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26 ~護衛の休日 前編~

「それで、千明様は何て言ってたんだ?」

「当主様に話してみるって。でも、多分、外に出たほうが安全だって言ってたことがあったから、出ることになるかなって、俺は思ってる」

「まぁ、カケは試合に出てくれないんだろうし、千明様についててくれていいよ」

「ついてないわけないだろ」

「それでさぁ、誰がどのポジションに入るのがいいと思う?」

 先ほどの話題は飽きたのか、歩が話を変えた。

「自分たちで決めればいいだろ。俺は出ないし」

「カケが決めたほうがいい試合になる」

「俺が決めなくてもいい試合になるだろ」

「カケに決めてほしいんだ! 俺は」

「アユは、だろ」

「俺も、カケに決めてほしい」

「……」

 望にも言われ、返答に困る。歩だったらなんとなくで受け流すことができるが、望はそうもいかない。フォローに回ることが多い望には、なんとなくで受け流していたら言質を取られる。それは回避しなければならない。

「……誰がいるの?」

 結局、俺が折れた。歩は嬉しそうな顔をしながら、望に「サンキュー」と言っている。

「今、ここにいるメンバー」

 俺の質問には、望が答えた。

「それだけ?」

「多分、そうだと思う。タツとスグも入ると思うけど」

「人数少なすぎんか?」

「仕方ないでしょ。サッカー部しか今日休みじゃないんだから」

 すると、居間中に着信音が鳴り響いた。誰も、居間中に鳴り響くようなボリュームにしていないから、兄弟全員に送られてきたのだと思う。

「なんだって?」

 もう、昼ご飯を食べ終わっていて、居間の端のほうでゲームをしていた稔に歩が訊いた。

「俺らも参加したい、ってサツから」

「俺らっていうのは、サツとサトでいいのかな?」

「多分ね」

「バスケ部って、今日午前中だけだったっけ?」

「……うん。予定表にはそう書いてある」

 歩の質問にいち早く動いた望が言う。

「これで、七人だな」

  七人……。アユとノゾとミノとタツとスグとサツとサトで七人だから、俺は入ってないな。よし。

「七人いれば十分だよな?」

「野球って、本来九人でやるものだよね?」

 歩の横でご飯を食べている晴樹君が言う。

「いや、俺らが九人で野球をやることのほうがよっぽど少ないよ」

「確かに」

「そうなの?」

「できちゃうから問題なんだよね」

「問題でも何でもないだろ」

「そういえば、アユ。晴樹君と夏樹君はどうするの?」

 稔が、ご飯を食べている二人を見ながら言う。

「当主様に訊かないとわからないな。カケ、この後、また向こう行くだろ? 早めに行って訊いてきてくれ」

「なんで俺?」

「カケが一番口実があるから」

「口実なんて作ればいいでしょ。ノゾに任せたらすぐに十個は出てくる。それに、俺、食べ始めたばっかだし」

「もう、ほぼ食べ終わってるけどな?」

「それは……好きなうどんだからであって……」

「食べ終わったなら訊いてこい。洗っておいてやるから」

  この状態のアユには何も通じないんだよな。仕方ないか。

「はぁ……分かったよ」

 俺は立ち上がって、自分の使った食器をシンクの中に入れる。家を出て屋敷に戻り、食堂に直行する。

  俺は、当主様との仲介役じゃないっての。

 なんて考えながら食堂の扉の前に立ち、気配を探る。

  まだ、二人いる。

「翔です。失礼します」

 俺は、扉をノックしてそう告げる。中から返事が返ってきたら、扉を開けて食堂に入る。

「翔君、僕も行くことになったんだけど、必要なものある?」

 千明様がこちらを見ながら言う。千明様と当主様は、もうご飯を食べ終わっていて、今は、向き合って話し合っている状態だった。

「……詳しくは向こうに行かないとわかりませんが、二試合ぐらいやると思うので、暇つぶしができるものと、体温調整ができるもの、飲み物ぐらいですかね。学校でやるので、飲み物は向こうでも買うことができるので、もっていかなくても大丈夫かと。体温調整できるものは、校内にいても問題はないと思いますが、僕はずっと外にいることになるので、外にいるのであれば必要かと思います」

