10 ~歩と翔の話し合い~
「では、失礼します」
俺は、一礼して、その場を立ち去る。屋敷に戻り、歩の部屋に直行した。
部屋の中では、望が担いでいた歩を、ベッドに寝かせていた。他のメンバーも部屋に集まっていた。
やっぱり、ここに集まるよね。何も言わなくても、さ。
「カケ、服はベッドの上に置いといたよ」
雫が言う。多分、先ほど役割を持っていなかったメンバーで、一番俺の部屋に近いからだろう。
「サンキュ」
「カケの考えてた通り、夕食は準備されてなかった。途中で千明様に会ったけど、ご飯は俺達でどうにかしてくれって、言われた」
やっぱりな。
「それじゃ、夕飯買いに行くか。カケ、誰が言ったらいいと思う?」
今は望が仕切っていて、先ほど、俺に頼らないって言ってたから、呼ばれて、少し驚いた。
「……ノゾ、それ、俺が決めていいの?」
「えっ? あぁ、うん、いいよ。お願い」
望以外は、? という顔になっていた。
「じゃあ、ノゾとサツとカナとサトとシノ」
どういう決め方しても、文句を言わないし、大抵何でもできるメンバーだから、多分、ノゾでも決めやすいと思う。まぁ、サトとスグを一緒にしなければ、大抵大丈夫だと思うけど。
「「りょ。」」
「じゃあ、呼ばれたメンバー、行こう」
望がそう言い、俺が言ったメンバーが部屋を出て行った。
「一人だけ残ってればいいかな? 暗いほうがアユも起きた後が楽だろうし」
今残ってるメンバーで、一番年上の、彰が言う。
「そうだねぇ」
「でも、結局誰かいるんだったら、電気つけっぱなしだろうし、変わらないと思うけどな」
「アユが、そんなところを気にするとも思えないけど」
「全員、部屋に戻っておけばいいでしょ」
「誰が、起きたっていうのを確認するんだ?」
「別に確認しなくても良くない?」
「ご飯出来た時に、呼びに行けばいいよね」
「その時に、状況説明すれば、いいよね」
「俺が、アユが起きたらこっち来るよ。その時状況説明するから、呼びに来るときは、アユの部屋に来て」
「そうしようか」
「了解」
「じゃあ、カケ、よろしく」
彰がそう言って、話し合いを締めると、残っていたメンバーもぞろぞろと出て行く。俺も出て行こうと立ち上がると、服の裾を掴まれた。
「カケ、待って。ここにいて」
「……はぁ……、起きてたなら言ってよ」
全員が出たのを確認して、歩に言う。
なんか、アユに服の裾を掴まれる事、多くなってね? 自分たちの家にいた時は、ほぼなかったのに。なんか、溜まってんのかな。そういうの、アユ、話してくれないから。
「あ、嫌だったら、いいんだけど……」
「いいよ。ここにいる」
部屋の扉を閉め、先ほど座っていたところに座った。
「どうかしたの? ここ最近」
あまり聞きたくなかったが、一応、こうでもしないと話してくれそうにないから、聞いてみる。
「ん? 特には、ないけど」
特には、か。じゃあ、なんかあるな……。多分。
「特にって事は、なんかあるの?」
「あ、言い方が悪かった。何もない。大丈夫」
確実に、何かあるな。アユは、隠すの下手だから。
「アユはさ、言っちゃ悪いけど、隠すの下手だから、俺でも分かるよ? なんかあったでしょ。言いたくなかったらいいけど、聞くよ」
「……カケには、なんでもお見通しされてるな」
歩は、驚いた顔をしてから、苦笑する。
「いや、だから、アユは分かりやすすぎるだけ。俺じゃなくても分かる」
ノゾとかだったら、一番最初の言動から分かるんだろうな。
歩の話は、よく分からないところから、始まるから、用心してきかないと、何を話してるか分からなくなる。
何が始まるんだろう。
「本当にそう?」
「えっ……?」
どういうこと? は? アユがわかりやすくないって事? は? いきなりわからなくなった。
「その反応を見ると、分かりやすいって事だよな?」
あ、そのことでいいの。あ、あ~、分かったわかった。
「それ以外に何かあるの?」
こういう反応で良かったのかな? さっきは、分かったと思ったけど、どうなんだろう。よく分からないよ、こういう時だけさ。ずるいなぁ。
「……そうなんだろうな。俺は、家ではすごく分かりやすいって、皆に言われるし、自覚もなんとなくある。でも、学校に行くと、全く分からないって言われるから、こう、何て言うか、自分ではさ、家でも学校でもいつも通りにしてるつもりなんだけどね。人から受ける印象って、難しいなと思って」
「それが、何かにつながってるの?」
全く話が呑み込めない……。
「いや、あまり。カケが何でも話せって言うから、日頃思ってることを話しただけ」
「そっか」
そういえば、そんなこと言ったな。
「この後も聞いてくれる?」
「何かに突っかかってるなら」
「……ノゾは、家でも、学校でも、変わってないと思うんだ」
そりゃ、アユがいるからね。あと、ノゾはあれが素だからな。
「だけどさ、俺は変わってるって、ノゾに言われた。自分では変えてるつもりが、一切ないのに。どうしてだと思う?」
それ、俺に聞く? 学校でのアユ、全然知らないし。まぁ、でも、アユのことほとんど知ってるノゾが言うんだから、そうなんだろうな。
「そういう類のものに、正解も不正解もないし、当たってるかなんてわからないんだから、アユが考え着いたものが、正解でいいんじゃないの? 俺が何かを言う必要なんて、ないんじゃない?」
時間稼ぎ。こうでもしないと、考えがまとまらない。どうやって文をつくろう。
「俺の中では、こうだと思うって言うのはあるよ。でも、他の人の意見も聞きたいなーと思って」
この感じ、俺以外に聞いてない気がする。こういう理由をつけてくるのって、ほぼ、そんな感じだから。
「それ、俺以外にも聞いたの?」
「いや、カケが初めて……」
やっぱり。
「何なら、カケにしか聞くつもりはないよ」
「それじゃ、俺とアユの答えしか出てこないけど、いいの?」
「良いんだよ。とにかく、俺はカケの意見が聞きたいの」
だいたい考えはまとまったけど、どう、話せばいいんだ?
