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87 ~歩と望の引っ越し~

「さて、まぁ、少しは兄さんから、話を聞いてるけど、まずは、翔君の意見を聞こうかな」

 倉庫の中央に置かれたソファーに拓真さんが座りながら言う。

「元々バイト自体は、暇つぶしのためにやっていたので、辞めようかと考えています。最近は一切来れていないですし、少なくとも三、四カ月は来れそうにないので」

 俺は、拓真さんの正面に腰を下ろしながら言う。

「翔君が辞めるというなら、辞めてくれてもいいし、辞めたくないって言うなら、そのままにしておくから好きな方を選んで」

「全く来ていない人をそのままにしておくのは、拓真さん側にデメリットしかないと思うんですけど……」

「ここは、個人経営だし、こんなこと翔君にしか言わないよ。来れないんだったら、ここ最近のように給料を払わないだけだから、大丈夫。もし、少しでも時間が空いてるなら来てくれていいし。最近は、それなりに従業員が増えて、レジに入ってもらう必要がないから、裏作業にはなるんだけど」

「なら、そのままにしておいてもらっても良いですか? 人手が足りないとなったら呼んでもらって構わないので。それぐらいはさせてください」

「わかった。まぁ、翔君を呼び出すときは、人手が欲しいというよりも深司君の面倒見ててほしいときとか、僕がいない間にいてほしいとかそういうときだろうけどね。とりあえず、残してはおくけど、無理してくる必要はないから、兄弟とか、千明君とか翔君じゃないといけない方を優先してね」

「はい。ありがとうございます」

「今日は、この後どうするの?」

「帰らせてもらいます」

「そうだよね。深司君の相手をしてるよりよっぽど重要だ」

 拓真さんから見ても、深司さんの相手は格の高い仕事ではないらしい。

「それじゃ、気を付けて帰ってね」

「はい。失礼します」

 本屋を出て、歩いて屋敷に帰る。途中で、司を迎えに行った。

「あれ? 珍しいね」

「そう?」

「最近は、皐とか稔の方が来てたからさ。今日はどうしたんだ?」

「本屋に用事があったから。それより、アユはどうだった?」

「どうだったも何もいつも通りだったよ。まぁ、少しシオからクッキーもらって嬉しそうにしてたな」

「それはよかった」

「本屋には何をしに行ったんだ?」

「相談」

「あぁ、辞めるのか?」

「辞めなくていいって言われたから辞めてない」

「最近の翔を見てると、全然行けそうにないからな」

「うん。だから、俺も辞める気でいたんだけど、拓真さんに許可貰ったから」

「そりゃあ、良かったな」

 自室に入り、荷物を置く。泉ちゃんたちの相手をするときの服に着替えてから、家に寄り、薫と栞の顔を見る。二人ともいつも通りだった。今日は、お菓子を作らないらしく、小説を読んでいる薫に栞が寄りかかって眠っていた。

 今日は、事務所で預かってもらっているため、事務所に向かう。お手洗いを借りて、手を洗ってから海斗君たちに会いに行く。会議室の端に布団が敷かれていて、そこに寝かされているらしい。

