22 ~長い休日 4~
本編です。
「今いるメンバーは全員集まったぞ」
望が言った。
「そんじゃ、誰から行く?」
「晴樹君と夏樹君は、誰が分からないの?」
歩が隣に座っている二人に訊いた。
無神経すぎんだろ。
「えーっと……」
ほら、答えづらそうにしてるじゃないか。全く。
「アユ、無神経すぎるから。応えられないに決まってるだろ。そんな質問」
「だって、誰を知らないか、俺らじゃ分からないだろ?」
「それでも、本人の前で知らないとは言えないだろ」
「そう? 俺、普通に訊くけど」
訊かないから!
「じゃあ、もう、アユとノゾと俺以外全員」
俺は、歩の説得が面倒になり投げやりに言う。
「誰から言う?」
「誰でもいいよ」
「サツ?」
「そっちの端から順番のほうが、いいんじゃ?」
兄弟たちが話し合っている。
「順番、誰からがいい?」
この状況が一分ぐらい続いたところで、歩が飽きたのか、早く抜け出したいのか隣に座っている晴樹君たちに訊いた。
まだ、無神経な! 少しぐらい待てよ。
「えーっと、誰からでも」
困ってるじゃないか。
晴樹君たちが応えづらそうに言う。俺が内心頷いていると、歩がガクッとうなだれる。
いや、その応えは待ってなかって態度で表しても、変わらないから。
「サツからでいいよ。年齢順」
飽きたんだな。
話し合うことなどそうそうない、歩からしたら長い時間だったのだろう。俺や七つ子たちは、絶対譲らないという顔をしているし、これ以上の話し合いを覚悟している。慣れているからだろう。
慣れは大事だな。
歩から指令を受けた、皐から年齢順に名前を言っていく。
「声とか、顔とか似てて分かりづらい……」
「覚えるのに結構時間かかるかも……」
へぇ、似てるんだ。今まで、言われたことなかったな。声も含めて。
「間違えてもいいよ。全然問題ないから」
「誰が呼ばれてるか分かればいいし」
「間違えたところで、何かがあるわけでもないしな」
「これでも、半分ぐらいしかいないけど」
「覚えられるように頑張る」
「うん」
晴樹君と夏樹君が、気合を込めて言う。
「それで? これだけじゃないんでしょ。呼び出した理由は」
俺の隣に座っていた稔が歩を見ながら言う。
そういえば、アユからの呼び出しってことになってたな。
「正解。ちょっと相手しといて。話し合ってくるから」
「なるほど。それで、仲良くなっておくっていうか、……名前を知っておかないとっていうことね」
さすが、理解が早いな。ミノは。
「正解。それじゃ、よろしく」
歩が立ち上がる。
「どこで伝えるの?」
「カケの部屋で良くね? ノゾのとこ行く?」
「カケのとこでいいよ。俺らが入れないほど汚いとは思えないし」
「さっき入ってきたじゃんか」
「そうだね」
「それなら、先にご飯作っておこうか?」
「その手があったな。じゃあ、向こうに移動して、作っておいて」
「了解。晴樹君たちは、こっちで食べるの?」
「分からない」
「冬馬様達に訊いてくる?」
「僕たちが訊いてくるから、先に行ってて」
「二人が食べるかどうかわからないと、作る量が変わってくるから……」
「二人分多く作っておけばいいだろ。食べなかったら、俺らが食べればいいんだから」
「食材も二人分多く買ってきてるし、作っちゃっていいよ」
「分かった」
「サツだけ、ついて行って。晴樹君たちに」
「まだ、言われた期間じゃないだろ」
「話してるところに慣れてほしいからだよ」
「じゃあ、サツ、一緒に行け」
「……了解」
歩に言われたのが効いたのか、皐は、渋々頷いた。
「じゃあ、晴樹君たちは、サツを一緒に連れて行って」
「分かった」
「うん」
「じゃ、それぞれ分かれて」
歩の号令で、それぞれ立ち上がり自分の持ち場に向かう。
「もう、ここで話してくれていいよ。移動するのも面倒だ」
立ち上がったままだった歩がその場に座りながら言う。
「確かに」
「サツ、連れて行っちゃったけど、大丈夫?」
