41 ~雫と翔の話し合い~
文化祭の翌週、体育の時間。
今日は、バドミントンをするらしい。俺たちの兄弟の中にはバトミントン部はいない。俺のクラスと暁と傑のクラスには何人かいるらしいが、手本を見せるために呼ばれたのは俺たちだった。
先生が口頭で説明をし、それを見せるという感じで暁と傑が実演していた。二人ができないことはないため、難しい技も難なく決めていた。
俺? 俺は、もちろん面倒だからって断った。
その後、二人でチームを組み、四チームぐらいで一つのコートを使い、練習を始めた。俺たちは、冬馬様と千明様、暁と傑、俺で別れて一番端のコートを使う。クラスメイト達は、誰も俺らの相手をしたくないらしい。
先生が遊びに来るかもしれないぐらいだな。
俺が一人なのは、クラスの男子が奇数人だからだ。
「どうしますか?」
「先、どうぞ。さっき、体動かしてたし、僕達よりは体あったまってるでしょ?」
俺が冬馬様たちに訊くと、千明様がそう返してきた。
俺はあったまってねぇ……。
「先に二人で……」
先ほどまで後ろにいた暁たちに話しかけるために振り返ったら、もう片方のコートに二人は立っていた。
「カケ、やるぞ」
提案すらさせてくれないのかよ。まぁ、そうなるとは思ってたけどさ。少しぐらい準備運動の時間くれたっていいよな?
俺は、二人とは反対のコートに一人で入る。
「最初から全速力で来るなよ。俺、まだ何もしてないから」
「大丈夫だよ。あんなのだったら、俺らもあったまってないから」
そう言いながら暁が軽くサーブを打つ。俺が軽く打ち返すと、傑が打ち返してくる。また、俺が打ち返すと、暁が打ち返してくる。少しラリーを続け、体があったまってくると、スマッシュの練習を始める。初めは、暁と傑たち。その後に俺がやる。
何回かスマッシュ練習を繰り返している間に、周りを見回し、冬馬様たちの準備が終わったことを確認する。今まで打ってきたスマッシュよりも少しだけ威力を上げたスマッシュを打つ。暁と傑は反応したものの、打ち返せなかった。
「……っ、カケ、ここでそれは反則っ」
「それ、やるなら先に言ってよ」
二人から猛批判を受ける。
「プレーを止めるだけだったし……。っていうか、言ったら威力を上げる意味なくない?」
「だから、止めようって言ってくれるだけでよかったんだってば」
「どうせ、止めないだろ? ラリーが続いてたら」
「……そ、そうかもしれないけどさ……」
まだ納得していなさそうな二人を置いて、俺はコートを出る。
「冬馬様、千明様、どうぞ」
「翔、相手して。さっきの受けてみたい」
冬馬様が少し目を輝かせながら言う。
「先に、サトとスグとやってもらえませんか? 少し休憩したいです」
「分かったよ」
俺と入れ替わりで、冬馬様と千明様がコートに入る。
「サト、スグ、手加減すんなよ」
俺は、体育館の端の方に座りながら言う。
「わーってるよー」
暁から返事が返ってはきたが、あまり従う気はなさそうだ。俺は、ボーっと目の前で行われているラリーを眺める。
さすがに、サトとスグの二人の相手は疲れるな。それぞれの弱点を把握してるとはいえさ……。一緒には敵に回したくないタイプだ。一人ずつならまだしも……。
目の前のラリーでは、暁と傑が少し手加減をして、ずっとラリーが続くようにしていた。
手加減すんなって言ったのに。
「カケー、そろそろ交代」
傑が千明様から打たれたシャトルを打ち返しながら言う。
「りょーかい」
俺は、横に置いてあったラケットを取り、暁と傑のいるコートに入る。暁と傑は、コートを出て行った。ラリーを止めることなく交代する。
「翔、あれ、打ってよ」
冬馬様が俺の打ったシャトルを打ち返しながら言う。
「危ないので、嫌です」
「僕たちは動かないから」
「……分かりました。絶対に動かないでください」
「動かないよ。けがはしたくないからね」
冬馬様はそう言って、スマッシュが打ちやすいようにシャトルを打ち返した。
別に上げてくれなくてもよかったけど……。
俺は、先程、暁たちに打ったようにスマッシュを打つ。
