37 ~体育祭 前編~
本編に戻ります。
今日は体育祭当日。朝から兄弟たちが異常に元気だ。いつもは遅く起きてくるメンツも、俺より早く起きていた。
まぁ、そうなるよな。中学の時も小学生の時もそうだったし。
「朝から元気だったね」
HRのために教室に入ると、後ろからついてきていた冬馬様に言われた。
「元気すぎて、疲れました。もう、一日の体力使い切りました」
「これから、始まるのに?」
「まぁ、もう仕方ないって諦めてますけど」
「それが一番かもね」
HR後、校庭に出て全クラスが集まると、開会式が行われる。その後、それぞれのクラスの応援席に向かい、種目が行われていく。持久走などは、あまり面白くないため中間あたりに行われることが多い。一番最初の種目は、50m。その後、100m、200mと進んでいき、持久走となる。200mには、冬馬様、千明様、優斗様が出場していた。
俺は、次の種目に出場する人たちの待機場所に向かうと、一年の兄弟たちは全員揃っていた。
「早くねぇ?」
俺が、兄弟たちがいるところに向かい、そう言う。
「カケが遅いだけ」
「体育の時って、何分だった?」
「俺が7分、ミノが15秒、他が30秒」
「10秒は更新したいな」
「ストップウォッチは、どうすることにしたんだ? アユとカケに任せっきりになってたけど」
「俺が、全員のを計ることになった」
「はぁ? 七個持ってんのか?」
「いや、二つ」
「俺らとか、サツたちのどうするんだ?」
「どうせ、大体同じ秒数で帰ってくるんだろうから、そこまで刻む必要ないと思ったし、覚えれば問題ない」
「頑張れぇ」
「お前らがやってくれてもいいんだぞ?」
「いや、無理」
「カケがやるってことは、カケが一番早くゴールするってことだよな?」
「負けねぇよ。俺のタイムになるわけじゃなくて、戦いだし」
俺がそう言うと、兄弟たちが驚いた。
「……冬馬様になんか言われた?」
「もしくは、千明様」
「なんも言われてないけど?」
「まじ?」
「うん」
「そっかぁ」
なんか、兄弟たちがうれしそうなんだけど、なんで?
「一年生の持久走に出る方、ラインに立ってください」
持久走のコースは、校庭から出て学校の外を一周し、戻ってきて校庭を二周するコースだ。約六キロ。
全員がラインに立つと、スタートの合図が鳴る。俺は、スタートの合図が鳴ると同時にストップウォッチをスタートさせ、ポケットに入れてから走り出す。
ポケットにストップウォッチが入ってたところで、支障はないからな。
少し、兄弟たちと並走し、その後は一人だ。それなりに走ったと感じる頃には、校門が見えてきていた。校内に入り、校庭に入る。二周し、ゴールテープを切った。ポケットからストップウォッチを取り出し、タイムを見る。
七分。前回と変わってない、か。まぁ、六キロだし、そんなもんか。
少し経つと、二年生の持久走出場者が呼ばれ、稔も同タイミングで帰ってきた。手に持っていたストップウォッチでタイムを確認する。
八分四十秒。
「お疲れー」
俺は、手を膝につき、肩で息をしている稔に話しかける。
「お疲れー……じゃないっ! ……早すぎるだろ……何分前に……ゴール……したんだ……」
「一分四十秒ぐらいかな」
「一分四十秒……。まだまだかぁ……。タイムは?」
「ミノのだったら、八分四十秒」
「いつも通りだよな?」
「まぁ、いつも通りだな。前よりは少し早くなってる」
「あ、トオが戻ってきた」
俺は、手に持っているストップウォッチに視線を落とす。
八分五十秒。
「お疲れー」
戻ってきた亨に稔が声をかける。他の四人も、校庭に姿を見せている。
「二人……とも……、早すぎ……」
「早く退け。四人が突っ込んでくるぞ」
俺は、校庭内を走っている四人を目で追いかけながら言う。
