36 ~テスト週間? 後編&体育祭 種目決め~
「うん。翔君、君たちは、手伝えないかな?」
当主様が俺に視線を向けながら言う。
この質問は来ると思ってた。
「多分、全員が手伝えるかと思います。部活組は、大会がなければ、ですが」
「琉生君、高校生が十三人ぐらい増えたら、大輝君たちを使わなくても平気かな?」
当主様が琉生さんたちの方に視線を戻しながら言う。
「十三人もいれば……多分、余ります……」
「それじゃあ、最低条件の変更で、睦月君たちと翔君たちが春休みに入っていること、二、三日開いていることでいいかな?」
「はい」
「それじゃあ、また、下見に来る日と引っ越す日を決めたら教えて。誰かに伝言を頼んでくれてもいいから」
「分かりました」
「あぁ、それと、引っ越す日だけど、下の子たちはどうするつもり?」
「唯に見ててもらおうと……思ってます」
「それ、千明とかも使っていいからね」
当主様が、千明様を使っていい、って言うなんて珍しい。……まぁ、この屋敷に入ってもいい人たちだからか。
「必要があれば……手伝ってもらいます」
「そうして。ところで、今日は、二人だけで来たのかい?」
「いえ、中学生と……小学生も……連れて来てます」
「久しぶりだから、会いたいんだけど、いいかな?」
「……はい」
「高校生が入っていないということは、唯ちゃんは来てないのかな?」
「今、……奏多さんに……診てもらってます」
「なるほど。それじゃあ、唯ちゃん以外の、今いる子たちだけでいいから連れて来てくれるかな? 翔君、頼んでいい?」
「分かりました」
俺は立ち上がって当主様の部屋を出る。琉生さんたちも少しは慣れたようで、緊張の色は薄れていた。
裏玄関に向けて歩き出す。その最中に、ポケットからスマホを取り出し、稔に電話をかける。
「カケ? どうした?」
「そこにいる、琉生さんの弟たちを裏玄関まで連れて来てほしい」
「了解。なんか、伝えておくことある?」
「どっちでもいいけど、用件は、当主様からの呼び出し」
「裏玄関まで来てくれるんだよな?」
「今、向かってる」
「じゃあ、裏玄関まで連れて行くだけでいいんだよね?」
「最初からそう言ってる」
「確認しただけだよ」
そう言って電話が切れた。俺は、ポケットにスマホを入れ、裏玄関に向かう足を速めた。
「あ、来た」
裏玄関が見えてくると、稔の声が聞こえた。
「あがって」
稔がそう言うと、琉生さんの弟たちは靴を脱いで屋敷に上がる。
「サンキュ、ミノ」
「いや、そっちは平気か?」
「まぁ、問題ない」
「それならいい」
「それじゃあ、ついてきて」
俺はそう言いながら、今来た道を戻る。
「さっき、遊んでた人たちの名前は、聞いた?」
俺は歩きながら後ろを振り返り、ついてくる七人に訊く。
「はい」
「じゃあ、俺も言っておこう。俺は、翔。よろしく」
「……稔さんと同じですか? それとも、皐さんですか?」
中学生ぐらいの子の一人が質問してきた。
「稔と同じ。七つ子の一番上」
「そうですか」
「君たちは?」
「俺は、大雅。中一で、四つ子の一番上です」
四人いる中学生の中で一番しっかりしていそうな子が答える。
まぁ、一番上だからってのもあるのか。
「四つ子か。サツたちと同じだな」
「皐さんたちも、四つ子なんですか?」
「あぁ」
「へぇー、兄弟以外に聞いたことなかったな」
「そうだろうな。あまりいないから」
「次……」
「はい。俺は、宗矢。二番目です」
色白で他の中学生よりも細いが、顔だちが整っていて美少年と呼ばれそうな子が言う。
冬馬様といい勝負だな。ぱっと見、惹かれるというか、人を魅了する雰囲気があるのは、冬馬様だけど。
「俺は、和馬。三番目です」
いかにも面倒見の良さそうな子が言う。
三番目か……。二番目かと思った。
「俺は、光雅。四番目です」
末っ子感というか、甘え上手そうな子が言う。
うちの四つ子はこんなにわかりやすくないから、みてても分からないな。このぐらい特徴があるとわかりやすいんだけど。
「うちの四つ子より、しっかりしてそうだな」
「まぁ、下がいっぱいいるので」
「そっちの三人は?」
「俺は、巧。小五」
少し顔色の悪い子が言う。同い年はいない雰囲気が漂っている。
