろを歩いている皐が愚痴る。

「仕方ないだろ。俺は、ともかく、サツは呼び出されてるんだから。行くしかないんだよ」

 俺と皐は当主様から呼び出されているが、歩は俺らのほうから連れていきたいと言ったら了承されたため、一緒にいる。

「俺も、よく呼び出されているとはいえ、慣れてないぞ。当主様は」

「何で呼び出されたんだろうな?」

「さぁ? スケジュール関連だったら、カケだけ呼び出しされるだろうし。……カケとサツって考えたら、護衛関連だろうけど、今回は冬馬様がいるしな」

「優斗様もいるし、俺らいらないよな?」

「優斗様は受験だから、いないものと思った方がいいんじゃないのか?」

 そんなことを話しているうちに、当主様の部屋の前に着く。

  二人いるな。当主様と……誰だ? 美佳様か?

「もう一人、誰だと思う?」

 同じく、気配を探っていた皐が言う。

「美佳様か、優斗様か……。拓真さんではないと思う」

「とりあえず、入るぞ」

 歩は扉をノックし、名乗る。返事が来てから中に入っていく。皐が続いて中に入り、俺も入って扉を閉める。中には、当主様と千明様がいた。歩が前に座り、皐と俺が少し後ろに座る。

  千明様だけなの、久しぶりだな。

「おはよう。朝から呼び出してすまない」

  そうだ、そうだ。ゆっくり寝ようと思ってたのに。……なんて、言えないけど。

「いえ、いつでも呼びだしてください」

 歩がそう返答する。俺の隣に座っている皐は、やめてくれ、と言いたげな顔をしている。

「ありがとう。……この冬休みも護衛をお願いしたいのだけど、いいかい? できれば、冬馬達がついているときも頼む」

「はい。わかりました」

「スケジュールを見た感じ、どちらかに偏ることにはなさそうだから、分担は君たちが決めてくれていいよ」

「はい」

「……それで、これから話すことはできるだけ広めないでくれ。望君たちには伝えてくれて構わないが、それ以上広げることはやめてほしい」

「わかりました」

「この冬は、前護衛についてもらった時はいなかった女中が、この屋敷に常駐することになる。やり取りする機会もあるだろうから、この屋敷から女中たちを追い出した経緯を話しておこうと思う」

 当主様は相変わらず笑みを浮かべているが、目は笑っていなかった。千明様も、俯いて服をぎゅっと握っている。

「……本家で女の子が生まれたという話は、あまり聞かないと思う。それは、本家にいる……この屋敷にいた女中たちが女の子が生まれることを毛嫌いしていたからなんだ」

  あまり、本家の情報とか知りたいと思ったことないから、全然知らない。直接情報が入ってくることもないから、どこまで本当かわからないし。女中たちが話してるのを又聞きするくらいか。

「千明は、その中で生まれた女の子なんだ」

  ……そ、うなんだ……。……あまり、気にしたことなかったけど……。

「だから、男の子として育てることになった」

  学校でも、学ランを着てるのはそのせいか。

「ただ、女の子であることに変わりはないから、女中たち小さい虐めを始めた。私たちに見つからないように。生まれたころから少しずつ差をつけて。お弁当の中身とか、自室の場所とか最低限のことをね。外聞を意識していたから朝食や夕食は一緒に食べていた。だから、私も冬馬から言われるまでわからなかった。少しおかしいとは感じていたが、冬馬が千明と食べていたし、そういうものだと思っていたから。優斗や冬馬とも会うことが少なかったから、千明が会いに来ないことをあまり気に留めていなかったし」

  こんだけ会ってるけど、当主様ってやっぱり忙しいんだな。

 俺らの場合は、両親とご飯を食べることも少なかった。

  俺だけ別の用事で父さんと結構会ってたけど。

「そういう状態になってることを冬馬から教えてもらって、そんなことをするなら、追い出した方がいいという結論に至った。実行したのが六月。女中頭を中心にできるだけ散らした」

  まぁ、罰は重いよな。

「ただ、女中たちがいなくなると、ここの安全性が疑われる。他の地域からね。でも、女中は入れたくない。できれば、冬馬達と同じくらいの年の、血縁が近い存在がいいと思ったんだ。そこに引っかかったのが、君たち。(れん)は私の従兄だから、話しやすかったしね」

 蓮は、俺たち兄弟の父さんの名前。

「いろいろな噂は聞いていたが、私は直接蓮からいろいろな話を聞いていたし、成績も優秀だったから迷わなかったよ。こっちにいる君たちの兄からもいろいろ聞いていたしね」

  こっちにいる兄? そんなのいたか?

