44 ~お手伝い 後編&ある日の休日~
「奥から三つ目に気配があるけど、その人かはわからない」
「三階は?」
「いない」
「じゃあ、その人なんじゃない?」
「とりあえず、行くか」
掃除道具入れに箒をしまい、階段を上る。奥から三つ目の部屋に入ると、先ほど稔と話していた女中が出てきた。
「あ、もう終わったのですか? ありがとうございます」
「いえ。まだ、雑巾がけが終わってないかと……」
「そうですか。ゆっくりやってくださいね。そこまで急いでいませんから」
「はい」
「ゴミ、貰いますね。雑巾がけが終わり次第、次の旅館に移動してくれて構いませんので、その辺にいる人に声をかけてください」
「わかりました」
俺は、ゴミを女中に預け、一階に戻る。すると、一階では、雑巾がけ競争が行われていた。
高校生……だよ、な? こいつら。
「カケ、止めなくて平気?」
「まぁ、限度は分かってるだろうから、見守っておこう。流れ弾を食らうのが一番危ない」
「そうだね」
そんな話をしている間に競争は終わり、一着は彰だったようだ。
「相変わらず、アキは早いなぁ」
俺は、一階に降りて、三人が固まっているところに行く。
「次行くぞ」
「えー、もう昼だよ」
亨が嫌そうな顔をする。
「次の掃除の内容にもよるが、次まで行ってしまいたい」
「カケが一人でやれば?」
「トオ、文句言ってないで次行くぞ」
「あの、雑巾、貰います」
近くにいた女中がやってきて言う。
「お願いします」
彰が雑巾を稔と亨からもらい、女中に渡しながら言う。
「連絡も、お願いしていいですか?」
「わかりました。ありがとうございました」
「いえ。失礼します」
俺らは、旅館を出て、隣の旅館に入る。
「こんにちはー」
彰が先頭で入る。
造りはほぼ一緒か。
「掃除をしてくれる方々ですか?」
旅館に上がると、目の前のホールにいた女中が言う。
「はい」
「ここでは、ホールと廊下の掃除をお願いします。掃き掃除と拭き掃除です」
「わかりました」
「箒と雑巾は、右側の階段下にございますので、好きに使ってください」
「わかりました」
「終わり次第、その辺にいる女中に声をかけてください。ゴミも塵取りに集めてその辺にいる女中に渡してください」
「わかりました」
「それでは、お願いします」
「はい」
女中は、カウンターの中に入っていった。
「で、雑巾、どうする?」
掃除用具入れに向かいながら、四人に問う。
「交代したい」
「俺、雑巾やるよ」
「じゃ、俺とトオが箒でいいな?」
「アキは、交代しなくていいんだな?」
「いいよ」
「じゃ、お願い」
俺は、雑巾を三枚取り出して彰に渡し、箒を二本取り出して片方を亨に渡す。
「役割分担は?」
彰が稔と雫を連れて雑巾を洗いに行くのを見送ると、亨が訊いてきた。
「どこがいい? 分けるなら、一階、二階と三階」
「さっきは、どっちやったの?」
「俺? 俺は一階」
「じゃ、俺が一階やるから、他、カケがやって」
「了解。階段下にゴミを集めるでいい?」
「うん。早く終わったら、ホール、先やってて」
「りょ」
俺はそう言って、三階に向かう。
ここの匂い、なんとなく苦手だな。早めに終わらせよ。
三階の廊下の端に向かい、階段のところまで掃くと、反対の端に向かい、また階段まで掃く。階段と階段の間も履いて、階段を掃きながらにかに向かう。
同じことを繰り返して、一階まで降りると、ホールの向こう側に亨がいた。雑巾組とは二階をやっている間に一人と会ったから、二人は一階の雑巾がけをしているのだろう。
俺は、階段側のホールの端から掃き始め、階段のところにゴミを集める。亨が持ってきたゴミも集め、塵取りの中に入れる。ホールの反対側では、雑巾組が雑巾がけレースを始めていた。
「はぁ……、よく、飽きないな」
「カケ、箒、もらう」
「あぁ、ありがと」
亨が掃除用具入れに箒を片付けている間に、決着がつく。当然、一位は彰だった。
「雑巾洗ってくる」
「いってら」
雑巾組が雑巾を洗って掃除用具入れに入れている間に、カウンターにいた女中に声をかけ、塵取りを預ける。
