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39 ~彰と翔の話し合い~

「それじゃ、行きましょう。とりあえず、在庫確認の仕方と、出し方を教えます」

 俺は、新人の大学生を連れて、倉庫に向かう。

「名前、教えてもらえませんか?」

「相馬舜です」

  舜さんね。覚えた。

「舜さんですね。ここは、来たことありますか?」

 倉庫に着き、舜さんに訊く。

「休憩室に行くのに、通りました」

  敬語、なんか苦手なんだよな。

「俺、高一なんで、敬語抜いてもらって構いませんよ」

「え、あぁ、はい」

「敬語、抜きたくなければ、抜かなくてもいいです。無理する必要はないんで」

  俺が、苦手意識を持つだけで。

「わかりました」

「えぇと、まず、この画面に在庫の有無が表示されていて……」

 と、俺も深司さんに教えられたように教えていく。

  まぁ、俺はそんなに詳しく教えられてないけど。

「なんとなく、わかりました」

「まぁ、この店は、なんとなくで何とかなります。置き場さえ間違えなければ。何も言われません」

「置き場さえ間違えなければいいんですね?」

「はい。置き場さえ間違えなければ。……あと、やることは……、大体、拓真さんに指示されると思うので、拓真さんに訊きに行くか、自分で動くかですね。今みたいに、拓真さんがいない日は、一応、深司さんって、……あぁ、さっき俺が言いあってた人です……が、責任者です。まぁ、深司さんが責任者の場合は、自分で考えて動いたほうがいいと思います。深司さんは、指示出しが下手なので」

