9 ~兄弟の練習~
「決まったか? カケ」
「こんな感じ?」
俺は、近づいてきた歩にスマホの画面を見せる。
「うん、いいと思う。ノゾ、ちょっと来て」
歩に呼ばれて、雫と一緒にいた望が、小走りで近づいてくる。
「どう思う?」
歩が、俺のスマホを見ろと目で合図をしながら言う。
「いいと思うけど、サトとスグが別々なのには、なんか理由があるのか?」
さすがノゾ。ちゃんと見てるんだな。まぁ、アユも見てるだろうけど。
「うん。ここ最近二人ともチームが一緒で、この二人でする攻撃が、ほぼ抑えられてるから、別々にしたら対抗心が生まれて、激しくなるかなって。あの二人だし」
暁と傑は、同じチームになると、相手には負けられないから、協力するけど、バラバラになると、それぞれが、それぞれに対抗心が生まれるから、ちょうどいいのだ。
「なるほど。そういう作戦もあったな」
「ノゾは、どう考えてた?」
「あいつらが、抑えられないような、作戦を考えてくるのを待っていようかと」
「それもありだね」
「でも、あの二人が作戦とか立ててるとこ、ほぼ見ないよ。どうやって出すのさ」
「それは……二人次第だな」
「ほんと、なんで、二人で攻撃をするようになると、速さと強さでごり押そうとするんだろうな」
「作戦なんてもの立てなくても、行けると思ってるんだろう」
「俺ら以外だったら、止められないだろうから」
「でも、他の人があげたら、テクニシャンみたいになるのにな」
「二人だけで、その二つができたら、最強でしょ」
「まぁ、アタックの方はな」
「そこに気づいてもらおうかと。対抗心が出てきたら、ごり押そうとする力も出てくる。けど、トスをあげてるのが、他の人だから、技を使う。すると、どっちも使うわざるを得なくなる。」
「そう簡単にはいかないだろうけどな」
「あの二人が、くっついてから、何日目?」
「えっと……」
俺は、メモ帳を上にスワイプしながら、二人が離れている最後の日を探す。
「……あった。もう、四か月以上前だね。四か月と二十五日」
四か月前は、さすがに前すぎだよ。指が疲れた。何となくわかってたけど。自分でチーム組んでるから。
「まぁ、そろそろ離し時だな」
「じゃ、それで。他に質問は?」
「特にない」
「ほんじゃあ、やるか。集合!」
歩が全員を集め、先ほどのチームメンバーを発表した。それぞれ、コートに散る。
「じゃ、試合開始」
二チームの間にある、ネットに近くに座った、俺が言うと、試合が始まる。
はぁー、サト達離しちゃったから、空間把握、面倒なんだよなぁ。なんで、離しちゃったんだろう。明日にすればよかった。ちょうどいい所だったのに。
俺は、皐よりは空間把握ができないけど、他の兄弟よりは長けているため、小説を読みながらでも、なんとなくは、分かる。ポジションさえ覚えておけば、誰が触れているかもわかるし、得点が入ったときとかに、ラリーが何分続いたとか、誰が決めたとか、トスを上げたのは誰かとか、ブロックは誰だったとか、どのコースに打ったかなどを、スマホのメモ帳に打ち込んでいく。
まぁ、そんなことをやってると、小説を読む暇なんて、ほとんどないんだけど。
結局、今日はバレーとバスケをそれぞれ二試合やった。
普段は、もうちょっと少ないんだけどね。今日は、俺らが話し合いをしてたから、試合数が増えた。まぁ、嫌がる奴はいないけど。俺以外はね。
バスケのチームも俺が決めた。こういうことは、ほぼすべて俺が決めている。
兄弟の中ではそういう担当って感じだよね。
今日は、どの試合も接戦で、一勝一敗もしくは、二試合引き分けであった。
バレー時は結構安全なのだが、バスケの時は、いつボールが飛んでくるか分からないし、結構得点の入るスパンも短いから、小説を読んでいる暇などないに等しい。俺は、得点までのことをひたすらメモ帳に打ち込んでいくだけだ。俺以外は、体を動かして疲れているだろうけど、俺は指を動かしすぎて疲れている。
やべっ、指、久しぶりに動かなくなる。今日は二試合だったからな。
「よし、帰るか」
歩の声に応えるように、体育館の床などに座って、休憩をしていた皆が、片づけるために、のそのそと動き出す。俺は、持っていたスマホで、疲れ切った手を動かして、運転手さんに電話をかける。
「カケ、頼んでくれた?」
皆のペットボトルを持ってきた、望が言う。
「うん。ペットボトル捨ててくるから、着替えといて」
「了解してるよ」
俺は、望が俺の横に置いて行った、ペットボトルを持って、外にある自販機に向かう。このペットボトルを買った時に、ゴミ箱があるか、見ておいたのだ。
こういうのが、俺の仕事でもあるからね。ほぼ、マネージャーと同じだと思う。違うとすれば、俺も試合に出ることがあるってことぐらい?
