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23 ~長い休日 5~

「二人とも、食べるぞ」

 いつの間にか歩の隣に座っていた、望に言われた。

「おう。……それじゃ、いただきます」

「「いただきます」」

 午後から部活のメンバーや、今日部活の無いメンバーと一緒にご飯を食べる。

「っていうか、今から食べて大丈夫なの? ちょっと遅くなってるけど……」

「問題ない」

「走れば間に合うでしょ」

「サツは、食べるの早いし問題ないよね。持久走も早いし」

「でも、アキのほうが早かったじゃん」

「晴さんに言って連れてってもらった方が早いと思うんだけど……」

「それもそうだね」

「じゃあ、今から言っておいた方がいいんじゃない?」

「俺、伝えてくる」

 彰が茶碗と箸をおいて立ち上がる。スマホをポケットから出しながら居間を出て行った。

「行ってら」

「アキは、食べるの早いからねぇ」

「いや、俺ら多分、全員食べるの早いと思うぞ」

「何とも言えないな」

「まぁ、確かに」

 すぐに彰が居間に戻ってきて、「連れて行ってくれる」と言いながら、自分の場所に座り箸を持ち再びご飯を食べ始めた。

「皆さ、腹が痛くなるとは考えてないわけ?」

「なんで、腹が痛くなるんだ?」

「ご飯食べた後すぐに運動したら、腹痛くなるだろ」

「そうかなぁ」

「なったことないけど……」

「つーか、カケも分かってて訊くな」

「悪かったな」

 それから少し沈黙があった。その沈黙を破ったのは、ふと思い出したような歩の声だった。

「そういや、晴樹君たちは、知っても大丈夫だった?」

「あぁ。そっちで話しておいてって言われた」

 皐が話しそうになかったため、俺が歩の質問に答えた。

  サツは、なんというか、重傷を負ってるな。精神的な方で。

「まじ?」

「うん」

「全容把握してるわけじゃないから、無理じゃね?」

「そうだよね。ずっと一緒にいるの当主様だろうし」

「僕たち、父さんから話を聞いた方がいい?」

 事情を知っている四人で話していたところ、空気を読んでくれたのか晴樹君が言った。

「そっちの方が、詳しく知れるだろうし……」

「どうやって動くかもわかりやすいだろうから……」

「当主様に訊いてくれると助かる……」

  三人の歯切れが悪い……。俺は、何も答えてないけど……。

「分かった」

「父さんから聞いておくね」

「サツには慣れた?」

  慣れてくれないと……あ、でも、晴樹君たちだけだったらアユたちに任せてもいいからな。

「うん。多分」

「サツは?」

「いや、まだ、難しいかもしれない」

「僕たちがいけない?」

「いや、これは俺の慣れの問題なので、何とかします」

「翔君は、もう慣れてるの?」

「それは、まぁ、うん。毎日隣にいるから慣れる」

  晴樹君たちのほうがまだ、気が楽。あまり自覚がないから。

「じゃあ、ずっと一緒にいたら、慣れるのかな?」

「皐君、一緒にいる?」

「いや……それは……」

 皐が口ごもる。

「サツと一緒にいてもらってもいいかな? 晴樹君、夏樹君」

 俺は、ここぞとばかりに二人に頼んでみる。

「ちょ、カケ!」

「いいよ。皐君は大丈夫?」

 止めに入った皐に見向きもせず、晴樹君が言う。

「う……」

「普段一緒にいることがないんだから、慣れるためにも一緒にいた方がいいと思うけど?」

 俺が、皐を真剣にみると、皐のほうが折れてうつむいた。

「お、お願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします。じゃあ、帰ってきてからになるのかな?」

