表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/120

29 ~野球部との練習試合 後編~

「カケからピッチャーをやるとか言うの、珍しいな」

「変えないほうがいいと思ったから。後ツーアウトだし」

「まぁ、俺も同意見」

「変える方が面倒だし」

「カケっぽいな。んで、球種は? コースとかはどうする?」

「いつも通りでいいよ。コースは、そこにミットを構えてくれれば」

「了解。それじゃ、ちょっとキャッチボールをしてから、始めるから」

 樹は、そう言いながら俺にボールを渡してくる。グローブは、皐が使っているものを借りた。

「了解」

 俺は、樹からボールを受け取り、マウンドをならす。樹が、守備位置に戻りしゃがむ。俺は、ゆっくりとした動作で、樹のミットにボールを投げ込んだ。

  相変わらず、気持ちよくさせるミットの音、鳴らしてくれるよな。

「いい球、来てるよー」

  言われなくても分かってるよ。

 樹から球が返ってきたのを捕り、もう一度マウンドをならす。先ほどと同じように樹のミットにボールを投げ込む。

「そろそろいいかー?」

 樹がそう言いながらボールを返してくる。俺は、頷いた。投手板の後方にある、ロジンバッグを手に取り、少し手に付ける。先ほどあったところに落とす。

 バッターが、バッターボックスに入り、審判(顧問の先生)が「プレイ」と言う。

 俺は、樹の指示した球種を、樹の示した場所に投げ込む。一度もバットに触れることなく……というより、誰もバットを振らなかったのだが……ツーアウトを取り、このイニングは終了した。

「ナイスー」

 ベンチに戻ると皐に言われた。

「手はどう?」

「まぁ、感覚は戻りつつある」

「それなら、よかった」

「カケ、次の打席だから、準備しとけよ」

「あ、了解」

 俺は、グローブをベンチに置き、ヘルメットをかぶったり、手袋や、肘当て、脛当てをつける。皐の前のバッターは、暁でレフト前にツーベースヒットを打っていた。

 俺は、バットを持ってバッターボックスに立つ。とりあえず、球筋を確認するために二球見て、三球目以降でいいところに来た球を打つことにした。確認するための二球は、どちらもボール球で、三球目は外角低めのストレートだった。普通に打った。ライトのライン際に落ち、三塁打だった。

