16 ~運転手さんの話~
「来るまでに、この後の予定をたてろ」
「……了解」
俺は、ベンチに戻りながら、この後のことを考える。
途中で、風呂あがるのが早いメンバーだけ、スーパーの前で降ろしてもらって、遅い組は帰って先に風呂に入るか。買い物は……四人でいいな。俺は、帰宅組にいた方がいいよな……そうなると、カナ、シノ、ノゾ、ミノでいいか。帰ってきたら、そのメンバーに入ってもらって、その間に帰宅組でご飯を作る。アキとアユがいるから何とかなるだろ。買い物のほうは、話し合っておいてもらわないといけないな。もう少し早かったら、行かせてたけど。
「カケ、みんなにも話しておいたけど、この後の予定は?」
ベンチに戻ると、歩が言う。
「ノゾが来たら、みんなに話す」
「ノゾー。早くー」
歩が言うと、望が走ってくる。
「カケ、決まったのか?」
「うん。カナ、シノ、ノゾ、トオは、スーパーの前で降ろしてもらって、買い物してきて。他のメンバーはそのまま帰って、先に風呂に入る。四つあるから、買い物組が返ってくる頃には、だいたい入り終わってると思う。で、帰宅組が、ご飯を作ってる間に、買い物組に風呂に入ってもらう」
彰が途中で何か言いたそうな顔をしたが、話してる間に何かを言ってくるようなことはしない。
「買い物組は、普段行ってるのが、ノゾとトオだけだから、何を作るのか話し合いをしておいて」
俺がそう言うと、明は納得した顔になる。
よかった。アキは、長いからなぁー、怒りが。そうそう怒らないけど。
「「了解」」
「「りょ」」
「「はい」」
「「おー」」
「来た」
皐がそう言いながら、グラウンドの出入り口に目線を向ける。
そうそう、こういう時に、うまーく使うもんなんだよ、気配を感じることができる範囲は。
それぞれが自分の荷物を持ち、ぞろぞろと出入り口に向かう。すると、後ろから肩をつつかれる。振り向くと、要だった。
「何?」
「なんで、一番早いカケが買い物組じゃないの?」
こっちが疑問を持ってたかー。アキの怒りをそらすので必死だった。
「そんなの決まってるだろ。ノゾが買い物組だからだよ」
要は、何故そこにつながってくるのか分からない、という顔をしている。
「ノゾか俺がいないと、割り振ることができないだろ? それに、何かあったときにアユが寝ちゃったら対応できないでしょ」
「確かに」
「理解してくれたならいいよ」
俺は、そう言いながら、また前を向いて歩きだす。グラウンドの出入り口のカギを閉め、車に近づく。今日の行きにも使った車だった。今だと半分は埋まる。
「あの、帰宅途中にスーパーの前で四人、降ろしてもらえませんか?」
俺は、車に乗り込むと、運転席に座っている運転手さんに、そう声をかけた。
「買い物かい?」
「はい」
「もしかして、僕の分が足りないから行くとかじゃないよね?」
「いえ、元々、今日は買い物に行く予定だったので」
「なら、よかった。僕の分のために行くのかと思った」
「それだったとしても、買いに行くと思いますけどね」
「それは、嬉しいな。……了解。スーパーの前で止まればいいんだね?」
「お願いします」
「僕の分のお金は払うから、レシートちゃんともらってきて、って言っておいて」
「分かりました」
今日は、買い物組が前に列に座り、その後ろに帰宅組が座っている。俺は、帰宅組の中で一番前に座っている、歩の隣に座る。俺が座ったのを見てから、運転手さんは車を発進させた。
「風呂は、二人ペアで別れるけど、どうする?」
俺は、隣に座っている歩に訊く。
「カケが決めちゃっていいよ」
今にも眠りそうな歩が、あくびをしながらそう答える。
ほぼ何も考えてないだろうな。
「了解」