「帰ってきてからだと、する時間がないです」

「土日だけでもいいよ」

  ここで譲歩したら、さっき、サツを納得させた意味がなくなる。……どうする。

「土日だけだと、ダメだな。サツ、今週は部活全部入ってる?」

「ある。けど、月、水、金は早く終わる」

「じゃあ、その日は兄弟練習までずっとやってもらって……。……それでも、全然足りないな」

「さすがに、そこまでじゃないだろ。サツも慣れるの早いからな」

 歩が呑気に言う。

「早いんだったら、もう慣れてるだろ」

  あ、アユにあたっても、何の意味もないのに……。

 口に出してから自分の行いを後悔する。

「……なんか、カケがいつもより反抗的なんだけど……」

「それほど簡単に慣れることができるものじゃないってことだよね……」

「そういうことだろうな……」

「ごちそうさま」

 その場にいたたまれなくなり、速攻で昼食を食べ立ち上がった。だが、みんなだいたい同じ時間に食べ終わるため、続々と自分の使っていた食器をシンクの中に入れに来る。

「じゃあ、部活メンバーはもう行け。晴さん待たせてるんだろ? 皿洗いは俺らでするから」

「了解」

「よろしく」

 部活メンバーが出ていき、望が台所で皿を洗い出し、残った俺と歩は居間に戻った。

「はぁ……。カケ、なんで、さっきあんなに反抗的だったの?」

 歩が机の上に肘を立て、二の腕の部分に頭を乗せてこちらを見ながら言う。

「ごめん」

 俺はうつむきながら言う。

「別に、謝ってほしいわけじゃないんだけど」

「そう……簡単に慣れられるようなもんじゃない。普段から同じ教室にいるわけじゃないし、同学年にもいないから。サツたちにとっては結構大変なことだと思った」

「俺も、同じクラスにいないから、あまりピンと来てないんだけど、ノゾだったらわかるかな?」

「分かんない……と思う。優斗様と冬馬様は似てる気がするんだけど、千明様は二人とはなんか違う気がする」

「なるほど」

「そ……れに、ほとんど冬馬様と一緒にいる千明様と二人になることなんて、俺でもそうそうないから、冬馬様が長期間側にいなくなったら、千明様がどうなるかなんて分からないし」

「カケの心配は分かりづらいからなぁ。まぁ、気持ちは分かった。できるだけ、晴樹君たちで慣れさせてもらおう」

「いいよ。いつも一緒に遊んでくれてるから、そのお礼」

「僕らも何か役に立たないとね」

「そんなことは考えなくていいって、言ってるよね?」

「そういうわけにはいかない」

「いや、できれば危ないことをしてほしくない。本当はカケかサツがついてるのが一番いいんだけど、俺らでも使えなくはないから、俺らがついてるだけで守れるかと言われれば、難しい」

「僕たちも、女中以外に慣れないといけないから、今回のことはうれしいんだ。ずっと一緒にいていい人なんて、女中しかいなかったから」

  晴樹君とか、夏樹君は別に女中に対して嫌悪感を抱いてるわけじゃないんだな。あれは、冬馬様ぐらいなのか? 千明様は嫌悪感というより、恐怖だったし。

「一石三鳥だね」

「そんな難しい言葉、よく知ってるね」

 食器を洗い終わり居間に入ってきた望が少し驚いた顔をして言う。

「ノゾ、そんなに驚くことか?」

「えぇ、いや、五歳の子が一石二鳥なんて言葉を知ってるんだよ? しかも活用してさ。そりゃ驚くよ」

「そもそもこんなに、ペラペラ話せないと思うんだけど」

「確かに」

  何でそんな言葉を知ってるのに、何で常識を知らないんだ?

