17 ~保体の持久走 前編~
「まぁ、親戚という分類に入るだろうね。叔父さんは」
そこで話に区切りがついた。樹が風呂から上がってきて、亨が入れ替わりで風呂に入った。
「あの、今週の土曜日、本屋に行くの付き合ってもらえませんか?」
「どうしたんだい? いつも一人で行くのに。僕が連れて行くよって言ってるのに」
「いつもは、すみません。でも、今回は買いたい本がいっぱいあるので、できれば来てほしいなぁって思ってるんです」
「いいよ、行こう。あ、でも、大地様に用事が入ったら、そっちが優先になっちゃうけど大丈夫?」
「あ、それは、全然問題ないです。お願いします」
「土曜の午前? 午後?」
「午前で」
「了解。できるだけ、空けておくよ」
「お願いします」
俺は少し頭を下げた。
「カケ、ちょっといいか?」
樹が俺を見ながらスマホを出す。
「何?」
「アキとスグのところ、もう二人上がってるけど、入るか?」
「あ、メール来た?」
「あぁ」
「じゃあ、入ってくる。どこの家か分かってる?」
「ここの左斜め前」
「了解」
俺は、立ち上がりバスタオルを持って、家を出た。家を出るとすぐに彰と傑とすれ違った。二人が使っていた風呂のある家に入り、まっすぐ風呂場に向かう。いつも通りの工程を行い、風呂場を出た。
「買い物組帰ってきてるかな?」
そんなことをつぶやきながら、玄関に向かう。
「今週掃除した方がいいな。ほこりがたまってる」
家を出て普段使っている家に戻る。
「あ、おかえり」
リビングに入ると、買い物組と帰宅組が全員集まっていた。
「じゃ、俺らは、風呂に入ってくる」
望が普段の家の風呂場を使うため、他の三人が家を出て行った。
「今日のご飯は何にするか分かってるよね?」
「おう、炒め物とか、他もろもろ。誰が作る?」
彰が俺を見ながら言う。
「……」
「……」
「……アユ、サツ、アキ、トオでいいんじゃないか?」
「うん」
歩がそう言いながら立ち上がる。他の呼んだメンバーも立ち上がって台所に向かった。
「じゃ、俺、机拭く」
「箸、持ってくる」
「あ、箸、運転手さんの分ある?」
「多分、あると思う」
「無かったら、とってくるからいいよ」
雫が机を拭き、傑がいつも俺らが普段使っている箸を持ってきた。
「箸、足りた」
「それは、よかった」
その後、買い物組が風呂から戻ってきてから、みんなでご飯を食べ始め、いつも通りの時間を過ごした。
次週の月曜日。
体力テスト的なものの中に持久走という項目があり、今日の体育はそれをやることになっている。今日は一年生で、明日が二年生、明後日に三年生がタイムを計るらしい。
そういうことで、兄弟たちはすごーく張り切っている。
やめてほしいぐらいにね。
ちなみに、一時間目は俺や冬馬様達がいる一組と、暁と傑のいる二組だ。
「ぜってぇー、負けないからな」
「俺だって負けねぇよ」
暁と傑が睨みあいながら言う。
「サト達には負けたくないよね」
普段は、止める側の稔も二人の話にのる。
「サト達と同じぐらいでいいなぁ、俺は」
「俺も」
「俺は、なんでもいいよ。走り切れればそれで」
雫と忍と亨はいつも通りだ。
俺は、やりたくないよ。なぜ、5㎞も走らなきゃいけないんだ。疲れるだけじゃないか。
「カケは?」
「何が?」
「タイム、どのくらいがいい?」
「一番最後でいいよ。トオと同意見だ」
「面白くないのぉ」
「そんなこと言って、一番早くゴールするくせに」
「お前らが遅いのがいけないんだろ。俺は、普通に走ってるだけだ」
「はぁ、カケの常識は、他の人の常識じゃないんだって」
稔が溜息を吐きながら言う。
「カケが、言ってたじゃん。先週の週末に」
「確かに、そんな話したなぁ」
「自分で言ったことぐらい覚えとけよ!」
「ほんとだよ」
「普段から物忘れの多い、サトとスグに言われたくないけど?」
「うぐぅ……」
「ぐぬぬ……」
「はぁ、もう、教室についたからね。それぞれ頑張って」
