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5 ~翔のバイト 前編~

「そうか、じゃあ、早速やってもらってもいいかな?」

「はい。あ、制服でいいんですか?」

「いいよ。というか、特に何も決めてないから、エプロンとかもないよ。名札だけつけて、僕らが横につけてるバックは、これ。一応新品」

 店長さんがどこからか、ベルトにつけられそうなバッグを持ってきた。サイズは、小説一冊は入りそうな、手のひらにのるぐらい。中に何か入っている感じだったが、蓋に隠れて見えなかった。

「これはね、在庫確認の時に使う、バーコード読み取り機を入れるもの。まぁ、それだけだとガラガラで、文庫が一冊はいるくらいの隙間が空いてるから、まぁ、何を入れてもいいよ。で、荷物を置くロッカーだけど、こっち来て」

  バーコード読み取り機って、こんなに小さかったっけ? スーパーではもうちょっと大きかった気がする。

 店長さんに手招きをされて、奥にあった二つの扉の左側に入る。

「ここ、使って」

 そこまで大きいわけでもなく、学校の部活用のロッカーぐらいのサイズだった。

 俺は、バッグをそこに入れ、学ランを脱ぎ、上に重ねた。先ほどもらったものをベルトに取り付け、バッグの中から、今、読んでいる文庫を一冊取り出して、中に入れた。

  余裕で入る。そう考えて造ってるんじゃね? 最初に作った人。本屋だし。

 今は、何が必要か分からないから、ボールペンだけ入れ、バッグを閉め、ロッカーも閉めた。

「うん。やっぱりおじさんがつけるより、高校生がつける方が、似合ってる」

「これに、似合うとかあるんですか?」

「それは、あるだろう」

 先ほどの部屋に戻る。

「あそこのモニターに、今、何があって、何がないとか、下に入ってるけど、上には出てない物とかが、分かるようになってるから、それを見てここから出したり、その場に行って、下から出してほしい」

 店長さんが、目の前にある結構巨大なモニターを指して言う。

  五十インチは超えてるだろうな。何で入ってきたとき気づかなかったんだろう。こんなにインパクトあるのに。

「あと、これ、スマホ。ここと同じもの見れるから。携帯機能はないけど。使ってくれていいよ」

 店長さんが、縦が文庫と同じサイズぐらいのスマホを渡してくる。

  俺は、覚えられるからいいけど、覚えられない人用みたいなものか。携帯機能がないって、ほぼ画面ってことじゃん。今時、タブレットでも電話できるよ。

 俺は、そのスマホを、もらった小さなバッグにしまう。

「じゃあ、次はレジ。冬馬君、千明君、僕たちちょっと出るから、なんかあったら来てね」

「うん。了解」

 冬馬様が、本を移動しながら言う。

「じゃあ、よろしくね」

 俺は、店長さんに続いて、本屋の売り場に出た。

 店内には、客は結構いるんだけど、店員さんの数が圧倒的に足りてない。……気がする。

「ブックカバーって、どのぐらいの速さでつけられる?」

 店長さんはどこかに向かいながら、言う。

  つけられることは前提なのか。まぁ、つけたことない人は大量にいるけど、そこら辺は見分けられてるって事か。

「つけられることは前提なんですね……。スピードは試したことはないですけど、つけたことはあります」

「じゃあ、ちょっとやってみて。今、欲しい本は?」

  こんな感じで、自分で買わなくても、だんだん本が増えて行くんだよな。ありがたいけど。

「大量にあります」

  欲しいけど、買いに行けてないのもけっこうあるからな。

「じゃあ、三冊持って、一階のレジに来て」

「分かりました」

 俺は、店長さんと別れて、ざっと店内を見回して、今、欲しい本のジャンルのところに向かう。

  わ、思った通りだけど、品揃え、すごい豊富。ありがたい。これは、全部読めたら、なんとなく達成感があるだろうな。

 マニアックな本の続編が欲しかったのだが、全て二冊ずつ上に置いてあった。

  これだけ大きいと、このぐらいになるんだな。逆にこれだけ大きくないと扱ってないっていうのが難点だよな。向こうに居た時も、大きいとこに行かないといけなかったから。

 違う種類の三冊を持って、一階のレジに向かった。

「ほ~、マニアックなの持ってきたね。僕もそれ好きだよ」

「そうなんですか。ここは、品揃えが豊富でいいですね。家が近いので、多分大抵の本をここで買うことになる気がします」

「それは、ありがたいね。その本は、僕からのプレゼントっていうことにしといて。まず、レジのほうは、普通にバーコードを読み取らせて、合計を出すだけだから、スーパーと変わらないだろう? 図書カードのほうは、ここにのせると、残高がわかるから、それを言う。全部図書カードで払うか聞いて、金額を手動でいれて、引いて。図書カードはこっちで捨てていいかも訊くこと」

 今、開いているレジのところで説明しながら、先ほど、俺が持ってきた本でやってくれる。

「で、ブックカバーはこの下。サイズに合わせて重ねておいてあるから、取って、つけて、渡す。つけるかどうかも聞くこと。袋はいるか聞いて、この下にあるから量に合わせて使って」

