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18 ~保体の持久走 後編~

「で、冬馬兄さんのタイムは?」

「四分三十四秒です」

「ちなみに……暁君と傑君は?」

「二分十五秒です」

「早っ!」

 俺は、二人の記録用紙に同じタイムを書き込んでおく。

「おう、翔、もう戻ってたのか」

 体育の先生が近づいてきた。

「まぁ、はい」

「で、二人のハタイムは?」

「二分十五秒です」

「はぁ!?」

  うるさい……。

「相変わらず異次元だな。まぁ、いい。もともと超えるとは思っていたが、ここまでか……」

「ちなみに、今までの最高タイムは?」

「六分五十七秒だ」

「わーお、約三分の一じゃないですか」

「全く驚いてないじゃないか」

「まぁ、でも、そんなもんですよね」

「冬馬はどうだったんだ?」

「四分三十四秒だそうです」

 千明様が答える。

「翔が見てたんだっけか?」

「はい」

  まぁ、見てないけど。

「それにしては、戻ってくるのが早すぎないか?」

「まぁ、いろいろ面倒だったので、楽しました」

「はぁ……。まぁ、いい。暁たちのは、何の基準にもならないな。冬馬のも少し早いか」

「少しどころか、二分ぐらい早いですけど?」

「もうそこらへんは誤差だ。暁たちのを聞いたらな」

「それもそうですね」

「それじゃ、戻ってきたら、また記録しておいてくれ」

 先生がこの場を立ち去ると、少しずつタイムを見に行っていた人たちが、自転車に乗って戻ってきた。

「千明様。冬馬様が一組目を走る理由とか、あるんですか?」

「まぁ、うん。冬馬兄さんらしいなって思うような感じの理由があります」

「なるほど」

  負けず嫌いとかかな? 今まで負けたことないって言ってたし。

「先生が、持久走が得意だったら、一組目に入れって言ってたでしょ? それで、僕より冬馬兄さんの方が得意だから」

「それは、建前、ですか?」

「そ。本当は、翔君と走りたかったみたいだけど、そうなると僕が暁君たちと一緒に待ってることになるでしょ? まだ、翔君並みに信用できないから、冬馬兄さんが一組目に走ってる」

「俺は、信用されてるんですか?」

「そりゃそうだよ。冬馬兄さんが頼むことってそうそうないから」

「冬馬様も一人で抱え込んでるんですか?」

「うん、そうだね。僕を守るためなのか、なんなのかわからないけど、僕には何も回してこないんだよね。だから情報も流れてこないけど。抱え込ませちゃってるよね。昔も今も」