 ちょうどミルクタイムのようで、大輝さんと條さんがミルクをあげているのだが、大輝さんに抱かれている泉ちゃんは大泣きしていて、全くミルクを受け付けない。

「失礼します」

「おぉ、やっと帰って来た。代わってくれ」

 少し疲れ気味の大輝さんが泉ちゃんを渡してくる。

「ずっと泣いてます?」

 俺に抱かれると泣き止んだ泉ちゃんをあやす。

「泣き疲れて寝ない限り、ずっと泣いてるな」

「疲れちゃうよな。それだと」

 俺のシャツを掴み、じっと俺を見ている泉ちゃんと目を合わせる。

「あ、お昼のミルクは飲んでくれました?」

「それは、飲んでくれてる。午前中の方が機嫌が良いんだよな」

「何かあるんですかね?」

 俺は、会議室の椅子に座り、ミルクをあげる。

「翔の近くにいた効果がだんだん薄れてきてるとかか?」

「でも、朝は会ってないですよ?」

「じゃあ、何だろうな」

 大輝さんが、俺の隣の椅子に座りながら言う。

「ここまで人を選ぶ赤ちゃんは初めてだ」

「そんな何人も見て来たみたいな言い方……」

「そりゃ、弟妹の面倒見てきたの俺だしな。何人いると思ってるんだ?」

  そういや、二十人兄弟って言ってたか? 淳さんたちも見てるってことだよな?

「それもそうですね」

「翔。海斗君にミルクあげ終わったけど、寝かせておいていいか?」

 手慣れたように海斗君にげっぷをさせている條さんに問われる。

「はい。ありがとうございます」

 海斗君がまだいるということは、千明様がまだ来ていないということだ。

  あとで千明様に訊いてみないとな。

「じゃ、俺帰っていい? 大輝兄」

「あぁ。明日から気をつけて行ってこい」

「今日帰ってこないのか?」

「帰れそうにない」

「そっか。じゃ、そう伝えておく」

「頼んだ」

 條さんが軽く手を振って出て行く。

「今日はなんで遅かったんだ?」

「拓真さんに話が合ったので」

「あぁ、最近行けてないからか」

「はい」

  さっき、帰れそうにないって言ってたけど、こんなところで俺と話しててもいいのか?

「泉ちゃんの面倒見るのは、今のところ翔しかできないからなぁ」

「俺の兄妹でも大丈夫そうでしたけど……」

「お前ら、七つ子とかじゃなかったか? 全員同じような感じなんじゃないか?」

「そうかもしれないなと思って、四つ子にも抱かせてみても大丈夫そうでした」

「ふーん。じゃ、翔の兄妹たちに任せておくのが正解なんだな」

「そうですね」

 そんな話をしているうちに泉ちゃんはミルクを飲み終わっており、げっぷをさせる。

「哺乳瓶洗ってくる」

「お願いします」

 哺乳瓶を持って出て行った大輝さんを見送り、自分の手を興味ありげに見ている海斗君の横に移動する。泉ちゃんはまだ不満げな様子の為、おむつを確認すると、そろそろ交換したほうがよさそうだった。

 海斗君のも確認し、どちらも交換したほうがいいのは分かったが、勝手にバッグの中を触るのはと思い、大輝さんが戻ってくるのを待つ。

 遠いところまで洗いに行っているのか、途中で誰かと話しているのだろう。

「ちょっと待っててな。大輝さん来るまで」

「うぁ」

 泉ちゃんが手を伸ばしてくるため、俺の手を近づけてみると、グーにした手を振る。まだ、手が上手く動かせないのだろう。

 数分後に大輝さんは戻って来た。

「あ、大輝さん。おむつ替えたいんですけど……」

「そこに入ってるの、勝手に使ってくれていいぞ」

「分かりました」

 バッグの中から必要なものを探し、二人のおむつ替えをする。一息ついていると、スマホの着信音が鳴った。千明様からメールが一件。すぐに行けそうにないから、海斗君を見ておいてほしいということだった。

