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11 ~晴樹様と夏樹様~

「アユ、カケ、ご飯」

「おう。もう、作ったのか?」

 歩が起き上がりながら言った。

「まだ」

  やば、なんか、ぼーっとしてたら、疲れがどっと押し寄せてきて、動ける気がしない。

「女中の家で作るか? こっちだと、もう、晴樹君とか、寝る時間だろうし」

  アユ、晴樹様のこと、晴樹君って呼んでるんだ。

「そのつもり。買い物に行ったメンバーには、女中の家で待機してるし、他のメンバーにもそうやって声かけたから」

「そっか。……カケ? 行くぞ」

「あー、それが、そのー……」

「……さっき、話を聞いてくれたお礼で、今日は、俺が運んでやろう」

  なんで、アユがノゾより先に分かってんの? いつも最後なのに。

 望は、訳が分からないという顔をしている。

「……アユ、待って」

 望は、気づいた瞬間に、そう言って部屋を出て行った。……と思ったら、すぐに戻ってくる。

  まぁ、誰か捕まえたんだろうな。アユには無理させられないって、一番考えてるから。何でこういう時は、同じ考えにならないかなぁ。

「じゃ、ミノ、カケ運んで」

 望は、稔を連れてきた。

「カケが動けなくなるなんて、珍しいね」

 稔に腕を引っ張ってもらい、立ち上がる。目の前で背を向けて少ししゃがんだ稔に、体を預ける。

「ぼーっとしてたら、どっとな」

「そこは、カケらしい」

  はぁー、疲れたな。ミノに背負ってもらったのって、いつぶりだろう。普段は、サツに背負ってもらってるからな。俺が背負うこともあるけど。

 俺の場合は、背負うことはほぼなくて、だいたい、一番手が空いてる。何でもできるから空けておいた方がいいと言われているからだ。

 歩と望と稔と一緒に家を出て、夏休み中に使っていた、女中の家に向かう。俺は歩いてないけど。

 買い物に行っていたメンバーは、それほど汚かったのか、簡単に清掃している。

「あれ? カケ、どうしたん?」

 案の定、暁に聞かれた。

「まぁ、いろいろ。ミノ、部屋の端のほうに降ろしておいて」

 歩が代弁し、稔に指示を出す。稔は、歩の指示通り、部屋の端に行き俺を降ろした。

  降ろされた今も、全く動ける気がしないな。そんな疲れがたまるようなことしてないんだけどなぁ。

 俺は、横にある壁にもたれかかりながら、みんなが夕飯の準備をしている姿を見ていると、睡魔に襲われる。

  ここで寝たら、ご飯食べれなくなるぅ……。

 空腹は、睡魔に勝てず、意識がだんだん遠のいていった。


 次に起きたときは、自分のベッドの上だった。おなかが鳴る。

  あぁー、やっぱ、起きれなかったか。お腹空きすぎて、お腹痛いし。まぁー、でも、今日休みだし、いいや。

「カケー、起きた?」

 雫の声が、扉の向こうから聞こえる。

「起きたけど……」

  シズが、俺より先に起きてる? もしかして今起きたばかり? いや、でも、シズが起きたばかりの声じゃないし、シズより遅い? え?

 俺の部屋は、窓の前には本棚が置かれていて、光が入ってこないため、ずっと真っ暗である。そのため、部屋の明るさでは、今の時間が分からない。

 着心地(きごこち)的に、昨日の服のままのため、後ろのポケットに入れてあったであろう、スマホを探したが、入っておらず、ベッドの頭側にある、勉強机の上を手だけで探ると、充電コードがささっているスマホが、手に触れた。