自販機の隣にある、ゴミ箱にペットボトルを捨て、体育館に戻る。
「翔君」
体育館に入る直前に、運転手さんに声をかけられた。
気配はあったんだけど、道を歩いてる人だと思った。
「ここで待ってればいいかな?」
「あ、えっと……」
どうするべきだ? 車で待っててもらってもいいんだけど、そもそも俺が場所を知ってると思われてないだろうし……。
「車で待っててもらってもいいですよ」
「そう……。じゃあ、車で待ってる」
え? 何も聞かないの? なんか、もう、分かられてる? やっぱり本家にいる人はすごいな。
「お願いします。すぐに向かいます」
「よろしくね」
俺は、運転手さんに一礼して、体育館に小走りで向かう。別に歩いても良かったが、運転手さんが見ている手前、すぐに向かうといったのに、歩いて行くのは申し訳なく、走る必要もないと判断したため、小走りとなった。
「おかえり。もう、来た?」
もう、準備が終わっていた、望が体育館の扉のところで出迎えてくれた。多分、俺が小走りで戻って来たから、そういう結論に至ったのだろう。
「うん」
「ほら、早く行くよ! 迎えに来てもらったんだから」
望が、肩越しに後ろを振り返りながら、いまだのろのろ準備している、他の皆に声をかける。
こういう時は、望が一番初めに準備が終わっているため、こういうことを言う係になっている。
あ、俺は、ペットボトルとか捨ててくる係だから、範囲外だよ。マネージャーっていう範囲だから。一応……俺としてはね。
「おー」
「棒読みだな」
「ノゾが、速すぎるだけでしょ」
「そうだよ」
「お前らが遅いだけだろ」
「カケはどっちだと思う?」
「第三者の目も大事だね」
「お前らが、遅いと思う」
「どのくらい?」
「ものすごく」
「そっかぁ」
「カケが言うんだから、そうなんだろうな」
「おい、口を動かしてる暇があったら、手を動かせ」
望に言われながら、全員が準備し終えて、体育館の戸締りをし、車に向かった。車は、十四人乗りだった。
運転手さん分かってるなぁ。どこまで読めているんだろう。
「すみません、遅くなりました」
歩が一番初めに車に乗り込み、運転手さんに言う。
全員が車に乗り込み、発進した。はじめのほうは、今日の俺らの話で盛り上がっていたが、静かになったと思ったら、皆、寝ていた。歩なんかは、俺の肩で寝ている。
俺の場合は、全くといったら間違いだろ思うけれど、疲れてはいない。指は相当疲れてるけど。
「翔君は、寝なくていいの?」
今日の試合結果を整理していたら、運転手さんが、話しかけてきた。
話しかけてくるとは思わなかった。バックミラーには映ってないよね? この席。振り向かれてないし、スマホの音とか出してないし。
「はい、まぁ、俺は、動いてないので」
「何をやってるの? みんなが動いてる時間」
本当にどこまで、分かってるんだかさっぱりだ。
「得点係とか、試合結果をまとめたりとか、対戦するチーム分けとか、やってますね。マネージャーみたいな仕事がほとんどですね」
「動かなくていいの? みんなが動いてるのに」