「そんな……こと……言われ……てもっ……」
亨が稔に引っ張られ、俺の隣まで移動してくる。と、同時ぐらいに四人がゴールした。
九分。
コンマ何秒の差はあれど、全員ほぼ同タイミングでゴールした。
「お疲れー」
稔がゴール地点で倒れている四人に近づき、話しかける。
「タ……イム……は?」
「四人とも九分」
「前と……変わって……ねぇ―」
立ち上がる元気はないらしく、四人とも起き上がらない。
「あ、俺のは?」
稔の横にしゃがんでいる亨が俺を見上げながら言う。
「トオは八分五十秒」
「少し早くなった程度?」
「まぁ、そうだな」
「次って、二年?」
暁が立ち上がりながら言う。
「そうだな。ミノが帰ってきてた時に二年が呼ばれてた」
「俺らって、あと何分待たされんの?」
「さぁ? 一年の出場者が全員帰ってくるまでだろ」
「暇だな」
「なにして待ってる?」
「タイムでもあてるか?」
「あ、タイムっていったら、カケとミノのタイム訊いてねぇ」
「俺、七分」
「俺、八分四十」
稔の隣に立っている忍が訊いてくる。
「七分って、狙った?」
「まぁ、半分ぐらい狙った」
このぐらいだったらいいなぁ、ぐらいで。
「カケが狙ったら、そうなるか」
「俺らじゃ狙ってても、出来ねぇからな」
「そんなことないだろ」
「何度か試してみて入るけど、無理だな」
「体が追い付かない」
「七分を狙うのは、やめた方がいいと思うけど」
「七分なんて、元から狙ってねぇ」
「なら……」
「なら、できるってわけじゃねぇ」
「あ、二年がそろそろスタートするみたいだよ」
亨の横にしゃがみ、スタート地点を眺めていた雫が言う。俺は、ストップウォッチのタイマーをリセットし、スタートの合図とともにストップウォッチのタイマーをスタートさせる。
「得点の順位って、何位まで?」
「六」
「俺ら、同着だったけど、どうなるんだ?」
「そんなの得点係に訊かないと分からないだろ」
「サツたちって、俺らがスタートしてから、何分後にスタートしたんだ?」
「十五」
「じゃ、帰ってくるか?」
「何が?」
「サツたちだよ。他の一年が帰ってくる前にさ」
「あぁー、帰ってきそうだな」
「三年は?」
「二年が出発した十五分後」
「それは、さすがに戻ってきてるか」
「いや、分からねぇよ? 三十分で戻ってくるかは」
「四十分ぐらいかかれば、ちょうどいいんだけど」
「アユたちも帰ってこれるからな」
「俺らは暇だけど」
「つーか、そんな時間に戻ってくるやつ、この種目出てないだろ」
「さすがに、二十五分もすれば帰ってくる……と思う」
「二十五分は、早くない?」
「いや、そんなもんだと思う」
「とりあえず、サツたちは帰ってくるだろ?」
「まぁ、何もなければな」
「移動中にアユたちがスタートしたら、どうするんだ?」
「そんなの、音で何とかする」
「まぁ、そっか」
それから、五分くらい待っていると、彰が最初に校庭に姿を現した。次に、皐、要、樹と続く。
「普通に、一年が戻ってこないんだけど」
「いや、そろそろ戻ってくる」
広げていた気配を感じる範囲に反応が何個かあった。
「どの辺にいるの?」
「あと、500mぐらいで校庭」
「こっちがゴールしそうだから、ちゃんと見とけよ」
完全に気配の方に意識が行っていたため、稔に言われなければ、そのまま気配を追っていただろう。俺は、ストップウォッチのタイムを見ながら、皐たちがゴールするのを待った。
アキが八分三十秒。サツが八分三十五秒。カナが八分四十五秒。タツが八分五十秒。
「お疲れー」
暁が四つ子に近づき言う。
「あれ? まだ戻ってないのか」
「サツたちが抜いてきたのなら、まだ戻ってきてるわけないだろ」