「分かりました。……あ、そういえば、名前訊いてなかった……。名前、教えてください」

「そういえば、そうでしたね。俺、相川翔です。よろしくお願いします」

  名前言うの忘れてるとか、安心しすぎてるな。

「全員相川姓なんですね」

「まぁ、親戚なんで」

「……一つ訊いても良いですか?」

「なんでしょう」

「どういう関係なんですか? その……深司さんと。親戚って言ってましたけど……」

「深司さんは、俺の従兄です」

「拓真さんも……親戚って言ってましたけど、拓真さんとは?」

「拓真さんは、俺の父方の従弟ですね」

「へぇ、そうなんですね」

  親戚関係訊いてどうするんだ? まぁ、良いけど。

「なんとなく、同じ雰囲気を感じます」

「まぁ、親戚で、同じ本屋で働いていたら、同じ雰囲気にもなりますよ。類は友を呼ぶって言うか、そんな感じです」

「分かる気がします」

 すると、俺のスマホが鳴った。

「すみません。出ても良いですか?」

「はい。……えーっと、外にいたほうがいいですか?」

  相手は……拓真さんか。それなら……。

「どちらでもいいですよ。拓真さんなんで」

「じゃあ、出てます」

 俊さんが倉庫から出て行き、俺は拓真さんからの電話に出る。

「はい。翔です」

「深司君に、舜君に教えること頼んだんだけど、どうなってるかな?」

  拓真さんが電話をかけてくるのって大体こういうことだよな。

「この電話を俺にかけて来てる時点で、分かってるんじゃないですか?」

「まぁ、なんとなくね。深司君にかけても、話にならなそうだったから。しかも、長いしね」

「そうですね。一応、俺から、在庫の確認の仕方と、店内に出す方法は教えましたけど、どうすればいいですか?」

「一旦は、それだけでいいよ。僕も、もう少ししたら戻るから、それまで頼んでいいかな?」

「分かりました」

「今は、混んでない?」

「混んでないと思います」

  見てないから分からない。

「じゃあ、ブックカバーのつけ方だけ……知ってたらいいんだけど、知らなかったら教えてあげておいてくれるかな?」

「分かりました」

「それじゃあ、よろしく」

「はい」

 拓真さん側から電話が切れ、スマホをポケットにしまった。扉の上についているモニターを見上げ、今の在庫状況を確認する。

  特に、少なくなっているところはない、か。

 俺は、倉庫を出る。一階のレジに向かう。

「今日は、やけに空いてますね」

 いつも以上に並んでいる人が少ない。一人でレジが回っている。

「いや、コミックの方は、大変みたいだぞ」

 先程と変わらない場所に座っている深司さんが言う。

「そうだったとしたら、そんなのんきなこと言ってる場合ですか?」

「だって、僕は、舜君についてないとだし……」

「じゃあ、俺がついてるんで、深司さん行ってきていいですよ」

「バイト二人を残していけるか!」

「そのバイトに、教育係、押し付けてましたよね?」

「それは……。人には、向き不向きがあるから」

「はぁ……。さっき、拓真さんから電話があって、もう少ししたら戻ってくるそうです。それまでは、よろしくとのことでした」

「なんで、それ、翔に言ったわけ?」

「知りませんよ。そんなこと」

  まぁ、知ってるけど。深司さんには絶対言えない。多分、自覚してないから。

「まぁ、いいや。拓真さんに頼まれたし、上、行ってくる。翔、下、頼んだ」

「分かりました」

 深司さんは、面倒くさそうに立ち上がって二階に上がって行った。

「舜さん、ブックカバーって、つけたことありますか?」

「……ない、と思います」

「何かは、分かってますか?」

「はい」

「じゃあ、つけてみましょう。俺の文庫本、貸すので」

「あ、ありがとうございます」

 俺は、ベルトポーチから文庫本を取り出し、付け方の手本を見せる。

「やってみてください」

「はい」

 舜さんは、迷いがない手つきでブックカバーをつける。

「うまいですね」

「翔君より、きれいではないけど……」

「このレベルでできたら、問題ないです」

 すると、本屋の扉が開いて、拓真さんが入ってきた。

「お疲れ。今、どんな状況?」

「えっと……、俺が見に行ったわけじゃないので、本当かは分からないんですけど、漫画コーナーが混んでいるらしいので今いる店員さんがほぼ上に行ってる状態です。舜さんには、カバーがけのやり方も教えました」

「ありがとう」

 その後は、いつものようにバイトをし、屋敷に戻った。今日の兄弟練習には行かず、今日行われた体育祭の記録をデータ化し、分析して兄弟チャットに送った。そして、兄弟たちが帰ってくるまで、小説をずっと読んでいた。

  ここ最近なかった、至福の時間……。

 そのかわり、帰ったら、すぐに風呂に入れるように風呂を沸かすのと、晴さんへの連絡は頼まれたが、至福の時間が取れただけよかった……ことにする。風呂を沸かすのは、四つの家を回り、一軒ずつお湯をはっていく。

 夕飯を食べているときは、もっぱら、体育祭の話で盛り上がっていた。

  楽しかったなら、よかったな。特にアユたち。


 体育祭が終わった翌々週には文化祭が待っており、どこの部活もこの二週間だけは、文化祭の準備に追われている……らしい。

  部活組は、体を動かしたいから乗り気ではないらしいけど……。

 俺や、冬馬様たちのような帰宅部には全く関係のない話だ。クラスの出し物はあるが、俺や冬馬様たちが動くと、クラスのみんなが動かなくなる……というより、動けなくなるため、いつものように帰っている。

  まぁ、俺の場合、本屋に行ってるけど。

 そんな、二週間の真ん中にある土曜日。部活組は、朝から学校に行っている。……と、思っていた。椅子に座って本を読んでいたら、突然視界がふさがれ、何かと思ったら彰が後ろに立っていた。

「部活は?」

 俺は、本を閉じながら、彰の顔を覗き込んで言う。

  トオが部活だって言ってたから、アキもあるはず……。

「休み」

 彰がベッドに腰をかけながら言う。

「部活自体が、休みというわけでは、ないんだろ?」

「俺だけ」

「アキが部活に行かないの、珍しいな」

「なんか、疲れた」

「体が?」

「どうだろ。なんか、色々面倒になった。……今は……、誰もいたぶる気になれない」

  アキが、人で遊ぼうとしないなんて、ほぼないぞ? 本当に、どうしたんだ?