「はい、まぁ、皆みたいに運動が好きというわけではないし、上手くもないので」
「そうなの?」
「はい」
俺が、一番、兄弟の中では弱いからな……。
「そうには見えないけどね」
やっぱり、何度も思うけど、本家の人は侮れない。
「っ……どういうこと、ですか?」
「いや、なんとなく、ね。僕もスポーツやってたから」
「へぇ、何をやってたんですか?」
「テニスとサッカー」
「中学と高校で、違う部活に入ってたんですか?」
「そ。中学でテニスをやってたんだけどね。なんか、面白くなくなって、高校でサッカーにしたんだけど、それもまた、飽きちゃってね」
「今は、何かやってるんですか?」
「特に何もやってないよ。時々、歩君に誘われて、バレーのラリーを手伝うくらいで。」
「えっ、アユたちについて行けるんですか?」
まじ? アユって事は、ノゾもいるだろ? あの二人について行けるのは相当だと思うんだけど。
「どうなんだろうね。でも、遠慮はしてない感じはするよ。凄い優しいよね、ボール」
「そうですか……」
まぁ、確かにアユのボールは優しいよ。うん、否定しない。でも、遠慮してないって事は、結構実力者って事だよね? アユが誘ってるぐらいだし、ノゾが止めてなさそうなところを見るとね。
「翔君は、体を動かすの好きじゃないって言ってたけど、それって、どうしてかな?」
「一番、弱いので、面白くないから、だと思います。何かを続けるのも、苦手だし、根性ないと思うし……、片隅で、読書してる方が好きなので」
「そっか。でも、実力がないわけではないんじゃないの?」
「実力も一番ないですよ。皆みたいに、普段の部活からやってるわけじゃないですから」
俺がすごかったら、他の兄弟が怪物になっちゃうよ。そうだと思うけど。
「普段からやってないのに、皆に合わせられるのは、すごいと思うけどね」
「合わせられてないですよ。皆の足を引っ張ってます」
「そう感じてるのね、本人は」
「えっ? 違うんですか?」
アユたちからなんか聞いてるのかな? 本人はって事は……。
「いや、そう思ってるなら、そうでいいと思うけど」
なんか、引っかかる。何を言いたいんだろう。運転手さんは。
そのあとは、何の会話もなく、本家についた。
「ついたけど、皆、寝てるよね? どうしようか」
「起こします。外で待っててもらってもいいですけど……」
「う~ん、じゃあ、外で待ってるから、全員出たら、教えて」
「はい。すみません」
運転手さんが出て行ったのを見て、まず、絶対起きる気がしないが、俺の肩に頭をのせて寝ている、歩をゆする。
「起きて、ついたよ」
「う~ん」
やっぱりね、だめだこりゃ。いや、分かっててやったけど。誰が起きるかな? ノゾが一番なのは確定だけど……。
「ノゾ、起きて」
相変わらず、歩が起きなかったから、望に声をかける。
どちらかが起きれば、自分で判断しなくてもいいからだ。
「う~ん……」
ここで起きるから、ノゾなんだよね。
「ふぁあ。……ついた?」
「うん」
ノゾは呑み込みが早いな。いつも思うけど。アユと一緒にいると、そうなるんかな?
