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30 ~護衛の休日 中編&樹と翔の話し合い~

「おい、十三人とか、ばかげた兄弟の人数を聞いたが、本当なんだろうな? 相川先輩のタイムも早かったはずだが、本当に抜いたのか?」

 そんな、質問をポンポン出されても、すぐに答えられないって。

「確かに、十三人は、聞いたことないですよね。俺も、自分たち以外で聞いたことないです」

「じゃあ、お前も、抜いた一人だな?」

「まぁ、そういうことになりますね。それを聞いて、どうするんですか?」

  因縁付けられるのは、面倒だぞ。

「戦いを挑む」

  ほらー。陸上部なのか?

「そうなると、同学年のほうがいいですよね。何年生ですか?」

  俺の逃げる口実が欲しい。

「二年だが?」

「では、二年の中で、一番早い人と遅い人のどちらがいいですか?」

「そりゃ、もちろん早い方だろ」

「それじゃ、呼び出しますね」

 俺は、スマホを取り出し、皐に電話をかける。

「何?」

 皐は、ワンコールで出た。

「呼び出し。校門前まで、ダッシュで来て」

「誰からの呼び出しなんだ?」

「サツと同じ学年の人から」

「よく分からんな。まぁ、いい。校門の前に行けばいいんだな?」

「できるだけ早くな。体力は余ってるだろ?」

「了解」

 皐がそう言うのと同時に電話が切れ、二分もしないうちに姿を見せた。

「呼び出したのって、こいつ?」

「そう。サツと長距離走対決したいんだってさ。相手してあげて」

「今からか?」

「いや、今じゃなくていい。来週のどこかで相手してくれれば」

 陸上部員(だと思われる人)が、俺と皐の会話に入ってくる。

「じゃあ、来週の月曜日、予定合わせよう。今は無理だ」

「分かった。何組だ?」

「二組」

「分かった。呼び止めて悪かったな」

 陸上部員(だと思われる人)は、そう言うと、走り去っていった。

  よかった。俺が一番早いやつだってバレなくて。

 すると、俺の持っていたスマホがなった。

「どうした?」

 俺は、電話に出て言う。

「ヘルプ。タツが暴れだした」

 亨からだった。

「俺の?」

「もちろん」

「アユとノゾがいるだろ」

「それでも止まらないから、呼び出したんだ。サトとスグは使い物にならないし」

「了解。すぐ行く」

 俺は電話を切り、横にいた皐を見る。

「誰からだった?」

「トオ。ちょっと部室に行ってくるから、千明様のことよろしく。あと、晴さんに説明も」

「ん? あぁ、わかった」

「すぐ終わらせてくる」

 俺はそう言いながら、皐に荷物を渡す。

「カケでダメだったら、終わらないからな」

 皐が、俺のバッグを受け取りながら言う。

「まぁ、頑張ってくる」

 俺は、走って野球部の部室に向かった。

「あ、来た」

 部室の前に、スマホを握ったままの亨が立っていた。

「今、どんな状況?」

 亨の横に並び、部室の中を見る。

 中は、散々でもないが、いろいろ散らかっていた。殴り合いというよりは、言い合いだ。

  タツの独壇場だな。

「見たらわかるだろ。データ大好きのタツが、データを振り回して暴れてんの」

「まぁ、見たらわかるな」

「サトとスグはそれぞれのデータしか持ってないし、アユとノゾなんて、そんなこと考えてもないだろ? カケがやってるから。アキと俺は途中参加だったし、ずっと見てたサツは居ないしさ」

