43 ~お手伝い 前編~
本編に戻ります。
「で、俺らは、何すればいいの?」
淳さんが紙に目を通しながら言う。
「旅館が混むのは面倒だから、そこの時間調整。何時ぐらいに来てもらうのかと、どの旅館に入れるのかを決める。部屋の場所もこっちが決めるから。人数と所要時間が書いてあるからそれを参考にして。毎年、荷解きに必要な時間も書いてあるから、それも加味して考えて」
「えーっと、なんとなく理解した」
「来年から、淳に全部任せようと思ってるから、今年中に理解して」
「えっ、ヤダ。翔に回して。俺より得意だから、そういうの」
別に、得意じゃない……。
「勝手に任せないでください」
「適材適所」
「じゃあ、二人でやって、二人で理解して。来年も二人に任せるから」
「やりぃ。翔、頼んだ」
「……来年、淳だけに頼むか」
「大輝兄、そういうのはよくないと思う」
「あっそ。……まぁ、何と言われようと、俺は淳に回すからな?」
「わかったよ。ちゃんとやるよ」
「あぁ、ちゃんとやってくれ」
大輝さんは、一切手を止めずに淳さんを言いくるめた。
ほぇー。
「翔は、さっきので理解した?」
「まぁ、はい」
「じゃ、教えて」
わかってなかったのか。
俺は、俺の理解した通りに淳さんに伝える。
「なるほど。いつもと同じことをすればいいのか」
「そういう仕事しか任せてないぞ? 気づいてないのか?」
大輝さんは作業を止め、驚いたように淳さんを見る。
「俺のこと、何でも屋だと大輝兄は思ってると思ってた」
「何でも屋ではないが、仕事は回しやすいから他の奴よりは多めに回してるな。説明も、メモ書き程度で伝わるし」
「伝わってない。毎回、メモ書きと10分は格闘するし。翔がいると、早いけど」
確かに、理解してないな。いつも。俺がいるときは説明してるな。
「口頭説明したほうがいいか?」
「うん。あ、でも、今みたいな言い方されても、わからないけど」
「じゃあ、どうしろってんだ」
「翔を使う」
これ以上面倒ごとを持ってくるのはやめてくれ。……仕事は、楽しいけど……。
「翔君が使えるときに仕事を回せと?」
「それがうれしいけど、翔は、バイト行ってるから土日ぐらいしか空いてない」
「翔君、バイトをやらずに帰ってくることはできるか?」
「できなくはないです。拓真さんのところにいるので、人が多い曜日だとしたらその日の午後に伝えても休めます」
「じゃあ、俺から拓真さんに言っておくか。翔君は、なぜバイトをしてるんだ?」
「暇をつぶすためです」
お金はあるし、満足してないわけでもないからなぁ。
「なら、淳の手伝いやってもらってもいいよな?」
「まぁ、はい」
「じゃ、拓真さんに伝えとこ。翔君は、長崎で、こういうことやってたのか?」
「翔でいいです。やってました」
「それなら、いいか。淳に指示を出すよりも楽そうだ」
「どこも、同じようなことをやっているんですか?」
「そうだよ。どこも同じ」
「これは、やったことないですけど……」
「これは、ここしかやらないからな」
「そうなんですね」
「さ、やろう。翔、とりあえず分ければいい? えーっと……」
話を聞いているのが面倒になったのか、淳さんが話を遮った。
「所要時間で分けましょう。1~3時間、4~6時間、7~9時間でそれ以上はまた別で」
「7~9時間もかかるところ、あったか」
「長崎の島だとかかりますよ、そのぐらい。空港まで遠いので、ヘリコプターを使ってもそれなりにかかりますよ」
俺は、目の前にある紙の束を二つに分ける。
「まじかぁ」
淳さんが、片方の紙の束を自分のほうに引き寄せながら言う。
「俺らは新幹線できたので、もっとかかってます。ヘリも使えなかったので相当」