「そっか。全員集まらないといけないのか」
彰と皐はあまり疲れていないように見える。
「なんで……、アキと……サツは……そんなに……余裕そうなんだよ」
「いや、結構疲れてるけど……」
「そろそろ一年戻ってくるから、俺らも戻るぞ」
「先に三年がスタートするんじゃね?」
「さすがにそれはない。もう、戻ってきた」
一年生が続々と校庭に姿を現す。
「なーんだ」
「なーんだ、じゃねぇよ」
「ねぇ、もう二周ぐらいは走れたんじゃない? 他の子たちが帰ってくるまでに」
「計算上はな」
「体力の問題もあるけど、一周は確実だな」
「もう一周、走りたい」
「終わってからならいくらでも走って良いから、今はやめろ」
「この後、リレーもあるしね」
「体力は残しておいた方がいい」
「そんなに体力は持っていかれない」
「まだまだ、元気」
「お前らがへばることはないと思うぞ。体力バカだし」
「俺ら、バカじゃないよ?」
「そういう話はしてない」
「それに、体力バカは、アキたちも一緒だろ」
「お前らと一緒にされたくない」
「いや、同じように動いている時点で、みんな一緒だろ」
「カケもだぞ?」
「俺らと兄弟だしな」
嬉しくねぇ。
「とりあえず、戻るぞ。全員帰ってきた」
「ほんとだ」
雫が周りを見回しながら言う。
「じゃあ、またあとで」
暁と傑が先頭を歩きだし、他の兄弟たちが後に続く。俺も後に続こうとしたら、彰に止められた。
「俺らのタイム、教えて」
俺は四人のタイムを伝える。
「前と変わってない、な?」
「計算上はアキだけ」
「他は?」
「少し早くなってる」
「へぇ」
「カケたちは?」
「またあとで。もう、戻るから」
「……了解」
俺は、先に歩き出していた一年の列に追いつく。それから、クラスごとに分かれ、それぞれの応援席に戻る。
「お帰り」
「翔君、早すぎない?」
自分のクラスの応援席の端の方に向かうと、冬馬様と千明様が近づいてきて言った。
「まぁ、少しぐらいはちゃんとやろうと思ったので」
「何分ぐらいだったの?」
「俺のタイムですか?」
「そう。まぁ、稔たちのも訊きたいけど」
「俺のタイムは、七分です」
俺は、ストップウォッチのタイムを見てから言う。
そろそろ、三年がスタートか。
「七分……」
「五キロ走った時も、七分だったよね?」
「はい」
「狙った?」
みんな、同じことを訊いてくるんだな。そんなに、狙いそうに見えるか?
「すこしだけ」
「狙ってできるのは、翔ぐらいだな」
「ミノたちにも言われました」
「兄弟公認なんだね」
「俺以外もできると思うんですけどね」
「いや、難しいと思うぞ」
冬馬様にあきれ顔で言われた。
三年生組は、持久走に出ている二年生よりも早く帰ってきた。歩が、八分三十五秒で皐と同タイム。望は八分四十秒で稔と同タイムだった。
持久走が終わると、団体種目である綱引きが行われる。リレーに出場する八名を除くクラスの全員が綱引きに出場することになっているが、クラスの人数上、多いクラスに合わせるためリレーに出場する人が綱引きにも出場しているクラスもある。俺のクラスは、一番人数が多いためリレーに出場する人が綱引きに出場することはない。俺と冬馬様と千明様は、リレーに出場することになっているため、応援席で観戦中だ。
あまり、クラスメイトの力量を知らないが、結果を求めているわけでもないし、買ってほしいわけでもないので、次々とおこなわれていく試合をぼんやりと見つめていた。
俺のクラスは、力が強いやつが多いのか、綱引きが妻いやつが多いのか、どちらかは分からないがとりあえず強かった。他のクラスに圧勝し続け、結果全勝だった。
これじゃ、リレーで負けられないな。
俺のクラスのリレー出場者が全員同じことを考えていたかは分からないが、残っている者たちの間に緊張感が走ったことは確かだった。