「で、俺を呼んだと。まぁ、なんとなく把握した」

「ってことで、よろしく」

「まぁ、早く帰れた方がいいよな。入っていきたくないけど」

「タツが落ち着くまで待ってたら、いつまでたっても終わらない」

「だよなぁ」

  気は乗らんが、やるしかないか。

「あ、カケ、こっち来てたんだ」

「タツ止めて。頼むから」

 部室の隅の方にいて、こそこそと部室から出てきた、暁と傑に見つかり、切実な願いを言われる。

「まぁ、止められたらな」

「そこを何とか」

「確実に止めてほしい」

「努力はする」

 そう言いながら、部室の中に入る。よく見てみたら、何もできない顧問の先生もいた。

「タツ……」

 とりあえず、樹の後ろに立って呼んでみる。

「カケ! とってたノート見せて」

 すごい勢いで振り返った樹と目が合う。

「向こうに置いてきた。そうなるだろうと思ってたから」

「分かってたなら、持って来いよ」

「いろいろ言いたいことはあるけど、とにかく今は抑えて。周りに迷惑だし。家に帰ったら聞くから」

「今、話さないと忘れるだろ!」

  結構ガチモードだな。

「はぁ……。タツ、価値観が違うやつに話しても、そう簡単に伝わるわけないだろ」

「そうだけど……」

「明日、時間とって話すんだろ? その時に、しっかり話せばいいだろ。今の、短い時間じゃなくてさ」

 とりあえず、畳みかける。

「ぐぬぬ……」

 樹は、正論と自分の気持ちの中で、揺れていた。

  今は何も言わないほうがいいか。

「……分かった。帰ろう」

「理解してくれて何より。皆さん、お騒がせしました」

 俺は、野球部員や顧問に一例をしてから、樹の気が変わる前に、兄弟たちを部室から連れ出す。

「いやぁ、カケが来てくれて助かった」

 車に向かいながら、歩が言う。

「そっちで、どうにかしてほしかったけどね」

「まぁ、無理だろうな」

 元から諦めていたかのように望が言う。

「誰が、カケを呼んだんだ?」

「俺」

 ムスッとしている樹を、つかんでいる彰の問いに、亨が答える。

「さすが」

「サトとスグは、いても全く意味がなかったからな」

「そういや、スグ、普段はどうしてるんだ? よくあるだろ? 樹がこうなることなんて」

「そもそも、こんな感じになることがあまりなくて、今日みたいに激怒することは本当にないし、こっち来てからは初めて」

「じゃあ、なんで、今日は怒ったんだ?」

 何も考えていなさそうな歩が、樹の顔を覗き込みながら言う。

「……そんなの、本人に訊かないと、分からないでしょ」

「今、本人は答える気がないみたいだな」

「拗ねてるからな」

 歩が、樹の頬をつつく。

「ノゾ、買い物いつ行くの?」

 俺は、歩の行動を横目に見ながら、望に話しかける。

「ん? あぁ、そっか。カケかサツが行くのか。……今んとこ、帰っていろいろ終わったら行こうと思ってる。けど、もっといい案があったら、教えて」

「それでいいと思う」

「今日は、どっちが行くんだ?」

「サツが行っても、何もできないから、俺が行く予定」

「そうなると、家に残るやつらが心配だな。サツとミノがいるけど、サツは抑えられないからな」

  考えることは同じか。

「今日のサツは、どっちにいても使えなさそうだから、兄弟たちだけのほうがいいでしょ」

「頭だけは使えるけどな。アユについててもらうか?」

「いや、アユについてても、今は意味がない。それに、一応、病院で診てもらった方がいいでしょ」

「付き添いがいるのか……」

「まぁ、居てもいいけど、サツの場合、居なくてもいいんじゃね?」

「カケはどっち? いるかいらないか」

「本人次第かな。いるんだったら、カナかサト」

「ミノかシノでもよくないか?」

「サツが連れていきそうな人を挙げただけ。誰を連れてってくれても構わない。買い物組じゃなければ」

「ミノは残っててほしいな」

  そうだろうな。

「ノゾが選択肢に出したんでしょうが」

「そうだけどさ……。カケだって同意してただろ」

「まぁ、なんでもいい。後で、サツに話しておいて。……俺が話してもいいけど」

「隣が空いてたら、話しておく。それが無理だったら、カケに頼む」

「了解」


「お疲れー」

 車に戻ると、一番後ろに座っていた、要に言われた。

「ノート、頂戴」

「どーぞ」

 俺は、要からノートを受け取る。

「読んだ?」

「まぁ、すこし」

「ふーん」

「何か……、ダメだった?」

 要が、少し不安そうな顔をする。

「いや……。そういうわけじゃない」

「それなら、よかった」

 要がほっとしたような顔をする。

「カケ、機嫌悪い?」

 要の横に座っていた、忍に言われた。

「いや、そうでもないけど」

  すこし、だけ、な。

「そっか」

 俺は、前に戻って千明様の通路を挟んだ隣に座る。

  誰も座らないからな。

「僕の隣なんて、誰も座らないのに」

「まぁ、誰の隣でも、何かがあるわけじゃないですから」

「そうだよね」

 全員が座ると、晴さんが車を発進させる。特に何もなく、屋敷に戻った。千明様を当主様の部屋まで送り、自分の部屋に戻る。荷物を置いて、一息つくと、望が部屋に入ってきた。