亨が、半分止めるのをあきらめた顔で言う。
「翔、七つ子の中だったら、誰が一番早いの? 持久走」
俺らの後ろを歩いていた、冬馬様が訊いてきた。
「訊いてどうするんですか? 俺らのタイムなんて」
できれば言いたくない。自慢と思われることはないだろうけど……。
「目標にする」
「ちなみになんですけど、冬馬様達はどのぐらいなんですか? タイムは」
「1500mで三分ぐらいかな」
「普通に日本記録越してるじゃないですか」
「君たちはそれ以上だろう?」
「なぜ、そう思うのですか?」
「前のバスケの試合を見てて……かな。反射神経とか、体力とか、筋力とか、いろいろ総合した結果、かな」
「まぁ、確かに早いです」
「何分?」
「去年の記憶でよければですけど……」
「いいよ」
「全員一分台でした」
「……え?」
「い、一分……」
どうしよう。二人を困らせることは分かっていたけど、訊かれたら応えてしまった。
「えーっと……、千明様は何分なんですか?」
「……翔君のタイムを聞いた後だと、自信なくすよ」
「確かに」
「すみません」
「いや、いいんだよ。僕が訊いたからね」
「僕も、冬馬兄さんと同じ三分台だよ」
「日本記録と同じくらいじゃないですか」
「だからさ、今まで僕たちより早かった子はいないんだ」
「だけど、翔君のタイムをきいたら、自信なくすよ……」
「大丈夫です」
「何が?」
「俺たちが異次元名だけなので、冬馬様達はすごく早いです」
「自分で異次元って分かってるんだ」
「ここまで差があって異次元じゃなかったら、俺たちはなんなんですか、という話になりますね」
「確かに」
「周りのほうが理解しているだろうけれど、自分たちでもわかります」
「そうなんだ」
「冬馬様達も、他の人より強いし早いじゃないですか」
「僕たちは、翔たちより異次元じゃないから」
「異次元だってこと、理解してるんですね?」
「君たちほどではないけどね」
「ほら、座れ。チャイムが鳴ってから座ったら、遅刻だからな」
先生が教室に入ってきたところで、話を切り、席に座った。
まぁ、斜め後ろにいるけど、冬馬様。
「日直。今日は……相川」
どの相川だ? 昨日、俺の前じゃなかったよな? 昨日千明様でもなかったし……。
「千明」
先生が名簿を見ながら言った。
やっぱり千明様か。じゃあ、来週日直だなぁ。
隣に座っている千明様が立ち上がり教卓に向かう。
「起立」
千明様が声をかけ、朝の学活が始まる。今日の時間割を確認し、先生から今日の連絡事項を聞き、朝の学活が終わる。
「体育か。翔、暁と傑は大丈夫なのか?」
校門へ移動中に冬馬様に言われた。
「どういう意味ですか?」
「いや、いつも体育で口喧嘩やら、なにかやるでしょ?」
「まぁ……それは……、今日は大丈夫……だと思います。持久走でしっかりつかれると思うので」
「疲れたら喧嘩をしないわけではないだろう?」
「そうですけど……。そこまで発展しないはずです」
「まぁ、翔が言うならそうなんだろう。でも、止める必要があったら、僕がやってもいいからね」
「いや、さすがに、冬馬様の手を借りられません」
「翔君、冬馬兄さんがやるって言ってるんだから、使えばいいんだよ」
「では、何かあったら借りさせていただきます」
「まぁ、僕たちも走るから、先に回復できら他の話だけどね。翔とあの二人は別々で走るんだろう?」
「決まりがないのだったら、後で決めます」
「無いと思うよ。兄さんに何も言われてないし」
「そうですか」
さっきから、後ろをついてきてる2人がいるな。サトとスグか? 冬馬様達がなにもされないようにしないとな。
俺はまだ、兄弟たちの気配を他人と区別することができない。言ってしまえば、兄弟も他人だ。本当に関係ない人との差は、血がつながってるかつながってないか、だけだから区別も難しい。
まぁ、血まで感知出来たら、超人だよ。サツもまだできてないって言うし、普通だよね?