「分かった。翔君は、質問ある?」

  人のことを気にしているところが、千明様という感じがする。別に、冬馬様が人のことを気にかけていないというわけではないんだけど、千明様のほうが、普段から人のことを気にしているように思える。

「晴樹君と夏樹君は、僕たちが行っている間、どうしますか?」

 歩から頼まれていたことを訊いた。

「そうだね……。学校には連れていけないかな、とは思うんだけど、なんかいい意見ないかな?」

  当主様の前でいつものように意見を訊かないでください! 千明様っ! 

 さっきの歩から頼まれていたことも、俺からは話しかけられなかった。

  前言撤回とまでは言わないけど、もう少し考えてくださいよ。ってことを、千明様に求めたらいけないんだけどね。とりあえず、従者失格。

 という、心の中の言葉を隠し、平然としたまま頭をフル回転させる。

「あの……、それは、もちろん、当主様の部屋にいるということを考えたうえでの質問ですよね?」

「うん」

 俺と受け答えをしているのは、ずっと千明様だが、その向かい側に座っている当主様もうなずいたりしている。

「そうですね……。校長先生と野球部の顧問に言えば、何とかなるかもしれませんが、晴樹様達が当主様の部屋にいても大丈夫ということであれば、当主様の部屋にいるのが一番かと……思います」

「だそうです、お父さん」

 千明様が当主様のほうに体を向けてから言う。

「翔君がそう言うなら、そうしておこう。向こうで面倒を見るのは翔君だろうし、こちらが負担をかけすぎるのもよくない」

  負担関係の話は、考えてもらわなくていいのに。

 とは思いつつも、ありがたいと感じてしまう。

「千明のことは、頼んでいいかな?」

「はい」

  責任重大だな……。

 当主様から直々に頼まれることは、ほぼない。というか、全くと言っていいほどない。ずっと長崎にいたら、もちろん無いままだったし、こっちに来たとしても本家の屋敷に住む……居候するようなことがなければ、俺の人生で一回もなかったと思うほどにない。

 こっちに引っ越してきてからも、冬馬様や千明様を介しての頼まれごとは何回かあったが、当主様から直々に受けたのはこれで二回目だ。

「いつ行くの?」

「みんなの準備ができ次第ってところですけど……」

 そういいながら、この後の動きをシミュレーションする。

  千明様が準備をするとなると、部屋に戻らなきゃいけないから俺が絶対につかないといけないし……。晴樹君たちもこっちに連れてこないといけないし……。俺の準備は特にないけど、アユたちも少しは準備することがあるだろうし……。どう組み合わせるのはいいんだ……?

「千明様はいったん、当主様の部屋にいてもらって、晴樹君たちがご飯を食べ終わり次第、当主様の部屋に連れて行くので、そのあと準備して、行くっていう感じでいいですか?」

「翔君だけで決めちゃってるっぽいけど、歩さんとかと話し合ってきてくれて構わないよ。僕は、お父さんの部屋で待ってるから」

「大丈夫です。そこは気にしないでください」

「あと、翔君の準備はいつするの?」

「こっちに来る前、晴樹君たちのご飯がまだ少し残っていたので、その間に済ませます。準備するようなことは特にないので……」

「分かった」

「……それなら、翔君。私が千明と一緒に私の部屋に戻るから、準備してきてくれていいよ。晴樹たちもそろそろ食べ終わってると思うし」

 俺も、当主様に行ってもらえるなら、ということは考えたが、それをしてくれとは言えないため、当主様から言ってくれたらと考えていたら、当主様から言ってくれた。

  当主様から言われたら、却下してはいけないと習ったからね。教えは守ってる。使いたいところだけな。

 というか、当主様もちゃんと思いつくんだな、誘導してないけど。

「分かりました。晴樹君たちを連れて戻ってきます」

「急がなくていいからね」

「はい、失礼します」

 俺は、食堂を出てから気配の範囲を広げる。人がいないことを確認し、自分の部屋に向かう。自分の部屋に入ると、いつもの野球用ノートを棚から取り出し、先週の土曜日に買った、机の上に積まれている新しい小説二冊とともに小さいショルダーバッグに入れ、ご飯を食べる家に向かう。