「俺は、勝手に……無意識にフィルターが掛かってるんじゃないかと思う。一人の時に……アユの素が出ているときにかかってるフィルターが、0枚だった時、学校では、15枚ぐらいかかってるとかね。何なら、俺らの前でも3枚ぐらいはかかってるんじゃないかな? 無意識だから、分からないと思うけど。体が勝手にやっちゃうからさ」
いやー、綺麗にまとまったのか? 良い感じにまとまった気がするけど。
「……なーほどねー。俺も似たような考えだな。フィルターって考え方はしなかったけど。でも、そっちのほうがわかりやすいかも」
「どうやって考えたの? アユは」
「玉ねぎの皮。真ん中に自分がいる。玉ねぎって、焼いたら透明になるじゃん? だから、剝けば剝くほど、薄く透明になって行く」
「あー。それもありだね」
そういう表し方もあったか。なる。
「うん。ちなみに、俺は、多分、カケの前では、一枚もフィルターが掛かってないと思うよ。ノゾの前ではかかってるかもしれないけど」
ノゾの時ではかかってるのに、俺の前ではかかってないの? なんでだろ。
「何で、俺?」
「ん~、ノゾはちょっと、距離が近すぎるんだよね。別にこの距離が嫌いってわけでもないんだけどね。ノゾとは、昔からこの距離だし、このぐらいがちょうどいいから」
離れたり、近づいたりしたことないのかな? ほら、よくあるじゃん? 少女漫画のさ、幼なじみの両想いとかだと、離れたり近づいたりってのが。
少年漫画も読むけど、少女漫画も、はまったのは読むから、なんとなくよくあるなー、というのとかは少し知っている。
でも、アユとノゾが近づくことはもうないと思うなぁ。もう、十分近いもんな。
「でもさ、このぐらいの近さだから、話せないって事もあるんだよ」
へぇー、俺は、特にないな。そんなこと。そんなに近くないからかな
「その点、カケはちょうどいいぐらいの距離なんだよ」
別に俺じゃなくても良くね? ミノとかも、関係的には同じ距離だよね?
「双子だと、そんなもんなのかな?」
「どうなんだろ。よく、仲良いねぇ、って言われてきたけど、他もこのぐらいじゃないのかな? と思うこともある」
「それは、ないと思う。他の双子の話を聞いてると、嫌い同士っていうのもあるし、お友達感覚っていうのも聞くし、話すことないけど一緒にいると安心するっていうのも聞いたことがあるけど、ここまで仲良しっていうのは聞いたことない。俺らも、アユとノゾほどには仲良くないと思う」
「それは、七つ子だからだと思う」
「いや、双子でも、ここまで仲良いのは相当だと思うけど? まぁ、俺らが七つ子だからかもしれないけど」
「そうなの? こんなもんだと思ってた」
「俺ら、七つ子はみんな、アユとノゾみたいにはならないと思う、って言ってるし、サツたちも個性強すぎて、仲良しという範疇を超えてるから」
「ノゾは、嫌だったかなぁ?」
そんなこと考えるような人だったか? アユ。ノゾも嫌いじゃないだろうし、否定しておくか。
「それは、ない。絶対にないと思う。ノゾも似たようなこと言って、悩んでた」
「悩ませてた? 俺、ノゾのこと。どうしよう」
「だ~か~ら。ノゾが悩んでたのは、アユが嫌いじゃないかってことだから。二人とも似すぎだから」
「それならよかった」
本当に、こんなこと気にすることあったか? アユ。
「……アユにとって、ノゾってどんな存在?」
俺が、歩の話を聞いている間に浮かび上がってきた、疑問を口にしてみる。
「……特別……かな」
特別、ねぇ。
「……アユはさ、俺以外に頼ってるとこ、あまり見ないけど、頼ってるの? ノゾとか。特別な存在なんでしょ?」
「う~ん。ノゾは特別なんだけどね、頼ることはほぼないかな? 俺が死にそうになった時ぐらいかな。代理でやってもらう時。そういう時は、頼ってるって言うのかな?」
「どうなんだろう」
「まぁ、でも、俺は、この中では一番上だから、頼られる存在になりたいなぁ、と思ってるから、頼ってないっていうのもあるかも」
アユは、頼れる存在だよ。うん。だから、無理してほしくないって思うんだろうけど。
この時の俺は、全く歩の言っていた、〝この中では一番上〟という言葉に、気づいていなかった。