「僕は、隼斗。双子の上」
「僕は、綾斗。双子の下」
顔がほぼ一緒だが、雰囲気が違う。隼斗の方が綾斗を面倒見ているという感じだ。
うちの双子とは逆だな。
「なるほど。覚えた」
「そんな簡単に、名前覚えられますか?」
「名前は問題ない。小説を読んでいれば、いくらでも出てくる。問題は、顔と名前が一致しないほうだな」
「顔が似すぎで、ですか?」
「いや、さすがに見分けられる。うちも、四つ子いるし、俺たち七つ子だし」
「それなら、問題ないですね」
大体の受け答えは、大雅君が担っているらしい。他は、それぞれで話している。
「……外では、何をやっていたんだ?」
「サッカーっていうのかな?」
光雅君が隣を歩いている、和馬君の方を見る。
「まぁ、俺らの知ってるサッカーじゃなかった気がするけど、使ってるボールは同じだった」
そんな話をしているうちに、当主様の部屋の前に着いた。扉をノックして名前を言い、扉を開いて七人を入れた。
「翔君も入って」
「はい」
俺は、大雅君たちが入った後に部屋に入り、先程まで座っていた場所に座る。琉生さんと睦月君が後ろに下がり、大雅君たちが前に座った。
「久しぶりだね」
「お……久しぶりです」
大雅君が答えた。緊張はしているが、琉生さんほどではない気がする。
よく来てるって言ってたから、慣れてるのかもな。琉生さんたちよりは。
「顔を診たかっただけだから、すぐ戻ってもらうけど、最近はどう?」
「普通に学校に通ってます。成績も問題ないと思います」
「困ってることとかは、ない?」
「ないです」
「引っ越すときは、どうしているつもりなのかな?」
「下の子たちの面倒を見てます」
「そっか。まぁ、元気にやれてるならいい。戻ってくれていいよ」
「失礼しました」
撤退は、早い……。
琉生さんたちが出て行くのを、当主様は柔らかい笑顔で見ていた。
「翔君」
琉生さんたちが出て行き、部屋の扉が閉まると、当主様が俺を呼んだ。
「はい」
「試験とかって、どう?」
「どう、というのは……、点数の話ですか?」
「うん」
「悪いほうではないと思います。高校の中では、点数が一番高かったみたいですし……」
「その前の勉強は、した?」
「すると思いますか?」
「いや、思わない」
「してないです」
「それなら、心配ないね。あ、遠慮しないで、普通に解いてくれていいからね。冬馬とかに引け目を感じる必要もない」
「はい」
一週間はすぐに過ぎ、テストも終わった。三年生は、優斗様と望は九教科満点で、歩は国語だけ間違えたらしい。二年生は、十教科中全員が一ミスをしたらしいが、ミスをした教科がそれぞれ違う。一年生は、俺、冬馬様、千明様、稔、亨が十教科満点で、暁、傑、忍、雫はそれぞれ一ミスから二ミスをした。
前の学校だったら、教科別で見たら負ける可能性があるな。二ミスもしてたら。合計点で見たら、多分負けないけど。
全学年で相川家がトップを独占した形となったみたいだが、そんなことを気にしている人は相川家には居ない。兄弟たちは、テスト週間が終わりとても生き生きとしていた。
この後は、体育祭、文化祭と一大行事が二回続く。今日は、ホームルームで体育祭の出場協議を決めることになっており、今日の朝はその話でもちきりだった。
「で、持久走は絶対出るとして、他も出るんだろ?」
「一人で出れる競技数って、多くて二種目だっけ? 個人戦は」
「多分」
「持久走は人気がなさそうだから、いいとして、もう一種目か……。何があったっけ?」
「50m、100m、200m、タイム走、借り人、障害物競走……ぐらいか」
「リレーも、個人戦ではないけど、あるぞ」
「どういう決め方かにもよるけど、最後の方が盛り上がるかな」
「つーか、サトとスグがいる時点で、そこ強すぎるだろ」
「他の問題もあるから、別に変らないんじゃないか? 一人で勝てたら、全くリレーの意味がないだろ?」
「部活対抗リレーもあるけど、それは出ないよね? 一年と二年だし」
「そこは、全員が出れるか分からないから、なんでもいいだろ」
「タイムって出るのかな?」
「なんで?」
「だって、学年が違ったら一緒に走らないでしょ? 多分」
「まぁ、そうだろうな」
「そしたら、同じ学年としか戦えないよ?」