「あ、お帰り、なんだって?」

 俺が、居間に顔を出すと、晴樹君たちはもうご飯を食べ終わっていた。

「晴樹君たちは、当主様の部屋で待機。千明様は一緒に行くことになった」

「ふぅん、それで?」

「俺が、この後晴樹君たちを当主様の部屋に連れて行って、その帰りに千明様の準備に付き合うから、その間にこっちの準備を終わらせといて」

「晴さんに連絡は?」

 歩と俺の会話を横で聞いていた望が言う。

「俺が、千明様の準備を待っている間にしておく」

  そこまで考えが回ってなかったわけじゃないからな。ちゃんとわかってたし……忘れてたけど。ノゾに感謝だな。

「了解。それじゃあ、それぞれやるように」

 歩がそう言い、望と稔を連れて居間を出て行った。

「二人は、なんか持ってく? 当主様の部屋に」

「うん。僕たちの部屋に取りに行きたい」

「じゃあ、部屋によってから行こうか」

「うん」

 俺は、晴樹君たちと一緒にご飯を食べる家を出て、屋敷に戻り、晴樹君たちの部屋に向かう。晴樹君たちの部屋は、千明様の部屋の奥にあり、晴さんの部屋の手前にある。俺は、二人の部屋の前で待っている。二人が必要なものを持って出てくると、三人で当主様の部屋に向かった。

「父さん、入るよ」

 晴樹君がそう言いながら、当主様の部屋の扉をノックする。返事が返ってくると、扉を開けて中にに入った。

「それじゃあ、行ってくるね」

 交代で千明様が部屋から出てきた。

「行こうか。ごめんね、翔君。なんか、色々付き合わせちゃって」

 千明様がそう言いながら、千明様の部屋に向かって歩き出す。

「いえ、別に」

「本当?」

 千明様が俺の顔を覗き込んでくる。

「ほ、本当です」

「気、遣ってるわけじゃないよね?」

「遣ってたら、どうなるんですか?」

「と、特に何もしないよ……。僕の居心地が悪いぐらいで……」

 千明様は、少し驚いた顔をしてから少し気まずそうに言った。

「それは、改善したいですね。ですが、千明様達に気を遣わないわけにもいきませんから」

「……冬馬兄さんが言っていたのは、こういうことだったのか」

 千明様が歩いている方向に向き直りながら言う。

「冬馬様が何か言ってったんですか?」

「昔の話だよ」

 千明様が少し遠くを見つめながら言う。

  昔、何があったのか……。冬馬様が今の俺と千明様みたいな関係だった人がいて……って、ほぼ全員そうなるか。まぁ、その人との関係について、千明様に愚痴ってたってことか? そんな風には見えないけどな。冬馬様。愚痴る相手が千明様だったらなおさら。……分からん。

「それじゃあ、急いで準備してくるから、ちょっと待ってて」

 色々と思考を巡らせていたら、いつの間にか千明様の部屋の前にいた。

「急がなくていいので、忘れ物のないように、気を付けてください」

「分かってるよ。翔君まで、冬馬兄さんみたいなこと言わないで」

 千明様が部屋の扉を開けながら言う。

「すみません」

 とりあえず、俺が謝罪をすると、千明様は頷いてから部屋に入っていった。とおもったら、すぐに出てきた。手には薄めの上着を持っていて、肩からショルダーバッグを下げている。