「アユは頼れるよ。頼りたいと思うし。でも、俺も、アユが頼ってきてくれるのは嬉しい。少しでも、アユの負担を軽減できてるんだろうなぁ、って感じる。でも、他のメンバーは頼られることがないから、まだ、頼れる値に到達していないとか、アユに無理させちゃってるな、って感じてるメンバーもいるから、頼ってくれるんだったら、俺らをもっと頼ってほしい」
こういうこと、特にノゾが言ってたんだよね。アユと同い年なのに、俺が一番負担かけさせちゃってるかも、とかつぶやいてたな。そんなことないと思うんだけど。
「……カケ。カケは、頼ると、信頼するって、同じ意味だと思う?」
「……え?」
どういうこと? 頼ると信頼するって、同じ位置にあるものなの? アユが何を聞きたいのか、わからない。こういう時だけ、わかりづらいアユは、ずるいと思う。
「……俺は、似てないと思う。そもそも、同じところにあるとも思えない。比較する対象じゃない」
アユの中で、ここまで答えが出てるなら、俺に訊く必要、ないんじゃ……。
「何で?」
ただただ、知りたくて、先を促す。
「俺的にはさぁ、頼るって、二つの意味があると思うんだよ」
二つ? 二つもあるの? 頼る、ていう言葉に。
「それは?」
「一つは、信頼してるからこそ、頼る。俺だったら、信頼していない奴には、試合でパスを絶対出さない。いい結果につながると思えないから」
そういうところ、アユだよなぁ。
歩は、パスを出さないと決めた相手には、とことんパスを出さない。人の心がないとか、よく言われてるけど、俺は、歩のそういうところが、信頼できる。
「だからさ、カケたちは信頼して頼ってる。俺は、もう、みんなに頼ってるんだよ。本人たちが気づいてないだけ。外で見てるカケは、もうわかってたんじゃないの?」
うん、まぁね。アユが兄弟じゃない人とチームを組んで練習してる時の、単独行動しかしないの、すごいからなぁ。
「うん。二つ目は?」
「決めたくない、やりたくない、判断が面倒な奴、他人に押し付けたいから、誰でも頼る。頼りになるなぁ~、とか言って近づいてくる奴、俺は、すっげぇ嫌い。自分の意見や考えをあまり持ってなかったり、人に伝えたくないことしか考えてないってことだろ。自分の意見に自信が持ててなかったり、判断するには結構な精神力がいるんだけど、それが面倒だから、そういう行動に出る」
うわぁー、それ、もろ、俺な気がするんだけど……。アユの一番苦手……というより、嫌いな人種だよ。そういうやつら。
「そんな感じで頼られても、俺は、全く嬉しくない」
俺も、嫌だなぁ。
「まぁ、でも、俺は、しちゃってるんだけどね」
歩が少し笑いながら、俺を見る。
誰に? って言うか、してるの俺な気が……。
「誰に?」
「カケに」
「えっ?」
俺じゃないの? 俺がやってるんじゃないの?
「役割分担決めるの、全部カケに振ってるじゃん? 悪いと思ってるんだけどね、俺が決めたら、絶対カケよりいい役割分担はできないと思ってるから、頼っちゃってる」
なんか、さっき、ノゾにも言われた気がするけど。
双子は、同じようなことを考えているんだな、と改めて思う。
「でも、半分以上は、前者の信頼っていうのでしょ? それだったら、嬉しいよ。俺は」
「まぁー、そんな感じで、後者の頼り方をしたくないから、頼ることがあまりないっていうのが、現状かな。特に無理してないから大丈夫だよ。……って、カケに言っても、あまり意味ないか」
「俺から、伝えられたら、伝えておくよ。できれば、アユからみんなに伝えた方がいいと思うけど」
それから、望が歩の部屋の扉をノックするまでの、十分ぐらいの間、俺と歩は、一言も話さず、同じ部屋でぼーっとしていただけだった。
「アユ、カケ、ご飯」
「おう。もう、作ったのか?」
はい、今回は、ずーっと歩と翔の話し合いでした。
考え直してほしいとかではないですが、こういう考え方もあるんですよー、という感じで知ってほしいです。(道徳みたいで、嫌になりますね。特に学生の皆さん!)
今回は少し短いですが、キリがいいので、ここまで。
次回は、晴樹様と夏樹様 です。