車に揺られながら、帰宅組のメンバーを思い返す。
えーっと、アユ、サツ、アキ、タツ、俺、ミノ、サト、スグ、シズ……か。
そして、一番遅いやつと一番早いやつ通しを組み合わせる。
俺は除いたとして、一番遅いのがタツだから、ミノと合わせるだろ。ここは、いつものところがいいな。その次は……アユか。ミノの次がトオだから、その次……サツだから、ここは大丈夫だな。隣を使ってもらおう。その次は……シズとアキか。大丈夫そうだけど、この次が問題だな。サトとスグがほぼ時間差無いから、シズとサト、アキとスグで行くか。……決定だな。
そんなことを決めている間に、隣に座っている歩は寝ていて、後ろのメンバーも寝ていた。
相変わらず、寝るの早すぎでしょ。
買い物組の方は望以外、頑張って起きているような状態だった。
全く。歩いてる間には寝ないと思うけど、信号とか危険だろうな。まぁ、ノゾが何とかしてくれるか。
スーパーにつき、買い物組が降りていく。買い物組の荷物は、全員分置いて行ってもらった。
荷物を持ってた方が起きてるだろうけど、なんかあったときに止めるノゾのことを考えると、手ぶらのほうがいいよな。
少し経つと、車が本家の裏門を通過し、屋敷の前につく。
「着いたけど、起きてる?」
運転手さんの声がする。
「起きてます。俺だけですけど」
俺はそう応え、シートンベルトを取る。俺の方に顔を乗せていた歩を、窓側にもたれさせてから、立ち上がる。
「一人で大丈夫?」
「何とかします」
「僕も手伝おうか?」
「大丈夫です」
順番に帰宅メンバーを起こしていき、半分には買い物組と歩の荷物を持ってもらう。一旦歩を車の中に置いて、外に出る。
「俺はアユを持っていくから、みんなは風呂の準備して。タツとミノが、いつも使ってるところ。サツは、いつもの隣の家。後からアユを連れてくか、行ってもらう。アキとスグ、サトとシズで別れて他のところを使って。二人で上がり次第、連絡を入れてからいつものところで」
「「了解」」
「「うん」」
「「おう」」
寝起きでもしっかり分担を聞いて、この後動けるみんなはすごいと思う。俺が言うのもなんだけど。
みんなが屋敷に歩いていくのを見て、再び車に乗り込んだ。歩に目を向けると、相変わらず寝ていた。だが、先程少し反応していたので、起きるのはすぐだと思う。
「歩君、起きてないけど、どうするの?」
乗り込むと運転席でくつろいでいる運転手さんが言う。
「担ぎます」
「まぁ、それぐらいしかできないよね」
「このままだと、多分ずっと寝てますから」
「動くとやっぱりわかるんだ?」
「分かるんでしょうね。俺は、動いたところでって感じですけど」
「僕もそうだな」
「夕飯は、一時間後ぐらいには食べれると思いますけど、どうしますか? 呼びに行きましょうか?」
「いいよ。僕が行くから。どこで食べてるの? これを置いてきたら、そこに行く」
「じゃあ、そこの家で食べるので、来てください」
いつも、裏玄関の前で降ろしてくれるので、俺たちがご飯を食べている女中の家は目の前だ。その家を指しながら言う。
「了解」
俺は、後ろのほうに歩いていき、腕を引っ張り、歩を担ぎ上げて車を降りる。
「ありがとうございました」
俺が少し離れると、車はUターンして、車置き場に走っていく。
「……ん~」
背中にあった温もりが離れた。
「起きた? 降ろすよ」
「……? あ、うん」
俺は、背中に担いでいた歩を降ろす。何も話さずに屋敷に入り、部屋に戻る。着替えをバスタオルにくるみ、部屋を出た。皆の部屋のほうに気配を感じる範囲を広げるが、歩の部屋以外からは気配を感じなかった。
もう行ったのか。早いな。
気配を感じる範囲を狭めていると、歩が部屋から出てきた。