「……うわ……っ」
「こんなの、よく反応できたね」
「動かないと言ったけど、これは動けない……」
向かいのコートにいた冬馬様と千明様は、一歩も動かなかった。というより、一歩も動けなかったというべきだろう。動くなと言っていたが、動けるはずがない。暁と傑が反応しただけで返すことはできなかったんだから。
「カケ、もう一回、それ受けたい」
コートの外で座ってこちらを見ていた暁が言う。
「俺も」
傑が暁の横で立ち上がりながら言う。
「いいよ。交代しよう」
冬馬様がそう言いながらコートを出る。千明様が続いて出ると暁と傑がコートに入る。
「あと、何回打てる?」
「何回でも」
「じゃあ、俺らが拾えるようになるまで」
えぇー、それ、いつ終わるんだよ。
「終わりそうにないから、手加減していいか?」
「いいわけないことをわかってて訊いてくるな」
ですよねー。
一回兄弟たちに見せたものは、手加減をしたら即バレる。その時に受けた兄弟だけでなく、それを見てた兄弟も、だ。だから、最初に見せるときにそれなりに手加減をしないと、俺自身がつかれることになる。
結局、授業中、俺はずっとスマッシュを打ち続けた。暁たちが返せるようになったのは、授業の最後のほうだった。暁たちが休憩に入り、冬馬様たちの相手をやっているときに、先生がやってきて、俺にも打ってくれ、と言ってきたときは少し手加減をしようかと思ったぐらいだ。
するな、って言われたからしなかったけど。
先生は十回ぐらい受けてから諦めて戻っていった。
「カケ、俺らにもスマッシュ打って」
誰からか話が回ったのか、晴さんの迎えを待っているときに歩に言われた。
まぁ、考えられるとしたら、先生か……。
「誰から聞いたんだ?」
「先生。今日、体育あったから」
だろうな。俺たちは会う暇なかったし、チャットにも流れてなかったし。
「嫌だ」
「別に、体育館にはいかないから。そのへんで」
その辺で打ち返せるようなのは打ってない。
「俺、この後バイトだし」
何とかして逃れようとする。
「バイトから帰ってきたら。部活組待ってる間に時間あるだろ?」
「暗くて見えないよ。この時期」
「じゃあ、今日、体育館だから、そこで打って」
嘘だ。それだけは絶対嫌だ。どうせ、全員の相手することになる。それだけは絶対に避けねば……。
「嫌だ。体育館とかありえない。全員いるだろ」
「えー、じゃあ、今日じゃなくてもいいから、いつか打ってよ?」
「いつかな」
このまま、打つことがなかったらいいんだけどな。
その後、晴さんの迎えが来て、全員乗り込むと晴さんが車を発進させる。俺は、乗り降りしやすいように助手席に座っていることが多い。
まぁ、一番晴さんに慣れてるのが俺だからっていうのもあるだろうけど。
本屋の前で降ろしてもらい、本屋に入る。
「こんんちは」
今日は、社員が少ない曜日のため、一階のレジには拓真さんしかいなかった。ほかに、深司さんと舜さんはいるだろう。この後、バイトの人が何人か増えるはずだ。
ロッカーにバッグを置き、名札とベルトポーチをつけ、一階のレジに向かう。
「翔君」
一階のレジに着くと、奥の椅子に座って事務作業をしていた拓真さんに呼ばれた。
「はい。なんですか?」
「一応、全部の階の在庫、見てきてくれる? 深司君が三階にいるけど、どうなってるかわからないし。あと、舜君も見てきてほしい。下にいるから」
「わかりました」
俺は、とりあえず地下一階に向かう。
「こんにちは」
俺は、レジに立っていた舜さんに声をかける。
「こ……んにちは」
「後ろの椅子に座ってても大丈夫ですよ? 今、お客さんいないので」
「あ、はい」
「……まぁ、よくはないですけど、深司さんはよく小説を読んでるので、そのぐらいはリラックスしててください」
「……わかりました。……けど、さすがにそこまではしません」
そういいながら、舜さんはレジの奥にある椅子に座る。
「それじゃ、俺は戻ります」
俺はそう言って、レジを出て倉庫に向かう。
「……足りないのは……、ない……か」
