表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/108

4 ~部活動体験の感想&近くの本屋~

 弓道場が近づいてくると、カァーンという弦音が聞こえてきた。

「あ、良い音」

 前の学校で弓道部に入っていた、忍が評する。

  シノが言うって事は、すごいほうなのか。

 扉を開けると、見慣れた靴が並んでいた。

「あ、先生。来ました。俺らの弟です」

 要が俺らを見ながら言った。

「本当に来たのぉ。どれ、元々弓道部に入っていたという子は?」

「はい」

 忍が俺らの一歩前に出た。

「要君と一緒に引いてみてくれぬか?」

「はぁ……」

 いきなり、やってみろといわれたからか、忍が少し引きながら言う。

  こういうの、苦手だからな。シノ。

「ほら、シノ。アピールの場だから。持って来てるだろ?」

 要が忍に近づいてきて耳元で囁く。

「うん」

「危ないからのぉ。着替えてきてくれてよいぞ」

「誰か体育着持ってる?」

 要が俺らを見ながら言う。

「いや」

 全員が首を横に振った。

「大丈夫です。シノ、ひっかけるなよ?」

 要がそう言いながら、学ランを脱いで、鞄の上にのせた。要のほうは準備満タンだ。

 忍もすぐに準備をして、弓と矢を借りていた。

「じゃあ、行ったん全員下がれ。二人の射を見るぞい」

 顧問であろう、先ほど話していた、おじいちゃん先生が言うと、全員が後ろに下がって正座をする。俺らも、その場に正座する。

 全員が動きを止めて、全体の空気が静まると、二人は、マニュアル通りに動いて、矢を射た。

  良い音。毎回気持ちよくなる。

 部員や、顧問の先生までも、目を奪われていた。

「ほぉ~、すごいのぉ。きれいじゃな、要君と弟君。ぜひ弓道部に入って欲しいのぉ」

「それは、また決めてきます。先生」

 要が弓などを返して戻ってくる。同じようにして、忍も後ろからついて来た。

「そうかい、来てくれることを願っておるよ」

 顧問の先生に見送られて、俺らは、弓道場を出た。

「カケたちは、次、どこ行くの?」

 冬馬様達と、あいさつを終えた皐が立ち上がって、俺の持っている地図を覗き込んでくる。

「あ、俺の、活用してくれてるんだ」

 樹が俺が持っている地図を見て言う。

  あ、やっぱり、タツだったか。

「次は、第二体育館かな。バスケ部」

「早く、行こ」

 先ほどまで、おとなしかった暁が急にやる気になって、地図を一瞬見ると、先頭を歩きだす。

  バスケ部だったからな、サトは。

「おまえだけのために動いてるんじゃないんだから、他の人のことも考えろよ」

 傑が言う。

「スグだって、野球場に行く時は誰よりも先に行くじゃねぇか。同じだろ」

「俺は、サトみたいにはならない。絶対」

 二人が道の真ん中でにらみ合う。

「はい、はい。そこまで。そんなことしてないで、早く行くぞ」

 俺が二人の間に入って、すぐに睨み合いをやめさせ、第二体育館に向かった。


 その後は、それぞれ前の学校で入っていた、部活で少しプレーをして、車で迎えに来てもらった。

 夕食を初めて冬馬様達と食堂で食べることになったのだが、俺ら兄弟が一緒に食べても、あり余るほどの面積であった。

 そして、当主一族であいさつをしていない、最後の二人、晴樹(はるき)様と夏樹(なつき)様にあいさつをしたが、どちらとも不思議な顔をして、見ていた。千明様の説明曰く、この二人はまだ、当主一族という自覚がなく、いきなり女中がいなくなったため、混乱中らしい。なおるのに、半年ぐらいはかかるとか……。

