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24 ~長い休日 6~

「じゃあ、その辺にいます」

 俺は、台所のほうまで避けてきた晴樹君たちのところに行く。

「ごめんね。色々巻き込んじゃって。データ処理だっけ? やってきてくれていいよ」

「一応、待ってるよ。一段落着くまで」

「居心地、悪くない? 大丈夫?」

  いや、居心地悪いとは言えない。

「そんなに心配されなくても大丈夫だよ」

「いつも、一緒にいて僕たちは居心地悪くないから、翔君たちにも居心地の悪い思いはしてほしくない」

「嫌じゃない?」

「他の兄弟達よりは慣れてるから、嫌じゃないし大丈夫」

「それならいいんだけど……」

 晴樹君と夏樹君の顔からはまだ、心配の色は消えていない。

「とりあえず、どこかに座ろうか。立ちっぱなしも疲れるし」

 晴樹君が近くにあった、椅子に座る。夏樹君が向き合った位置にある席に座り、俺は、夏樹君の隣に座った。

「晴樹君たちは、さっきの説明で納得した?」

「理解はした。けど、その、翔君たちに迷惑かけてばっかだなって」

「迷惑かけてもらって全然いいですよ。そのために招集されたといっても過言ではないので」

「それでも……」

  なんかさ、迷惑かけてばっかりだって言われるけど、俺らは、当主一族の手伝いというか、尽くすことが絶対って教わってきたから、別に何とも思ってないんだよな。そういうこと、知らないんだろうけど。それなら、俺も言うことはないし。