「大輝さん。今、千明様から連絡があって、海斗君を向こうに連れて行きたいんですけど、シオをこっちに呼んでも良いですか?」

「いや、俺が連れてくよ」

「じゃ、お願いします」

 大輝さんに海斗君を抱いてもらい、家に移動する。

「ありがとうございました」

「全然。あと、頼むな」

「はい」

 大輝さんが出て行ったのを見送り、居間に座る。

「この子は?」

 遠くで見守っていた栞が近づいてきて言う。

「海斗君」

「ふぇ」

 じーっと栞を見ていた海斗君が返事をするように言った。

「今日は、こっちで見るの?」

「千明様の用事が終わるまでな」

「何か、やってるの?」

「さぁ? 何も知らされてないからな」

「そっか」

 千明様からの連絡もなく、部活のメンバーが帰ってくる。今日は練習に行くようで、家には、俺と司しか残っていない。

「翔は行かなくていいのか?」

 縁側に寝転んでいる司が訊いてくる。

「泉ちゃんたちから離れると泣いちゃうからな」

「それは、翔の行きたくない理由にはなってないと思うけど」

「行ったところで、記録してるだけだからな。一緒にやるわけでもないし」

「やらないのか?」

「やらないよ。あの熱量はちょっと疲れる」

「少し見てみたいな。今度、スポーツ系の作品書かないかって言われててさ。特にどのスポーツとかはないんだけど」

「だいたい何でもできるとは思うけど、あまり参考にはならない気がするな」

「いや、体の動かし方とか見れれば十分だし。後は音とか。最近はどこにでも映像が落ちてるけど、生はまた違うからな」

「取材とか行かないのか?」

「行くこともあるけど、自分でやってみないことには書けないからな。知識を得たいときくらいか」

「ふぅん」

  それだけで、あんだけいろんな作品が書けるんだもんな。創造力ってすごいな。

 2時間後、兄弟たちが帰ってきて、順次お風呂に入りつつ、夜ご飯の準備が始められる。

 俺も風呂に入ったが、今日は泣かなかったようだ。

 夜ご飯を食べ終わり、スマホを見ると、千明様から連絡が来ていた。返信すると、すぐに少し疲れた表情の千明様がやってきた。

「ごめんなさい。こんな時間まで任せちゃって……」

 兄弟がほとんど揃っている状態だからか、千明様はいつもより緊張している。

「大丈夫ですよ。2人とも全然泣かなかったですし」

「そっか。……お風呂入れるのまで手伝ってもらっても良い?」

「はい。行きましょう。ミノ、バッグ俺の部屋置いといて」

「ん」

 居間の隣の部屋でストレッチをしていた稔に泉ちゃん用のバッグを任せ、千明様と共に屋敷に戻る。

 2人をお風呂にいれるのを手伝い、寝かせてから部屋に向かう。バッグが扉の横においてあったため、もうみんな戻ってきているのだろう。

 普段寝る時間までは少し時間があったが、読み始めたら止められなくなることがわかっているため、眠ることにした。


 一週間後。

 今日は、望が引っ越す日である。

 歩ほど遠い訳では無いが、電車で2時間はかかる。今までのように毎日一緒にいるわけではない。

 歩の時と同様に望と一言話してから、家を出る。司は望の引っ越す家までついていくと行っていた。

 相川家が管理しているアパートらしいから、問題はないだろうし、いつでも遊びにはいけるだろう。

  2時間もかけて会いに行こうとはあまり思わないけど。

 そして、今日は、球技大会である。

 1年生は、サッカーをやるため、少しだけ稔のテンションが高い。暁や傑たちは不満そうだが、俺としてはサッカーで良かった。クラス対抗のため、兄弟たちとは別チームである。テンションの高い暁や傑をクラスメイトでは抑えられないだろうし、どちらかがテンションが高い場合、もう片方も吊られて高くなり、抑えが効かなくなる。自制の効く稔で良かった。

 クラスメイトとはほとんど話したことがなく、いきなりチームとして一緒に戦えるとは思っていないため、兄弟たちを抑える仕事ぐらいはやろうと思っている。

 チームメンバーを決める時、サッカー部が中心になって決めていたが、俺に問われたことは、毎試合出てくれるか、と、兄弟のことを抑えてくれ、だけだった。

 試合は、一クラスを二チームに分け、奇数組と偶数組に分けて総当たり戦を行う。1位通過の四チームで優勝決定戦を行う。十一人でやるため、足りない人数はクラスの人が入る。サッカー部は禁止だ。