俺は、紙に目を通しながら、分けていく。
「何で新幹線で来たのさ」
淳さんも同じように分けていく。
「飛行機、苦手なのが、何人かいるので」
「へぇ、苦手なこともあるんだ」
「そりゃあ、ありますよ。俺たちを何だと思ってるんですか?」
「ん? うーん、ちょっと変わった親戚かなぁ」
「なるほど」
「……俺、何かされる?」
「何もしませんよ。ただ、そういう風に見られているんだと思って」
「大半の人が、そう思ってるんじゃないか?」
「それは、さすがにないと思いたいですけど……」
「大輝兄は? どう思ってる?」
淳さんは、手を止めて大輝さんを見る。
「まだ、全然話したことないから、何とも言えねぇけど……。まぁ、報告を聞いてる限りは、普通じゃねぇなと思う」
「ほらな」
淳さんがドヤ顔をしながら俺を見る。
「まぁ、俺的には、そういうことはどうでもいいから早くやってくれないか、と思ってるけど」
大輝さんがあきれながら言う。
「はーい」
その後、二人であーだこーだと言いながら作業を進め、予定を組み立てた。
「おー、すげぇな、翔。淳に任せてたら、こうはならない」
大輝さんが感心しながら予定表を見る。
「なんだよ。文句があるなら大輝兄がやれよ」
淳さんが拗ねる。
「だから、ないって言ってんだろ。お前だけに任せてたら、こうはならないが」
「えー、えー、大輝兄も翔も俺にはない力を持ってるさ。だからって……」
「翔、戻ってくれていい。……こうなった淳は、何も聞こえなくなってるからな。手伝ってくれてありがとな」
大輝さんが、仕方ないな、という顔をしながら淳さんを見る。
「あ、はい」
俺は、大広間から出て、自分の部屋に戻る。
淳さんも、あんな風になるんだな。俺と二人の時は、そこまでじゃないし、当主様たちの前だったら、絶対やらないし。やっぱ、兄の存在って、すごいんだな。
週末。
俺は部活のないメンバーを連れて、表玄関に向かう。表玄関には、冬馬様と千明様がいた。
さすがに、優斗様はいないか。
「おはよう」
「おはようございます」
「えーっと、五人?」
「五人です。午後になったら、俺だけになりますけど」
「わかった。ありがとう」
「どこを掃除すればいいんですか?」
「とりあえず、この屋敷。そのあと、旅館二つぐらい……なんだけど、たぶん、午前中には終わらないから、明日に持ち越しになるかも」
「わかりました」
「屋敷の掃除は、廊下を掃いて、雑巾がけをするのを手伝ってほしい。他は、僕たちがやるから」
「箒はどこにありますか?」
「えーっと、食堂横の扉が掃除道具入れだからその中にあるよ。雑巾もそこにあるのを使って」
「わかりました。旅館はどこですか?」
「えーっと……」
「表玄関から出て、一番初めに見えてくる旅館とその隣。そこにいる管理人に訊いて」
「わかりました」
「それじゃあ、よろしく」
「はい」
俺は、午前中部活のないメンツ―彰、稔、亨、雫―をつれて食堂横の掃除道具入れに向かう。
「どうする? 箒二本だけど」
俺は、掃除道具入れの扉を開け、中を確認してから振り返って言う。
「カケが決めて」
彰が、なぜ俺たちに訊くんだ、みたいな顔をして訊いてくる。
「えぇー……」
「ほら、早く。どうせ、旅館二つも終わらせるんだろ?」
「……じゃあ、俺とミノが箒やるから、他三人は雑巾がけ」
「了解」
彰がそう言いながら、掃除道具入れの中にあるぞうきんを三枚とる。
「どこの蛇口使うの?」
「トイレかな?」
「女中用のトイレのほうにあるかもな」
彰が女中たちが使っていた部屋の方へと歩き出し、亨と雫がついていく。
「カケ、俺らもやろ。箒で掃く方が時間がかかるんだから」
稔に箒を押し付けられた。