「サツのところに行ってほしい」
二人で裏玄関に向かって歩き出しながら、俺は歩に言う。
「カケは、どこで入るんだ?」
「適当。一番初めに空いたところかな。あ、でも最初は、いつものところにいるよ。運転手さんにそこに来てくださいって言ってあるから」
「運転手さんは、女中の家、嫌だとは思わないのか?」
「さぁ? そういう感じには聞こえなかったけど、どうだろ」
「まぁ、相川家でずっと暮らしてるみたいだし、当主様の弟だったら、感情隠すのうまそうだから、何とも言えないな。っていうか、サツ、どこで入ってるんだ?」
「隣って言ってあるけど、どっちの隣かはわからないな。サツのことだから、なんか目印でもあるんじゃないか?」
「特に見当たらないが?」
「どっちかだろうから、どっちも行ってみたらいいだろ。運転手さん来ちゃったし」
少し遠くに一つの気配を感じた。
「そうするか。じゃ、またあとで」
歩はそう言って、普段使っている女中の家と反対の家に向かっていく。俺は、普段使っている女中の家に入る。
もう、女中の家じゃなくてもいいんじゃないか? 普段使っている家とでも改名しようか……。
居間には、亨が座っていて、テレビでニュースを見ていた。俺も、米を洗い炊飯器にセットして、炊飯ボタンを押すと、亨の向かい側に座って、同じニュースを見る。
すぐに、運転手さんも居間に入ってきた。
「ニュースとか、テレビで見るんだ。ここ最近の子は、スマホで見たり、ニュースなんて見ない人が多いって聞くけど」
運転手さんが俺の隣に座りながら言う。
運転手さんの名前も聞かないとな。永遠と運転手さんて呼び続けるのも、あれだしな。
「普段はスマホで見ますけど、今は暇ですから」
亨は何も話さないので、俺が答えた。
「修君とは違うね」
「誰ですか? そのひと」
「本家の車を管理してるところにいる子だよ」
「そうなんですか」
「翔君たちと同い年の弟と妹がいたはずだよ。歩君たちと同い年の弟もいるって言ってた」
「会ってみたいですね」
「まぁ、こっちにいればいつか会えるよ。一番早いと、冬には確実に会えるかな」
「冬って、何かあるんですか?」
「えっ? あ、あぁ、そっか。毎年こっちに来てないもんね。冬は、本家の近くに住んでる人は全員本家に集合する。外に住んでる人も大体は来るかな。まぁ、一家の集まりだよ」
運転手さんは一瞬驚いた顔をしてから、教えてくれた。
へぇ、そんなものあったんだ。初めて聞いた。冬って普通の日常と変わらなかったし。
「結構大きい行事なんですね」
「そうだね。まぁ、今年は女中がいないから、屋敷に人は入れないだろうけど」
「では、外に出なければ、人に会わなくていいということですね」
「まぁ、そういうことになるけど、会いたくないの? 人に」
「好きじゃないですね。なぜか知らないですけど。なんとなく」
「まぁ、僕は毎年大輝君たちといるから、気にしたことないけど」
「大輝さんとやらは、何の仕事をしてるんですか?」
当主様からも聞いてるけど、大輝さんって誰なんだ? 誰か分からないと何も分からないからな。
「事務だよ。実質相川家を運営してるのは、そこかな」
それは、まぁ、当主様と話す時間は多いだろうな。
「へぇ、どこにあるんですか?」
なんとなく気になった。本家にあるのだろうけど、本家について全く知らないため、訊くしかない。
「外の中でも一番屋敷に近いところの家」
そう言われて、なんとなく深司さんの家から帰っている風景を思い出し、引っかかる建物を見つけた。
「あぁ、あそこですか。なんか一つだけ、家という感じではなかったところですか?」