他学年の綱引きも行われたが、どこのクラスも兄弟たちは出場していなかった。
全員リレーに出るのか。兄弟たちのいないクラス、ご愁傷様だな。……俺も、人のこと言えないけど。
出場するからには、ちゃんとやるということが俺の掟である。本気というものが出たことは一度もないが、出す気持ではある。
クラス対抗リレーの前哨戦である部活動対抗リレーには、部活動に入っている兄弟が全員出場した。一年生組は全員第一走者で、二年生組は全員アンカーだった。人数が足りず、三年生が走っている部活もあったが、主に二年生が走っていた。
二学期の最初からしか入ってないのに、スタートとアンカーに選ばれてるところを見ると、それなりに信用されてんだろうな。
部活動対抗リレーは、弓道部、テニス部、バスケ部がそれぞれ勝利した。
やっぱり、短距離は早いのか。……弓道部が速かったの、意外だけどな。
「知り合いが何人かいると、見てて面白いものなんだね。リレーとか」
冬馬様が、部活動対抗リレーを見ている間にそうぼやいていたが、俺は可哀そうだなとか考えていた。
そして、最終プログラムである、クラス対抗リレーが始まる。はじめは、一番面白くないであろう三年生が走る。前のプログラムである部活動対抗リレーに出場していた選手が一番少ないからであろう。
受験勉強があるためか、個人の差がひどいものだった。歩と望は、どちらもアンカーを走ったが、全くといっていいほどいい勝負にはならなかった。前を走った七人の差が大きすぎたからだ。五人走った時点で、望のクラスから後れを取っていた歩のクラスは、優斗様によってさらに後れを取ることになった。結局、三年生のリレーは望のクラスが勝利を収めた。
タイム的には、五、六秒歩の方が速かった。暇だったため、持っていたストップウォッチで計っていたのだ。
まぁ、リレーを一人の力だけで勝てたら、やる意味がないからな。
三年生の次は一年生の番だ。出場するメンバーが全員集まると、スタートする。
アンカーのため、初めの方が暇だ。とりあえず、ストップウォッチを持っているため、タイムを計る。
あまり、大差なくレースが進んでいく。第二走者で暁が走ったため、暁と傑のクラスだけ半周以上早いぐらいで。
「なぁ、カケー。さっきの三年のリレーって、アユの方が速かったよな?」
隣のクラスの待機列に並んでいた傑が訊いてきた。
「何が?」
「速さだよ。ゴールした順番じゃなくて、走った速度」
「なぜ、俺に訊く?」
「計ってるだろ? どうせさ」
「計ってたけど」
「どっちが速かった? アユだよな?」
「訊かなくても分かってるなら、訊いてくるな」
「何秒早かったのかが知りたいんだよ」
「……」
「……もしかして、覚えてないとか?」
傑から驚愕した目で見られる。
「カケに限って、それはないだろ」
傑の隣にいた稔が言う。
「後でな」
「そういや、俺らのタイムはどうするんだ?」
「計れと?」
そんな、無茶を言うでない。
「そうだけど」
「スタートがばらばらだと、無理だぞ」
「じゃ、合わせる?」
「それじゃ、全くリレーの意味がねぇ」
「サトにやってもらおうぜ。あいつ、第二走者でもう走り終わってる」
「一人で六人か……」
スマホ二台あれば、何とかなるか? 二台あればだが……。
「誰か、スマホ持ってないか?」
体育祭です。彼らの独壇場です。以上です。
うそです。裏話をすると、彼ら的には、兄弟での順位が大切なのであって、体育祭での順位はあまり気にしていません。
今まで、持久走以外だとあまり異次元という感じがしなかったかもしれませんが、他の人と走るとそれなりに異次元感が出ますね。
次回は、 体育祭 後編 です。