 次の、傑が長打を打ってくれたため、悠々ホームを踏み、傑の使ったバットを拾ってベンチに戻った。

「ナイスー」

「まぁまぁかな」

 と言いながら、千明様の横に座り、ノートに先ほどのイニングの記録とこのイニングの今までのことを記録する。

「楽しめてますか?」

 俺は、暇そうにしている千明様に話しかける。

「うん。きれいなヒットが多いから、見てて楽しい。ホームランとか無いし」

 本当に、楽しそうな声をした返事が返ってきた。

「打とうと思えば、多分、全員打てますよ」

「守備の練習?」

「まぁ、そうですね。ねらい打ってますね。ライトフライとか」

「すごいなぁ。僕は、そこまではできないや」

「まぁ、感覚ですから、ずっとやってればできるようになると思いますよ」

「できないよ。一イニング分覚えるとかも」

「これは、暗記力じゃないですか?」

「そうだね」

 樹まで打順が回り、攻撃が終わる。俺は、ペンを机の上に置き、グローブを持ってマウンドに向かう。

「さっきと同じでいいよ。もう少し抑えてくれると、練習になると思うけど」

「じゃあ、抑えるよ。どのぐらいがいい?」

「三から始めて、五ぐらいで」

「了解。できるだけ合わせる」

「できるだけでいい。飛ばしたかったら、飛ばしていいから」

「はーい」

 結局、この回も誰もバッドに当たることなく終わり、試合も終了した。その間に、テニス部が終わったらしく、彰と亨がベンチに座っていた。

「カケがピッチャーやってるなら、もっと早く来て観戦したかった」

 ベンチに戻ると、彰に言われた。

「もっと早く来てたら、俺は出てなかったよ」

「それもそっか。なら、今でよかったな」

 彰が満足そうに言う。

「もう一試合やろうって。もうちょっと打たせてほしいし、守備練したいって」

 先程まで監督と話していた、樹がベンチに戻ってきて言う。

「アキとトオが来たから、俺は出なくていいよな?」

 俺が、歩の方を見ながら言うと、歩は少し考えてから、彰と亨を見て、

「着替え持ってる?」

 と、言った。

「あ、野球用の? 持ってるよ」

 亨が言った。

「なんで持ってんだよ。テニス部だろ」

 傑がツッコミを入れる。

「一応、全部のユニフォームは持ってるよ」

「用意周到すぎるだろ」

「まぁ、いいでしょ。なんでも」

「アキは?」

「俺は、トオほど用意周到じゃない」

「持ってないってことだな?」

「訊かなくても、わかるでしょ」

「じゃ、カケの少ししか着てないから、使いまわしでアキに渡して。インナーはいっぱいあるからいいけど」

「了解」

「ポジションは?」

「どうすんの?」

 今まで、話を仕切っていた歩が俺を見て言う。

「なんで、今までアユが仕切ってたのに、そういうのだけ振るわけ?」

 と言いながら、考える時間を稼ぐ。

「カケのほうが得意だから」

「はぁ……。えーっと、アキ、一試合投げ切る体力は?」

「ある」

「じゃあ、ピッチャーはアキでいいな。トオは……内野だな。いつも通り、サードにトオ、ショートにミノが入って」

「了解」

「俺らが着替えてくる間にタツは、顧問の先生に話しておいて。サツは後で、その指見せて」

「了解」

 俺は、兄弟たちから了承を得てから、千明様の前まで移動する。

「千明様、もう一試合、大丈夫ですか?」

「うん、いいよ。見てるだけでも楽しいから」

「ありがとうございます」

 俺は、千明様の前で礼をし彰のもとに向かう。

「どこで着替える?」

「もう、トイレでいいんじゃね?」

「そうするか。服、取りに行くわけじゃないから」

 俺は彰と亨と一緒に、一番近い校舎のトイレに向かう。速攻で着替え、グラウンドに戻った。その後は、一試合目の最初と同じように、試合を記録をしていく。

 ふいに、動かしていた右上にぬくもりを感じた。何かと思ってみてみると、千明様が寄りかかって眠っていた。

  !!! こ、これは、冬馬様に殺されるやつでは……?