俺は倉庫を出て一階に戻る。そのまま、二階に向かい、二階の倉庫に入る。
少しだけ抜けてるな、漫画。
手に持てる量だけ漫画を持って倉庫を出る。全て二階にある漫画のため、三階に行く前にすべて入れてから、お客さんがいないことを確認し、三階に向かう。三階に着きレジを覗くと、深司さんが奥の椅子に座り小説に読みふけっていた。
「ちょっと、深司さん! わかってはいましたけど、どこまでのめりこんでるんですか」
何回か呼びかけると、深司さんは面倒くさそうに俺を見上げた。
「あぁ、翔か」
「さすがに、小説の世界に入り込みすぎです。お客さんが来てもわからないじゃないですか」
「ん」
「あとで、一応拓真さんに報告しておきますね」
「それだけは、やめて」
「じゃあ、俺は、戻ります」
「あぁ」
深司さんは、一応本を閉じ、俺のほうを見て言った。
「入り込みすぎないようにしてください」
「多分な」
深司さんはまた小説を開き、文字を追い始める。俺は、ため息をついてから、一階に降りた。
「確認、終わりました」
一階のレジの奥に座っている拓真さんに言う。
「ありがとう。深司君は何をしてた?」
俺が言う前に、訊かれた。
「……小説読んでました。俺が行っても気づかないぐらいには」
「まぁ、予想はできてたけど……。そろそろ減給してもいいかな? どう思う?」
「俺に訊かないでください。拓真さんの店ですから、拓真さんが決めたらいいと思います」
「一応、相川の店だよ。今は、僕が店長をしてるってだけで」
「拓真さんの店で間違ってはないと思います。当主様の弟ですし」
「まぁ、そうだね」
「……二階にいたほうがいいですか?」
「そうだねぇ。お客さんが三階に行ったら、様子見てもらえる?」
「わかりました」
いつも通りの時間にバイトを終え、歩いて屋敷に戻る。
屋敷につき、自分の部屋に向かおうとしたら、廊下が兄弟たちでふさがれていた。
「何やってんの?」
練習に行くには早いよな? いつもより。
「これから練習。早く行くぞ?」
「今日も晴さんいないから、歩き」
「りょーかい」
俺は、兄弟たちの間を縫って、自分の部屋に向かう。荷物を置き、制服から私服に着替え、スマホと財布だけ持って部屋を出る。
「タオル」
部屋を出ると、目の前にいた歩に言われた。
「今日は動かない」
「じゃあ、行くか」
ぞろぞろと屋敷から出て、二列になって今日の練習場所に向かう。
「ねぇ、カケ、明日の午前中、時間ある?」
俺の隣に並んだ雫が言う。
「俺はあるけど……、シズは部活じゃないのか?」
「部活は午後から。ちょっと聞いてほしい話があるんだ」
「別にいいけど。俺でいいのか? シズの場合、ノゾとか」
「カケでいい」
「あっそう」
「だから、空けといて」
「了解」
いつになく、雫が強引だった。
普段だったら、空けといて、なんて命令形で言わないからな。
「そこまで、珍しくないと思うんだけど……」
俺の思考回路を読んだのか、雫がボソッとそう言った。
まぁ、俺らの思考回路、今までの経験で大体わかるからな。読まれててもなんとも思わない。
「いや、珍しい」
「まぁ、うん。そうかもしれないけど……」
「だから悪い、ってことはないからな」
「わかってる」
そんな話をしているうちに、体育館に着く。
今日は体育館なのか。断っといてよかったな。
「何かすることある?」
荷物をベンチにおろしている歩に話しかける。
「今日は……、特にないな。前のチームのままでいいし。カケもやるか?」
「タオル持ってきてない」
「だよなぁ。俺の貸すのは?」
「ない」
「わかったよ。じゃあ、いつも通りで」
「了解」
結局、二分ハーフの試合を三セットやり、帰宅する。
よく動くよなぁ。休憩十分も取ってないんだよ? 部活帰りなんて一日に何時間動いてんだよ、って感じだよな。
翌日。
朝ご飯を食べ、片づけをしてから自分の部屋に戻る。雫から午前中のいつ来るかは聞いていなかったため、普通にデータ処理の準備を始める。すると、すぐにドアがノックされた。
「俺」
ドアの向こうから雫の声がした。
「どうぞー」