「そうだな。俺、裏玄関から、当主様たちの部屋の廊下にかけて掃くから、反対よろしく」
俺は、箒を受け取り、裏玄関に向かいながら言う。
「中央通路は?」
「……頼んだ。あと、俺らの部屋の前の通路も」
「カケはどこを掃くんだ?」
「二階」
「わかった」
「それじゃ」
俺は稔と別れ、二階に通じるところまで掃く。二階に上がり、一番端から掃いて、一階に降りる。再び、一階の廊下を掃き、ちょうど食堂の前で稔とぶつかった。
「雑巾組は?」
「もう、やりだしてると思う。さっき、どこからかけていいか聞かれた」
「そっか」
「そこそこ埃がたまってるんだな」
「まぁ、女中たちほどこの家にいられるわけじゃないし、千明様たちがやっていたとしても、人手不足だからな」
「俺らも、やるべきなんじゃないのか? 女中の代わりに呼ばれてるんだし」
稔が箒の柄の先に手を置いてその上に顎をのせながら言う。
「いいんじゃないか? 頼まれてないんだし」
俺は、掃除道具入れから塵取りを出してきて、集めた埃やごみを中に入れる。
「訊けよ。訊いてくるのを待ってるのかもしれないだろ」
「さぁ? で、ごみってどこに捨てると思う?」
「知るか」
「食堂でいいのか? ちょっと見てきて」
「わかったよ」
稔が俺に箒を預け、食堂の中に入っていく。
「カケ―! 危なーいっ!」
右のほうから雫の声が聞こえてきたかと思ったら、雫がこちらに向かって突っ込んできた。俺は、箒と塵取りを持って飛び上がり、雫が来た方に着地する。その間に、雫は俺が先程までいたところまで雑巾がけを終えていた。
「シズ、邪魔!」
「うわぁ」
今度は、稔が掃いてきた方向から亨が突っ込んできた。雫は、急いで亨の進行路からよける。
「アキは?」
「上」
「中央通路と俺らの部屋の前の廊下は?」
「これからやってくる。その前に洗わないとだけど」
「ふーん」
「カケは、何待ち?」
「ミノが食堂のごみ箱を確認してくる待ち」
「ふーん」
「シズ、行こう」
「うん」
亨と雫は女中たちが使っていた部屋のほうに向かっていった。
「カケ―。こっちのごみ箱に捨ててよさそうだよー」
開いている食堂の扉から、稔の声が聞こえてくる。俺は、箒を掃除用具入れに入れてから、塵取りだけ持って食堂に入る。
「どこ?」
「こっち」
稔の声がした方に向かうと、明らかにこの屋敷で出たごみがすべて入っていそうなごみ箱があった。
「これだろ? 多分」
「そうだろうな。多分」
俺は、塵取りの中にあるごみをごみ箱に捨てる。
「廊下だけって言われてたよな? 食堂はどうするんだろ」
「俺らには旅館の掃除の手伝いが来てるが、冬馬様と千明様には来てないんじゃないか? そうだとしたら、食堂はやってくれると思う」
「なら、いいか」
「さて、と。行くか。旅館」
「雑巾組が終わってないぞ?」
「さっき、トオとシズが突っ込んできたから、多分、そろそろ終わる」
「じゃ、先に行ってるか」
「いや、先に冬馬様に連絡」
「それは、向かいながらでもできるだろ。それに、俺の仕事じゃない」
「いや、直接伝えに行く」
「どこにいるんだ……。はぁ、そういや、カケはどこにいるかわかったな……」
「なんで、そんなに落ち込むんだ?」
「カケには常識が通じないから」
「その人にとっての常識が、他の人にとっての常識じゃないからな。先に行ってるなら、行ってていいぞ」
「いや、俺もついてく。カケに」
「それなら、アキたち集合させておいて。多分、旅館一つぐらいなら、終わるだろ」
「じゃ、三人を捕まえて先に行ってる」
「頼んだ」
俺は、大広間の前で稔と別れ、大広間に入る。
「あぁ、翔か」
畳に掃除機をかけていた冬馬様が俺を見つけて言う。
