25 ~長い休日 7&護衛の始まり~
本編に戻ります。
「ふぅん。まぁ、それなら大丈夫かな。今日はありがとう」
「いえ」
淳さんを表玄関で見送り、のんびりとした足取りで自分の部屋に向かった。
ふぁあー。データ分析するかぁー。
その後は、午後の部活メンバーが全員屋敷に帰ってくるまで、ずっとデータ分析をしていた。結局、皐を置いて兄弟練習に行くことになり、バレーをした。が、今日は早めに切り上げた。
みんなそわそわしてて、全く練習に身が入ってなかったとは言わないけど、普段のプレイは全くできてなかったからな。
帰り途中で買い物組を降ろしてもらい、他は屋敷に戻った。
皐と晴樹君と夏樹君は家にいた。俺らは、屋敷に戻り着替えなどを置いてから、家に向かう。
「おかえり」
家に入ると居間にいた皐に言われた。
「ただいま」
「早かったね」
「まぁ、誰も身が入ってなかったから、早めに切り上げた」
「なるほど」
アニメを見ていた晴樹君たちの隣に歩と望が座り、一緒に見だした。他のメンバーは、部屋の端に集まりスマホゲームを始めた。
「サツはどうだった?」
俺は、皐の隣に座り皐に質問する。
「それは、何についての質問?」
「緊張とか?」
「結構慣れたけど、まだ話すのには少しかかるかな」
「そっか」
買い物組が帰ってきて夕飯を食べ、順番に四つの家を使ってお風呂に入り、寝るだけになったところで歩の部屋に集合した。晴樹君と夏樹君は、もう自分たちの部屋に戻っている。
「で、誰が話すの?」
全員が集まって一息ついてから、望が俺と歩の方向を見ながら話を振ってくる。
「俺は嫌だよ」
俺が、真っ先に答える。
ここで否定しとかないと、すんなり俺のところに説明が回ってきちゃうからな。
「カケがやらないで、誰がやるのさ?」
「嫌だぁ」
「アユは?」
「俺じゃうまく説明できない」
「俺だって無理だよ」
「俺だって、最初の段階を知らないし」
「俺だって、知らんよ」
「最初から知ってるのカケだけだよね?」
「ノゾだって、ほぼ最初から知ってるよ」
最初に話し合っていた、四人で説明する人を押し付けあう。
「誰でもいいから早くしてよ」
彰があきれながら言う。七つ子のほうは、早く終わらないかなぁ、という顔をしながらも黙って待っている。
さすが、慣れてるな。こんなことなんて、しょっちゅうだからな。
「カケでいいよ。一番わかりやすい」
樹が言う。
タツ、それはやめて。説明すんのが面倒だからここまで粘ったのに。
「じゃあ、カケで」
「一番うまいって言われちゃったからねぇ」
「うんうん」
はぁ、粘っても無駄だったかぁ。
結局、三人に押し付けられ俺が説明することになり、一から説明していく。歩たちも最初のほうを知らなかった話は、へぇー、という顔で聞いている。
「なんか、面倒なことになったな」
「そうだね」
「今日、サツがいなかったのはそういうことか」
「そ」
「でも、ま、頑張るしかないでしょ」
「頑張るのは、カケとサツだけどな」
「でも、心の準備とか、必要」
「カケより慣れてないからな」
「ノゾが使えたら、結構よかったかもね」
「優斗様と同じ教室にいるしな」
「俺らよりは慣れてそう」
「まぁ、一緒にいる時間が違うからな」
「買い出しはどうなるの? 千明様と一緒に行くことになるのかな」
心配そうな顔をした雫が言う。
「あぁ、それは、ノゾが説明してくれるよ。俺の分野じゃないからね」
俺は、説明が面倒のため望に説明を任せた。
「だってさノゾ」
「どうするの?」
彰と亨が望に話を振る。
買い物組にとっては結構切実な問題なんだな。
「えーっと、どういう話になってたっけ? カケ」
「なぜ俺に話を振るんだ?」
ノゾに話を振ったのに。
「一番覚えてるだろ?」
「どういう話になってたんだっけ?」
皐も覚えてないらしい。
「ノゾもサツも覚えてないって、なんかあったの?」
「うーん、頭がしっかり回ってなかったと思う」
「だって、カケ」
俺は、ため息を吐いて、今までの提案を整理しながら話す。
思った以上に誰も覚えてなかったぞ。大丈夫か? 来週から。
「じゃあ、状況次第ってことになるんだよね?」
「そう言っただろ……」
説明を散々して疲れた俺は、雫の問いに投げやりに答えた。
「シズに強く当たるなよ」
望が雫を庇うように言う。
「散々説明させたのは、ノゾたちだけど?」
「カケが怒ってる。怖い……」
「怖くないよ、シノ。カケは怒ってないし」
「まぁ、これからカケには頑張ってもらわないとだしさ、今日はいったん解散にしよう」
「そうだな。サツも今週はしっかり休んでおけよ」
「うん」
「じゃ、解散」
歩がそう言って、この場を締めた。みんなが立ち上がってぞろぞろと歩の部屋から出ていく。俺も続いて歩の部屋を出て、隣にある自分の部屋に入ってベッドに寝っ転がる。
「はぁー……。疲れてたから適当に流したな。まぁ、いいか。寝よ」
俺は、部屋の電気を消して目をつむった。
俺の長い一日は、ようやく終わった。
翌週。
冬馬様と優斗様は、相川家の分家回りに出かけて行った。
「じゃあ、翔君、二週間よろしく」
冬馬様を見送って少し経つと、千明様が言った。
「お願いします」
「って言っても、あまり変わらないんだけどね」
いや、こっちはすごい変わるんだよ! 精神の問題で!