「終わったという連絡もお願いします」
「わかりました。ありがとうございます」
「いえ。失礼します」
雑巾組が戻ってくるのを待ってから、全員で旅館を出る。
「今、何時?」
屋敷に向かいながら、先頭を歩く彰が振り返って言う。
「十一時半」
「意外と早く終わったな」
「今から作ってもギリ間に合うか」
「だな」
「えー、でも、どうせ学校まで走るんだろ? それなら、向こうで食べたい」
「ミノとシズはどうなんだ?」
「俺は、面倒だからこっちで食べたい」
「俺は、どっちでもいいよ」
「俺とシズは、アキとかミノみたいに早くないから、向こうで食べたいんです」
「シズはそんなこと言ってないぞ」
「心の中ではそう言ってる。俺にはそう感じる」
「そうなのか? カケ、ミノ」
「いや、俺にはそう感じないけど……」
稔が隣を歩く雫を見ながら言う。
「どうせ、アユとノゾの分も作るし、俺的にはこっちがいいんだけど」
「あ、二人、忘れてた」
「それに、こっちで俺らが食わないと、カケが勝手にご飯を抜く」
「それも、ダメだ」
「じゃ、こっちでいいな」
「わかったよ。仕方ないな」
「今日の昼、何なの?」
「うどん」
「え、もしかして、ざる? 冬に?」
「んなわけないだろ。ちゃんとあったかいやつだよ」
「いや、アキなら出しかねん」
「アユとノゾがいる状態でそんな冷たいもん食わせるわけないだろ。トオだけだったら、ざるにしてたけど」
「俺の扱いひどくない?」
「そんなことない。普通だ。なぁ、ミノ」
「俺に振るな」
「じゃ、カケ」
「なんで俺に振るんだよ」
「じゃ、シズ」
「あの……、アキは、多分、アユとノゾが受験だから気を使ってるだけで、多分、俺たちは全員同じ……だと思う」
「あぁ、受験かぁ」
「忘れんなよ」
「いや、忘れるというか、そもそも二人ともあまり変わってないから、そういやそうだったなぁっていう程度で」
「いや、アユが勉強してんだぞ? いつも通りなわけあるか」
「ノゾが勉強してるところは時々見るけど、アユがテキスト持ってた時は、ちょっと驚いた」
「最近じゃ、それが普通になってきたけどな」
「とりあえず、早く食べたいから早く行こ」
「だな」
先頭を歩いていた彰と亨が走り出し、一歩遅れて稔と雫が後を追う。俺は、のんびり歩いていくことにした。
なんで体育でもないのに走らなきゃいけないんだ。
「おぉ、翔。何してんだ? こんなところで。珍しいな」
屋敷に戻っている途中、淳さんに会った。
「旅館の掃除を手伝ってました。そういう淳さんは何をしているんですか?」
「事務所に行くとこ」
「何してたんですか?」
「大学行ってた」
「はぁ……」
「なんだ、その微妙な反応」
「そういえば、大学生だったなと思っただけです」
「そうだよ。なんか悪いか」
「何も悪いとは言ってないですよ。俺はこれからご飯なんで、失礼します」
「おう」
淳さんと別れ、再び屋敷に足を向ける。屋敷に入り、歩と望に声をかけてから家に向かう。
「遅いぞ。何やってたんだ?」
鍋に何らかを入れていた彰が言う。
「走りたくなかったから歩いて帰って来ただけ」
「アユとノゾには声かけたか?」
「かけてきた」
俺は居間に入りながら言う。
「部活の準備はしてあるのか?」
「もちろん」
「玄関に置いてあったでしょ」
「あぁ、あれか」
「アユとノゾは?」
「キリがいいところで来るって」
「じゃ、分けないでおくか。自分のとりに来てくれ」
順番に自分の分を取りに行く。その間に、望がやって来た。
「ノゾ、自分でよそう?」
「いや、よそってくれ」
「りょーかい」
俺は、自分の分を取り、居間に戻る。
「いただきます」
それぞれそう言って食べ始める。
「アユは?」
「まだ来てないな」
「返事はした?」
「返ってきたから起きてはいると思うけど」
「カケ、食べ終わっても来なかったらもう一回声掛けに行ってくれるか?」
「りょーかい」
五、六分経つと、大体食べ終わる。
「洗い物頼んでいいか?」