「どうしたんだ? カケ……」

 俺の異変に気付いた皐が話しかけてきたが、俺の横を見て目を見開いた。

「どうしたらいいと思う?」

「ま、まま、まぁ、頑張ってくれ……。俺は何もできないから……」

 皐がいつもよりたどたどしい。

「まぁ、じっとしてるか」

 そう言ったのが、一回の裏。今はもう、八回の裏だ。後、一イニングで試合が終わってしまう。

  起こしてもいいのか分からないしな……。千明様なら、起こしても怒らないだろうけど、良い睡眠の邪魔はしたくない。どうしようかな。

 とか考えていたら、右腕にあったぬくもりが離れた。

「んん、う~ん……あっ!」

 横からいきなり大きな声を出され、皐が驚いてこちらを向いた。

「ごめん、翔君。……本当に、ごめん……」

 千明様が恥ずかしそうに、俯きながら謝罪してくる。

「俺は大丈夫ですけど……疲れてたんですか? 結構ぐっすり眠ってましたけど」

  まぁ、寝てたら、疲れてるわな。訊かんでもわかる。

「あ……うん。そうか、もしれない」

 まだ、恥ずかしいのか、言葉が変なところで途切れている。

「やっぱり、屋敷にいたほうがいいですよね。外にいるのって、慣れてないと、結構疲れますから」

「うん。少し疲れてたかもしれない。あ、でも、大丈夫だよ。今、何回?」

 無理やり作った、ということがわかる笑顔で聞いてくる。

「九回裏です」

「結構寝てたんだ……。ごめん」

「いや、それは、大丈夫です。肩が枕にされることは、しょっちゅうなので」

  謝罪を素直に受け取れないのが、悪いところだよなぁ。分かってても、直す気はないけど。

「この後の予定とかって、立ててる?」

 千明様が、バッターのほうに視線を向けながら言う。

「いえ、特には立ててないです」

 俺もつられて、バッターのほうに視線を移動した。

「買い物は、行く?」

「今日は、行く日だったと思います」

  買い物担当じゃないから、覚えてるわけじゃないんだよな。

「いつ行くの?」

「屋敷に戻ってからになりますかね。多分。行きたいんですか?」

 俺は、スコアをつけながら訊く。

「うん。ちょっと欲しい物があって」

「千明様とは一緒に行く予定だったので、いつでも言ってください。俺か、サツが一緒に行きますから」

「分かった」

 ちょうど試合が終わり、兄弟たちは、礼をしてベンチに戻ってきた。

「一旦、着替えてこようか」

「そうだな」

「部室で着替える?」

「ちょっと訊いてくる」

「行ってら」

 樹が顧問の先生に話に行き、すぐに戻ってきて全員で着替えに行った。皐も一緒に。野球部の終わるらしく、皆が片付け始めた。俺が使っていた机も、傑が持って行った。

「今、ここにいない、要さんとか、忍君とか雫君は、何部?」

 俺がバッグの中にノートをしまっていると、横に座って遠くを眺めていた、千明様が言った。

「弓道部とバレー部です。シズがバレーで、カナとシノが弓道部です」

「その二つの部活は、終わってるの?」

「終わったってメールが来てました」

「じゃあ、ここに来てもらうの?」

「いえ、校門の前で待っていてもらおうと思ってますが……」

「メールは送った?」

「これからです」

「じゃあ、僕から晴さんに連絡しておくね」

「ありがとうございます」

「僕は、晴さんがいないと動けないから、自分のためでもあるよ」

 そう言いながら、千明様はポケットからスマホを出した。俺もポケットからスマホを取り出し、兄弟チャットに、―校門の前に集まっておくように―、と送る。横で、千明様が電話をしているのを見ながら、この先の予定について、少し考える。

「人数、僕含めて十四でよかったよね?」

 電話が終わってから、千明様がこちらを見ながら言ってきた。

「はい。大丈夫です」

「すぐ、来るって」

「分かりました」

 すると、皐だけ戻ってきた。

「サツ、メール送ったの見たと思うけど、校門前に集合にしてるから、カナたち捕まえといて」

「二つの部活をか?」

「部室は、弓道部以外同じところだろ? まぁ、どっちもこっちに来ると思うけど。だから、その辺にいてくれたらいいんだけど……」

「俺がここにいるから、カケが行ってくんね?」

「その指を見せたくないってこと? 結局見せることになるのに」

「その辺で騒がれるより、車の中だけのほうがいい」

「まぁ、そりゃそうか。じゃ、皆が戻ってきたら、校門に来て」

  俺が言った時点でバレると思うんだけど。まぁ、サツが嫌だって言うなら、いいか。

「それじゃあ、千明様は、サツたちと一緒に来てもらえますか?」

「あ、うん。分かった」

「お願いします」

 俺は、ベンチに置いてあった自分の荷物を持って、野球場を出た。校門の横に寄りかかり、ノートを出して、今日の試合の記録を眺めながら、頭の中で整理する。丁寧にデータ化するのは、明日になる。