「まぁ、ほぼ俺が話してたし、サツも俺が話してくれって言ってたからいいんじゃないか? サツがいないと説明に困るっていうこともないし」
「じゃあ、いい。で、どうなったんだ?」
望に訊かれ、俺は先程の会話を頭の中で整理しながら、順序だてて歩と望に説明する。
「なるほどねぇ……。ノゾ、買い物大丈夫?」
「まぁ、いつかは慣れないといけないんだし、俺らより場数を踏んでるサツかカケがついてくれるなら、なんとか……」
「場数を踏んでるって言ってもねぇ……。サツはほぼ俺らと同じだぞ?」
「それでも、やっぱ、慣れって大切だろ? サツは慣れるのが早い方だし」
「どっちがつくことが多くなりそうなの?」
「そこらへんは話し合ってからだな。部活とかの関係もあるし」
「その都度決めるってことだな?」
「まぁ、そうなるね」
「ご飯は、どっちで食べるんだ?」
「誰が?」
「千明様だよ」
「気づかなかった」
緊張で、いつものように頭が動いてなかったから……」
「訊けるか?」
「さっきの今だからなぁ。訊けないことはないけど……」
訊きづらいよねぇ……。
すると、俺のスマホがブブッと鳴る。スマホをポケットから取り出し、画面を見る。皐からのメールだった。
「なんだって?」
望が言う。
「千明様のご飯、俺らと食べるって」
俺は、皐から来たメールの半分を読み上げる。
もう半分は……サツからの苦痛の声だから、読み上げる必要がないな。
「それは、また難易度の高い……」
歩が顔をしかめて言う。
「そうでもないよ。千明様だし」
どっちかって言うと、冬馬様のほうが一緒にいるのが大変だと思う。
「それは、どういう意味だ?」
「どうって……、千明様のほうが難易度は低いってことだけど?」
「冬馬様は?」
「冬馬様は……、二人でいると緊張する」
「雰囲気の問題か?」
「まぁ、そうだね。千明様といるとやわらかいけど、俺と二人とかだと、結構固い。話しかけやすさとかもあるし」
「まぁ、カケの見る目はいいから、そうなんだろうけど」
「っていうか、冬馬様と二人きりになったことあるのか?」
「それは、どういう意味?」
そこまで交流がないノゾが知ってるはずがないけど……。冬馬様の性格なんて。
「冬馬様が千明様から離れることが考えられないというか……」
結構、分かってんだな。ノゾ。
「そういうことね」
「どういうこと?」
案の定、歩は分かっていなかった。
そうそう分からないよ。
「で、どうなの?」
望は、歩を無視して俺に訊いてくる。
「体育で持久走やったでしょ? その時」
「サトとスグがいただろ」
「あー、あの二人はいたけど、結構離れた場所に放置してたから。それで」
「なるほど」
「それで、千明様のほうが楽だったと」
「そ。それに、二週間、夜はずっと一緒にいるんだから、慣れるっしょ」
「最後のほうは慣れていたいと思うね」
「皆だったら、慣れてるよ」
「カケが言うなら、そうなるだろうね」
「つーか、慣れてもらわないと、俺が困る」
「何で?」
「毎回のように、俺を連れて行かないと話もできないようじゃ困る」
「さすがにそれは、脱出しないとな」
「冬馬様達も同じだけどさ。俺が毎回通訳できるとは限らないんだから」
「冬馬様達も同じ?」
「聞いただけだから、本当かどうかは分からないけど……」
「分からないけど、なんだ?」
「まだ一緒にいる時間が少なすぎるから、千明様と二人きりにはできないって。俺以外」
「それ、さ。今回の頼みって、ほぼカケが一緒についてないといけないってことじゃないか?」
先程まで、話についていくことをあきらめていた歩が、気づいてはいけないものに気づいてしまったような顔をして言う。
アユにしては、鋭いな。も、もちろん、俺は分かってたけど。
「まぁ、別にいいし、分かってて受けてる」
「ほんと? 無理してない?」
アユがノゾ化してる……。