「買い物、いつ行く?」

「いつでもいいけど」

「さっき戻ってきて、今から行くってなったら、よくないか」

「晴さんは、どうなの?」

「何も聞いてない」

「じゃあ、五時半にここを出ることにして、俺が千明様に訊いておくから、ノゾは、晴さんに訊いておいて」

「了解」

「サツには、言った?」

「まだ言ってない」

「行く?」

「戻るついでに言っておく」

「じゃ、よろしく」

「五時二十五分に玄関に集合な」

「了解」

 望が部屋を出ていった。俺は、千明様に確認のメールを送り、ベッドに寝っ転がる。

  はー、疲れた。今、五時二十分か。五分じゃ何もできないか。

 千明様から、了承のメールが届いたのを見てから、起き上がって、バッグの中から財布を取り出し、ズボンのポケットにスマホと一緒に突っ込んで、部屋を出る。

 廊下には、皐と望がいた。

「あ、カケ」

「なんで、こんなところにいるんだ?」

「サト、待ち」

「ふーん」

「カケは?」

「千明様、連れてくる」

「よろしく」

「カケ、大丈夫か?」

 望は見逃してくれたが、皐は見逃してくれなかった。

「何が?」

「何がって……」

「大丈夫だよ」

「なら……いいけど」

 その後、当主様の部屋から千明様を連れてきて、晴さんの運転する車で買い物に向かった。

「千明様は、何を買う予定ですか?」

 駐車場からスーパーに向かっている途中に話しかける。

「結構あるんだけど……」

  別行動のほうが、ありがたいか。ノゾたちも、千明様も。

「ノゾ、そっち、いつも通り四人でまわって」

「ん? ……あぁ、了解。そっちは?」

「二人でまわる」

「外で待ってればいい?」

「車集合でいいんじゃないか?」

「了解」

 望たちと別れ、千明様についていく。

「翔君は、よく買い物って、行くの?」

 千明様が、どこかに向かいながら言う。

「行きません。時々、本当に時々行くぐらいです」

「へぇ、そうなんだ。もっと行ってると思ってたけど、そうでもないんだね」

「なぜ、もっと行ってると思ったんですか?」

「みんな仲いいし、分担してると思ってたから」

 肉のコーナーに行き、千明様が豚肉を手に取りながら言う。

「なるほど。そういう意味では、分担してますよ。ノゾたちが、ご飯担当なので」

「でも、歩さんが作ってるって聞いたよ?」

「アユは、作るだけの担当です。ノゾやアキは、買い物とご飯を作る担当です」

「亨君と雫君は?」

 パンコーナーに向かいながら言う。

「あの二人は、ノゾとアキと相性がいいんです。それに、シズは、材料を見る目があって、トオは、俺たちの好みを把握してるので、そこが買い物組になってます」

「なるほどねぇ」

「千明様は、誰かと買い物に来てるんですか?」

「冬馬兄さんと来ることが多いかな。晴さんに送ってもらって」

「そうなんですね」

 買い物を済ませ、スーパーを出る。車に向かい、荷物をトランクに乗せ、車に乗り込むと、晴さんが車を発進させた。

 その後は特に何もなく、一日が終了した。


 翌日。

「カケ」

 朝ご飯を食べ、片づけをしてから自分の部屋に戻ってきて、今週のデータ処理を始めた直後に、樹が扉の向こうから俺を呼んだ。

  普段なら、何も言わずに入ってくるのに。

「何?」

 俺は、作業していた手を止め、扉の方を振り返る。

「入るぞ」

「どーぞ」