「おはよ。って言っても、もう、昼だよ? そんなに疲れてた?」

 私服姿の、雫が部屋に入ってくる。

「どうなんだろ、よくわかんない」

 俺はベッドから起き上がりながら答える。

「とにかく、もう、お昼ご飯だから、早く来てね」

 そういって出て行こうとする雫を止める。

「ちょっと待って、どこで食べてるんだ?」

「昨日の女中の家。当主様達は、どこかに行ってるっぽいよ。そいで、アユが、晴樹様と夏樹様の面倒見るの、頼まれてた」

「まじで? こっちで食べなくていいのか?」

「うん。一応許可は取ってるみたい」

「そっか。冬馬様たちも一緒に行ったのか。……っていうか、アユって面倒見れたっけ?」

「ノゾがいるじゃん? それに、代表として頼まれただけだから、俺らで見ろってことらしいよ。同行したサツが言うにはね」

「なるほど」

「ま、とにかく来てね。風呂は入る? 沸かしておくよ」

「入ろっかな。体育やったし」

「了解。沸かしておく」

 雫はそういって、さっさと出て行ってしまった。

 俺は、ベッドから出て、着替え一式を持ち、スマホをポケットの中に入れて、部屋を出る。廊下を歩いて、屋敷を出て、女中の家に向かった。

「あ、おはよー」

 一番玄関に近いところにいた、稔に声をかけられる。

「おはよ」

「風呂沸いてるよー」

「先、入ってきちゃいな」

「うん」

  こういう時に深掘りしてこないとこ、この兄弟のいいところだと思う。俺が言うのも、なんだけど。

 俺は、そう思いながら、風呂場に直行し、服を脱いで入る。頭と体を洗って、浴槽につかり、出てきて服を着る。頭を乾かして、風呂場を出る。この間、十分弱。

「相変わらずの、烏の行水(からすのぎょうずい)だな」

 風呂から上がった俺を見て、要に突っ込まれた。この兄弟は、比較的、超短時間で入るが、俺がだんとつの速さである。

「カナに言われたくないけどね」

 ちなみに、要は、二番目に早く、二十分ぐらいで入る。

「十分ぐらい差があるけどな」

「カケ、あいさつしとけ」

 料理を運んでいた、皐に言われる。

「あ、うん」

 俺は、もともと着ていた服を部屋の端に置き、テーブルの前に座っていた、晴樹様と夏樹様の前に座って、頭を下げた。

「おは……こんにちは。晴樹様、夏樹様」

 頭を上げると、まだ慣れていないようで、? という顔をしていた。

「まだ慣れてないよ。俺らが、朝、あいさつした時もそんなんだったから。アユとノゾは、別だけど」

 料理を運んできた、樹が言う。

「そっか。なんか、手伝うことある?」

 俺は、立ち上がりながら言う。

「特にないかな。座ってていいよ」

 歩が台所を見回しながら言う。

  そこはあるって、言ってほしかった。晴樹様と夏樹様と俺と三人だけは、すごくいたたまれない気持ちになるから。冬馬様と千明様で慣れているとはいえ、完全に何も考えない段階に入ってない。

