15 ~兄弟練習2~
俺は、その後、仮眠をとった。
あ、あれぇ? 仮眠と思って寝たはずなのに、なんでもう五時半なの?
寝ている間に、そろそろ兄弟で練習に行く時間になっていた。
今日行かなくていいかなぁ。
俺の考えていることを全否定するかのように、部屋の扉がバーンと開けられる。神経を使うと寝る意味がないため、探らないようにしていたら、このありさまだ。
はぁ、この兄弟たち、面倒。いないと困るけど。
「カケ、行くぞ」
歩が部屋に入ってきて言う。
「今日、パス」
ベッドに転がって、ブランケットを頭から被りながら言う。
「ダメ。許さん」
ブランケットを剥ぐ勢いでベッドに近づいてくる
「行きたくない」
「アユ、理由ぐらい聞いてやれ」
望が歩を押さえながら言う。
その調子だー、ノゾ。
「何で?」
歩が仕方ない、といった風に聞いてくる。
「神経を使いすぎて、疲れてるから」
「どうにかならんのか?」
「昼も食べてないから、動けるかもわからん」
あ、やべ、ここ、狙われる。
「食べてないのはまずいだろ」
「そうだな」
「アユ、連れてくぞ。何か食わせないとまずい」
望のほうが、連れて行く気になってしまった。
はぁ、言わなきゃよかった。真実を。
「何、食べる?」
「夕飯近いから、少しでいい」
言ってしまったものは仕方ない。
「今日は外だから、近くにコンビニがあったはず……。アユ、カケ持って」
あぁー、普段はアユに負担をかけさせないようにしてるノゾが、アユに持たせようとしてるよー。これは本気だ。従っとかないとまずいやつ。
「お、おう」
先程まで、歩が望を従わせていたのに、今は完全に逆になっている。
この入れ替わる感じが、面白いんだよ。この二人は。
歩がベッドの近くまで来て、一度俺の額に触る。
「熱はなさそうだし、大丈夫だろ」
そうつぶやきながら、俺の被っていた布団を剝ぎ取り、俺の手を握って引っ張り起こす。
「着替えろ」
「分かったよ」
俺は、渋々、本棚と本棚の間にあるクローゼットを開け、今、着替える服と、向こうで着替える服を出す。ブツブツ言っている望と、そこら辺に立って待っている歩を追い出して、着替える。
まぁ、別に中にいてくれても問題ないけどね。
スマホをポケットに入れ、途中まで読んでいる本と着替えを持って、部屋を出た。
廊下には、今、部活に行っていないメンバーが全員集まっていた。
「今、部活に行ってるのは?」
「バスケとテニスとバレー」
「報告が来てるのは?」
「シズからは来てる」
稔が答えるのと同時に、ポケットの中に入っているスマホが振動する。
「あ、トオから来たよ」
一番早く、スマホを取り出した傑が言う。
「じゃあ、後はバスケ部か」
「いつも遅いからね」
「向かってる間に来るだろ」
「そうだな」
「先に行って、待ってるか。運転手さんに連絡しておくか」
望が言う。
アユは、まだ、ノゾの押しに勝ててないか。
「うん、そうしよう」
「先に俺らを連れて行ってもらえるように頼まないと」
「そうだね」
「俺、してくる」
傑が、俺らから離れながら、スマホで電話をかけだす。少し話をしてすぐに戻ってくる。
「大丈夫だって。あ、部活メンバーの話はしてないけど」
「あぁ、いいよ。俺かカケがするから」
望がそう言いながら、玄関に向かって歩き出す。他のメンバーもぞろぞろと続いた。
何で、俺も説明する枠に入ってるんだ? 望め、ちゃっかり入れやがって。それで後ろの方に座るんだろ。そうすると、必然的に俺が説明することになるじゃないか!