「なんか、改善方法ない?」

「そんなの、知るかよ」

「そんなこと言わないで」

「……まぁ、アキが言ったように、疲れてるんだろうから、休めば?」

「疲れてもいるんだろうけど、なんか、こう、違うんだ」

  そう言われてもなぁ。アドバイスとか無いし、どうしたらいいんだ?

「……アキってさ、がむしゃらに突っ走る方か、目標を立てて頑張る方、どっち?」

「どっちだと思う?」

 俺の思いついた質問に、彰は質問で返してきた。だが、全く考えていない質問の仕方ではなく、自分の答えを持ったうえでの、質問だった。

  俺のこと、遊んでないか?

「アキが、何も考えず、がむしゃらになってるところを見たことがないし、目標に向かって頑張ってるところも見たことない」

「じゃあ、その二つの選択肢で訊いてくるな」

  だな。……何を訊けば、見えてくるかな。

「アキは……、どういう考え? ……自分って、どんな性質だと思う?」

「自分の思ったように生きる」

  四つ子は、全員同じ回答をするだろうな。欲しかった回答ではないけど……。

「いや、そういうわけじゃ……ないんだけど……」

「他にない」

「俺が、考えるにはさ……」

「うん」

 彰は真剣に聞く気だ。目で分かる。

  こっちも真剣に考えて、答えなきゃってなるんだよな。

「……アキは、その時その時でやりたいことがあって、……それが……目標ってわけじゃないんだけど、……やりたいことは、やり遂げたい、って考えだと思っててさ……」

「うん」

「うまく説明できないんだけど……。そんな感じ」

「うん」

「……で、……今って、……多分、……部活の出し物はちゃんとやりたいと思ってる……」

  アキは、結構なんでも楽しむスタイルだからな。運動以外でも。

「うん」

「でも、体も十分に動かしたいって、思ってる……」

「うん」

「……他にも、何個かやりたいことがある……」

「うん」

「……でも、それは、すべて一気にできなくて、どれもできてないって感じる……」

「うん」

「……自分で、どれから手を付けたらいいか分からなくて……。でも、時間は勝手に過ぎてく。それで、時間は経過しても、何もできてないって、感じる」

「うん」

「だから、やりたくないって思うし、疲れたって感じるのかなって」

「うん」

「それに、……やりたいことが何もできてないから、自分で自分を追い込んでるのかなって」

「うん」

「……アキはさ、仕草から人の心情を読み取ることを得意としてるからさ、自分の心情にも、過剰に反応してさ、今の状態に陥って、頭とか体とかがダウンしてるのかなって」

  ……うまくまとまらない。あまり、こういう話は、しないから……。

「なるほど……」

「……なんか、見つかった?」

「どれから、手を付けるべきだと思う?」

「それは、自分で決めて。……とりあえず、休むことをお勧めするけど」

「了解。寝てくる」

「うん。おやすみ」

 彰は、入ってきた時より、満足げな顔をして部屋を出て行った。

「寝てくるって言ったって、昼ご飯どうするんだ? 今日は、個人で食べろって言われたけど……」

 そんな、独り言をつぶやきながら、彰が来る前に読んでいた小説を開く。現実世界から離れ、小説の世界に飛び込んだ。

 その後、読みふけってしまい、気づいたときには兄弟練習に行く一時間前だった。同じ体勢でずっと本を読んでいたからか、お腹はあまり減っていなかったが、体中が痛かった。

  はぁ、なんか、食べといたほうがいいよなぁ。昼抜いたし。この後、二、三時間付き合わされると考えたら、それなりに食べなきゃだけど……。どうしようか。

 そんなことを考えていたら、読み終わるのを見計らっていたかのように、部屋の扉がノックされた。

「カケー、部活組が早く帰ってきたから、もう行くぞ」

 歩が扉の向こうから言う。

  いや、早すぎだろ。後、一時間あると思って少し計画を立て始めてたのに。

「おーい、カケー?」