 多分、他の皆も、そんなことを考えているから、いつもより台所にいる数が多い。

「カケ、昨日までの一週間のメモ、見せて」

 仕事が終わったのか、樹が居間に入ってきながら言う。

「まだ、何もやってないけど、いいのか?」

「うん。やってなくても分かりやすいから」

「じゃあ、はい」

 俺は、スマホをポケットから出して、ロックを外し、昨日のメモを開いて、樹に渡す。

  誰か来てくれて、本当にありがたいよぉ。

「サンキュ」

「あ、俺も、後で見せて」

 おかずを運んできた、暁が言う。

「俺も」

 暁の後から、続いて入ってきた、傑が言う。

「俺が先だからな」

「そんなん、言われなくても分かってるよ。もしかして、疑ってるのか?」

「疑う余地しかないだろ」

「俺も、サトは、疑う余地しかないと思ってるよ」

「んだとっ」

「はいはい、そこまで。カケ、データ化したら、頂戴」

 暁と傑の間に入って二人を止めた稔が言う。

「了解。って言うか、全員のところに入れようと思ってるけど」

「そういえば、そうだったね」

「じゃ、晴樹君たちもついていけてないし、食べよう」

 歩が最後に居間に入ってきて、俺の隣に座りながら言う。

「「いただきます」」

 それぞれが、それぞれのスピードでご飯を食べ、自分の食器を洗い、みんなが食べ終わるまで、縁側に座ったり、台所にいたり、好きなように過ごす。

「「ごちそうさまでした」」

 晴樹様と夏樹様が、食べ終わり、二人分の食器を洗うと、各々で屋敷に戻り、自分の部屋に入っていく。俺は、データを整理するために、机の上に載っている、PCを立ち上げ、スマホのメモを見ながら、昨日までの一週間のデータを打ち込んでいく。計算式はできているため、データを入れて、PCに計算させていくだけである。

  まぁ、でも、試合数が半端ないから、一週間分は結構量があるけど。


 PCの前に座ってから、約二時間半。

「やっと終わったぁ」

「よかったな」

 ヘッドホンをつけて、全く周りの気配を探っていなかったため、ヘッドホンを外したら、歩の声が聞こえてきて、すごく驚いた。あまり顔には出ていないけど。

「アユ……。いつから?」

「ん~、結構初めのほうじゃないかな? 二時間ぐらいは、ここにいる」

「なんで、声かけてくれなかったの?」

「真剣にやってたから、話しかけて邪魔するのもなぁーと思って。まぁ、勝手に入ったけど、ここに座ってただけだから、何もやってない」

「ふーん。データ、送ったよ」

「サンキュ。ノゾとタツ、ここに呼んでいいか?」

「なんでもいいけど、ここでいいの?」

「別に、どこでもいいだろ。今、呼び出す」

「どうぞ、ご自由に。俺は、その話し合いに参加しなくていいよね?」

「できればしてほしいけど、まぁ、どっちでも」

「じゃあ、聞いてるだけ聞いておく」

「おう、思うところがあったら言ってくれ」

「了解」

 俺は、PCを立ち上げているので、ついでというか、こっちが本題というか……次の漫画や小説の新刊がいつ出るのかというのを調べ、スマホのカレンダーに入力していく。

 あまり時間を置かず、部屋の扉がノックされ、望と樹が入ってきた。

「カケ、今週のデータ、画面に映せる?」

「ん? あ、いいよ、ちょっと待って」

 俺は、本棚のない壁についている、モニターにデータを映した。

「サンキュ」

 歩が説明する声が、背中から聞こえてくる。俺は、読んでいる漫画や小説の新刊が出る日をカレンダーに入れ、それが終わると、新しく出る本をあさる。

  こんなもんか。あまり面白そうなのはなかったな。

 本屋でアルバイトをし始めたこともあり、新刊にはすごく敏感になった。今人気の本や、漫画にも。

 俺は、椅子を反対向きに座り直し、歩の説明を聞く。内容については、こっちに来てからの練習から、他のメンバーの心情は、どんな感じかというものだった。

 その後、一時間ぐらい、三人で話し合っているのを聞き、話を振られたら答える、というものを繰り返し、三人が部屋を出ていくと、今月に最新刊が出た漫画を引っ張り出してきて、読みだした。