「晴樹君たちは、そんなこと心配しなくていいの。いつも通り過ごしてくれてたら、それでいいから」

「うん……」

 まだ納得していない様子の晴樹君がそう答えた。

「何の話、してるの?」

 食器洗いが終わった千明様が、晴樹君の隣に座りながら言う。

「……」

「……」

 晴樹君と夏樹君は、答える気配がない。千明様の視線が、俺を向く。

「心配してくれていたんです」

 仕方なく、俺が答えた。

「あ、それは、僕も。翔君にばっかり負担がかかっちゃう気がするんだけど、大丈夫? 僕も晴樹たちもできるだけ動かないようにしようと思ってるけど」

「いつも通り動いてほしいんですけど、サツには部活、俺にはバイトがありますから、好きなようには動けなくなるかと……」

「そっか、皐さんに部活があるのは知ってたけど、翔君もバイトがあったね。僕もそこにいられないかな? やることはいっぱいあるし、店長が拓真さんだし」

「誰か見てないと、何かあったとき困ると思うんですけど……」

「それはそうだね……」

「それに、人がいないので、晴さんとかがいないと、当主様とか冬馬様が許さないと思いますよ」

「これだけ警戒してるんだもんね。そりゃあ、許してくれないか」

「俺も、千明様がいると、多分仕事させてもらえないと思うんですよね。その、倉庫の外に出る仕事を。だから、居ても倉庫の中の整理ぐらいで……」

「家で、おとなしくしてよう。本とか読んでると、一瞬で時間過ぎるからね」

「あ、そういえば、サツの部活の日程は、送った方がいいですか?」

「うーん、できればでいいかな。後でお父さんにも伝えておくね。ちなみに、翔君の日程は?」

「毎日、平日、六時半までです」

「休むこととか、早く出ることはできる?」

「できるとは思います。拓真さんに言えば、何とでもなると思いますけど、人が少ないですからね」

「それは、訊いてみないとダメだね。これも、お父さんに伝えておく」

「動けと言われれば、いくらでも動けます。動ける範囲でですが」

「それだけでもうれしいよ」

「まぁ、できることがその程度なんで」

「その程度と言えるような感じじゃないけど……。僕たちはものすごく助かってるし」

「その程度ですよ。こなせる量も動ける範囲も、大人には負けますからね」

「晴樹と夏樹も、あまり動かないようにね」

「うん。父さんのところにいる」

「父さんといっぱいお話しする」

 晴樹君と夏樹君は、もう目標を決めているみたいだ。

「向こうも終わったみたいですね」

「そうだね」

 冬馬様がこちらに向かって歩いてくる。

「翔、ありがとう。もう戻ってくれていいよ。引き留めて悪かった」

「いえ問題ないです。……晴樹君たちは、こっちでいいですか?」

「あぁ、お願い」

 俺は、晴樹君たちと一緒に食堂を出ようと立ち上がると、まだ、書類の整理が終わっていない淳さんが急いで立ち上がるのが見えた。

  そんなに急がなくてもいいのに。

「置いていかないでくれ」

 淳さんの横を通ると、そう言われた。

「置いていきませんよ。ゆっくりやってください」

  同情してるわけではないが、とりあえず待っておいた方がよさそうな雰囲気だな。

 俺は、足を止め、なんとなく食堂の中を見回す。当主様と美佳様は、もう食堂を出て行っており、優斗様と冬馬様は先程俺たちのいたテーブルに集まり、何かを話していた。晴樹君と夏樹君は俺の横で立ち止まっている。