「いい判断だった。君たちはよく働いてくれるしね」

  どんな反応をするのが正解なんだ? 働けって言われたら、そりゃ、働くよな。

「そんな感じで追い出したから、口論になったときに使って。あと、できるだけ、何かあったら連絡して。冬馬を通して伝えてくれると嬉しいけど、千明に任せてると伝えてくれないから」

「はい」

「それじゃあ、戻ってくれていいよ。護衛の件はよろしく頼むね」

「はい」

「あ、千明連れてってくれる?」

「わかりました」

 歩と皐が先に当主様の部屋を出て、千明様が出てから俺は部屋を出る。

「アユとサツ、先に戻ってていいよ」

「いや、一緒に送ってく」

 服の裾を握ったまま、何も話さない千明様を大広間まで送り、自分たちの部屋に戻る。

「カケは、気づかなかったのか? 千明様のこと」

「気づくも何も、気にしてなかったし」

「カケはそういうところがあるからな」

「別に、だからってその人の根本が変わるわけじゃないし」

「まぁ、そうだけどなぁ」

「そういや、父さんたちがこっちに来るって話、したっけ?」

「は? 来るのか?」

「冬休み中だけ」

「今まで、一度も来たことないだろ?」

「あったら、俺らも知ってるはず」

「そうだよな」

「ここに泊まるのか?」

「いや、決まってる旅館に泊まる。俺が配属の手伝いしてるから、泊まる場所も把握してる。冬、どういう動きをするのか知らないけど、遊びに行くか、向こうからきてもらうかだな」

「その辺は、来てから話せばいいんじゃね?」

「とりあえず、こっちに来るって知っただけでも良かったな」


 そうこうしているうちに、他地域の相川家の人たちが集まってくる。同時に女中たちが屋敷の中に入り始めたため、護衛の仕事についている時間が増えた。

  はぁ、女中がいない方が気が楽だな。

 そんなことを考えながら、千明様の部屋の扉の横の壁に寄りかかると、部屋の中に入っていった千明様が部屋から出てきた。

「どうかしましたか?」

「中、入って。そこにいると、何かあるかもしれないから」

「わかりました」

 屋敷の中にいる女中は、今年の六月までこの屋敷で働いていた人や、毎年冬にここで働いていた人たちが多い。……らしい。千明様が、俺を盾にして女中から隠れていたり、女中たちが妬ましい目で千明様を見ていたりするから、そうなのだろう。

  会ったことがなかったら、顔が分からないから、睨みようがない。

 俺が部屋の端のほうに立つと、千明様はベッドに腰を下ろした。

「ごめん。翔君が外にいると、僕が中にいることが分かるから……」

 俺が外にいれば、中に入ろうとする女中を止めることができなくはないが、千明様が中にいてほしいと言うなら、いるしかない。

  居心地が良いかと言われたら、そうではないけど。

 どちらにせよ、女中とは口論することにはなるだろう。

  どっかで、千明様の意見は聞いておかないとな。

 そんなことを考えていたら、範囲の中に誰かが入ってきて、千明様の部屋の前で止まる。部屋の扉がノックされ、千明様が返事をする前に中に入ってきた。明らかに千明様が緊張しだす。服の裾をぎゅっと掴み、下を向いている。俺は、千明様の前に移動した。

「千明様の返事も聞かずに部屋に入ってくるとは、どういうことだ?」

「私と千明様の仲でしたら、このぐらい普通のことですよ。ねぇ、千明様?」

 顔は笑っているが、軽蔑した目をしていた。

  悪意しかないな……。

 千明様は返事をしなかった。というより、返事をする余裕がなさそうだ。

「何をしに来たんだ?」

「私は千明様に話に来たのであって、あなたには関係のないことです」

「いや、当主様に千明様があなたたちと話をするときは必ず仲介するようにと指令が出ているからな」

  そんなこと言われてないけど、仕方ないだろ。当主様なら話を合わせてくれるだろうし。

「なぜでしょう」

「用件は?」

「千明様、家事はどうしているのですか? もしかして、冬馬様にやらせているのですか?」

「やらせていたら、なんだ?」

「当主一族にそのようなことをさせるなど、女中がいる意味がありません。すぐに、屋敷に戻ってこないといけませんね。千明様、私たちが屋敷に住むことに許可を出してくださるよう、進言してくださいませんか?」

「当主様に直接言えばいいだろ」

「私たちには、そのような機会は与えられませんので」

「なら、諦めればいいだろ。千明様に言うことではない」

「いえ、私たちと一番関わりのあり、今、家事一般をすべてこなしている千明様が進言してくださることで、必要なことがより伝わるでしょう?」

「……僕は……、……必要だと……思いません……」

 千明様の声は震えており、とても小さい。女中には聞こえてないだろう。俺の服の裾を握っているのか、後ろに引っ張られる。

「なんでしょうか?」

「千明様は、いらないそうだ」

「この際、千明様の意見は必要ないです。当主様一族に迷惑をかけてしまっている本人の意見なんて、誰が聞くのですか」

 女中の声は、段々と冷たく鋭くなっていく。

  絶対、冬馬様たちの前では出さないだろうな。

「当主様からしたら、娘の千明様と女中の端くれでしかないあなたの意見、どちらを聞くのだろうな」

「ですから、千明様から進言してくださるようお願いをしに来ているのです」

「機会すらないのだから、諦めろ」

「長崎の女中は何を教えているのでしょう」

  とりあえず、当主一族の話を聞いとけって言われたな。

「本家の女中は何をしていたんだ?」

「私たちは、しっかりと当主一族のために働いていました」

「差別することが、しっかりと働くことになるのか」

「差別ではありません。私たちは、それぞれにしかるべきことをしただけです」

  これは、言い訳か?