「してない。サツにも、練習はしてもらおうと思ってるし」
「どんな?」
「カケの練習は結構きついからなぁ。サツがつぶれないか心配」
「サツもそう簡単につぶれない方だけど、カケだと、サツが心配になる」
「そんなことしないし」
「どんなことするんだ?」
「まだ、慣れてる晴樹君たちと一緒にいること」
「あ、そのぐらいなら……」
「油断できないけどな。どこまでの負担になるのかは、本人しか分からないから」
「確かに……」
「そういえば、今行かせてるけど大丈夫かな? サツ」
「ああいうところで、緊張で倒れるような奴じゃないって分かってるでしょ」
「それは、そうだけど」
「大丈夫だよ。話す必要がない時に、話さないでしょ」
「話してたとしたら?」
「まぁ、意見は訊かれててももおかしくないと思う」
さっきの苦痛の声は、多分、意見を訊かれたんだろうな。
「大丈夫なのか?」
「二人とも心配しすぎでしょ。もう少しは、サツを信じてやりなって」
「いや、信じるけどさ……。心配だろ?」
「それは、二人が冬馬様達と話したことがないからだよ。そんな悪い人たちじゃないから」
「そのぐらい分かってる」
アユは分かってなさそうだなぁ。ノゾは分かっててもおかしくないけど。
「分かってるなら、心配しなくてもよくね? 伝えたいことは全部伝えたから、向こう行こうよ」
「そうだな」
「移動するか」
三人で歩の部屋を出て、いつもご飯を食べている家に移動する。
「全員に伝えるのか? このことは」
「一応全員に伝える。晴樹君たちは聞いてると思う?」
「どうだろ。知らないってことはないだろうけど」
「やっぱり?」
「後で訊いてみればいいんじゃないか? 影響されないわけじゃないんだし、当事者なんだから。知っておかないと困るでしょ」
「そういうことを考えるのは、当主様の仕事だよ」
「そうだな」
「俺たちが何を考えていても、結局は意見の一つでしかないわけだし、決定権があるのは当主様だし」
「カケ、サツたち、まだ冬馬様達のところにいる?」
「さぁ? ……調べろってこと?」
「そうだよ」
「分かってて訊いたでしょ」
俺は二人から散々に言われ、仕方なく、ため息を吐いて、冬馬様達の部屋がある方に気配を感じる範囲を伸ばしていく。
一、二、三、四、五、六……。
「いると思う」
「何人いるんだ?」
「同じ部屋に五人の塊、他の場所に一人」
「他の場所に一人っていうのは、優斗様のことだよね?」
「多分」
「まだ、いそうだな」
「だから、そう言っただろ」
「そうだけどさ」
「あ、移動してる。三人」
「じゃあ、いたんだろうな」
「待ってるか?」
「結局向こうで会うし、混雑するから先に行っておいた方がよくね?」
「そうだね」
「いや、サツが耐えてるかどうか……」
「だから、大丈夫だって」
「サツも気づいてるだろうから、待っててもいいかもしれないね」
「カケも言うなら待ってようか」
「俺は、先に行ってるぞ」
「俺も」
「カケが待っててもいいって言ったんじゃないか」
「俺が待つとは言ってない」
「確かに、そうだけどさ」
「ノゾだけ待ってればいいんじゃない?」
「ひどいな」
「俺は行ってるから、好きにして」
俺はそう言いながら、裏玄関で靴を履く。
「あ、ちょ」
「俺も行ってる。別にサツのこと心配じゃないし」
歩も靴を履く。
「そうか……」
結局望は、皐たちを待つことにしたらしく、俺と歩は並んで家に向かう。
「ノゾは、本当に心配性だな」
「アユ、本当に心配してないの?」
「まぁ、サツだし心配しただけ、俺の気力が削られるだけだから」
「確かに」
「それに、ノゾの心配性も、それで助けられたのもあるから、何とも言えない」
「確かに」
「ん~、今日の昼は何かなぁ~」
歩が手を組んで上に伸ばしながら言う。
「さぁ」
「っていうか、千明様、カケ以外と話せるのか?」
「サトとスグは体育で一緒だから、何度か顔を合わせたことあるし……アユたちよりは、話しやすかったりするのかも」