「そう考えると、そのぐらいの言葉を知っててもおかしくないでしょ」

「そう言われてみれば、そうかもしれない」

「……戻るか?」

 話が一段落し、一息ついてから歩が言った。

「午前中の部活組が、ご飯食べるまで待ってる?」

「作って待ってるか?」

「いつ帰ってくるか分からないから、冷えてたらおいしくない」

「確かにな」

「今日の昼ご飯食べる組って、誰? カケ」

「弓道部、野球部」

  シズはさっき部屋に戻ってたし、

「午前中組のほうが多いのか」

「じゃあ、残ってるか。カケ、戻っててもいいけど、どうする?」

「データ処理してくる」

「晴樹君たちはどうする?」

「父さんたちに話して来ようと思うんだけど……」

「どうしたの?」

「誰か一人来てくれないかな?」

「冬馬兄さんたちのところにも行っておいた方がいいよね」

「……ノゾは、残ってた方がいいよな。買い物担当が誰もいないと大変だろ?」

「全員料理できるからいなくても問題ないと思うけど、まぁ、いた方がいいか。アユは?」

「カケが行った方が、向こうもいろいろと楽だろうし、こっちも楽だから、頼んでいい?」

「はぁ……。二人は行く気ないんでしょ」

「カケが行った方が楽だと言ってるだけで、別に行きたくないわけでは……」

  はぁ、アユの顔に行きたくないって、しっかり書いてある。

「いいよ。晴樹君たち、行こう」

「今行ったら、まだご飯食べてるかな?」

「一度行ってみたら? カケは連れまわしても大丈夫だよ」

 歩が得意げに言う。

「それは、どういう意味だ?」

「サト達みたいにならないってことかな」

「翔君、今からでもいい?」

「いいよ。行こうか」

 俺は、晴樹君たちを連れて屋敷に戻る。

「どこにいるか知ってる? 晴樹」

「知らない」

「今は、お昼の時間だから食堂とかじゃない?」

「じゃあ、食堂から行ってみようか」

「うん」

 食堂に足を向けて歩き出す。

  食堂なんて、平日の朝以外ほぼ来ないな。

 平日の朝はお弁当を作ったり、なんだりいろいろあるため食堂でご飯を食べている。

「五人いるけど、ここって当主様たち以外はご飯食べてないよね?」

 俺は気配を探り、食堂にいる人数を数える。

「うん。時々、大輝さんとかもいるけど、基本は僕たちの家族だけ」

「じゃあ、晴樹君たち、どうぞ」

 俺が食堂の扉を開け、晴樹君たちに入るように促す。晴樹君が少し深呼吸をして入っていき、夏樹君がそれに続く。俺も二人に続いて中に入り、後ろ手に扉を閉める。

「おや、どうしたんだい?」

  いや、当主様の家族、全員揃ってるのすごい迫力。なんか、近づけない。単体で会うのはもう平気なんだけど……。アユに押し付ければよかったかなぁ……。

「えっと……」

「こっち座って。話聞くから」

 晴樹君と夏樹君は嬉しそうに当主様達の座っている方に歩いていく。

「翔も。こっち来なよ」

 冬馬様に呼ばれ、近づき難い雰囲気の中に入っていく。晴樹君が、当主様の隣に座り、夏樹君は優斗様の隣に座り、俺は夏樹君の隣に座った。

「それで、話したいことは?」

「えっとね……」

 晴樹君が先程の話を簡単に説明し、当主様から詳しいことを教えてもらっていた。俺も、当主様に問われ、少し状況説明をした。

  さっきから誰かいるんだよなぁ。入ってこないで廊下をうろうろしてるし、晴さんではなさそうだな。

 ここの雰囲気をできるだけ紛らわそうと、いつもより大きくしていた気配を感じる範囲の中に人の気配を感じていた。

「翔、誰かいるの?」

 いつも通りの調子で、冬馬様に訊かれる。

  探ってたの、バレてた? もしくは、顔に出てたか……。

「食堂の廊下の前に一人います」

「あ、條君か淳君かな」

  條さん? 淳さん? 大輝さんの兄弟ってこと? ここにいるなら。

「日程、もう考えたのか? 早いな」

  日程って、何の日程?

