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32 ~護衛のない休日~

「ちゃんと、自分から言うから」

 

 その言葉通り、千明様は冬馬様のいない二週間で、よく自分の意見を言うようになった……気がする。俺としても、見分けるためのデータが多く取れたから、ありがたい。普段、屋敷の中では、冬馬様の奥に隠れていて、よく分からない状態だったから、良い収穫だったと思う。

  べ、別に、タツみたいな取り方はしてない。

 俺のデータの取り方は、樹とは違う。

  人それぞれ違うのは、当たり前だと思うけど。

 樹は、人の細かいところを見ているが、事実しか見ていない。感情などは一切考えない。

  だから、諍いが起こりやすいんだと思うけど。

 それに対して俺は、そもそもデータを感覚で感じ取っているため、断定はできないが、大体そうなることが多いといった感じであり、そこには感情も含まれる。このとり方は、樹というより彰に似ている。彰は、相手の感情を感じ取って試合をしているから、俺とほぼ同じだと思う。

 二週間後には、冬馬様が予定通り戻ってきた。俺と皐の任務も終わり、のんびり過ごそうと思っていたら、淳さんに電話で呼び出された。

「なんですか?」

 俺は、屋敷の中央にある、屋敷の中で最も大きい部屋である大広間に入った。ちなみに、大広間は床が畳で、座布団とロ―テーブルが何個かある。大体ふすまの奥にしまってある。冬の集まりで使われると、晴さんから聞いたことがある。

「いろんな処理、手伝って」

「なんで俺なんですか? というより、俺でいいんですか?」

 淳さんが座っているところに近づく。

「この後、冬馬君と千明君も来る予定になってるんだけど、その二人と俺だけじゃ、いつも通り動けないから、って言うのが本音。建前は、人手が足らないから」

「つまり、人手不足いう理由で呼ばれたけど、本当は、冬馬様たちの話し相手をしてほしいと。そういうことですか?」

 俺は、机の上に積み重なっている紙の束になんとなく目を通しながら言う。

「そ。呑み込みが早くて助かる」

「晴さんじゃダメなんですか?」

「晴さん、今空いてないし。それに、冬馬君たちも、晴さんより翔のほうが話しやすいだろ? 人手不足なのも半分事実だし」

「淳さんの兄弟を連れてくればいいんじゃないですか? 俺と同い年がいるって聞いたことがありますけど」

「あぁー、あいつらねー。……それは、ちょっと難しい」

 淳さんが、動かしていた手を止め、遠くの方を見る。

  何かあるのか。訊く気にはならないけど。

「あ、そういえば、来週か、再来週だっけ? 二学期の中間試験があるの」

 完全に話を逸らしたい、と淳さんの眼が訴えていたし、俺も訊こうとは思わなかったため、淳さんの話に乗ることにした。

  まぁ、いつか会えるでしょ。

「あ、はい。そうですね」

「その期間、俺の兄弟が裏をうろちょろしてるかもしれない」

  さっきの眼は、完全に話を逸らしたいわけではなかったのか。

「何か、あるんですか?」

「何かあるって……。夏休みの初めの方にこっちに来てるんだよな?」

「はい」

「じゃさ、女中の家を片付けてから、半分ぐらいの家が解体されて、今、新しい家が建設中なの、知らないか?」

「あぁ、思い返してみれば、やってますね」

「そこに引っ越すんだよ。俺らが」

  なるほど……。そういう展開か。

「下見、ですか? まだ、全然出来上がってない気がするんですけど」

「引っ越すのは三月。今回は、その日程とかの話し合い。当主様と。まぁ、大輝兄がやってもいいと思うんだけど、まぁ、一応、琉生からもってことで」

「引っ越すとき、力が必要だとか、面倒を見てほしいことがあれば、俺の兄弟使えますよ。まぁ、学校に行っている時間外ですが」

「手伝ってもらえたらありがたい。俺より上は、多分手伝えないし。けど、引っ越すのは、春休みの予定だから、皆、部活やってるんじゃないか?」

「休みの部活、一つぐらいはあります。それに、アユとノゾは大学受験が終われば暇なので」

「なるほど……ってか、大学受験の後って、そこまで暇じゃないと思うが?」

「今も、暇そうなので、多分、時間を作るぐらいできますよ。アユたちのことだし」

「そうなのか……」

「そういえば、淳さんの兄弟って何歳ぐらいなんですか? 時々、名前を聞く人はいても、どのぐらいかはわかってないんですよ」

「名前だと、誰、知ってるんだ?」

「よく聞く人だと、大輝さん、修さんの二人で、何度か耳にしたのが、條さんと睦月さんと唯さんです」

「上の方は大体知ってるんだな。えーっと、大輝は長男で、二十八。その次に二十六がいて、その次が、修と條の二十三。その次が俺で、二十一。そんで、俺の下に十八の高三。その下が、睦月と唯の十六。翔と同い年なのは、この二人。その下にも結構いる」