「そう考えると、買い物とかカケがいないと、辛いんじゃないか?」
「買い物って、いつ行くのかな? 今のままだと夜だけど」
「夜のままでいいんじゃないか? そうすれば、確実にカケがいるし」
「そうだよね」
「そう考えると、晴さんに往復してもらうのかな? 門を通るときは車のほうがいいから」
「歩いて帰るのは少しな……。俺らの気持ちがな……」
「そうだねぇ」
「でも、カケが行くとなったら、ノゾが残っててほしいっていうのもあるよなぁ」
「俺がノゾの代わりになればいいけど、そうもいかないからなぁ」
「何で? カケなら、ノゾのやってることぐらい普通に覚えるしできるでしょ」
「覚えても、ノゾになることはできないから」
「それは、そうだけどさぁ」
「サツが慣れてくれたら、一番早いんだけどねぇ」
「そうだなぁ」
「できるだけ、サツをつけて慣れてもらうか……」
「学校では、カケが絶対つくから、家ではサツでもいいかな」
「まぁ、サツにも部活があるからその時は俺がつくし、試合とかあると俺がつくしかないからね」
「カケばっかり、負担かかってるけど大丈夫なのか?」
「アユがノゾ化してる」
「そんなにノゾ化してない」
「してるっていう自覚はあるんだ」
「うん」
「まぁ、学校とかはいつも通りだから、この敷地内にいるときだけ見ておけばいいってことだろ? そう考えると、そこまで多い感じはしないんだよな」
「やってみないとわかんねぇぞ?」
「そう言っても、俺とサツしかできないんだし」
「それは……悪いと思ってる」
歩がうつむきながら言う。
「仕方ないじゃん。っていうか、俺が持ってるより、アユたちが持ってた方が日常的に使えると思うんだけどね」
なんて、俺がこの能力を持ってるんだろうって、何度思ったことか……。
「それは……カケが……。いや、なんでもない」
ここ最近、こればっかり。アユが隠すことなんてほぼないのにさ。
「詳しくは訊かないけど、いつか教えてよ」
「まぁ、いつかな……」
二人で、家に入る。
「あ、やっと来た……って、サツたちと一緒じゃないの?」
台所から居間へおかずを運んでいる途中の亨が廊下に顔を出す。
「あぁ、すぐ来ると思う」
「そっか」
「なんかやることある?」
「ないよ。座ってて」
「了解」
歩が先に靴を脱いで、居間に向かう。俺も後を追って、居間に入った。
「ここで話すの?」
俺が居間の床に座りながら言う。
「さっき、カケ、三人来るって言ったよな?」
「……そうだね」
「ってことは、晴樹君たちにも聞かれるってことだから、伝えてはいけないって言われてたとしたら、夜じゃないとだめだな」
「それに、全員揃ってないし」
「今日は、練習日だから夕飯の時かなぁ」
「アユ、説明できんの?」
「そりゃあもちろん。……って言いたいところだけど、多分無理」
「じゃあ、誰がやるのさ。俺はやりたくないよ」
「ノゾに任せるか……。もしくはサツだな。一部始終を知ってるのはかけしかいないけど、まぁ、何とかなるんじゃないか?」
「適当だな」
「それが俺の売りだから」
「確かに」
「カケがやるって言ってくれれば早いんだけどね」
「やだよ」
「まぁ、後でノゾとサツと話してから決めるか」
「えぇー、それ、絶対俺になるやつでしょ! 狙ってるの?」
「いや、全く」
「まぁ、アユが狙ってやるとも思えないな」
「それは、どういう意味だ?」
「ん? アユは嘘をつかないってことかな」
「それならいい」
歩が満足そうに言う。
「二人とも食べるぞ」
はい、ということで、普通の日常感のある休日です(僕は、こんな休日は過ごしたくないですけど)。
久しぶりすぎて、二回ぐらい保存を忘れて書き直しました(何やってんだよ!)。
長い休日の間に休みに入ってしまったので、長い長い休日になってしまいました(申し訳ないです)。
次回は、 長い休日 5 です。