「晴樹君と夏樹君は、アユたちのところに居る?」

「うん。今、どこにいるか分かる?」

「多分、まだ部活組が帰ってきてないと思うから、家にいると思うけど。ちょっと待ってね」

 俺は、範囲を広げ気配を探る。

  まだ、家にいるし、二人しかいないな。

「家にいるよ。まだ動かないと思う」

 淳さんの整理が終わり、四人で食堂を出る。

「……淳さんは、戻りますよね?」

「戻るよ」

「持ちましょうか?」

「晴樹君たちを連れて行くんだろう? そっちの方が優先だ」

「二人とも、二人で行ける?」

「うん」

「ちょっと行くだけだし」

「いや、ちょっと待て、裏からは女中がいなくなったから実感ないのかもしれないけど、表には大量にいるんだからな? 忘れるなよ」

「そうでしたね。じゃあ、アユに迎えに来てもらうか」

「翔は、何かやるのか?」

「データがどうのって言ってたよ」

 淳さんの質問に晴樹君が応えている。俺は、その横で歩宛に食堂前にいるから晴樹君たちの迎えに来て、と送る。

「本当に送ったのか?」

「はい。多分、返信が来る前にこっちに来ると思いますよ」

「早くね? (ゆい)に呼ばれた睦月(むつき)かよ」

  例えた人は分からないけど、アユみたいな人がいるってことか。珍しいな。

「誰で例えられてるのか分からないので、ツッコミようがないですよ。そのボケ」

「俺の弟妹の話だよ。別にツッコミを入れてもらおうとは思ってない」

「それもそうですね」

 すると、人の気配が一つ近づいてきて、歩が廊下の向こう側に見えた。

「本当に来たよ……」

 隣にいる淳さんがあきれたように言う。

「カケ、データ処理どのぐらいで終わる?」

 歩がそう言いながら近づいてくる。

「夜までには終わらせるつもりだけど」

「今日、行くか?」

  兄弟練習の話か。

「行かないの?」

  行きたくないとかは言いださないだろうけど、どうしたんだろ。

「いや、行きたいけど……」

  行きたいんだな。

「サツがこっちに残るんだろ?」

「まぁ、その予定だね」

「そうなると、カケが入るか誰かが抜けるかして、人数合わせないといけないんだよ」

「アユは抜けたくない?」

「カケだって、やりたくないだろ?」

「分かってるなら、訊かなくてよくない?」

「カケもな。ってことで、どうしようかと思ってさ。いい案無い?」

「一週間やらなくていいんじゃない?」

  その方が俺も楽だし。

「それは嫌」

 とても嫌そうな顔をした歩が言う。

「今日は行かないで、予定たてれば?」

「カケが立ててくれよぉ」

  うわっ、なんかダメな仕事引き受けちゃった気がする。

「それは、分かってるから、早く連れてって。今週は多いんだから」

「じゃ、今日は行かないってことにしとく」

「わーったから、早く行って」

 歩は、晴樹君たちを連れて裏玄関の方に向かって歩いて行った。

「データ処理できんの? 日程立てられんの?」

 淳さんが突然きらきらとした目で俺を見る。

「はい、まぁ……」

  なんか、時間盗られそうな予感……。

「ちょっと、見てもらいたい日程があるんだけど」

「さっき、却下されたんですか?」

「いや、そうではないんだけど……。冬馬君から要望があってその分を優斗君に回したりしないといけないから、組みなおさなきゃいけなくて、その時に意見が欲しい」

「どこでやるんですか。別にいいですけど」

「事務室、来る? 結構人いっぱいいるけど」

「俺が入ってもいいんですか?」

「うーん、訊いてみないとダメかなぁ。今から聞きに行くんじゃ遅くなるし、大輝兄(だいきにい)に電話か……。あ、翔の部屋は、無理?」

  いきなり呼び捨てにされた……。深司さんに近いものを感じる。まぁ、なんでもいいけど。

「俺の部屋ですか……。別に問題はないですけど、大丈夫なんですか?」

「今日は大学休みだし、俺の仕事はこれだけだから」

「大学生なんですか?」

  もうちょい上だと思ってた。

「おう、大学三年生」

「なのに、仕事持ってるんですか? バイトじゃなくて?」

「俺の家が代々そんな感じだからさ。バイトみたいなもんだよ。俺レベルだと」

「なるほど。そういう人もいるんですね」

「じゃあ、翔の部屋に行こう。どこにあんの?」

「連れて行っていいのかな?」

  当主様に許可を取る必要とか……。

「あぁ、大丈夫だよ。ここに入れるの、今は俺の兄弟だけだから俺らは危険じゃないよ」

「そういう意味じゃないんですけど……。ここに入れてるなら、まぁ大丈夫ですね」

 俺は、淳さんを連れて自分の部屋に向かう。

  低い机を出した方がいいか。床でやるのは……ないか。あり得ないな。

「どうぞ。特に何もないですけど」

 俺は、自分の部屋の扉を開き淳さんを中に入れる。

「おう……。いや、特にないどころか、本しかないぞ!?」

「本以外、特にないです」

「それは……そうだな。間違ったことは言ってないと思う」

「ちょっと待っててください。机、持ってきます」

「持ってくる? って、どこから?」

「隣からですけど?」

「いいのか?」

「ここにあるとじゃまなので、置かせてもらってるだけです。ここではほぼ使わないので」

「はぁ、なるほど……」