  ミノは特例でありになったけど。

 一試合七分で、半分のグラウンドでやる。兄弟たちが本気を出せば、ものの数秒でゴールが決まるだろう。

  まぁ、そんなことするの、サトとスグくらいだろうけど。

 二試合ずつ進んでいくため、回転率は良さそうだ。男子と女子で交互に行っていく。

 最初の俺たちの試合は、亨のいる三組とだ。冬馬様と千明様と同じチームだ。

「僕らも後ろに居ればいいのかな?」

「何も言われてないってことは、それでいいんだと思う……」

 俺よりも後ろに立っている冬馬様と千明様がそんな話をしている。俺たちのチームは、サッカー部と運動ができる人たち数人が基本的に攻めることになっているため、それ以外は全体的に後ろに立っている。

 俺は、その中間地点にとりあえず立ってみたが、あまり必要はないような気がする。

 俺たちのボールで試合が開始する。亨も俺と同じような位置に立っているため、そこまでやりあうことはないだろう。

 攻め上がっていく途中で亨に掴まって一度後ろに戻す時と、普通に相手が攻めてきたときに止めに入る時しかボールに触らなかった。思ったよりも楽かもしれない。

 一試合目は、一点決めた俺たちのチームが勝った。さすがに、複数人で攻められると、亨も対処しきれなかったというのと、周りが兄弟ではないため、どう動くのか分からず、全体的に力を抑えた結果だろう。

 隣では、暁と傑が暴れて二組が勝ったようだ。相手だった雫は、グラウンドの中央に座っている。どうしようもなかったのだろう。

 次は女子の試合の為、やることはなく、その次も俺たちのクラスは試合がないため、三試合分休憩が入る。

 端の方に座り、ぼーっとしながら、目の前で行われている稔と亨の試合を眺める。その奥では、忍と雫のクラスが戦っているが、二人とも攻めるつもりがないからか、稔たちほど攻防戦になってはいない。

 稔はサッカー部だからか、攻めろと言われているのだろう。

 結局、稔は完全ではないにしろ、亨に止められ、周りが上手く攻められず、無得点だった。亨のクラスは、一度行ったカウンターが決まり、亨のクラスが勝った。

 もう片方の試合は、先ほど暁と傑を相手にしていた雫が、忍を抑えられず、二点ほど得点を許していた。

 サッカー強豪校と言いつつ、女子の方は、そうでもなく、どちらも点が決められず、じゃんけんで試合の結果が決まることが多かった。

 そして、俺たちのクラスの試合がやって来る。今度は、稔と対戦である。先程の試合を見ている限り、攻めては来るようだから、油断したら点を取られるだろう。

 ボールを持たせるより前に、稔にくっついていようと思い、試合開始と同時に少し前に出てきた稔と相対する。

「カケとは当たりたくなかったな」

 元々攻められるとも思っていないのか、稔が話しかけてくる。

「俺も、ミノとはやりたくなかったよ。必要ないほど脳を使うから」

 稔とは大量の読み合いが起こるため、普段使わない脳まで使い始める。

「避けてっ!」

 得点が動かないまま、数分、稔にくっついていると、突然、忍の叫び声が聞こえて来た。忍がそこまでの声を出すことは、兄弟たちと居る時ですら全くと言っていいほどないため、驚くが、まだ試合中の為、そちらは見ない。

 周りはざわざわしていたが、試合をしていなかった亨と雫が走っていくのが見えたため、多分大丈夫だろう。

 試合が終わり、稔と共に、グラウンドの端に座っていた忍の元に向かう。保健室に行っていないところを見るに、そこまでのことではなかったのだろう。忍の周りに亨たちもいた。

「ケガは?」

 翔は本屋を辞めずに済み、少しホッとしています。いつ、お役目ごめんになるか分からないですからね。

 また、するっと終わった、歩と望の別れ。彼らにとっては、このぐらいが気持ち悪くないし、ちょうどいいのだと思います。

 そして、球技大会が始まりました。体育祭の次に兄弟たちが好きな行事です。


 次回は、 球技大会 です。

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