「カケ~」
案の定、後ろからついてきていた二つの気配は、暁と傑だった。
「なんだ?」
「どっちが先につくか見とけよ」
「なんで、命令形なんだ? 人に頼む態度じゃないだろう」
「普段、そんなこと考えてないでしょ?」
「こういう時に、適当なことを言うな」
正論を言ったつもりだったが、二人から否定された。
「見ておけばいいんでしょ? 二人がゴールするのを。分かってるよ」
俺は早々に折れ、二人からの頼みを受けた。
「「それでいい」」
二人は満足そうな顔をして言った。
「はぁー、ほんと、人に頼む態度じゃないよな。普段、人に頼むときはどうしてるんだ?」
「「人に頼むことなんてない」」
二人が声をそろえて言う。
うん、分かってた。何で聞いたんだろ、俺。
「強いね」
前を歩いていた冬馬様が振り返って言う。
「何が、ですか?」
「人に頼まないところ。つまり、一人で何でもできるってことでしょ?」
「あぁ~、えーっと、それは……一人のほうが他人とやるより楽というか、早いというか、そんな感じなので、一人で何でもできるのではなくて、頼まないだけです」
「それでも、一人でやってるわけじゃん?」
「まぁ、結果的にそうなってるだけで、兄弟同士だと頼みますよ。全部ひとりでできたら超人です」
超人というよりかは、はっきりとした意思がある人、やらなくては生きていけない人、と例えるのが正しいのだろうけど。本当にすごいと思う、そういう人たちは。
「……そっか」
あ、冬馬様が話してたこと、全否定しちゃったけど、大丈夫かな?
暁も傑も少し驚いた眼で俺を見ている。
そうこうしているうちに、学校の校門に到着した。数分後に授業開始のチャイムが鳴り、体育の顧問の先生が校門にやってきた。
「じゃ、挨拶。一組の日直」
「気を付け、礼」
「「「よろしくお願いします」」」
千明様が、礼、というと皆が少し頭を下げて、声をそろえて言う。
「今日は予定していた通り、持久走だ。二チームに分かれて、学校の外側一周してもらう。全部で5㎞だ」
5㎞もあるんだ。結構広いんだね、ここ。まぁ、普段兄弟たちがランニングをしている距離には、遠く及ばないけど。
周りからは、ため息が漏れる。暁と傑もため息をはいていた。周りとは違う意味で。
まぁ、そりゃこの短さだとね。うん、わからんでもない。
「二人で一組、もしくは三人で一組を組んで、二つに分かれろ。片方が走ってるとき、片方は記録係で、女子は、1㎞、男子は1.5㎞と全員の5㎞のタイムを記録しろ。お前らが一クラス目だ。気負わずに走れ。それじゃ各々準備体操。記録係は線が引いてあるから、そこのタイムを計れ。タイマーも置いてあるから、そこを見ればいい。ペアが決まり次第すぐに移動しろ。自転車があるからそれに乗って行け。二人乗りしても怪我しなければいいぞ」
「「「はい」」」
二つに分かれるのか。あの二人は一緒に組むだろうな。っていうか、チャリあるんだ。
「カケ、俺ら一組目に走るから」
周りにも聞こえるような声で、暁が言う。
何の宣戦布告やら。これじゃあ、みんな二組目に来るじゃないか。人が多いのは嫌だな。
「おう、暁と傑は一組目か?」
体育の先生が近づいてくる。
はぁ、部活の顧問でもないのに、もう名前を憶えられてるじゃないか。
「はい」
俺の気持ちとは反対に、二人の顔はイキイキしている。
「じゃ、運動部の持久走特異な奴ら、全員一組目な。文化部でもいいぞ」
なぜ、そうなる……。
周りは驚いてから、また話し合いだした。
「翔は、二組目か?」
