表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/108

1 ~初めて当主様に会いました~

 今日は夏休みが始まって一週間ぐらいたった日。俺らの兄弟が本家に引っ越す日だ。俺らは本家に行ったことがないから、当主様やその子供たちに会うのも初めてだ。

  一応、はとこという立場らしいが……。

 今は、兄弟で新幹線に乗り、東京に移動中だ。

 ちなみに、俺たちは、元々長崎に住んでいた。しかし、当主様から招集がかかったため、兄弟だけ、東京に引っ越すことになった。

「アユは、当主様に会ったことがある?」

 アユこと、(あゆむ)と向き合っている席に座っている、(みのる)が言う。

  もしかしたら、俺が知らないだけで、アユは会ったことがあるのかもしれない。

「あるわけないだろ。初めてだ」

 少し緊張している、歩が言う。

  やっぱ、ないんだ。

「そうすると、ノゾもないでしょ?」

「俺の記憶の範囲ではないな」

  アユが会ったことなくて、ノゾが会ったことあるとかいうこととか、あるのかな?

「じゃあ、誰も会ったことがないのか」

 稔の隣に座っている、(さとる)がつぶやいた。

  ないだろうな。当主様の妻である、美佳(みか)様は仕事の関係で来たから、会ったことあるけどな。

「どんな人なんだろう」

「優しいと良いけどな」

「でも、厳しい時は厳しそう。女中を全員、他のところに追放するぐらいだから」

「九州にも何人か来たしな」

「それは、権力があるからできることだろうけど、確かにそうかもな」

 歩が納得したようにうなずく。

「そう言えば俺らって、その女中の代わりに行くんだよね? そうなると、こき使われること……になるのか?」

 俺の反対側にいる、歩の隣に座っている(すぐる)が言うと、その場に沈黙が落ちた。

「それは、行ってみないとわからないけど、そういう感じで誘われているわけではなさそうだったような?」

「気にしすぎかな?」

「だといいな……」

 その後は、大阪で乗り換えをし、東京まで行く。東京駅まで着くと、迎えが来ていて、その車で本家に向かった。家具などは明日来るそうで、今日は移動するだけだった。

「こちらへどうぞ」

 本当に一人も女中がいないらしく、運転手さんが屋敷の中まで案内してくれた。一度も、誰とも会って無いため、ずっと緊張しっぱなしだった。

 車の運転手さんが、奥のほうに入ったある部屋のふすまをノックし開いた。

「あぁ、よく来たね。全員入って」

 当主様の声がドアの向こうに聞こえたが、先頭を歩いていた、歩も(のぞむ)も入ろうとしない。

「遠慮しなくていいんだよ。そこに立ってると、優斗(ゆうと)たちに会うかもしれないし」

 優斗様は、当主様の長男だと聞いたことがある。

 当主様に言われて、ずっと立ち止まっていた、歩が先に入って行き、その次に望が入り、後ろで止まっていたメンバーもぞろぞろと入って行く。

「噂には聞いていたけど、こう見るとすごく多いね」

 当主様は、その世代の美少年だと聞いていたが、大人になった今でも、本当に顔が綺麗だと思った。

  アユ、止まった気持ち、なんとなくわかる……気がするよ。

 当主様の後ろには、何枚かの紙が置いてあった。

  作業中だったのか? 邪魔をしてしまったのか。

 全員が部屋に入ってきて座り、扉が閉まるのを見届けてから、一番前に座っていた、歩と望が頭を下げ、それに続いて全員が頭を下げた。

「お初にお目にかかります。御当主様。先ほどはお手を煩わせてしまい、申し訳ございませんでした」

 代表して歩が言う。

「いいよ、いいよ。顔をあげて」

 全員がゆっくり顔をあげる。当主様は少し笑っていた

「改めまして、私が当主の大地(だいち)です。よろしく」

「「よろしくお願いします」」

 全員がもう一度頭を下げて言う。

「特に話すことはないけど、明日には荷物が届くから、部屋に運んでくれ。後、悪いが女中が住んでいた家の掃除が終わってないんだ。そこの掃除を頼まれてくれないか?」

「分かりました」

 歩が代表して答える。こういう時の代表は歩のため、歩がいくらか前に出ている。半歩後ろには望が後ろに控えている。

「あぁ、そうそう、女中の代わりという名目で招集させてもらったが、見栄え的にそれが最適だと判断しただけだから、特に女中と同じ働きをしてもらおうとは思っていない。ただ、家事の手伝いなどはやって欲しい。今は、優斗、冬馬(とうま)千明(ちあき)の三人で回しているが、やはり、元々やっていた千明に負担が多くなってしまっているんだ。だから、みんなで分担してほしい」

 冬馬様と千明様は、優斗様の兄弟で、俺達と同い年らしい。

  やっぱり女中がいないんだ。じゃなかったら、当主一族が家事をすることなんてないし、やらせないと思う。

 俺らは、ほぼ女中にやってもらっていたが、家事などはやれることにはやれる。

「家事とは、料理、洗濯、掃除などですよね?」

「あぁ」

「分かりました。他には何かありますでしょうか?」

「他は……、自由にしてくれていいよ。優斗たちは、部活に入ってないけど、入ってくれても問題はないし、車の送迎については、運転手と話し合って決めて。……そういえば、(かける)君」

 当主様に名指しされ、少し驚く。

  何で、名前知られてんの? いやそれより、なんかやったか?