「俺ら並みか、それ以上に多いんですね」

「そうだな。全部で二十だから」

 淳さんが、なんともないといったように言う。

「に、二十……ですか……」

  二十は聞いたことねぇぞ。さすがに。

「よく、そんなに産んだなって感じだよな」

「淳さんって、上から五番目なんですね。もう少し上だと思ってました」

「なんで、そうやって感じたの?」

「いろいろ見て、ですかね。感覚です」

  俺の判断方法は、大体感覚だからな。

「感覚ねぇ……。どうやったら、感覚って鍛えられるんだ?」

  どうって、鍛えようと思ったことがないからなぁ。

「何かに困ってるんですか?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど……。……俺の兄弟たちがね……」

  あまり、突っ込んでほしくなさそうな顔をしてるな。まぁ、そっとしておくか。

 すると、大広間の扉が開き、冬馬様と千明様が入ってきた。

「あ、翔。二週間、ありがとう」

 冬馬様が俺を見るなり、そう言った。

「そこまで疲れるものでもなかったので、また、いつでもやります。俺も、兄弟練習に付き合わなくてよかったので、ありがたかったです」

「それは、翔にとっていいこと、という判定でいいのかい?」

「はい」

「それなら、いい。また頼むかもしれないから、その時はよろしく」

「はい」

 冬馬様と千明様は、中央にある机に近づいてくる。淳さんの周りには、先程の優しい雰囲気とは違い、緊張の空気が漂っている。

  あーあ、ガチガチだな。淳さん。前の俺も、こんな感じだったのかな。

「それで、何をすればいいんですか? 淳さん」

「えっと……やることはいっぱいあるんだけど……。どれ、やりたい?」

 淳さんが、できるだけ冬馬様と顔を合わせないように、積み重なっている紙を壁にしながら、手元に視線を落として言う。俺は、会話の邪魔にならないように話を横で聞きながら、先程とは違う紙の束に目を通す。