「あの二人に任せたら一瞬でしょう」

  あ、動きが止まった。聞こえてるのかな。

「翔、出てくれない?」

 当主様や美佳様の話を聞いていた冬馬様が言う。

「條さんかも、淳さんかもわかりませんけど、いいんですか?」

「入れないだけだろうから、大丈夫だよ。そもそも、この屋敷に入るのに相当な精神がいるって、聞いたことがあるから」

 何の問題もない、といったような感じで冬馬様が言う。

  俺は、要らなかったような……。晴樹君たちだけで、事足りてるし。

 俺は、椅子から立ち上がり、食堂の扉に向かう。少し警戒しながら扉を少し開く。扉の向こう側には、俺より少し背の高い男性が大量のファイルを抱えて立っていた。

「どうかしましたか?」

「あ、えっと……。美佳様、いる?」

 こちら側から扉が開くと思っていなかったのか、少し後ずさりながら言った。

「いますけど、ご飯中ですよ?」

「あ、じゃあ、後でまた来るって伝えといて。えっと……誰?」

 男性はとても救われたような顔をして言う。

  っていうか、この男性、食堂に来てるならご飯中だってことぐらい、分かっててもおかしくないと思うんだけどな。

「翔です」

「俺は、(じゅん)。じゃあ、言っておいて」

「あ、ちょっと待ってください。今、訊いてきますので」

「え、いいよ。後で来るから」

「ちょっと待っててください」

 俺はそう言いながら食堂の扉を閉め、当主様達の方を向く。気配を探り淳さんが動いていないことを確認する。

  入ること、嫌そうにしてたけど待ってるんだ。

「誰だった?」

 俺の行動に気づいた冬馬様が訊いてくる。

「淳さんです」

「あ、じゃあ、入れて。翔君、悪いんだけど千明と一緒に私たちの食器、洗ってくれないかな?」

 美佳様が言った。

「分かりました」

  何かあるんだろうな。千明様が参加してはいけない何かが。千明様も納得してるみたいだしな。淳さんが何の仕事をしているか分かれば、なんとなく分かるんだけど、それも知らないからな。

 俺は、扉を開け、扉の前で少し背中を丸めて立っている淳さんに声をかける。

「え、今、入れって? 誰がいるの?」

 少し嫌そうな顔をした淳さんが言う。

「当主一族全員ですけど……」

「君、よくそんなところに居られるな。俺は、無理だ」

「いや、話聞いてました? 入れって言われたんですよ、あなたも」

「はぁー、こんなことなら、條兄(じょうにい)に行ってもらえばよかった」

 なんてつぶやきながらも、俺が食堂の中に入れたときは、しっかりと背が伸びていて、キリッとしていた。

「翔君、こっち。運ぶの手伝ってほしい」

 千明様が、当主様達の前から食器をどかしながら言う。

「分かりました」

 俺は、千明様によってどかされた食器類を持って、台所の洗い場に向かう。

「それだけ持てたら、一回往復するだけでいいんだけどね」

 両手と腕に、四人分の食器を乗せていくと、千明様が俺を見てそう言う。普段から、部活組の食器の片づけとかは俺と歩と望でやることが多く、食器を大量に運べないと往復するのが面倒になるため、自分なりの持ち方は心得ている。

「降ろすのが大変ですけどね」

「運べるだけいいと思うよ」

 千明様が俺の腕に載っている食器を取りながら言う。

「何を手伝えばいいですか?」

「食器洗いは一人でできるからなぁ……。うーん……。じゃあ、晴樹たちの相手しててほしい。あっちには行かせないように」

「相手、ですか」

  普段、アユたちに任せっきりで、どう接したらいいかまだ分かってないんだよな。

「あ、嫌だったら、食器洗ってもらいたいんだけど……」

  食器洗いのほうが簡単だけど、相手が嫌だとは言えない。

「俺は、必要ないってことですよね?」

「あ、え、いや、ち、違くて……。み……お母さんが、翔君に食器洗いを頼んだのは……、ここにいてほしいからで……」

 千明様にしては珍しく焦っているのか、考えがまとまっていないのか、おろおろしながら話している。

「でも、することないんですよね? 邪魔じゃないですか?」

「邪魔じゃない、大丈夫。むしろ、助かってる」

  なんもしてないんだけどね。

「じゃあ、その辺にいます」

 はい、ということで、新キャラが出てきました。淳さんです(この後結構大事な人かも)。次話で活躍するかもです。職業もわかるかもしれません。

 千明はいつも、よく見知った人以外と話すときはあたふたしています(翔相手にもあたふたしていますが)。それを隠そうと、冬馬はいつも一緒にいます。


 次回は、 長い休日 6 です。

 二週間後です。よろしくお願いします。

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