「さっき、叫び声が聞こえたけど、大丈夫?」
畳の雑巾がけをしていた千明様が冬馬様の声に反応して顔を上げる。
「大丈夫です。それより、廊下の掃除終わりましたが、この屋敷で他にやることはありますか?」
「も……、もう終わったの?」
「はい」
「それなら、ここでやることはないから、旅館のほうに行ってくれる?」
「わかりました」
「ありがとう」
「失礼します」
俺は、大広間から出て、裏玄関に靴を取りに向かう。四人は先に行っているようだ。
結構早めに集合してたから、もうついてるだろうな。
俺は、靴を持って表玄関に向かい、表玄関から外に出る。
久しぶりにこっちから出たな。えーっと、こっちから出て一番初めに見えてくる旅館だっけか。……ここか。
中の気配も確認したうえで、その旅館に入る。
「あ、来た」
俺が旅館に入ると、雫の声が聞こえた。雫の声がした方を見ると、この旅館の管理をしていると思われる女中と稔が何かを話していた。
「じゃあ、お願いしますね」
女中が去っていった。
「なんだって?」
俺は靴を脱ぎ、稔たちの靴の横に並べながら言う。
「ここも廊下だけ。箒と雑巾」
「三階分?」
「あぁ」
「じゃ、さっきと同じ分担でいいか?」
「やだ。交代したい」
「だってよ。俺はべつに雑巾でいいけど」
彰が俺を見ながら言う。
「トオは?」
「俺も雑巾でいい」
「じゃ、俺が雑巾やるから、カケとシズが箒で」
「箒と雑巾の場所、訊いたか?」
「階段の下」
「階段、二つあるけど?」
「右……だったはず。なぁ?」
「さぁ? ミノが対応してたから覚えてない」
「俺も聞いてなかった」
「おいっ!」
はぁ、ったく。
「とりあえず、右、行くぞ」
俺は、右の階段に向かう。
「ゴミはどうすればいいって?」
「ゴミを集めた塵取りを渡してくれって」
「誰でもいいのか?」
「さっき対応してくれた人。どっかの部屋の準備してるから探してくれって。多分、二階にいるって」
「了解」
俺は、掃除道具入れらしきロッカーの扉を開く。確かに、掃除道具が何個か入っていた。
「雑巾頂戴」
彰に言われ、俺は雑巾を三枚取り、渡した。
「使っていい水場って、どこだ?」
「こっち」
稔が先導するのに、彰と亨がついていく。
「じゃ、俺らもやろうか」
俺は掃除道具入れから箒を二本取り出し、片方を雫に渡す。
「どこやる?」
「どうやって分けるの?」
「二階、三階と一階だろ」
「じゃ、俺、二階と三階やってくる」
「了解。階段の下にゴミ集めといて」
「了解」
雫と別れ、俺はとりあえず、一階を歩いてみることにする。
厨房はあるけど、食堂はないんだな。……ホール、広いな。
とりあえず、廊下から箒で掃き始める。ホールは階段とも接続しているため、最後にやることにした。掃除中、何人かの女中に話しかけられたが、他は特に何事もなく、旅館の掃き掃除が終わる。俺がホールの掃き掃除をしている間に、雑巾組は廊下から雑巾がけを始めていた。
塵取りにゴミを集め、二階にいると言われた、掃除の説明をしに来た女中を探す。
気配で、だけど。
「どこにいる?」
掃除まで終わらせようと思ったのに……。という感じです。掃除まで終われば、次からいい感じに始まるのに……。という感じです。とりあえず、次回も掃除をしてもらいます。
大輝さんと淳さんの会話はすごく楽しく書いてます(カケたちの会話が楽しくないわけではないですよ。断じてないです)。やっぱり、新キャラを書くのは楽しいですね。
次回は、 冬休み 1 です。
これで、題名を考えずに済みますね。……長くなる予感がした方、あなたの予感は間違ってないですよ。これは長くなります。前の、長い休日ぐらいに……。