「どうだった? 部活見学は」

 食後、全員で歩の部屋に集まり、各々が座ったところで、ベッドの上に座った、歩が言う。

「まぁまぁかな」

 俺の隣に座っている、稔が言った。

「全部活、聞かせてよ」

 歩の学習椅子に、反対向きに座っている、望が言う。

「バスケ部は、結構強そうなやつらがいたから、楽しそうだった」

 稔の隣に座っている、皐が言う。

「え~、でも、俺らのパスワークには誰もついてこれなかったよ?」

 暁が、異論を唱える。

「まぁ、俺らのスピードについてこれないのは、良いとして、楽しそうだと思ったなら、良かった。二人ともバスケ部に入る感じ?」

「もち」

「うん」

 二人とも、歩の問いに答える。

「じゃあ、次」

「テニス部は硬式だったから、前と変わらない。チームとしては、あまり強くないけど、二人、強い人はいた」

 扉の近くに座っている、彰が言った。

「みんな個性強すぎるんだよ。ラリーがダメなのに、スマッシュだけ訳分からんぐらい強い奴もいるし、なんでも拾うやつもいる。まぁ、見てて飽きなかったけど」

 彰の隣に座っている、亨が言った。

  この兄弟で、一番の常識人である、トオが言うのだから、個性が強いのだろう。これを、上の四つ子に言われたら、お前には言われたくないだろうな、テニス部員、って思っただろうけど。口に出す奴もいるだろうな。