 俺は隣の歩の部屋に入り、折り畳み式のテーブルを持って自分の部屋に戻る。テーブルの脚を開き床に置いた。

「どうぞ」

「ありがとう」

 淳さんは、ドア側に座りテーブルの上に大量のファイルを乗せる。俺は、反対側に座った。

「それで、これなんだけど……。さっき出てきた意見がね……」

 淳さんが大量にあるファイルの中の一つを取り出して、開く。


 あれから、三時間、淳さんの計画を立てるのに付き合わされた。

  まぁ、でも、いつもより大きい計画だったから、面白かったけど。

「手伝ってくれてサンキュ。じゃ、俺はこれを提出して戻るから」

「一緒に行かなくても大丈夫ですか?」

「失礼な。まぁ、いてくれた方がありがたいけど、これだけ付き合わせちゃったし、翔もやることあるだろ?」

「俺のやることなんて、いつでもできるので、行きますよ。一緒に」

  ここまで一緒に計画を立てたから、当主様の反応も見たいし。

「じゃあ、ついてきてくれる?」

「いいですよ」

 俺は、前を歩く淳さんについていき、当主様の部屋の前まで行く。

「当主様と美佳様は居そうですね」

「そんなこと、分かるのか?」

「まぁ……はい」

「唯みたいなやつもいるもんなんだなぁ」

 淳さんはそう言いながら、当主様の部屋の扉をノックする。

「淳です」

「入って」

 淳さんが扉を開いて、部屋の中に入る。

「翔君も入って」

 見えないところに居たはずなのに、当主様にはバレていた。

「はい……」

 当主様達の正面に座っている淳さんの斜め後ろに座る。

「それで、どういう感じに変化させたの?」

「こんな感じです」

 淳さんが計画を清書したものを当主様に見せる。

「ふぅん……」

「……いつもの淳君とは少し違うね。翔君の意見も入ってる?」

 美佳様が横から覗き込みながら言った。

「はい。翔の意見を多く使いました。僕のよりもいい案だと思ったので」

  なんだ、全然話せてる。俺ついてこなくてもよかったな。昼の時のを見たらついていきたくなっちゃったけど。サツとかよりも全然緊張してないし、やっぱ慣れって大切なんだな。

「淳君のも良いと思うが、翔君のも良いな」

「これで、大丈夫ですか?」

「あぁ、冬馬の意見も反映されているし、優斗もそこまで多くないのも良いな。後で、優斗たちにも訊いてみるが、一応これで決定にしておこう。入力して、コピーしてそれぞれのところに渡しておいてくれ」

「分かりました。こちらには何枚持ってきましょうか?」

「四枚」

「分かりました。失礼します」

 俺と淳さんは、当主様の部屋を出て、表玄関に向かって歩き出す。

「ありがとう、翔」

 ほっとしたような顔をした淳さんが言う。

「いえ、大したことじゃないので。……淳さんは、普通に話せるんですね。サツたちなんかより緊張してなかったし……」

「これでも、翔達よりはここに通ってるからね。まぁ、すぐに積み重ねてきた時間も抜かれるだろうけど。ここに住んでるんだったら」

「ここに住んでても、あまり当主様に合わないですけどね」

「会いに行かないだけだろ?」

「俺らの部屋と当主様の部屋は真逆の場所にありますから、前を通るということとかないんですよ。意図して行かなければ、当主様からくることもないですし、会いませんよ」

「会わないの? 食堂でご飯食べてないってことか?」

 少し驚いたように淳さんが言う。

「朝は、食堂で食べてますけど、同じ時間に朝食を食べるわけではないですし、朝練組の弁当とかも作らないといけないので、基本的に当主様とは会いませんね」

「夜は?」

「元は女中の家を一つ借りて、そこで食べてます」

「ふぅん。まず、行動経路が違いそうだな」

「行動経路が違うと、会わないでしょう?」

「会わないな」

「多分、そう簡単には淳さんを抜けないと思いますよ」

「いやぁ、同じ屋根の下で暮らしてたら、嫌でも会うだろうなと思うだろ。普通。本当に会わないんだな。そりゃあ、緊張もするでしょ。翔は緊張しているようには見えなかったけど」

「俺は、結構会っているほうなので。それに、冬馬様と千明様と一緒にいれば、なんとなく雰囲気とかつかめてきますから、それで慣れた感じです」

「冬馬君と千明君とは毎日会ってる?」

「いえ、週末はバラバラですね。週末は、晴樹君と夏樹君の面倒を見てます」

「あ、だから、一緒に食堂を出たんだ」

「はい」

「日常的に、誰かと接してれば慣れるもの?」

「俺は、慣れやすいほうだと思うので、結構簡単に慣れましたね」

「ふぅん。まぁ、それなら大丈夫かな。今日はありがとう」

 はい、ということで、淳さんにうまく使われました。それでも引き受けちゃうのが翔なんですよね(作者はそこまで優しくありません)。

 新しい名前が着々と出てきていたり、淳さんの年齢がわかったりと、新しい情報が盛りだくさんですが、整理できていますか? いつか、まとめたものを翔たちに読んでもらおうと思います。


 次回は、 登場人物紹介 彰編 です。

 

 本編の次回は、 長い休日 7&護衛の始まり です。二週間後です。

 

 よろしくお願いします。

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