「それが、お気に召さなかったみたいだが?」

「それは、美佳様に唆されたのです」

「冬馬様から聞いたと、当主様はおっしゃっていたが?」

「冬馬様が気付くはずがありません。すべて同じメニューでお出ししていましたから」

  差別していたことは認めるのか。

「……もしかして、昼食、一緒に食べていたのですか?」

 女中は、さらに軽蔑した目を千明様に向ける。

「食べていたら、なんなんだ?」

「もう、話になりません! 千明様、しっかりとお伝えしてくださいね!」

 女中はそう言うなり、身をひるがえして、荒々しく扉を開き出て行った。俺はその扉を、やさしく閉める。

「……あ、りがと……」

 千明様の小さい声が背中から聞こえてくる。俺は、千明様の前に跪く。

  顔色、悪いな。手も震えてるし。

「すみません。できれば、大声を出させないようにと思っていたのですが……」

 千明様は首を横に振る。

「……大……丈夫」

「なんとなく、わかってきたので、次は何とかします」

「……あり……がとう」

「当主様に連絡してください」

「……い……、うん」

 千明様は何かを言いかけてやめた。

「なんですか?」

「……なんでもない」

  なんかあるな。絶対。

 だが、言いたくないなら、これ以上訊く必要もない。話を変えることにする。

「今後のことも考えて、千明様の意見も聞かせてください」

「……何の?」

 スマホを取り出して、当主様宛のメールを書き出した千明様が、こちらに顔を向ける。

  さっきよりは、ましになったか。

「女中への対応です」

「……あ、えっと……、女中は、いなくていい……。……冬馬兄さんたちも……同意見……だから」

「わかりました」

「あ、と……、女中との……仲は……良くない、から」

「今回みたいに、勝手に部屋に入ってくることは、許されているんですか?」

「えっと……、わた……僕の部屋は、元々ここじゃなくて、女中の部屋の隣だったから……。それに、呼び出されることもしょっちゅうで……。僕の部屋は、誰でも入れるところと同じような扱いだったから……。冬馬兄さんの部屋とかは、勝手に入らないし……入れないよ」

「そうですか」

 気持ち的にも落ち着いてきたようで、声は震えていない。

「翔君は、どうして、女中と正面で話し合えるの?」

「さっきのを話し合いというのかどうかは別ですが、長崎にいた時に様々な話し合いに連れていかれていたからですかね」

「何で? 歩さんたちも連れだされてたの?」

「いえ、俺だけです。運動したくないって言ったら、父さんについてきてくれって言われて……」

「そうなんだ……。私は、そんなところ、行くことすらさせてもらえないから」

  一人称、私になったな。

「行かないのが一番いいと思いますけどね」

「でも……、こういう時に、自分で対応できない……」

「まずは、緊張しないところから、ですかね」

「う……」

 千明様は、目をそらし、再び当主様宛のメールを書き始める。俺は立ち上がって、部屋の端に移動する。

  当主様的には、多分、起こったこと全部教えてほしいんだろうけど、千明様が嫌がるんだったら、俺は、千明様のほうにつくか。冬馬様経由で全部伝えてもいいけど、冬馬様に連絡できるほど慣れてないしな……。

 千明様は、メールを送り終わったのか、顔を上げた。すると、千明様の手の中にあったスマホから着信音が鳴る。千明様が、再びスマホに目線を戻し、画面を少し操作してこちらを向く。

「大広間に来てほしいって。冬馬兄さんから」

「わかりました。行きましょう」

 俺と千明様は、部屋を出て大広間に向かう。千明様は、廊下のできるだけ隅のほうを小さくなって歩く。

  もっと堂々と歩いていいんですよ、とは、言い難いな。

 俺は、千明様ができるだけ女中たちを見ないような位置取りをする。

 大広間に着くと、千明様は明らかにほっとした顔をする。

「この後、昼食はここで食べて、挨拶しに何人も来るから、夜までは向こうで過ごしてて。ありがとう」

 扉まで迎えに来た冬馬様が言う。俺は、先ほどあったことを簡潔に冬馬様に伝えると、明らかに嫌そうな顔をした。

「了解。ありがとう」

「失礼します」

 俺は、当主様たちが座っている方に礼をしてから大広間を出る。廊下を歩きながら、気配を探り、歩たちが部屋にいないことを確認する。

  普段より人が多いから、疲れる。あまり、広げておかないようにしよう。

 一応、兄弟チャットでどこにいるかを確認する。

  家、ね。

「あ、おかえり」

 冬休みでーす。いつまで続くかはわからないですけど……(下書きすら終わってない……)。

 両親は、初めましてですね。名前を決めるのにすごい時間を要しました。そのくせ、母親の名前出てないんですよね。いつか出てきます。多分。


 次回は、 冬休み 2 です。

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