ちなみに、今日はみんな、それぞれ自分のバッグを持っていて、その中に着替えやタオルを入れているが、俺の着替えは歩のところに入れてもらった。本は、文庫本が二冊ぐらい入る小さいバッグに入れ、クリップで腰につけている。ベルトに引っ掛けられるように作られているため、学校では結構重宝する。
ポーチみたいなものだね。
「カケ、全員のところに、先に行ってるって送っておいて」
隣を歩いている、歩に言われる。
「もう誰か送ってるんじゃない?」
そういいながら、スマホを取り出す前に、前を歩いていた忍が振り返って、「あ、俺、もう送ったよ」と言った。
さすが、仕事が早い。
「ありがと」
玄関で靴を履き替え、外に出る。玄関の前にはいつも俺らの送迎に使っている車が止まっていた。
運転手さんも、動きが早いんだよな。俺らが、待っていたことがない。
「すみません、遅くなりました。お願いします」
先頭を歩いていた、望がそう言って車の中に入っていく。
「この人数だったら、もう一段階小さくてもよかったな」
運転手さんが、俺らを見てつぶやく。
俺らの送迎に使っている車は、俺ら十三人に優斗様、冬馬様、千明様が乗るため、結構大きい車だが、今は八人しか乗らないため、半分も埋まらない。
「学校にいるメンバーはどうするんだい?」
車が発進して大通りに出ると、運転手さんに言われた。
「まだ、部活が終わったという連絡が来ていない部活もあるので、先に俺らを連れて行ってもらって、そのあと学校にいるメンバーの送迎をお願いします」
望が後ろに座っているため、前のほうに座っていた俺が言う。
やっぱり、後ろに座りやがった。はなから説明する気がなかったんだ。はぁ。
「了解」
今日は珍しく、忍が隣に座っている。というより、歩が一人席に座り、その隣の二人席の窓側に忍が座っていただけだが。
「カケってさ、毎回、嫌々って言うけど、結局俺らに付き合ってくれるよね」
ぐ……痛いところをつく……。
「できれば行きたくないよ。いつも、本読んでたいもん」
「じゃあ、行かなきゃいいじゃん」
「アユとノゾに強制的に連れていかれるんだよ? 逃げられるわけないでしょ」
頑張ればできそうでもないけど。
「カケなら、逆らいそうだけど?」
分かってるな。いつも黙って見てるだけある。
「これぐらいのことだったら付き合っておいた方が、くどくど言われなくて済む」
くどくど言われないのは、結構大事なことだからね。
「そういう問題かぁ?」
「そういう問題」
「まぁ、カケが納得してるなら……いいよ」
「全然納得してないよ」
「じゃあ、なんで?」
「まぁ、練習とか試合見てるの、楽しいからかな。データ取れるし」
「カケが、タツ化してる……」
忍が少し引いた。
そんな引くことじゃないと思うんだけど……。おかしいかな?