「結構変わってると思いますけど……」
心の中から出てきそうな言葉を抑え、普通に返す。
「変わっているといえば、変わってるけど……。いつもより外にいる時間が長くなるぐらいだから。もしくは、お父さんの部屋にずっといるぐらいかな。結構楽しみなんだよね。翔君たちの練習を見るの」
千明様が、何も考えていないような口調で言う。
千明様はそうかもしれないが、俺らはそうじゃないんだよな……。千明様の前では言えないけど。
「そうですか」
当主様の部屋に向かう千明様を追いながら言う。
「それじゃあ、お父さんのところに移動しようか」
「そうですね」
「メールで送ればいいかな?」
「何がですか?」
「部屋から移動したいとき」
「そうですね。俺に送ってくれれば、俺かサツが行きます」
「分かった」
「こっちが移動するときも、メールを送ればいいですか?」
「うん。それでいいよ。晴樹たちは今どうなってる?」
「今は……、サツに連れていかれて、アユたちといると思います」
「誰かと一緒にいるならいいや。ありがとう」
「いえ、大丈夫です。それより、千明様は当主様と二人になりますけど、晴樹君たちは一緒にいなくても大丈夫なんですか?」
「どういうこと?」
「千明様が当主様と二人でいるところをあまり見ないので……。居づらくないのかなと……」
「うーん、前よりは居づらくない」
前よりは? 昔は居づらかったってことだよな。あまり聞けないところだけど、どっかで聞きたいな。
「それに、楽しみにしてるし。翔君でも知ってる通り、冬馬兄さんがお父さんと二人にしてくれないから、お父さんとあまり話したことないんだよね」
お父さんと話したことないって、こんなに近くにいるなら、あまりなさそうだけどな。
「そうなんですね」
俺は、疑問を心の中だけにとどめ、普通に答えた。
「それじゃあ、ありがとう。また、呼ぶね」
「はい」
千明様が当主様の部屋に入っていくのを見送ってから、自分の部屋に向かう。
こうして、冬馬様と優斗様のいない二週間が始まった。
俺は、いつも通りの自分の仕事をこなしているうちに、昼ご飯の時間になった。
「食堂、行くかぁ」
あまりお腹が空いていないうえに、移動する元気もあまりない。今日は。皐が部活のため全面的に俺が動かないと、千明様が動けない。
自分勝手に動けないのは、結構つらいな。
普段は、部活とかがなくバイトも結構自由のため、自分勝手に動けないことがないから兄弟意外と予定を合わせて動くことが結構苦痛である。
椅子から立ち上がり、スマホだけ持って部屋を出る。
「アユ、ごはん残しといて。一人前だけ、おかわりいらない」
当主様の部屋に向かう途中にある歩の部屋に寄り、自分の昼ご飯を残しておくように頼む。
「了解。頑張って」
あまりそう思ってなさそうな口調の歩に言われる。
「頑張るようなことはないけどな」
「いやぁ、ずっとみてるってのもつらいよ。俺にとっては」
「俺は、そうでもないから、何とも」
間違ったことは言っていない。誰かに合わせることに苦痛を感じるだけで、ずっと見張っていることに対しては、全く苦痛を感じない。
「そうだろうけど、やっぱ大変でしょ」
「どうだろ。学校以外ではほぼやったことがないからね」
「まぁ、しっかりやってこい」
「俺が、しっかりやらないことはないよ」
「しっかりやらないことのほうが多い、の間違いじゃないか?」
「間違ってないと思うけど」
「とりあえず、行ってこい。そろそろ行かないとまずいだろ?」
「俺の話に突っかかってきたのはアユだけど?」
俺も話に乗ってる時点でまずいと思うけど。必要ない話を振ってきたのはアユだし、俺のせいじゃない。
「あぁー、もういいから、早く行け」
「はーい」
俺は歩の部屋を出て、当主様の部屋に向かった。
これからの苦痛に耐えるためにも、アユとの軽いノリの話は欲しかったんだよな。元気でるし。別に、千明様と一緒にいるのが苦痛ってわけじゃないんだけどね
当主様の部屋の扉をノックすると、千明様が出てきた。
「ありがとう。ご飯食べる時間なのに、ごめん」
「良いですよ、別に。今日は部活メンバーがいませんから、そもそも少数なので」
「一人よりはいいでしょ? それでも」
「そうですね……。まぁ……はい」
「その返事の鈍さは何? 翔君らしくないね」
「一人で食べることも多々あるので」
「そうなんだ……。いつ一人になるの?」
「大体、一つの部活ぐらい午後だけということがあるときとか、今日みたいに午後からの部活組がいない日とかは、俺だけ一人でアユとノゾは二人で食べてるときとかはありますね」
「いいの? 歩さんと望さんは一緒に食べてるのに、翔君は一人で」
「まぁ、別にいいかなって。時間を気にしないで食べれますから」
「僕はあまりないからなぁ。大体、冬馬兄さんがいたから」
「俺らもそうそうないですよ、一人で食べることなんて。俺の場合は、一人になるとご飯抜きがちですから」
「仲良しだね」
「仲いいんですかね? あまり考えたことはないですけど」
「仲いいと思うよ。僕から見たらね」
「千明様達も仲いいでしょう?」
「うーん、これは……冬馬兄さんのだけど……まぁ、そうだね」
冬馬様のって、どういうことだ?