「まぁ、結果的にそうなりますよね」
「そうか……」
「なんですか?」
「三人で走ってるところを見たかったな、と思って」
「面白くないですよ? それに、サトとスグが二人で走っても、俺と三人で走っても、後続を絶望させるのは同じです」
「確かに。まぁ、翔には、二人が一瞬で駆け抜けていくのをしっかり見て、1.5㎞のタイムを記録してもらわないといけないから、誰かが一人になることは確かなんだけどな」
はっはっは、と笑いながら先生は、校門のスタートラインのほうに歩いていく。他の記録員たちはもう記録場所に自転車で向かっていた。
「お前ら、しっかり記録してくれよ」
「え? カケなら自分でやるでしょ?」
何言ってるの、という顔で暁と傑に見られた。
「はぁ、まぁ、やるけど」
「じゃないと、全力出せないじゃないか」
「はぁ、付き合わされるこっちの身にもなれ」
「なってたら、こんなこと頼まないでしょ。もう、あきらめて」
もう、とっくのとうにあきらめてるよ。
「一チーム目、出発するぞ。二チーム目行ってない奴、早く向かえ」
はぁ、もう向かうことすら面倒だな。最大限まで広げるか。
1.5㎞歩くだけで結構な労働力がいる。もちろん俺には何ともないけど、他の人は大変だろう。
まぁ、自転車があるだけましだと思うけど。
俺は、気配を感じる範囲を最大限まで広げ、二人の気配が出て言った瞬間のタイムを見る作戦をたて、少し走って向かうことにした。
絶対、あいつらより早く気配の範囲から出ていくやつはいないから。
「翔、悪いんだけど、僕のタイムも記憶しておいてくれないかな?」
冬馬様に移動しようと思い、立ち上がったところで冬馬様に言われた。
「良いですけど、千明様は?」
「校門の中にいる。走ってる時ならまだしも、他の人がわらわらいるところに置いておきたくない」
何と言うか、過保護? ノゾと似たような感じ?
「分かりました」
俺の気配を感じる範囲がちょうど1.5㎞の線と重なるところまで走って、止まる。
「じゃ、スタート―」
先生が言うと同時にタイム計が動かす。と同時に、スタートの線上で睨みあっていた二人が、一瞬で真剣な顔になり、こちらに向かって走ってくる。俺は、横を通り過ぎる二人とそのすぐ後を追いかける、冬馬様を見送ってから、タイムボードに目を向け、二人が気配の範囲から出て言った瞬間のタイムを記憶する。その後、一人で気配を感じる範囲から出て行ったタイムを記憶する。
そのころには、ちょうどほかのメンバーも俺の横を通り抜けていた。皆の顔は呆然とした顔をしていた。
冬馬様も普通に早いな。
俺は、三人のタイムの記憶が終わると、すぐに校門に戻った。
「あ、翔君、ありがとう。別に僕が1.5㎞のところに行ってもよかったんだけど、冬馬兄さんが許してくれなかったから」
冬馬様と千明様って同じ立場だから、反対もできるはずなんだけどな。
「いいですよ。三人のタイムを記憶するぐらい。というか、実際には二つのタイムを記憶してるだけですから」
「で、冬馬兄さんのタイムは?」
兄弟、先生との話が多すぎて、まだ暁と傑はゴールしてません。翔と千明が走ったり、兄弟たちのタイムが出るのは次回です。
翔の気配を感じる範囲を有効活用していますね。学校に一クラス分以上の自転車があるというのは、それだけ学校が広いのか学校がお金を持っているのか……。とにかく、学校内を自転車で走れるほどの広さだったら、楽しいでしょうね。移動が面倒でしょうけど。(大学かな?)
次回は、保体の持久走2 です。兄弟たちのタイムが出ます。