 千明様が遠くを見ながら言う。

「俺も、結果的に抱え込ませちゃってる気がします」

「誰に?」

「アユにです」

「歩さんか。そうだね、冬馬兄さん系だよね。なんかそういう雰囲気な気がしてたんだよね」

「雰囲気とか、分かるんですか?」

「いや、そんな高等技術持ってないよ。なんとなく感じただけ」

「雰囲気、読まれてたら怖いですよね」

「心の中とか読まれるより、ましだよ」

「えっ? 心の中ですか?」

「そ。心の中。考えてること、その人には全部分かっちゃう。その分苦労したみたいだけど」

「そんな人、いるんですか?」

「いるよ。相川家に。多分、会うんじゃないかな?」

「冬、ですか?」

「う~ん、どうだろう。冬、来てるのかな?」

「知らないんですか?」

「まぁ……いろいろ事情があったから」

  触れてほしくないってことか。

「そうですか」

 すると、広げたままだった気配を感じる範囲に、二人の気配が入ってきた。

  あいつら、もう帰ってきたのか。

 タイムボードを見ると、七分を越えていた。

「戻ってきた?」

 俺がタイムボードに目を向けたのを見て、千明様が言う。

「はい。あと、二十秒後ぐらいには、戻ってくると思います」

「はぁ、いくら何でも、早すぎでしょ。まだ、十分経ってないよ?」

「まぁ、こんなもんですよ。出だしが、少し遅かったぐらいです」

「すごいね。本当に異次元だよ」

 俺は、立ち上がって校門に向かう。

「おう、翔。あの二人、もう戻ってきたぞ」

 校門のところで、戻ってくる生徒を待っていた先生が言う。

「分かってますよ。だからここに来たんです」

「……何かやるのか?」

「まぁ、見てれば分かります」

 その後、すぐに二人は戻ってきて、ゴールラインを越えるとその場に倒れ込んだ。

  七分半。

「お、おい、大丈夫か?」

 普段はどしっと構えている体育の先生が、おろおろしている。

「お疲れ、二人とも」

 俺は、二人に近づきながら言う。

「あと、八分は大丈夫だと思うけど、邪魔だから退け」

「おい、翔。それは、二人にひどすぎないか?」

「このぐらい大丈夫ですよ。5㎞を全力疾走しただけです」

「いや、だから、それがすごいって言うか……。っていうか、二人がゴールラインを越えた瞬間見えたのか?」

「ばっちりです」

「はぁ……、兄弟そろって異次元だ」

 体育の先生が、考えることを放棄したような顔で言う。

  そこまでじゃないと思うんだけどな。二人、結構遅かったし。見える人には見えると思うんだけど。

「こいつら、邪魔ですよね?」

「まぁ、そうだが……。無理に退けとは言わない」

「だって。二人とも立って。じゃないと引きずるよ?」

 よほど引きずられていくのが嫌なのか、肩で息をしながらも立ち上がる。

「はぁ、はぁ、はぁ。……タイムは?」

 その後、瞬時に息を整えた傑が言う。

「七分三十秒」

「自己記録更新!」

「おっしゃあ!」

「……おい、翔。この二人さっきまでここに倒れてた奴らだよな?」

 立ち上がって元気にガッツポーズをしている暁と傑を見ながら言う。

「はい、そうですが?」

「いや、もういい。戻ってくれ」

  そんなにあきれることかな? バスケの時から分かってたことだと思うんだけどなぁ。

 俺ら三人は、記録から戻ってきた人たちから驚愕の目を向けられながら、一番奥の木陰に座っている千明様のところに向かう。

「はぁ、つっても、カケは簡単に超えてくるもんな」

「どうだろうね。今日の調子が良ければ、かな」

「って言って、毎回抜いてくるくせに」

「涼しい顔してゴールしてるくせに」

「それは、調子がいいからだよ。調子は調整できないから、運だよ」

「今年、大凶だった奴が何を言ってるんだか」

「それとこれは関係ない」

  あ、やべ、乗せられた。

 思考回路が似ているため、次の言葉を聞かなくてもはめられたことぐらいはわかる。

「大凶と、その時の運が関係なかったら、運とカケの実力も関係ないよね?」

  あぁー、やってしまったぁ。

「そこは、関係ある。俺の実力じゃないから」

 ただの言い訳でしかないけど、反抗しておいた。

「まぁ、いいよ。何でも」

 飽きたのか、それ以上何も言ってこなかった。

  二人で口げんかしてるときは、飽きることなんてないのにな。俺相手だからか?

 千明様のところに戻り少し経つと、冬馬様が戻ってきた。

  十三分。普通に早いな。

「お疲れ様です」

「暁も傑も早すぎないか? すぐに見えなくなったんだけど」

 呼吸を整えた、冬馬様が千明様の隣に座りながら言う。

「まぁ、全力疾走ですから」

「5㎞も全力疾走できるのか?」

「10㎞までなら、できます」

「はぁー、すごいね」

 その後、二組目の記録に行っていたメンバーが戻ってきて、一組目に走っていた人たちが徐々に戻ってきた。一組目が全員戻ってくると、二組目がスタートするために、一組目の最初のほうに戻ってきていたメンバーが自転車でそれぞれの地点に向かった。