「冬馬様が何かされたのですか?」
「いや、僕でもよくは分かってなくて、本人とお父さんしか知らないって聞いたことがある」
「冬馬様と当主様しか知らないってことですか?」
「って、聞いたことがある。僕もよくわかってない」
「気になったりとかしないんですか?」
気になっているだろうと予想はついているが、訊いてみた。
「気になるけど……」
やっぱりな。
「訊ける雰囲気じゃないっていうか……」
どこまでも予想通りだ。
「なるほど」
俺が食堂の扉を開け、千明様が食堂に入った後に自分も入り、食堂の扉を閉める。
「その辺に座っててくれて構わないよ」
千明様が台所に向かいながら俺を見て言う。
「さすがにそれは……。食器を出したり、テーブルを拭くぐらいはやります」
「働いてると、そっちに夢中にならない?」
う……。小説を読んでると夢中になりがちなんだよな。小説を読んでるときだけだと思う。
「さすがに、そんなへまはしません」
多分……。
「それじゃあ、テーブル拭くのだけ頼んでいい?」
千明様が俺の心を見透かしたように言う。
「どこのテーブルで食べますか?」
「そこ」
千明様は、千明様たちがいつも使っているテーブルを指した。
「分かりました」
俺は、布巾を濡らし指定されたテーブルを拭く。拭き終わり、布巾を洗い干す。すると、俺のスマホの着信音が鳴る。台所を出て、スマホをポケットから出して見る。
タツからか。
届いたメールを読み、この後の予定を考える。
「千明様、今、いいですか?」
お昼の準備をしている千明様に話しかける。
「うん。いいよ。何?」
手元から目を離さずに千明様が答えた。
「午後から野球部の練習試合の相手をすることになると思うのですが、どうしますか?」
先ほど樹から来たメールは、野球部の相手をしてほしいという件だった。兄弟たちは、行かないという選択をしないと思うため、行く前提で話を進めた。
「その、どうするっていうのは、行くか行かないかってことを聞いてるんだよね?」
「はい」
「多分、一緒に行くことになると思う。翔君は、それで大丈夫?」
「まぁ、俺は試合に出ないので、別にいても大丈夫ですけど……」
「出ないの?」
「出たくないので」
「足りるの? 人数」
「足りなくても大丈夫だってことを確認してから、相手をしてほしいというメールを送るっていう約束ですから、多分、出なくても大丈夫だと思います」
「いつ、出るの?」
「ご飯を食べたら来いって書いてあったので、全員ご飯を食べてからになるかと」
「じゃあ、昼ご飯の時にお父さんに訊けばいいかな?」
「はい」
その後、千明様が当主様と千明様の昼食を作っているのを横で見ていた。出来上がると、メールで当主様に連絡をし、当主様が来るのを待つ。
「翔君、ありがとう。ご飯食べてきてくれていいよ。この後の件は聞いておく」
「お願いします」
俺は、食堂を出て裏玄関に向かう。裏玄関から外に出て、ご飯を食べる家に向かう。
「あ、カケ。お疲れ。タツからのメール見たか?」
歩が家に戻ってきた俺を見るとそう言ってきた。
「もちろん行くよな?」
「行くしかないんでしょ?」
「もちろん。早くご飯食べろ」
それか答えはないといったような顔で歩が言った。俺は、望がよそってくれた昼食を受け取り、席について食べ始める。
「あ、でも、千明様が残るって言ったら、残るからな?」
向かい側に座っている歩を見ながら言う。
「千明様に言っておけば大丈夫でしょ。……って、伝えてきた?」
「伝えてこなかったとでも?」
「いや、カケに限ってそれはないと思う」
「分かってるようで何より」
「それで、千明様は何て言ってたんだ?」
はい、ということで、長い長い休日が終わりました。やっとです。長かった……。
翔の護衛生活が始まりましたが、人に合わせて行動することが苦手な翔はどうなることでしょう……。
そして、野球部から誘われた練習試合の相手。兄弟たちが行く気満々ですが、翔は千明次第で逃げることもでき、内心喜んでいます(あんなこと言ってるけど……)。
次回は、 護衛の休日 前編 です。二週間後です。
最近、Twitterを始めました。気になる方は作者名で検索してみてください。