 レジの下に、何段かの棚があって、そこに大量のブックカバーと紙袋があった。

  レジの下から出してるのは、知ってたけど、こんな感じになってたんだ。へぇー。

「じゃ、ここで、一冊、ブックカバーつけてみて」

「はい」

 俺は、文庫サイズのブックカバーを取り、片方に表紙を入れ、折り返して、もう片方の端をサイズに合わせて折り、中に背表紙を入れる。この間、五秒もたっていない。

「うわお。こういう人もいるもんだな。それに、すごくきれい」

 店長さんが、俺がカバーをつけたものを手に取り、眺めながら言う。

「本当ですね。すごくきれい。やったことあるの?」

 誰か知らない、男の人が、近くにやってきて問われる。

  二十代ぐらいだろうか……。なんか、相川家だと思われる感じのオーラが漂っている気がする。

「いいえ、自分で大量買いしたときとかに、自分でやってくれといわれて、やったぐらいで……」

「それで、こんなきれいに素早くできるのかぁ……。いいなぁ」

深司(しんじ)君、あいさつが先」

 店長さんに深司君と呼ばれた、男の人が、改めて俺のほうを見た。

「相川深司。大学卒業したばかりの社会人です。よろしく」

  やっぱり相川家だ。そういう感じがしたんだよな。多分、他の人にはわからない。

「相川翔です。高一です。よろしくお願いします」

 俺は一礼した。

拓真(たくま)さん、相川って、相川家?」

  店長さんって、拓真さんていうんだ。そういえば、名札に書いてあった。

「そ。二人とも、親戚関係ってわけだ。たしか……、深司君と翔君はいとこ同士だよ」

「えっ、え~!」

 深司さんが、すごいおどろいた表情になる。俺は、表情には出してないけど、内心結構驚いていた。

  まぁ、でも、冬馬様達がはとこって聞いたときのほうがすごく驚いたから、今はもう、そこまででもない。深司さんがどういう立場の人か知らないし。

「あれ? 二人とも知らなかったの?」

 店長―拓真さんは、逆に不思議そうな顔をしている。

「はい」

「そっか。そうだよね。翔君たちは、長崎にいたからね」

  長崎に居てもいなくても、父さんたちから教えられることはなかっただろうな。

「長崎か……。あ、そういえば、少し聞いたことがある。長崎にいるいとこについて。女中たちがこそこそ話してたの、ちょっと聞こえてたから」

「何か話題になるようなこと、してました?」

「さぁ? ちゃんと聞いてないからね」

「そうですか」

 何かやったと訊きながらも、内心では、あれこれ浮かんでいた。

  よく分からないことから、どーでもいいこと、やらかしまくってるからな……。

「まぁ、とにかく、翔君は、社員がとパート合わせて、全部で十人ぐらいしかいないから、会ったら、話してみて。で、なんか質問とかあったら、僕でも誰に聞いてもいいから。あ、ちなみに、今日は僕たち含めて、五人しかいないから」

「はい」

「じゃあ、これから、よろしく」

「よろしくお願いします」

「店長ー、こっち、手伝ってもらえませんか?」

 二階からの階段のところで、店員が言う。

  さっき、俺ら含めて五人って、言ってたから、あと、一人か。

「おう、じゃあ、上は僕が行くから、二人は、冬馬君たちと在庫確認して、出しといて。翔君、その本は持って行っちゃっていいから、自分でブックカバーはつけておいてね。予約の時は、誰かを呼んで。前のページを見て対応できたら、それでいいけど」

「はい」

  まぁ、結構俺も予約してた人だし、大体分かるでしょ。まぁ、聞くが吉か。

 拓真さんが、指示を出すと階段に向かって歩き、半分ぐらいのところに居た、店員と一緒に上に登って行った。

「よし、行こう。翔」

「はい」

  勝手に呼び捨てにされてるけど、まぁ、君付けとかで呼ばれる方が、なんかしっくりこなさそうだし、嫌じゃないし、いいか。

 深司さんについて行って、最初に入れられた部屋に戻ると、まだ、冬馬様達がせっせと働いていた。

  なんか、申し訳ない……。拓真さんも深司さんも、全く気にしてないけど……。

「働きもんだねぇ、二人は」

「あ、深司さん。この箱と、この箱終わったけど」

  冬馬様でも、年上の人には、さん、をつけるんだ。何なら、学校では、千明様が話してる印象だけど、相川家に戻ってくると、冬馬様が話してる印象だな。なんかあるのかな?