「……い、……ーい、おーい、カケー? 聞こえてたら反応してよ」

 少し経ってから、遠くの方で何か聞こえると思ったら、目の前で雫が仁王立ちをしていた。その後ろには、要と忍がいる。

「あ、ごめん」

 俺は、ノートを閉じて言う。

  完全に自分の世界に入ってたのか。

「やーっと戻ってきた」

「没頭するとそればっかになるからな」

「晴さん、来てるけど、呼んだ?」

「呼んだ。……来てた?」

「あぁ、さっきまでここにいたけど、カケが全く反応しなくて、俺らがやるから車で待ってて、って言っておいた」

「はぁー、また、やった。千明様とかは、来た?」

「まだ、見てない」

「じゃあ、先に晴さんのところに行ってて。後から行く」

「了解。シノ、シズ、行こう」

 要がそう言い、忍と雫を連れて、校門を出て行った。俺は、三人を見送り、野球場に戻った。

 野球場に戻ると、三塁側のベンチにいる皐と千明様しか見当たらなかった。

「あれ? まだ来てないのか」

 俺は、三塁側のベンチに向かいながら言った。

「サトから、少し遅れるとは連絡来たけど、見に行こうにも見に行けないから、待ってた」

 ベンチに座っていた皐が言う。

「そっか。じゃあ、部室を見に行くか、先に車に乗ってるか、どっちがいい?」

「どっちか?」

「もちろん。どちらもやるのは、無理だろ?」

「それじゃ、部室、見に行ってくる」

「了解。晴さん、もう来てたから、車集合で。カナたちの助けが欲しかったら、俺に連絡して」

「分かった」

 皐は、そう言って立ち上がり、部室側にある出口に向かっていく。

「それじゃ、移動しましょうか」

「もう来てるの? 早いね、晴さん」

 千明様が、ベンチから立ち上がりながら言う。

「早いんですか? いつもこんな感じな気がしますけど」

「じゃあ、あの人たちのせいだったのか……」

「誰か……訊かないほうがいいですよね。その感じだと」

  知りたいけど。

「女中」

「なるほど?」

  女中って、そんな遅らせるようなことをする人たちなのか?

「やっぱり、わからないよね」

「はい……」

「まぁ、本家とは違うだろうからね」

  どういうことだ? 本家とは違うって。

 千明様と並んで車に向かう。

「おい!」

 校門の前まで来たところで、いきなり後ろから、腹から目いっぱい出しました、というような声で呼び止められた。俺が後ろを振り向くのと同時に、千明様が俺の背に隠れるように動いた。

「なんですか?」

 俺が、一歩前に出て言う。

「持久走で、相川先輩を抜いた、相川だな?」

  持久走って、一週間前にやったやつだよな? それに、相川先輩を抜いた相川じゃ、誰を指しているのか、さっぱりわからん。せめて下の名前を言ってくれないと。……いや、待てよ。相川先輩って言ってるから、冬馬様と千明様ではないことになる。となると、二年か三年……優斗様ぐらいしかもともといないよな。となると、優斗様の記録を抜いた、相川の誰かになるわけだ。

「千明様、優斗様の持久走の記録って、わかりますか?」

 俺は、肩越しに後ろを見て言う。千明様は、俺の服の裾を握っていた。

「うーん、タイムは聞いたことないけど、……冬馬兄さんぐらいだった気がする」

「なるほど。ありがとうございます」

 礼を言って、また前を向く。

  そうなると、俺らの兄弟か。

「おい、十三人とか、ばかげた兄弟の人数を聞いたが、本当なんだろうな? 相川先輩のタイムも早かったはずだが、本当に抜いたのか?」

 翔が試合に出るということで、用語を何個か調べたりしました。

 というより、この兄弟たちもアウトになるんですね、と自分で書いていて思いました(一生、イニングが終わらない設定でもよかったのに)。

 野球のルールに関しては、漫画を読むかアニメを見ることをお勧めします。詳しく説明されているものもあるので。

 そして、何か起こりそうな最後の呼び出し。何が起こるのでしょう。


 次回は、 護衛の休日 後編&樹と翔の話し合い です。二週間後です。

 話し合いシリーズです。今年は、お盆休み週間はないです。申し訳ございません(追いつきそうにないです)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