 いつもより、少し元気のない顔をした、樹が扉を開けて部屋に入ってきた。

「どうしたんだ? タツが俺の部屋に来るなんて。珍しい」

「話を……聞かせてほしい」

「何の?」

  俺、何か、タツに話さなきゃいけないことなんて、あったっけ?

「昨日、言ってたこと。価値観は違うと簡単に話が伝わらないっていうやつ」

「あぁー……」

  そんなのもあったな。

「もしかして、忘れてた?」

「今の今までな。樹自身で、考えてみた?」

「まぁ、なんとなくは、ある。けど、答え合わせがしたい」

「あるなら、別に答え合わせはしなくていいよな?」

「訊いてみる価値があると思ったから、聞きに来たんだけど」

「まぁ、そうじゃないと、タツは動かないからな」

  自分に価値がないと思ったことは、一瞬で捨てるからな。面白そうなものでも。

「それで、カケのやつ、教えて」

 今にも噛みつかれそうな勢いで、樹が言う。

「分かった。分かったから、落ち着いて」

「落ち着いてるけど?」

 樹は、本当によく分からない、といったような顔をしている。けれど、先ほどよりは、元気が戻っている気がする。

「座りなよ」

「あぁ、そういうこと」

 樹は、納得したような顔をして、その場に座った。

  そういうわけじゃないけど、まぁ、いいか。

「それで、さっきの話だけど、結局、聞きたいことの根本的なところは、何なの?」

 樹が座ってから、少し間を開けて、俺から話を切りだした。

「カケの、価値観について教えてほしい」

「それは、持論でいいってことか?」

「それが聞きたい」

「そうだねぇ。どこから説明しようか……」

 俺は、樹から視線をはずし、天井に持っていく。天井を眺めながら、ふわっとした考えをどう説明するかを考える。その間、樹は何も言わず、黙って俺の言葉を待っていた。

「価値観ってさ、漢字でどうやって書くか、わかる?」

 俺は、なんとなく、樹に質問を振った。

「えーっと、かちかんだから……、価値に観察の観だな」

「正解。それが、正答。でも、ここ最近だと、もう一つ新たにできてる感じがあるんだけど、わかる? 価値かんの〝かん〟っていう漢字。今じゃ、こっちのほうがよく見かける気もするし、どっかのネット記事に、75%ぐらいの人が間違えてるって、書いてあった」

 俺は、椅子の向きを樹に向け、視線を樹に戻しながら言う。

「かちかんだろ? ……うーんと、なんだろ……」

 樹は、数秒考えている仕草を見せたが、すぐに放棄した。

「答えは?」

 俺の方を見ながら言う。

「感じるって書いて、価値感」

「予測変換には、出てこないけど?」

「だから、勝手にできたんだって。観察の価値観の間違った使われ方」

「それで、何が違うんだ?」

「ここから先は、本当に俺の持論だからな?」

 サブタイトルが数話を挟んで前編・後編になっているので、わかりにくいですが、すべて一日で行われたことです(長い休日ほど長くないので許してください)。

 樹と翔の話し合いは次回に持ち越しです。話をまたぐのは初ですね。

 そして、陸上部員から受けた挑戦状はきれいに皐に流しました。今後、結果が出てくるかもしれませんが期待しないで待っていてください。


 次回は、 登場人物紹介 樹編 です。来週です。本編は二週間後です。

 本編とちょうどあっていて、驚いています。

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