「ありがとう。じゃあ、その分は、拓真さんに言っておく」

  深司さん!? ため口で話せるとか、どれだけ……仲がいいのか? 一応、当主一族だし、こっちにいたから、俺らより触れ合いはあるのだろうけど、それでも、敬語抜きは一生無理そうだ。敬語じゃなくていいと言われたけど……。

「それじゃ、僕ら帰るから。行こう、千明」

「あれ、買って行かないの?」

「今は何も持ってないから」

「そっか。車呼んでおくから、それまでここに居なよ」

「よろしく」

 深司さんは、部屋を出て行ってしまった。

「翔君は、何読んでるの?」

 深司さんがいる時は全く話さなかった千明様が久しく、話しかけてきた。千明様が学ランを着ながら、俺の持っている小説に目を向ける。

 俺は、表紙を開いて、中を見せた。

「ほー、意外意外。マニアックなもの読んでるね」

  これを知ってる!? 何でも知ってるんだろうな。話し合うかも……って前にも思ったけど……。

「それ、僕も読んでる」

  冬馬様も知ってる!? この双子、恐ろしい。俺が言えないけど。

「そうなんですか」

  なんで、こんなそっけなくなってしまうんだ。もっと話を広げたいのに……。それを、当主様一族には出来ないんだよなぁ。

「翔は、何でそれを読みだしたの?」

「特に、動機はないです。その時読んでいた小説の横にあったので、ただ手に取って、少し読んでから、まぁ、読んでみるかという気になったので」

「ふーん。他の本もそんな感じなの?」

「まぁ、そんな感じが多いですね。学校で知ったとか、読んでいた小説の後ろの方に載ってたとか、絵が好みだとか、そこらへんで見始めたりしますね。好きな設定とかもありますけど」

「誰かに勧められたことは?」

「無いです。そもそも、学校で兄弟以外だと先生とか、その時ペアにならない限り、話さないですし、話すにしても、最低限しか話さないですよ」

「僕らと同じだね、千明」

「うん。僕らの場合は、クラスのメンバーと話したこともほぼないけどね。グループとかも、僕らだけペアで組んでたから」

 二人が顔を見合わせて言う。

「僕の場合は、兄弟たちと同じクラスに一度もなったことないので、そういうこと、できたことないんですね」

「えっ、十年間で?」

「はい。僕だけ、一回もないんですよ」

「それは、すごいね。ある意味、強運というべきか」

「二人とも、車、来たよ」

 ちょうど深司さんが入ってきた。

  見計らってた? でも、扉の向こうに気配はなかった気がするけど。

「じゃ、翔、頑張れ」

 冬馬様がそう言い、千明様と部屋を出て行った。部屋の外には、車の運転手が待っていた。

「翔君、帰る時には呼んでください」

 運転手さんがこちらを見ながら言った。

「はい」

 俺が返事をすると、二人とともに、店を出て行った。

「それじゃ、翔、あれ見て、足りない本を、あそこにたたんである箱に入れて持って行って」

 深司さんの指示は、モニターを見て、足りない本を、部屋の隅に重なっている、折り畳み式のプラの箱に入れて持って行けとのことだった。

  あの箱、よく本屋で見かけるやつ……。

「あ、そんで、下に入れる時、積み重ねる時、上に置く時、いつでも、バーコードを読み込ませて。読み込ませると、何冊入れたかっていうのを入れる画面が出るはずだから、そこで、冊数を入れて、決定を押したら、本を入れて」

「はい」

「じゃ、僕は、二階に行くから、こっちよろしくね。ここは、一階と地下一階分の本しか置いてないから」

「はい」

 深司さんは、言うだけ言って出て行ってしまった。

  頑張りますか……。というか、初めての人、一人にしちゃって大丈夫なのか? あ、そんなことしていられる従業員がいないんだった。何でこんなにいないんだろう。天国なのに……。

 まだ、中高生が来ていないのか、在庫を入れたばかりなのか、あまり足りないというのはなく、ほぼ、減っていない状態だった。

  ふむふむ、○は、ある、もしくは満タン状態、△は、少し減っている状態、×はない状態か。この記号の隣に残りの冊数が書かれているから、いちいち見なくていいのは楽かも。

 △印のところの本の冊数を見て、大量の段ボールの中から、探す。部屋の中をうろうろして、探したがどこにも入って無く、よく見たら、それぞれの冊数が机の上に積み重なっていた。最初に入ってきたときにはなかったから、多分、冬馬様達が置いてくれたのだろう。

  何してたんだ、うろうろしていた時間は。少し気配があったから、気付けただろう。

 と、自分に少しムッとした。

 その本たちを、折りたたんであったプラの箱を組み立て、中に入れた。一箱にはおさまらず、二箱になってしまった。

  今、流行ってるのとかばっかり売れるから、同じ本が売れてくんだよな。ここでバイトしてれば、本の流行は分かるな。まぁ、ここで働かなくても結構敏感な方だろうけど。

 俺は、それぞれの本が置いてある場所を暗記し、二箱抱えて部屋を出て、それぞれがあるところを目指して歩く。

  ここか。あぁ、あった。よし、やるか。

 その付近に置く本たちの場所の真ん中ぐらいの通路に箱を置き、本を取りだして、置いて行く。

  あぁ、これ、場所を覚えて、箱に入れる本を分けるようになりたいな。

「あのぉ~、すみません」

 新メンバーは、拓真さんと深司さんでした。(男性しか出てこない小説というのは……)

 翔の周りに出てくる人はみんな、当主様につながっているキャラが多いですね。

 そして、僕も、バイトするなら本屋が良いなぁ、思います。(いつか、してみたい)

 ブックカバーは、簡単につけられます。(僕でもできます)


 次回は、翔の本屋バイト続きです。

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