「いや、兄弟の試合結果を集めて、データ化してる時点で、もう、データ集めたりするのが好きじゃなかったら、やってないだろ。本を読んでるだけだろうし」
「それも、そうだね」
「今日は、サッカーだったっけ?」
今日は、何をやるのか聞いてないからな。
「多分」
「準備、したんだろ?」
「うーん、持っていくものほぼ同じだから、結構適当」
「シノっぽいな」
そんな話をしているうちに、相川家が管理している一つのグラウンドに到着した。
「ありがとうございます。部活メンバーの送迎もお願いします」
最後の下りた望がそう言う。
「分かってる。学校に行けばいいんだよね?」
「はい。お願いします」
「了解」
望がドアを閉めると、車が発進した。
「カケ、チーム分けしておいて」
後ろから歩いてきた、望が言う。
「いいけど、サッカーでいいんだよね?」
「おう。ここで、他に何をするんだ?」
「今、来てないメンバーは?」
「入れちゃっていいよ。来るまで適当に動いてるから」
「了解」
みんながフィールドの外にあるベンチに荷物を置いて、物置に向かって歩いていく。おれは、そのベンチの端の方に座り、チームを決める。十二人をチームに分けると、六人。フットサルよりは多いけど、サッカーをやるには半分しかいない。
まぁ、それでも試合が成立しちゃうんだけどね。家の兄弟は。
――フットサルとは、室内サッカー。サッカーではスライディングをしてもいいが、フットサルではダメだったり、室内のため、フィールドのサイズが小さいから、特有の技とかもある。フットボールではないよ。――
「えーっと、GKはいらないから、どうするかな。前回どうやってわけたっけ」
――GKとは、わかりますよね? サッカーで得点を取るために入れる、両サイドにあるゴールを守る役目です。GKだけ、手でボールを持って良いポジションです。――
スマホを取り出し、メモ帳を開く。
結果は、だいたいこんなもんだったから、どうするかな。どう組み合わせても、いい感じになるんだよねぇ。決めなくてもよくね? 面倒だし。
「アユとノゾは分かれるでしょ。今日は、部活で分けてみようかな。楽に決められるし、結構面白そう」
なんとなく、いつもの感じを思い出しながら、部活で二チームに分ける。
「結構いいんじゃない?」
「決まった?」
歩が近寄ってきて言う。
「何で、決まったってわかったの?」
「嬉しそうな顔をしてたから?」
歩がからかうような顔で言う。
くっそー、アユに分かられるとは……。
「今日さ、楽しみで分けていい?」
「好きにしていいよ。データ取れるし、もしかしたら最高の組み合わせかもしれないし」
「じゃあ……、アユ、サツ、カナ、ミノ、サト、シノで一チーム。ノゾ、アキ、タツ、トオ、スグ、シズで一チーム」
「えーっと、部活?」
まぁ、すぐわかるよね。
「正解。面白そうでしょ」
「確かにな。……他のメンバーが来るまで、準備しておけ」
歩が、サッカーボールをフィールドに持ってきたメンバーたちに、声をかける。
「カケもやるか?」
歩に問われたが、俺は首を振って拒否をする。
「ちょっとは、……取り戻してもらいたいね。昔の……」
歩がぼそぼそつぶやくため、少ししか聞き取れなかった。
「ん? 何?」
「なんでもない」
気になる。歩が隠すことなんて、ほぼないから。
「じゃ、連絡きたら教えて。もしくは到着したら」
「了解」
歩がフィールドに走っていく。俺は、気配の感じることができる範囲を出入り口のほうに広げ、ポーチの中から、本を取り出し、読む。
それから、二十分ぐらい経ったと思う。部活組が到着した。
気配を広げていたのに、全く気付かなかった。
「おーい、カケ。本を読みながら、精神削ってどうするのさ」
同じことができる、皐からツッコミを入れられる。
「はぁー、また、やっちゃったよ」
よくやっちゃうんだよなぁ、本に集中しすぎて感じ取れないんだよねぇ。
「まぁまぁ、チーム分けは?」
「アユー、部活組、着いたよー」
「じゃ、全員集合」
体を動かしていた歩が、こちらに歩いてきながら言う。フィールドで、適当に体を動かしていたメンバーも集まってくる。
「カケ、チーム分け」
俺は、先程、歩に言ったチーム分けを、みんなの前でもう一度言う。
「部活か。今までありそうでなかったな」
樹がつぶやくと、みんな、あぁーなるほど、という顔になる。
やっぱり、タツが一番初めに気づいたか。