「誰が起きてる?」
「ノゾだけ」
「カケもな」
「まぁ……」
「他のメンバーで起きそうなのは?」
「誰だろう……」
俺は、皆の寝ている、後ろを見ながら言う。
「ほんじゃ、ま、全員揺らしてみるか。アユは、そこら辺に転がしとけばいいよ」
「あ、うん」
望は、シートベルトを取り、後ろに回る。
「はら、ついたよ。起きて、起きて」
俺も、シートベルトを取り、歩を支えながら立ちあがって、その場に寝かせ、四列目まで行く。
「起きてー、聞こえてるかー?」
三分ぐらい声をかけ続けて、歩以外全員起きた。
「アユは、起こさなくていいよね?」
「あぁ、こうなったら、起きないからな」
先ほど、俺が寝かせた状態のままで、まだ、グーグー寝ていた。
アユって、本当に寝始めたら、回復するまで全く起きないんだよな。どれだけ周りがうるさくても。
「俺が、アユを連れてくから、カケ、他のメンバーの分担して」
歩には、よくチーム分けとか、分担しろって言われるけれど、歩が寝てたり、使えない状態だと、歩の役割を望が代行するが、望からは、あまり分担しろといわれることが少ない。
その、ノゾが、言ってくるってことは、ノゾも疲れてるんだろうな。
俺は、頭の中で、どの役割が必要か、どう分担するかを一瞬で考える。
「ほんじゃあ、俺か、サツが、運転手さんに伝えに行くのと、俺かサツのどちらかとミノで、夕飯がどうなってるか、食堂を見てくる。他は、バッグを戻しに行く係と、多分、夕飯が準備されてないと思うから、サツたちが戻ってきたら買いに行こう」
「「「了解」」」
「「「うん」」」
「「「りょ」」」
それぞれが頷き、動き出す。
「カケ、どっちが行く?」
「ちょっと待って」
望が話の間に入ってくる。
「カケが、アユのところに残ってほしいから、そこだけ頼んでいいか?」
「いいよ」
「うん」
「じゃあ、俺が、買い物組で」
「うん、食堂も頼んでいい?」
「いいよ」
皐が、稔達のほうに向かって行く。
「カケ、悪いな」
「別に、問題ないけど、サツをそっちで使いたいの?」
「いや、俺が、カケがいると、分担を頼んじゃいそうだから、頼らないためにな」
二人に、良いように使われてるよね。まぁ、二人から、信頼を得ていると思えば、嬉しいことなんだけども。
「頼ってもらって、全く構わないよ。年上組には、いつも頼らせてもらってるから」
「アユはさ、なんとなくで、この役割できちゃうけど、俺はできないからさ」
「それ、俺が何も言わなきゃいいんじゃないの?」
「そういう問題じゃないんだよ。その場にいるだけで、心の安心というか、そんな感じ」
「ふーん、よく分かんないけど」
「ま、そっちは頼んだ。アユはサツでも、カケでも、どっちがいてもいいんだろうけどね」
「まあ、アユは、そういうとこ、なんでもいい派だよな。否定しない」
歩を担いだ望と別れて、俺は、運転手さんの気配が消えて行った方に向かって歩き出す。
こっちのほうに消えて行ったと思うんだけどなぁ。どこだろ。……あ、いた。
「あの、全員出ました。遅くなって申し訳ないです」
俺は、缶ジュースを飲んでいる、運転手さんに話しかける。
子供っぽい。缶ジュースって。偏見か?
「ん、あぁ、全然いいよ。全員起きたの?」
「まぁ、はい。いつも通り、一人は起きてないですけど、他は起きました」
「そうかい、それは、良かった」
「では、失礼します」
俺は、一礼して、その場を立ち去る。屋敷に戻り、歩の部屋に直行した。
兄弟の中で、翔の役割は理解していただけましたか? 皐と同じく気配が探れちゃったりします。(これには理由があります。いつか出そうと思ってます)
運転手さんが、翔の見ていないところで、歩と望と一緒に練習していました。
翔は、歩と望から、しっかりと信頼されています。(他のメンバーもだけど)
次回は、歩と翔の話し合いです。