  サトとスグも向かったけど、疲れてるやつらの代行としてペアのタイムを見るから、俺は自分で見ろって言われたけど。

 先生がスタートの合図を出した瞬間に、俺は暁たちと同じペースで走りだした。

  後ろから、あいつ100m走でもするのか? という声が聞こえてきたが、慣れていることなので気にしない、気にしない。気にしてたら、俺らみたいな人生歩めない。

 暁たちより少し速いタイムで1.5㎞のラインを走り抜け、二つ目の角を曲がる。なんとなく気配を感じる範囲を広げたところ、一つの気配が1.5㎞のラインを越えていた。

  千明様かな。普通についてきてるじゃん。

 そんなことを考えながら、範囲を狭める。

  走ってる最中に広げたり狭めたりしてると、疲れるからね。

 先程も暁たちが戻ってきたところで、気配を感じる範囲を自分だけに戻していた。

  七分ジャスト、狙ってみたいなぁ。

 三つ目のコーナーを曲がったところで、そう考えた。少しペースを上げる。最終コーナーを曲がって少し経つと、タイムが見えてくる。

  六分半か、ちょうどいい。

 最後にまた少しペースを上げゴールラインを駆け抜ける。一瞬タイムボードに目を向け、タイムを見る。

  七分ジャスト。思った通り。

 校門をくぐると、そこに立っていた先生が驚愕の目を向けてくる。

「お、おい、暁たちより三十秒早いが……」

「そうですね。少し狙いました」

「狙って、できるものなのか?」

「まぁ、このぐらいでしたら」

「はぁ、異次元だな」

  今日の授業で何回‶異次元〟って言葉を聞いたかな?

 と思いたくなるほど、聞いた言葉だ。

「ほーら、涼しい顔してる」

 1.5㎞地点から戻ってきた暁に言われる。

「今日はうまく行っただけだって」

  まぁ、このぐらいはできるから、嘘かもしれないけど。

「俺らは騙せねぇからな」

「いや、本当に、今日は乗ってたんだって」

「本当か?」

 二組目が全員戻ってきたころには、もう授業終了のチャイムが鳴っていた。

  っていうか、終わらないなら二時間にすればいいのに。

 俺らは、チャイムが鳴ったときに教室に戻っていた。千明様も普通に戻ってきていたので、五人で教室に戻った。

 その週の水曜日の昼休みには、全員のタイムが出るため中庭に集合することになった。

  はぁ、行くの面倒。夜、全員集合するのに、何で学校で集まらなきゃいけないんだよ。

 月曜日や火曜日は、兄弟たちの顔にタイムを訊きたいとずーっと書いてあったため、正直早く言ってしまえばいいのに、とずっと思っていた。

「全員のメールのところにタイム書いて。送信は押すなよ」

 中庭に先に着いていた歩が言う。望も隣に座っていた。

「了解」

 それぞれがいつもと同じ位置に移動し、タイムを打ち込む。皐たちが来て全員揃ったところで、歩が合図を出し、全員が一斉に送信ボタンを押す。

 早いもの順でいくと、俺が7分、彰が7分5秒、歩と皐が7分10秒、望と稔が7分15秒、要が7分20秒、樹が7分25秒、亨、暁、傑、忍、雫が7分30秒 だった。

  俺が一番早かったか。アユとかアキとか追いついてくると思ったんだけどな。

 五秒の沈黙の後、彰が気の抜けた声を出す。

「あー、後五秒かぁ~。いいせん行ったと思ってたんだけどなぁ」

「アキ。カケは涼しい顔でゴールしてたよ」

  あ、スグ! 余計なことを……。

「サツは早くなったな」

「そうでもないよ。最後、結構死にそうだった」

「そうだったとしても、俺と同タイムだったのは変わらないんだし」

「誇っていいと思う」

「俺が、四つ子の中で一番遅い……」

「大丈夫だって、タツ。俺らのほうが遅いから」

「励ましになっとらん」

「他にどうやって励ますの?」

「傷つくぞ」

「こんなので傷つくような奴じゃない」

「ぐぬぬ……」

「トオは? もうちょっと行けたんじゃないの?」

「サトとスグが走った後だったから、それに合わせた。調整が難しかったよ、走ってるスピードを見てないから」

「トオとシズはどっちが先に走ったんだ?」

「一緒に走ったよ。サトとスグみたいに睨みあいながら走らないから、タイム見れるでしょっていうことで」

「タイムは、先生が言っていたのか?」

「うん。俺とトオだけに言われたよ」

「あ、それ、俺とシノも言われた」

「じゃあ、そこらへんは、タイム知ってたのか」

「まぁ、でも、カケのは言われなかったよ」

「まぁ、サト達が一組目に走ったんだろうから、それだけで、やべぇ、ってなってるところに、三十秒も早く、涼しい顔でカケが戻ってきたんだから、そりゃそうだろう。あの先生でも」