「全員ストップウォッチ持ってればいいんじゃね?」
「俺ら、全員分のストップウォッチは持ってない」
「とりあえず、そこは何とかすればいいだろ。後で考える」
「出るのは、持久走と200mにする?」
「そうだな」
「リレーは出るなら一番最後」
「サトとスグは、どっちか譲れよ」
「「はーい」」
「カケは、絶対に、持久走だけは出ろよ」
「わーってる」
本当は出たくないけど、出ないほうが面倒なことになるしな」
朝食の片づけをして、準備をして、学校に向かう。
学校に到着し、それぞれの教室に向かう。
「カケ、ちゃんと、持久走だけには出ろよ」
「譲っちゃダメだからね?」
「絶対だからな」
教室の前に来てからも、そんなことを六人から言われた。
冬馬様たちの前だから、やめてくれよ。
「翔、嫌なら、僕たちが出るけど、持久走の枠は、二つだったから」
教室に入り、自分の席に座ると、千明様の机に軽く腰を掛けていた冬馬様に言われた。
がっつり、聞かれとる……。
「いえ、出ます。出ないほうが、出ること以上に面倒なことになるので」
「翔が納得してるならいいけど」
「なんか、一年生の持久走だけ他学年とは違う競技をしているように見えそう……」
自分の席に座っている千明様が言う。
「他学年も、それなりだと思いますよ」
「まぁ、いつも通りやりきれたら、それでいいよ」
「クラスの競技って、何があったっけ?」
「リレーと綱引きじゃないですか?」
「うわぁ……」
「もう、仕方ないと思いますよ。諦めてください」
「翔は……、リレーには出ないのか?」
「出る気はないですけど、指名されたらやります。出るのだとしたら、アンカーですね。アンカーを他の人には走らせられないので」
「二組は、暁と傑がいるけど、どっちがアンカーを走るんだ?」
「本人たちが決めることになってます」
「ケンカはないのか? いつもの体育みたいに」
「その辺は、大丈夫です。ケンカをするようなことはないので」
「それならいい」
冬馬様が納得したように言う。
すべての授業が終わり、LHRの時間になる。予定通り、体育祭の出場種目決めだった。案の定、持久走に出たいという人はおらず、すんなりと俺の出場は決定した。二人目は、得点が付くのが六位までのため、出るだけの人数調整として、陸上部の人が選ばれた。
朝の会話を聞いていたんだろうな。俺らが出る試合で、誰か出たがるやつがいたら、こっちが驚く。
冬馬様と千明様は200m走に出場することが決定した。リレーは、100m走が速い人順に男女四人ずつということで、俺と冬馬様と千明様は出ることが決定し、速い人が最後に走るので、アンカーが俺、その前が千明様、その前が冬馬様に決定した。
「翔、結局大変そうなところに全部出ることになったけど、大丈夫か?」
「何とかします。兄弟相手なら、何とかなるので」
「頼むぞ。稔たちに勝てるのは、翔ぐらいだから」
「頼まれるのは、少し困ります。絶対に勝てるという自信はないですし」
「じゃあ、いつも通りで」
「はい」
LHRも無事終わり、晴さんの迎えを待っていると、メールの着信音が連続で何回か鳴った。スマホを取り出しメールを開くと、兄弟たちのそれぞれの出場種目が兄弟チャットに投げられていた。
「出場種目の話?」
「はい」
「どうだった?」
「全員、持久走とリレーに出るみたいです」
「予想通りだね。ちょっと楽しみだな、体育祭」
「変なことが起こらないと良いんですけどね」
「変なことは起こる思うけど、度合いはそれぞれ変わるだろうな」
「できれば、被害は少ないほうがいいです」
「そうだね。その方が、ありがたいかな」
俺も、出場種目を兄弟チャットに投げておいた。
「あ、晴さん、来た」
窓の外を眺めていた、千明様が言う。
「それじゃあ、行こうか」
「はい」
テスト週間が終わり、兄弟たちは生き生きしています(というか、何もしてないのにほぼ満点って、どういうこと? その頭、僕に頂戴)。
そして、彼らの独壇場となりそうな体育祭の種目決めです。翔は、嫌々(でもなく)、持久走にエントリーをしました。当日は、どうなるのでしょう……。
次回は、 登場人物紹介 要編 です。
少し短いですが、キリがいいのでここまでです。