「面白そうな人たちだったって言うのは、確かだな」

「チームになっても楽しそう」

「楽しそうだなと思うならいいぞ。個性が強すぎるのは、家も一緒だろうからな……。で、二人はどうするの?」

「入る予定」

「俺は、絶対入る」

「そうか。じゃあ、次」

「野球部は、紅白試合ができるほどには、人がいたけど、特出したのが二人ぐらいだったから、全国は難しいかな」

 彰の横に座っている、樹が言う。

「まぁ、でも、投手と打者に良い人がいたから、守備さえ何とかしたらいいんじゃないかな」

 望の近くにいる、傑が言う。

「タツは、データ取れたのか?」

  あぁー、その話は聞きたくないぃ。それのせいで、一時間ぐらいいることになるとこだったんだから。

「今日は、走ってるのばかりだったけど。エースのデータは取れたよ。打たせてもらったから」

「楽しそうだった?」

「うん。やっぱ、チーム競技はいいよな」

  タツ、なんか、アユの質問の答えとしては、ずれてないか? 知ってたことだけど。

「じゃあ、次」

「弓道部は、いい感じのが二人ぐらいいたよ。あと、もう一人育てれば、結構行くかもね」

 傑の隣に座っている、要が言う。先に着いていたから、少し見ていたのだろう。

「あと、全員きっちりしてる感じが良かった」

 その横に座っている、忍が言った。少ししかいなかったが、あの空気感で感じ取ったのだろう。

「二人とも入る?」

「「うん」」

「じゃ、次」

 ここからは、今度から、部員が一人になる部活だ。

「サッカー部は、強豪校らしいよ。強豪といえば、堅い感じだけど、そういう感じがなかったな。すごい楽しそうにやってた。だから、強いのかもね」

「ミノ、知らなかったのか?」

 元サッカー部の歩が言う。

「うん。まったく興味持ってなかった。一年の最初は体力づくりだって、何にも関わらなかったから」

「そうか。で、体力づくりなのか? この学校も。強豪校だし」

「いや、それもやるけど、テストでちゃんとアピールしたら、一年でも出してくれるらしいよ」

「ふ~ん」

「あと、三年生とかもまだ残ってたよ。強豪だから、スカウトとかが来たりしてるのかもね」

「へぇ」

  アユはスカウト受けるのかな? 受ける気なさそうだったけど。プロは目指さないって言ってたし。

「じゃ、次」

「バレー部は、レギュラーがいなかったら、ちゃんとは分かってないけど、サブには期待できない」

 皐と樹の間に座っている、雫が言った。

「サブは、だいたい弱いよな。俺らのところも弱かったし、しょうがない。なんなら、シズが強くすればいいんだよ?」

 元バレー部の望が言う。

「無理無理。誰かと話すとか、無理」

「まぁ、話さないと伝わらないけど、俺に拾われないような、ボールを打ってみろ、みたいなのやれば?」

「それ、俺が地獄」

「体力づくりの一環だと考えて、ボール拾いも一緒にやってると思えば」

「うぅ、楽しそうだけど、拾えなかったときが嫌だ」

「シズが拾えないってことはないから、自信持ちなって」

 といったような、雫と望の会話が、数分間、行われた。

「で、シズは入るのか?」

 呆れたような声で、歩が言う。

  こういうのに、俺ら七つ子は慣れてるから、何も思わないけど、アユたち双子とか、サツたち四つ子は慣れてないだろうから、呆れた声になるよな。うん、分からなくもない。

「まぁ、他のところに入る気はない。俺が強くするしかないと思う」

 望に洗脳されたのかなんかか、知らないが、先ほどの雫とは意見が変わっていた。

「カケは? やっぱり、バイト?」

 歩が俺のほうを見ながら言う。

「まあ、結局みんなは部活をやるみたいだし、アユたちに迷惑はかけられないし、暇だからね」

「カケは、部活やらないの?」

「うん。やりたいことないしね」

「でも、今回は本屋なんだから、結構嬉しいんだろ?」

「まぁ、ね」

「サボって、本を読むなよ?」

「ちゃんとバイトはバイトとしてやるから、大丈夫だよ」

「ほんとか?」

「うん」

「そうか。じゃあ、それぞれ、部活で大会とかあったら、報告しろよ」

「「はーい」」

 今日は、解散となった。俺も自分の部屋に戻る。ちなみに、俺が本を読んでさぼるとか思われる理由は、もう部屋の中ではっきりとわかる。部屋の一面以外、ほぼすべてが本棚で囲われているからだ。

 本棚の中には、何千冊の本がある。漫画も含めると、二千冊はゆうに超えているだろう。

  夏休み中にがんばって、集めたからな。長崎から大量に送ってもらった。というより、自分で送ったというべきだろう。準備に二日はかかった。

 漫画のジャンルは、少年スポーツ漫画がほぼだが、スポ根系や、元不良の少女漫画などもある。小説のほうは、異世界転生系や、サスペンス、スポーツ、歴史ものなど、結構読んでいる。

 俺的には、小説を二冊持ち歩くのは普通だと思う。

 そんな考え方だから、本を読むなとか言われる。

  まぁ、本に囲まれたら、読みたいという欲望を抑えられるか、分からないけど……。

「はあぁ、片づけるかぁー」

 机の上に重なっている約二十冊。新しく仕入れた本や、ここ最近読んでいた本たちなのだが、どこに仕舞おうか迷っているのだ。ジャンル分けも終わっているし、どこらへんに仕舞うのかはだいたい決まっているのだが、次の巻を出したり、代えの物を出そうか出すまいか迷っていたりして、結局三週間以上机の上に置いてある。こっちに本がついてからずっとあるということだ。

  もちろん、すべて読み終わってるけど。

 やる気が出ない。しまうだけでこんだけ気力を使うのだから、バイトなんて本当に出来るのか、自分で自分が不安になる。

 結局、全て仕舞い、違うシリーズものを引っ張り出してきて、机の上にのせる。そんなことをしているから、常に十冊は机の付近においてある。

 その日は、風呂に入り、寝た。


 翌日、食堂で、冬馬様達と朝食を摂り、学校に車で送ってもらう。帰りは、他の兄弟たちが、昨日のうちに親(当主様)の了承の上、入部届を出しに行き、三年生はまだ授業が残っていて、帰る時間が違うため、俺は、冬馬様と千明様から了承をもらい、本屋に寄ってもらった。

 俺だけ、本屋の前で降りるつもりが、冬馬様達も降りてきた。

「あ、気にしないで。僕らもあいさつするだけだから。一応叔父さんだし」

  気にしないで、って言われても、無理でしょ。やっと、慣れてきたけど。

「そうだったんですか……って、えっ。当主一族ということですか……」

「そうだよ。あ、でも、優しいから、安心して」

 冬馬様に催促されて、本屋に入る。すると、店員さんが勢いよく中に入って行った。

  呼びに行ったのかな? 冬馬様達って、すごいな。

 本屋は、外観とは異なり、奥にすごく広かった。レジも五台以上あり、三階建てで地下もある。

  天国……。天国ですなぁ……。ってか、当主様小さい店って言ってたよな? これが小さいのか……?