  電話する時間、なかったな。

 ポケットからスマホを出すまではよかったのだが、電話をかける前に千明様が出てきてしまったのだ。

「何やろうとしてたの?」

 千明様が、俺の手に持っているスマホを示しながら言う。

「晴さんに連絡をしようと思っていたところです。……車を出してもらえるように」

「あ、それはね、もうお父さんがやってるから大丈夫。外で待ってると思うよ」

  当主様、早すぎでしょ。まだ何も言ってないのに……。いや、まぁ、千明様が外に出るとなったら、晴さんは必須だけどね。

「ありがとうございます」

 とりあえず、礼を述べておく。

「僕じゃなくて、お父さんがやったんだけどね。まぁ、僕がいる限り、晴さんが動かないといけないからさ」

  千明様もわかってるんだ。……そりゃそうか。

「そうですよね……。持ちましょうか? 荷物」

「いいよ。本二冊しか入ってないし、重くないから、翔君に悪いよ」

「どのサイズの本ですか?」

「文庫の三百ページぐらい、二冊」

「それならまぁ……。重くなったらいつでも言ってください」

「分かった」

 俺らの部屋のある廊下に戻ると、みんなが部屋から出てきていてそれぞれの荷物を廊下において、何やら話し合っていた。

「あ、カケ。なぁ、向こうで着替えられると思うか?」

「着替えられると思うけど……。なんかあればトイレで着替えればいいでしょ」

「じゃあ、いいか」

「サツとサトの服、持った?」

「持った。あと、サツからご飯を買って来いってメール来たから、ミノが買いに行ってる」

「ふーん」

「晴さん、なんだって?」

「もう、外で待ってるだろうって」

「なんで、あやふやなの?」

「カケらしくない」

「俺が聞いたわけじゃないから」

「なるほど。じゃあ、先に荷物を持っていておくか」

「そうだね」

「カケはどうする?」

 歩が、足元に置いてあった荷物を持ち上げながら言う。

「どうしますか、千明様?」

 俺は、俺を歩や望から隠れる盾として使っていた千明様に訊く。

「行こう。僕たちも」

 俺にしか聞こえない声で言ってきた。

「分かりました。俺、ミノの荷物、持つ」

「じゃあ、よろしく」

 俺は、歩から稔の荷物を受け取り、肩にかけた。

「六人乗りかな? 車」

「多分ね」

 千明様を含めた四人で裏玄関に向かう。千明様も外への出入りは、裏玄関からしている。靴を履き替え、外に出る。

「七人乗りか。どう座る?」

 一番初めに外に出た望が、玄関の外に泊まっている車を見て、言った。

「助手席は、千明様でいいですか?」

「はい」

「後ろと前か……。アユとノゾで後ろ?」

「カケは前にいたほうがいいよな?」

「まぁ、なんでも」

「じゃあ、俺とミノで後ろでいいよ。アユは前」

「アユと、ポジションの話をしろと?」

「誰と話したって同じでしょ」

「まぁ、確かに。一人で決めてるし」

「何、話してんの?」

 ビニール袋を手に提げた、稔が言う。

「座るとこ。どうやって座る?」

 望が稔の質問に答えた。

「なんでもいいよ」

「もう、アユとノゾが後ろに乗ればいいでしょ。俺とミノが前に座る。これ以上千明様と晴さんに待ってもらうわけにはいかない」

「確かに……。大変申し訳ございませんでした」

 望が俺の後ろに隠れている、千明様に頭を下げる。

「大丈夫です。それよりも、早く向かったほうがいいんじゃないですか?」

 長い休日が終わったかと思いきや、また、休日です。

 学校まで行こうと思ってたのに……(まぁ、行けませんよね)。

 晴さんが、敬語になったり敬語じゃなかったりして(る気がし)ますが、気にしないでください。晴さんだってぽろっと出ちゃいますから(言い訳でしかない……)。


 次回は、 野球部との練習試合 前編 です。二週間後です。

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