「あの先生だけど」

「ならないはずがないよな」

「後から聞くんだから、言っちゃってもいいのにね。隠しておくようなことじゃないし」

「知ってても、七分は切れないしな」

 そんな話を昼休みが終わるまでずっと話していた。

「おかえり、翔。何をしてたんだい?」

 教室に戻り、自分の席に座ると冬馬様に言われた。

「持久走のタイムを教えあってました。中庭で」

「誰が一番早かったの?」

 千明様が興味津々の目を向けられる。

「俺です」

 もう、俺のタイムは分かられてるから隠す必要もない。

「誰も七分は切れないのか」

「いや、そもそも全員が七分台なのも驚きだよ」

「頑張ればできると思いますけど、まぁ、そんなことしなくてもよかったので」

「もう少し早くゴールできたってことか?」

「まぁ、そういうことです」

「僕も、もう少し頑張ろうかな」

「何かするの?」

「いや、特には何もしないけど」

「倒れる程じゃなかったので、もう少し早く走り切れるということですか?」

「そ。他のみんなよりは、早かったからあまりしっかり走ってこなくなったけど、僕より早い翔たちが来たからね。少しは頑張ろうかなって」

「俺らが遅くなれば、冬馬様が頑張らなくていいのでは?」

「目指す先があるといいよ。頑張ろうと思える」

「そうだろうと思いますけど……」

「あ、自分より上の人を見たことない?」

「いや、いますけど……頑張ろうと思えないんですよ」

「ふぅん。まぁ、モチベーションを上げるために自分よりも早い人のタイムは聞くことがあっても、これだけ離れていると、モチベーションを上げるどころか、すごく下がるね」

「すみません」

「いや、翔たちが悪いわけじゃないから」

「僕たちが興味本位で訊いただけだからね」

「それは、そうですけど……。今まで訊かれても、伝えた後いいことなかったんですよ」

「伝える相手がいたの?」

「友達っていう相手はいませんよ。クラスメイトの中で一緒に走った人に訊かれたぐらいです」

「訊かれたんだ。こっちに来てから、僕たち以外と話してるところ見ないから」

「俺から話したわけじゃないので、話しかけられなかったら話しませんよ」

「人と話すのは嫌なのかい?」

「嫌ではないですけど、好きではないです。情報伝達方法に一つです」

「なるほどね。未だに、僕も人と話すのは苦手だな」

「何か、苦手になるきっかけがあったってことですよね?」

「まぁ、なかったら苦手にならないと思う」

「何があったんですか? 話したくないようであれば、言わなくていいです」

  未だにってことは、俺らが来る前だな。何があったのかそう簡単には知れないと思うけど、訊いてみる価値はある。

「僕が何を言っても、現状を変える力がなかったからかな。話すのも疲れるし」

「話すのが疲れるというのは?」

  冬馬様の発言で現状を変えられる力がないって、どういうことだ?

「声、小さいでしょ。でも、女中がいたことは威厳が足りないって言われて、声を大きくしてたんだけどね、喉はすぐに痛くなるし、痛くなると話したくもなくなるし、話しても何かが変わるわけじゃないから、人と話すのに苦手意識を持った」

  女中つながりか。

 兄弟たちのタイムが出ましたー(早すぎません? 僕もこのぐらいで走れたらなぁー……なんて……)。

 翔は自分の特殊能力の使い方を分かってますね(お、使えるじゃんと思って書き足した部分だけれど……)。

 本気ではないと言っておきながらも、しっかり兄弟たちの中で一番早いところに翔らしさを感じました。


 次回は、登場人物紹介 皐編 です。来週の土曜日投稿です。

 本編の次回は、再来週の土曜日投稿です。

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