 すぐに店主であろう人が出てきた。

「久しぶり、冬馬君、千明君。こんなところではなんだから、中に入ってくれ。翔君も、兄さんから聞いているよ。ささ、入って」

 店主が俺達を押しながら、中に入って行く。中は綺麗とは言えないが、天国だった。大量の段ボールが壁に寄せられていて、段ボールごとに何が入ってるか書いてある紙が貼ってある。

「うわ、相変わらず、本ばっかり」

 冬馬様が少し顔をしかめた。

  相変わらずって事は、結構来てるのかな?

「ごめん、ごめん。今日は全然いないから、片づけられないんだよ。まぁ、ほっといて。翔君はどう? こんな感じのところだけど、バイトしてくれる?」

 よく見たら、店長という名札をつけていた。

  本屋だったら、俺は何でもいいですけどね。……まぁ、本屋じゃなくてもいいですけど。

「はい。本は、好きなので」

  嘘は言ってない……よな? 答えになってるかは別だけど。

「そうかい、そうかい。ありがたいね。いつから入る? シフト、決めちゃいたいんだけど」

 店長さんは完全に冬馬様達を無視して俺だけに話しかけてくる。

  冬馬様達を無視なんて、俺には絶対できないだろうな。やっぱり、叔父という立場は、すごいのかな。

「えっと、冬馬様達は放っておいていいんですか?」

 俺は、小声で店長さんに聞く。

「良いんだよ。多分整理してくれると思うし、二人とももう子供じゃないからね」

「えっ、そんなことに使ってしまってもいいんですか?」

「好きでやってくれてるから、大丈夫だよ。二人とも、本が好きだからね」

 二人に視線を移すと、そこら辺にあった椅子にカバンを置いて、学ランがその上にのせてあって、段ボールの中を整理している。

「そうなんですか……」

  本が好きなら、話、合うかも。……まぁ、当主一族と話を合わせようとは思わないんだけど。

「で、いつにする?」

「ほぼ、毎日空いてます。兄弟たちが、ほぼ毎日部活なので」

「じゃあ、週五で入ってくれるの?」

「良いですけど……」

「じゃあ、よろしく」

「何をするんですか?」

「レジ打ちはできる?」

  俺が訊いたんだけど……。まぁ、レジ打ちは、変な目で見られるくらいには、速かったよね……。

「はい。まぁ、前はスーパーにいたので、やってました」

「って事は、在庫確認とか、出したりとか、してた?」

  当主様から聞いたとか、当主様が、話しておいた。って、言ってたけど、どこまでを聞いたというのだろう。

「はい」

「じゃあ、そこらへん、よろしく。指示は僕が出すから、それに従ってくれればいいよ。まぁ、そんな出来ない量の指示は出すつもりはないから、安心して。ゆるゆるやってくのが僕のセオリーだからね。給料は、月一できっちり渡す派だけどね。あぁ~、あと、そうだ、人と話すのは得意?」

  兄弟の中では、比較的、社交的な方だろうけど、どうなんだろう。好きではないよな。

「話すことは、そんなに好きではないですけど、まぁ、可能ですかね」

「そうか。じゃあ、早速やってもらってもいいかな?」

 やぁ~~~っと、全員話しました!(良かったですねー)

 まぁ、全員で集まっているところなので、そりゃあ、話しますよね。はい。(最初に全員で集まってたのに、話させなかったのは、どこのどいつだ!)

 それぞれが所属していた部活も出ました。予想は当たりましたか? いろいろ悩んだ末にこの部活になりました。本当は、バドミントン部とか、剣道部とか、陸上部とかもやらせたかったんですけどね。(何なら、ラグビー部もありですね)


 次回は、カケの本屋で初バイトです。(新しいメンバーが出てきます!)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