俺が返事をすると、扉が開いて少し気落ちしている雫が入ってきた。
「あ、ごめん。データ処理やるところだった?」
「まぁ、いつやるとは聞いてなかったから」
「ごめん」
「そんなに謝らなくていい。俺も準備してただけだから」
「そっか」
「とりあえず、どっか座れよ」
「うん」
雫はベッドに座り、俺は椅子に座る。
「で、どうしたんだ?」
雫に任せていたら、一向に話し始めそうになかったため、俺が話を振る。
アユたちは向こうから話し始めるからな。
「……えーっと、……自分の人格って……なんだろうと思って」
「誰かになんか言われたのか?」
そうでもしないと、シズはそんなことを考えない。……というか、周りの声を受け止めすぎるところがあるな。
「……体育の時に」
「人格変わるってか?」
「……うん」
「そうだなぁ。まぁ、運動してる時のシズは別人かと思うよな」
まず、顔つきから変わるよな。視線とか。
「カケも、そう思うの?」
「思わない、と言ったら、嘘になるな」
「でも、カケだって……別人になる。……運動してるとき」
「そうかぁ?」
「カケが……本気を出したらね」
「出してるよ」
少なくとも俺は出してると思ってる。
「出てない」
「……っていうか、俺の話はどうでもいいだろ」
「で、どうなの?」
「まぁ、どうなんだろうな。人格っていう定義が難しいけど……」
俺も、あんま考えたことないから。
「うん」
「……例えば、シズの人格が、教室にいるとき、家に一人でいるとき、部活中、運動中、俺たちといるとき、の五つあるとしたら、人格が変わったように思えるんじゃないか」
「そんなにあるかな?」
「なかったとしても、簡単に言えばそういうことだと思う」
人格ってそんなもん。
「うん。なんとなくわかった」
「……といっても、全部シズであることに変わりはないし、すべての人格がシズを作っているわけだからさ。俺的には、そういうシズもいるんだぁ、ぐらいに思ってるけど」
「みんなもそのぐらいでいいのに」
「難しいだろうな。それに、シズの場合無自覚だろうから、自分で変えようと意識してもうまくできないから困ってるんだろうし」
「どうしたらいいのかなぁ」
「どうしたらいいんだろうなぁ……。学校とかで、運動と同じテンションではいられないだろうし」
「無理だよ。同じテンションなんて」
「シノに訊いてみたら? 似たような感じだろ」
「シノと俺は違う。シノはあまり変わらない」
まぁ、シノはシノの世界を生きてるって感じだからな。
「ペアが、トオってこともあるのか」
「トオが悪いってこと? そんなことはないと思うんだけど……」
「ミノよりは、動くだろ?」
「そうだね。普通に動くの大好きだし」
「運動のことになると、一般人ではなくなるからな」
「うん」
雫は、部屋に入ってきたときよりも明るい表情になっていた。
「ま、別に、人格が変わって何かが起こるような奴じゃないから、大丈夫だろ。シズは」
「うん」
「サトとスグは人格が変わるようなこともなければ、おとなしくなるようなこともないからな……」
「変わってほしいの?」
「いや、あいつらは変わらなくていい。というか、変わったほうが驚く。……ただ、おとなしくなってほしい」
「二人にしなければ、そこまでうるさくないんだけどね」
雫が苦笑しながら言う。
「まぁ、な。それがあいつらのいいところでもあるから。……落ち着いたか?」
「うん。ありがとう」
「礼を言われるほどのことはしてない。……午後は部活か?」
「部活」
「がんばれ」
「その前に、昼ご飯を食べるけどね」
雫は、そう言って立ち上がって、部屋を出て行った。
区切りがいいところまで書きたい、と思ったら、いつの間にか普段より1000字くらい多くなりました。
雫と翔の話し合いってサブタイトルを入れているにもかかわらず、ほぼ話してないじゃないか、って言わないでください。
文化祭の時よりも生き生きしている兄弟たちです。
次回は、冬休み 1 です。
最近、全然書けていなくて焦っています。次話も書けていません。