「時間は、大丈夫なのか?」
「ギリ」
「なら早く行け。ここに置いて行ってくれていいから」
望がそういう言うと、四人は「ごちそうさま」と言って立ち、忙しなく家を出ていく。歩は来なかった。
「カケ」
「行ってくる。洗い物も俺がするから、ノゾはゆっくりしてて」
「わかった」
俺は、立ち上がり、家を出る。屋敷に戻り、歩の部屋の扉の前までくる。
「アユ―、ご飯」
「ん~」
先ほども同じ返事だったため、部屋の中に入る。アユは、ベッドに座ってテキストを見ていた。
「腹減ってないのか?」
「いや、減ってはいるんだけど……、なんか、食べる気しないんだよな」
「うどんだけど」
「食べる」
「こっち、持ってこようか?」
「いや、そっち行く」
歩は、机にテキストを置き、ベッドから降りる。二人で部屋を出る。
「ノゾは?」
歩が家に向かいながら言う。
「もう食べ終わってると思うけど」
俺は、歩についていきながら言う。
「出遅れた」
「さっき呼びに行ったときに来ないからだろ」
「うどんだって知らなかったし」
「言ってないからな」
「そういうことは、早く言わないと」
「そもそも、アユの食欲がないとか知らなかったし」
「言ってないからな」
「自分が言ってないのに、相手に言ってもらえると思わないでほしんだけど」
「悪かったって」
家に着き、中に入る。
「お、来たな。じゃ、俺、戻るから」
「うん」
俺らが居間に顔を出すと、望が居間を出て行った。
「温めなおすから、ちょっと待ってて」
「いや、自分でやる」
歩が鍋に火をかける。俺は、居間のローテーブルに置きっぱなしの兄弟たちが使ったをシンクに運ぶ。
「今日は、カケが洗うのか?」
「一番予定がないからね。今週は、試合という試合をやってないからデータ整理もないし」
居間と台所を往復しながら言う。
「じゃ、俺もこっちで食べよ」
「居間でゆっくり食べてきなよ」
「話し相手いないとつまんない」
「普段、食べてる間ほぼ何も話さないだろ」
「確かに……、そうだな」
「まぁ、別に、こっちで食べたいなら、こっちで食べればいいと思うけど」
「言われなくても、こっちで食べるつもり」
歩はそう言いながら、火を止めてどんぶりにうどんを入れる。
「それで、勉強は進んでんの?」
俺は、皿を洗い始めながら歩に訊く。
「女中たちみたいなことを言うな」
歩がうどんをすすり、飲み込んでから言う。
「他に訊くことないだろ」
「えぇーっと、……」
歩が考え込む。が、すぐに「ないな」という答えが返ってきた。
「……運動やりたい?」
「やりたい。動きたい」
「気分転換に、ついてくる?」
「ノゾが来なかったら、相手がいないやつが出てくるだろ」
「それはそうだな」
「カケが相手してくれてもいいんだぞ?」
「俺がアユの相手をしたら、試合やりたいって言ってくるだろ」
「まぁ、俺とノゾがいなくても試合はやるだろうけどな」
「最近はやってない」
「どうしたんだ?」
「アユたちがいないと試合が成立しないことに気付いたからかな」
「そんなことないだろ」
「いや、サトとスグは暴れだすし、四つ子はいつも通りだし、ミノとトオだけじゃまとめきれない」
「……それは、そうかもな」
「だから、アユたちが復帰するまでは、多分、練習だけかな。まぁ、でも、もつとは思えないからどうなるかはわからないな」
「どうせ、やりだすんだろ?」
「その未来しか見えない。けど、冬休み中は部活が一日中入ってるところが多いから、やらなくていいかもしれない」
「そんな単純か? 同じぐらいの相手がいないとフラストレーションは溜まる一方だぞ」
「どっかでやらせた方がいいかもな」
「カケが相手するのか?」
「誰が相手をするって言ったよ」
「まとめられないなら、個人競技で勝負するしかないだろ」
「チーム競技ばっかやってきたけど、それもありかもな」
「まぁ、でも、個人競技は学校でもできるけど、チーム競技はそれなりに集まらないとできないから、チーム競技のほうがいいのかもな」