 扉の開く音がして、歩が中に入ってきた。

「何?」

 俺が、振り返って言う。

「いや、だから、練習、行くぞ?」

「分かってる」

  悟られないように……。

「……ご飯、食ってないだろ」

  一瞬でバレた……。……アユにしては、鋭い……。。

「……そうだけど……」

「何、食うんだ?」

「えっ?」

  何を食べるか訊かれるとは思っていなかった……。

「晴さん、今、当主様の送迎中だから、歩いていく。途中でコンビニとかに寄って、買ってってもいいだろ」

  そういうことを訊いたわけではないが……。

「別にいい。皆が準備してる間に、近くのコンビニ行ってくるから」

「いや、だめだ。一緒に行く」

  頑固だな。

「まぁ、一緒に来るなら、一緒でもいいけどさ」

「準備しろよ」

「わーってる」

 俺は椅子から立ち上がり、練習に行く準備をする。……といっても、ポケットに財布と小説とスマホを入れるだけだが。

「……カケなら気づいてると思うけど、ノゾたちは先に行かせたからのんびり行こうぜ」

  ……気づいてなかった。

 小説を読んでいる間は、気配を探っていない。精神的に疲れるからだ。

「アユが遅れるけど、いいのか?」

 気づいていないことをなんとなく言う気になれず、質問した。

「準備して、先に始めておいていいって、伝えてあるから」

  そういうことじゃないっ。

「アユができないけどいいのか、っていう意味」

「それは、問題ねぇよ。カケのご飯の方が大事だし」

  なんで、俺なんだ?

「それなら、いいけど」

 部屋の電気を消して、歩と一緒に部屋を出る。屋敷の裏玄関に向かい、屋敷の外に出た。

「今日さ、アキが家にいたけど、何か知ってるか?」

 のんびりと相川家の管理する体育館がある方向に向かいながら、歩が言う。

「なぜ、俺に訊く?」

「知ってそうだから」

  アユには、話しておくか。

「まぁ、本人から部活に行きたくなかったから、って聞いたけど」

「アキは、気分屋な部分もあるから、何とも言えないな」

「今回は、精神的にやられていた感じがした」

「そっか」

「さっき、アキに会った?」

「会った」

「じゃあ、どんな感じだった? アキ」

「いつも通りだなぁ、って感じたけど」

  そう簡単にアキが立ち直れるとも思えない。いつも、立ち直るの結構遅い方だから。

「アユの見た感じは当たらないで有名だから、何とも言えないな」

「そう思ってるなら、俺に訊くな」

「訊かないことには、何も始まらないだろ」

「まぁ、そうだけどさ。……俺に訊かなくてもよくねぇか?」

「今は、アユしか訊く人がいないから」

「それも、そうだな」

 体育館に向かう途中にあるコンビニに立ち寄り、軽食を買った。そして、再びゆっくりと体育館に向かって歩き始める。

 体育館に着くと、兄弟たちはもう練習を始めていた」

「カケのご飯、ちゃんと買わせた?」

 体育館に俺と歩が入ると、望が真っ先に気づき、近寄ってきてそう言った。

「あぁ」

 歩が答える。

「カケ、ちゃんとご飯食べろよ」

 望が歩越しに俺を見て言う。

「本、読んでたらいつの間にか時間が経ってて……」

「とりあえず、向こうでご飯食っとけ。今日は十分のゲーム十回やるぞ」

 歩が体育館の端の方を指しながら言う。

「はーい」

 俺は、体育館の端に座り、買ってきた軽食を食べる。すべて食べ終わると同時ぐらいに、皆の個人練習が終わる。

「カケ―、食べ終わったか?」

 深司さんより頼りにされてる翔。どこに行っても、それなりに重要なポジションに着けるのは、翔の人柄でしょうかね。

 そして、彰との会話。何もやりたくない時って誰しもありますよね。頭が働かない時というべきか……。

 読書をしているとご飯を食べることを忘れるのは、よくあります。


 次回は、 文化祭 です。

 

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