「入るよー」

 扉がノックされ、歩の声が聞こえてきた。

「どうぞー」

 と、答えながら、何時だろうと思い、横に置いてあったスマホを取って、時間を見る。

  うわっ、もう五時半だ。やべっ、ご飯だ。

 俺は、本や漫画を読み始めると、時間を忘れる。読書好きや、マンガ好きは、みんなそうだと思う。

「分かってると思うけど、ご飯だよ」

「うん。今、時間見た」

「もう、買い物は行かせたんだけど、そしたら、晴樹君たちを見る人がいなくなっちゃってさ、向こうに移動しようかと思ったけど、一人じゃどうにもできないからさ、助けて」

「了解。他のメンバーの誰かには、声かけた?」

「まだ。他のメンバーにも声はかけるけど、先にカケに言っておけば、二人を見ててくれるでしょ?」

  いたたまれないから、嫌なんだよなぁ。話すことないしさ。まぁ、でも、アユの頼みだし。

 俺たちの兄弟の悪いところは、兄弟の頼みだと思ってすぐに引き受けちゃうところだろう。

  短所は、長所ともいうけどね。……逆もあるけど。

「どこにいるの? 晴樹様達は」

「俺の部屋」

「他に誰かいるの?」

「誰もいない。二人だけ」

「それ、まずくないか?」

  なんかあったら、ねぇ。当主様からは何も言われないかもしれないけど、外野からはうるさそうだぞぉ。

「大丈夫でしょ。心配なら、早く行ってあげて」

「……なるほど。了解」

 俺は、スマホだけ持って、部屋の電気を消して、歩と俺の部屋を出る。

「んじゃ、頼んだ」

 俺は、歩と別れ、歩の部屋に入る。部屋の中に入ると、背筋を伸ばして部屋の端のほうに座っている二人を見つけた。

  姿勢、いいな。

 俺は、二人の座っている逆の端の方に座り、廊下の方に気配を感じる範囲を広げ探る。

  あ、いつものメンバーが買い物に行ったんだ。

 いつもの買い物メンバーは、望、彰、亨、雫の四人だ。バレー部とテニス部でもある。

「ご飯、何か知ってます?」

 いたたまれない、という状態が嫌になったので、自分から話しかけた。

「カレーと言っていた気がする」

 晴樹様が答えてくれた。

「そうですか」

  カレーか……。アユ、餌付け作戦か? 誰がカレーって言ったか知らないけど、そういう話し合いがあったことは、確かだな。

「お二人は、歩と望は知っているんですか?」

「うん。他は、全然知らないけど」

  アユとノゾは、知られてるってことは、結構二人と交流があるんだろうな。アユが二人にしても大丈夫だと思うぐらいには、この二人に信頼を置いているみたいだったし。

「そうですか。二人とは、何かをやったんですか?」

「父さんや千明がいないときに、少しだけ、相手してもらったり、一緒に運動したりした」

「……運動って、何をしたんですか?」

 単純な疑問を口に出す。

「サッカー? って言ってたっけ。そうだったよね、夏樹」

「多分、そうだった気がする」

「どちらがうまかったですか?」

「歩」

「望も、うまいと思う」

「そうですか」

  やっぱ、部活やってった奴は、違う部活をやっていたやつよりはうまいのか。それもそうか。触れてる時間が違うんだもんな。

「……名前は?」

「俺ですか?」

「うん。」

「翔、です」

「かける?」

「はい」

「敬語、なし」

「それは、できないですかね。もう、これで、結構定着してるので」

「そっか」

「お二人は、自分が当主一族だってこと、知ってますか?」

「とうしゅ?」

「この家の一番偉い人です。簡単に言えば、社長とかです」

「ふーん」

「いちぞく、っていうのは?」

「俺の言った、一族は、社長の家族っていう意味です」

「父さんが、とうしゅ、ってこと?」

「そうです」

「当主一族っていうのは、そんなにすごいの?」

「敬って当然のことと教えられました」

「うやまう?」

「自分より、立場が上の人として、扱うという感じですね」

「なんとなくわかった」

「それで、お二人は、敬われる側ですけど、その自覚はありますか?」

「ない」

「そんな風に扱われたの、女中ぐらい。あと、歩と望」

「女中は、そういう風に接するものじゃないの? 父さんたちにもそうだったし」

「俺たちに接するときは、敬語なんて、使われませんよ」

「へぇ」

「まぁ、特別な存在だってことが分かってくれていたら、いいです」

 はい、今回は、前回と打って変わって(ってほどでもないですけど)、今まで(前作も含めて)あまり触れていなかった、晴樹君と夏樹君でした。

 千明から見たら、こんなもんかって感じですけど、カケたちからしたら、こっちが狂う、という感じですね。本人たちに話せてしまう、翔は強いです。アユに連れまわされているからでしょうか……(ノゾも同じな気がするけど……)。


 次回は、当主家会議&保体のバスケ です。

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