「俺たちがいくら意見を出しても、結局やるのは俺じゃないから、他のメンツに訊かないと分からない」
「俺は、やらないメンツに入ってるのか?」
「今だけな」
「いや、今後もやらないかもしれない」
「その時は、その時考える。どちらにせよ、今は無理だろ?」
「無理だな。……ごちそうさまでした」
後ろで椅子を引く音がする。
「今日、作ったの誰?」
食器をもって隣に立った歩が言う。
「誰だと思う?」
「……アキ?」
「ほかにいると思うか?」
「今日、誰がここにいたか知らない」
「そっか。まぁ、今日作ったのは、アキ」
「まぁ、そういう味付けだよな」
「どんぶり、貸して。洗う」
「サンキュ」
俺は、歩からどんぶりをもらい、すべてのどんぶりを洗いきる。
「カケは、この後どうする予定?」
「どうしよ。本屋でも行ってこようかな。冬休みに読むやつ、買ってこないと。なんか、買い物ある?」
「俺に訊くな」
「じゃ、いいや。本屋だけ行ってくる」
「毎日本屋行ってて飽きないの?」
「毎日運動してて飽きないの?」
「そういうことか」
「そういうこと」
「じゃ、俺は戻って勉強するよ」
「俺も戻る」
二人で屋敷に戻り、部屋の前で分かれる。俺は、自分の部屋に入り、財布とスマホだけ持って、部屋を出る。屋敷を出て、のんびりといつも言っている本屋に向かって歩き出す。
外歩くの久しぶりだな。
そんなことを考えながら、本屋に入ると、レジに長蛇の列ができていた。
わーお。今日って、何の発売日? 特に有名な小説の発売日とかじゃなかった気がする。
とりあえず、レジに顔を出してみる。
「あ、翔。名札だけ持ってきて手伝ってくれ」
レジの後ろにある椅子に座って何かをしていた深司さんが言う。
「わかりました」
俺は、倉庫に向かい、その奥のロッカールームに入る。自分のロッカーを開き、名札だけ持ってロッカールームと倉庫を出る。レジに向かい、中に入る。レジのヘルプに入り、長蛇の列を捌く。
あぁ、なるほど。今日は、犀川緋都先生の新作か。俺も後で買お。……っていうか、予約してた気がしなくもないな。
とりあえず、全員捌き、レジから外れた。
「サンキュ、翔」
「なんで、深司さんはやってないんですか?」
「俺は指示を出す役割がある。拓真さんがいないからな」
「拓真さん、今どこにいるんです?」
「本家の屋敷に行くって言ってたけど、いなかった?」
「見てないですね」
「そうか。……んで、ここには何をしに来たんだ?」
「本を買いに来る以外に何をするんですか? 本屋で」
「インクのにおいをかぐ」
「確かにそうですけど」
「のりの匂いもいいよな。紙も。雰囲気がいい。本屋に来るだけで心安らぐ」
「否定はしません」
「ってか、買いに来るだけなら、普通にバイト終わりに買えばよくね?」
「何が新発売されたかわかってないので、のんびり全部回るんです」
「あぁ、じゃあ、全部回ったら、ここ来て。予約してる本、届いてたはず」
「どの本ですか?」
「この辺、全部翔が予約してるやつ」
そう言いながら、深司さんが隣にある棚を指す。十冊ぐらい並んでいた。
「そういや、最近回収してなかったですね」
「ここにあるの以外にしろよ」
「はーい」
俺は、並んでいる本の題名をすべて覚え、レジを出る。ロッカールームに行き、名札を置いて、本屋を回り始める。
二時間ぐらいかけてすべてを回り、予約していた分を含めてに十冊ぐらいを抱えて帰る。
本の冊数を考えて買ったことないから、正確な数は分からん。
帰り際に、拓真さんが本屋に戻ってきて、今日のレジ打ち分は今月の分に上乗せしておくと言われた。
別に、無償でもよかったんだけど、どうしてもっていうから。
のんびりと、屋敷に向かって歩き出す。
大変申し訳ございませんでした。
いや、言い訳させてください。本当は、半分くらいで冬休みに入る予定だったんです。でも、入れなかったんです。彼らが昼ご飯を食べ始めたんです。そのまま本屋に行ったんです。僕は止められなかったんです。
次回は、 冬休み 1 です。
今度こそ、間違いなく、冬休みに入ります。