「そうだね。過ごしやすさより、仕事のしやすさを取った家というか建物だからね」
「そこに出入りしてるってことは、元々運転手さん志望じゃなかったってことですか?」
「そうだよ。志望は事務だった。大輝君とかがいるところね。まぁでも、当主一族の運転手になれるのは信頼を置かれてる人だけで、大地様が信頼を置けるのが僕たち兄弟だけだったから、拓真兄さんか僕が運転手にならなきゃいけなかったんだけど、拓真兄さんは本屋を継いだから、僕がやるしかなかったんだよね」
「優斗様が、次の当主になるんですよね? 運転手は誰になるんでしょうか……」
「誰だろうね。冬馬君や千明君じゃないだろうし、晴樹君たちだと小さいもんねぇ。歩君たちがやるか、修君とか琉生君がやるのかな? あぁ、でも、琉生君はやらないか。翔君たちが指名されるかもね」
「指名されるんですか?」
「本当にいないと、そうなるね。まぁでも、大地様が生きてる間はそういうことにならないだろうから、ゆっくり決めたらいいよ。誰がやるかとかね」
「そうですね」
「あ、もしかして、やりたいの?」
「いや、俺は……できれば、拓真さんのところで働きたいなぁとか、考えてますけど」
「あぁ、あそこはいいよね。拓真兄さんも優しいし、深司君も面白いし。大地様が冬馬様達を好きにさせてるのはあそこぐらいだ」
「バイトしてて楽しいし、そこまで稼ぐ必要もないと思うので」
「そうだね。僕も運転手をやってるだけで、生きていけてるから」
「そういえば、俺たちがいなかったときは、本当に当主様達だけの運転手だったんですか?」
「そうだね。女中とかは運んだことないよ。大地様と美佳さん、優斗君たちだけだね」
「それほど、忙しかったんですか?」
「そうでもないよ。じゃなかったら、翔君たちを運んでないよ」
「確かに、そうですね。……誰かに言われたんですか?」
「大地様から言われたよ。こっちの都合で来てもらうから、そのぐらいはしてあげないと、って言われたよ」
「なんか、すみません。自由時間をなくしているような感じが……」
「別に。自由時間があっても何かするわけでもないし、仕事が少なすぎて事務の仕事を手伝ってたぐらいだったから」
「もっと、申し訳なくなってきました。好きな事務仕事をできていたのに、俺たちのせいでできなくなてしまっているような……」
「全然いいんだよ。仕事をしないといけないし、優斗君たちは運ばなきゃいけないから、そのついでだよ。僕的にも女中たちが一緒に乗ってるより、翔君たちが乗っていて楽しく話してるのを聞いてる方が楽しいし、優斗君たちが穏やかなんだよね」
やっぱ、なんかあるんだな。
「……何で、優斗様たちの心を読み取ってるんですか? っていうか、読み取れるもんなんですか?」
「生まれたころから知ってるんだよ? そのぐらいはできるよ。多分、大地様とか美佳さん以上に一緒にいると思うよ。優斗君たちとは」
「へぇー、両親以上に一緒にいる人なんているんですね」
「翔君たちもでしょ?」
「まぁ、確かに、兄弟のほうが一緒にいる時間が長いですけど、同じ家族ですからね」
「僕も、優斗君たちの家族だよ? 叔父さんだし」
「叔父さんと両親だったら、両親のほうが近いじゃないですか。で、両親よりも兄弟のほうが近い感じがします」
「まぁ、親戚という分類に入るだろうね。叔父さんは」
また、新しい名前がたくさん出てきました。
そして、運転手さんの志望は事務作業でしたが、拓真より運転が上手かったり、事務作業を目指していただけしっかりフォローなどもできたり、拓真より女中と仲が良かったりと、いろいろ重なって運転手になっています。
次回は、保体の持久走 です。走ります。実際に僕が走るのだったら、死にます。