「確かに」
「そうだね」
「そんじゃ、やるか。部活メンバーが、準備終ったら、はじめるぞ」
歩の合図とともに、みんながグラウンドに散らばっていく。
はぁー、精神削ったのに気づけないし、本読み終っちゃうし、何して時間つぶそう。
みんなの準備が終わり、練習を始めるまで、俺は、ぼーっと夜空を眺めていた。
「カケー! やるぞー」
フィールドの方から、歩の声が聞こえてくる。俺は、頷いて応え、スマホを取り出した。
フィールドの中心に、皐と暁が立っている。
今日は部活分けにしたからかな? この二人がこうやって立ってることはないし。
ほかのメンバーは、適当に散らばっている。GKは、今日はつけないらしい。
「はじめ!」
俺の掛け声とともに、試合が始まる。さすがに、夜に笛を吹くことはできない。だいたい声になる。
最初に決めた、部活分けメンバーで二試合、部活の組み合わせを変えて二試合し、今日の練習を終える。
ふぁー、眠ぃ。
俺は、体を動かしていないため、眠くなってしまうが、寝ることはない。
「カケ、片づけてくるから、車、回してもらえるように頼んどいて」
練習が終わり、少し休憩時間を取ると、望が動き出す。
「他は、来てもらうまでに片付けるぞ。早く動け」
「いきなり、そんなに動けるのは、ノゾぐらいだよー」
歩が、俺と望以外の、兄弟たちの声を代弁する。皆は渋々といったように動き出す。俺は、先程まで試合のメモをしていたスマホで、運転手さんに電話をかける。
「もしもし」
「翔です」
「あ、終わった感じ?」
「はい。お願いしてもいいですか?」
「良いんだけど……」
「あ、歩いて帰れるんで、無理だったらいいんですけど……」
「いや、ご飯を一緒に食べさせてもらってもいいかな? まだ食べられてなくてさ」
「ちょっと待ってください」
俺は、スマホを耳元から離し、歩の座っているところに行く。
「どした?」
「今日のご飯、運転手さん一緒でいい?」
俺は、通話口を手で押さえながら言う。
「別にいいけど、俺らが風呂に入った後になるよ? 買い物も行かないといけなかった気がするし」
「それでもいいか、訊いてみる」
「それでよかったら、いいよ」
「了解」
俺は、ベンチのほうに歩き出しながら、スマホを耳元にもっていく。
「食べる分には、全く問題ないんですけど、俺らが風呂に入ったり、買い物に行ったりしないといけないので、その分、遅くなってしまうんですけど、それでよければ」
「何時ぐらいになる?」
「十時前には確実に食べれます」
「それなら、全然問題ない。お願い」
「分かりました。迎えは、お願いできますか?」
「うん。そっちも大丈夫」
「では、お願いします」
俺は、電話を切り、まだのそのそと動いている兄弟たちを横目に見ながら、そこら辺に転がっているボールを足でけり上げ、手で持ち、物置にいる望のところに向かう。
「ノゾ、今日の夕飯、運転手さんの分もお願い」
「いつ決まったんだ? 今日の予定には入ってなかったよな?」
何故そうなった、と言いたそうな顔をした、望が言う。
「ないよ。さっき、決まったもん。だから、こうして伝えに来たんじゃないか。ボールを運ぶってこともしてるけど」
俺は、サッカーボールの入っている籠に、手で持っていたボールを投げ入れ、足元で転がしてきたボールを蹴って入れる。
「さすが」
「誰でもできるでしょ」
「そうでもないと思うが、どうするんだ?」
「何が?」
話の展開が分からんぞ。
「いつもの感じじゃ、すごい待たせることになる」
「十時までに確実に食べれるって言ったら、それでいいって言ってたけど?」
「いや、でも、待たせることになるわけだからさ……」
「あー、分担しろってこと?」
「来るまでに、この後の予定をたてろ」
「……了解」
前回の兄弟練習は、バスケとバレーでしたが、今回はサッカーでした。詳しいサッカーについては、また今度です(いつか書きます)。
そして、兄弟の計画を立てるのはほぼすべて翔の仕事。それだけ信頼されているということでしょうか……。
ここ最近の悩みは、本編と登場人物紹介、どちらが先に終わるのかが分からないことです。本編が先に終わってしまったらどうしよう、とか、登場人物紹介が終わったら何を書こうとかですね。
次回は、運転手さんの話 です。運転手さんの名前が出てきます(一話から出演していたんですけどね……)。