「具体的、何があるんですか?」

「えっと……。そうだなぁ……」

 淳さんの声から、焦っているのが感じ取れる。俺が淳さんに視線を向けると、助けてくれー、と目が訴えていた。

  これは、想像以上に早く話が振られそうだ。

「翔、今、見た中だと、何がある?」

  ほら。って、そんなこと言ってる場合じゃない。えーっと、さっき見てたのが……。

「そうですね……。俺が見た中には、会計関係のものと、報告書関係のものがありました。見た感じなので、内容は少し違うかもしれませんが……」

「会計関係は、どんなもの?」

「えっと、会計は、主に計算です。他に、今回回収してきた、レシートとか領収書とかの整理、入力とかです」

「今回の旅費関係ってことだね?」

「はい」

 チラッと淳さんの方を見ると、淳さんもうなずいている。

「じゃあ、報告書関係は、どんなもの?」

「主に、その屋敷付近について書かれた情報を整理し、簡潔にまとめること。今回の出来事をしっかりまとめることです」

「なるほど……。となると、僕は報告書関係にいたほうがいいのか」

  冬馬様が報告書関係にいるとなると、千明様も冬馬様と一緒にいてくれるとありがたいな。

「翔、千明と僕で、報告書関係でいいかな?」

「はい。それが、良いと思います」

  この中じゃ、冬馬様しか行ってないから、現地とかの情報も分からないし。

「じゃあ、僕と千明で報告書を書くので、出来上がったものを、淳さんに目を通してもらうという感じでいいですか?」

「あ、うん。わかった」

 久しぶりに話が振られ、淳さんは少し驚きながら言う。

「それじゃあ、この机だけじゃ狭いから、分かれてやろうか。僕たちが向こうでいいかな?」

「うん」

「これ、書くのに使って。一応、二台、借りてきたから」

 淳さんが、重なっていた紙の間から、ノートパソコンを二台、冬馬様に差し出す。

「会計の方にはありますか?」

「あるよ」

「じゃあ、ありがたく使わせていただきます」

 冬馬様がノートパソコンを二台受け取り、千明様に渡す。

「報告書関係の紙の束は、どっちですか?」

「こっち」

 淳さんが、俺が最初に見ていたほうの紙の束を、冬馬様の方に押し出す。今にも崩れ落ちそうだ。

「翔、運ぶの手伝ってくれるか?」

「分かりました」

 崩れそうな紙の束を(俺の方を多めに)二つに分け、違う机に置く。俺は、淳さんの座っている机に戻り、淳さんの正面に座る。

「淳さんは、お昼ご飯、どうする予定ですか?」

「どうって……。事務所戻って、大輝兄の奪おうと思ってたけど」

「俺の兄弟の作ったものでよければ、食べますか?」

「いいのか?」

 淳さんが作業していた手を止め、顔を上げる。

「大人一人分、どうってことないですよ。今日は、アキもいるので、好んで作ってくれます」

「そうなのか? じゃあ、頼んでいいか?」

「分かりました」

 俺は、スマホを取り出し、歩宛てにササっとメールを送る。

「あ、そういえば、さっきの説明当たってました?」

「あぁ、言おうと思ってたこと、全部言ってもらえたから、助かった」

「一番上の紙に、書いてありましたよね? 誰の字か分からないんですけど、メモ書きみたいに」

「あれ、大輝兄の字。俺も、こういう仕事は手伝い始めたばかりで、どうやって説明したらいいか分からないって、言ったら、書いてくれた」

 淳さんが、再び手元に視線を落として言う。

「なるほど。それで、俺はどうすればいいんですか?」

「いや、今の今まで、大輝兄のメモを読んで、冬馬君たちに説明してただろ」

「具体的には何もわかってないので。それに、淳さんに好きな方をやってもらいたいので」

「じゃあ、なんで、説明できたんだ? それなりに、具体的だったぞ」

「向こうにいたときに、兄弟から押し付けられてきたので、なんとなく知ってるだけです。中学生ができる程度のことなんで、難しいことはしてないですし」

「押し付けられてたっつっても、そういう感じじゃないだろ? 翔の兄弟」

 淳さんが上目遣いに俺を見る。

「そうですね。全部俺が請け負っていただけで、押し付けられてたわけではないですね。まぁ、押し付けられたとしても請け負っただろうし、ありがたいですけど」

「なんで?」

「兄弟練習に付き合わなくてよかったので」

「なるほど」

  そろそろ、何かするべきか……。

「それで、何をしたらいいですか? 一応、人手不足なんでしょう」

「電卓打つのって、早い?」

 淳さんが手元から視線をはずし、俺を見る。

「まぁ、それなりに、だと思います。習ってたわけではないですが、似たような作業はしたことがあるので」

「それじゃあ、俺が領収書関係を日付順に並べてまとめていくから、日付ごとに計算して」

「分かりました。日付順に並べる作業は、俺もやります」

「そりゃ、どうも」

 それから、昼食をはさんで約三時間、作業をしていた。俺は、半分ぐらいまで領収書類を日付順に並べ、それからはずっと計算をしていた。その間中、目の前に座っている淳さんは、ずっとパソコンに入力をしていた。計算の作業をやり始めたときは、しっかり電卓を使っていたが、やっていく途中で暗算のほうが速いことに気づき、確かめたいときだけ電卓を使うようになっていた。ずっとパソコンに入力していた淳さんにさえ、少しひかれた。

 あとは、すべてに淳さんが目を通せば終了、というところまで終わらせると、俺と千明様は、半強制的に大広間から追い出された。俺は、千明様を部屋まで送り、自分の部屋まで向かって歩き出す。

 廊下を歩いて、自分の部屋に戻る途中、地面がすごい勢いで揺れた気がした。しかし、スマホには緊急地震速報は届いていない。初期微動もなかった。つまり、揺れていないのだ。すると、すぐに目の前の風景がぼやけだし、ぐにゃと歪んだ。異常があったのは自分の方なのだ。

 そこまでわかると、俺の意識は途切れた。


 ……ここは?

 どこか分からない場所に立っている。周りは、見渡す限り闇だ。

 しかし、自分の足元だけがガラスのようになっていて、そこから光が漏れていた。ガラスの向こう側には、ベッドの上で横になっている男性と、ベッドの横にある椅子に座った女性がおり、まだどちらも三十歳を超えていないように見える。

「ごめん、また迷惑かけちゃったね」

 男性の口が少しだけ動き、その口から小さな声が漏れた。顔にはずっと笑みを浮かべている。

「謝る前に、元気になってください。これ以上、何かをすると体に障りますから、翔様自身が元気になってくださらないと……」

 女性の声は震えている。最後の方は、聞き取りづらかった。

  翔様? 今そう言ったよな? でも、俺には到底似てないし、この部屋も知らないぞ。隣の女性も知らん。

「頑張るよ」

 男性の声は、先程よりも元気を失っており、耳を澄ませないと聞こえない。女性は言葉が出てこないのか、黙って男性の手を両手で握りしめている。

 部屋全体を見まわすと、一つしかない扉に背を向けて立っている、三十代後半から四十代前半に見える男性が立っていた。

  何してるんだ? ……というより、ここはどこなんだ? 夢の中か? 足元の世界は何なんだ? 誰かの小説の中か? いや、でも、読んだことないな。俺と同じ名前の奴が出てくる小説を読んだことがない。……覚えてる限りでは。ここで分かるのは、日本には見えないことぐらいか。

 少し動いてみようと思い、足をガラスから離した。その瞬間、ガラスの向こうの世界がカッと光った。俺は反射的に腕で目を覆った。光が収まり、腕を目の前から離して、ガラスの向こう側を覗くと、ベッドの上で横になっていた男性がいなくなっていた。男性の手を握っていた女性の手はその状態で、ベッドにおろされていた。表情は、下を向いていて分からない。扉に背を向けて立っている男性も下を向ていて表情は分からなかった。

 俺は、動くことが怖くなり、あげた足をその場に降ろした。

 翔でも倒れることはあるんですね。常人ではないと言われながらも、普通の人、みたいなところはあります。

 そして、よく分からない世界。……まぁ、これは次回をお楽しみにということで。

 淳さん、ここ最近兄弟たちより名前を書いている気がする……。


 次回は、 学校に行かない平日 前編 です。2週間後です。

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