「……はい」

  情けない返事になっちゃったよ。アユ、凄すぎでしょ。知ってたけど……。

「本屋でバイトしたいらしいね」

  なんだそのことか。っていうか、当主様がそのことを知ってるだけで驚きなんだけど。兄弟の前でしか言ってないよ?

「はい……、できれば……」

「近くに親戚がやっている本屋があるんだ。あまり大きくないから、そこでバイトをしたらいいよ。」

「ありがとうございます」

 俺は、頭を下げる。

  当主様って、どこから情報を仕入れてるんだろう。女中とかの噂も耳に入ってるのかな?

「言っておくべきことはこのくらいかな?」

 俺らではない誰かに声をかける。すると、横のふすまが少し開いた。誰が出てくるのかと、身構える。他の兄弟も、少し身構える。普段は温厚そうなやつもだ。

 が、顔が見えて少しほっとする。兄弟たちもほっとしたのが、分かる。

  美佳様だ。

「はい。そのぐらいだと思います」

「じゃあ、これからよろしくね。私は普段もここにいるから、なんかあったら気軽に来てね。君たちの両親代わりだから」

  当主様が、俺たちの……両親代わり? って、えっ? 下手に何かしたらいろいろとやばいやつじゃないか? まぁ、何もしたことないけど。俺は。

「はい……」

 いつもはあまり動揺を表に出さない、歩の歯切れが悪かった。

「本当に、遠慮なく来ていいからね」

  そんなことできないでしょ……。

「はい。失礼します」

 歩が言い、全員で一礼してから、部屋を退出し、歩の部屋に全員で入る。

 歩の部屋は、俺らにとってはリビングであり、相談所であり、作戦を立てる部屋でもあった。

  多分、こっちに来ても変わらないと思う。

「はぁ~、チョー緊張した」

 歩が部屋に入ると、倒れ込むように床に横になる。

「まぁ、一番後ろにいた俺らでも、すっごい緊張したからね」

 部屋の隅のほうの床に座り込んだ(とおる)が言う。

「タツ、なんか情報取れた?」

 亨の横に座った、暁が言う。タツこと、亨の隣に座っている(たつき)は、少し考え込んでから、口を開く。

「特に何も。取れるような雰囲気じゃなかった。でも、厳しい時は厳しいんだろうな。さっきの笑顔は優しかったけど」

 樹は、この兄弟の中では一番、人を見る力があるため、癖などから、情報を収集する担当である。

「ふーん。タツでも取るのは難しいか。ミノは?」

 歩の隣に座っている、望がミノこと、俺の隣に座っている稔に、話を振る。

「う~ん。特に何もなかったかな」

 稔は、冷静に周りを見て判断できるから、今回のような、皆が緊張してるときとかは、ほぼ何も覚えてない可能性があるため、そういうのを判断する担当である。

「そっか」

「サツ、当主様と美佳様以外に誰かいた感覚は?」

 樹が、サツこと、稔の隣に座っている(さつき)を見て言う。

「無かった。最初は運転手さんがいたけど、すぐにいなくなった」

 皐は兄弟の中では一番、空間把握に長けているため、何があったとか、そういう感じの担当である。

「そっかぁ」

「あの状態で、優斗様とかに会ってたら、やばかったな。精神的に」

「ご飯とか、何も聞かずに来ちゃったけど、どうしよう」

「あ、確かに」

「誰か来た」

 皐がドアを見ながら言ったため、全員が、背筋を伸ばして正座する。歩は、もう結構ヘロヘロだったけど。

 皐の言った通り、すぐに扉がノックされ、歩が返事をすると、美佳様が入ってきた。床に座って、一息ついてから話し始める。

「ごめんなさいね。さっき話すのを忘れてしまったことを伝えに来たのだけど……」

 兄弟の全員が無言で、次の言葉を待つ。

「ご飯のことなのだけど、夏休み中は、食材を自分たちで買ってきてほしいの。お金はいくらでも出すわ。調理もここの台所を使ってもいいし、女中たちが使っていた家の台所も器具はそもままのはずだから、それを使ってもいいわ。掃除用具は、それぞれの女中の家にあると思うから、自由に使ってやってくれたらいいわ」

「はい」

「じゃあ、よろしくね。編入試験は、夏休み中に学校で行ってもらうことになるのだけれど、大丈夫かしら?」

「はい。いつするのか決まったら、教えてください。いつでも大丈夫ですので」

「分かったわ。失礼するわね」

 美佳様はそう言って、部屋を出て行った。

「あぁー、もう、死にそう」

 皐の緊張がほどけたのと同時ぐらいに、歩が、後ろにあった壁にもたれかかりながら、言う。

「アユ、交代しようか?」

 望が心配そうに歩を覗き込みながら言う。

「お願いしたいところだけど……、今のところ、大丈夫」

「そうか。無理はするなよ」

「大丈夫。本当にヤバかったら、交代してもらう」

「いつでも言ってくれ」

  年上メンバーは、大変だなぁ。

 望は、立ち上がって部屋を出て行く。他のメンバーも合図はなかったけど、続々と部屋を出て行く。

「カケは、戻らないの?」

 歩がこちらを見ながら言う。

「部屋に戻ってもやることないし、暇だから」

  小説を読んでもいいんだけどね。

「ここにいても、やることないと思うけど?」

「邪魔だったら、出て行くけど?」

「邪魔じゃないから、ここにいて」

「あ、そう」

  なんて、そっけなく返してるけど、アユを今一人にしたら、大変なことになる気がする。俺もだけど、二人だけ当主様と会話をしたから、緊張感を知っている。ノゾも知ってるかもしれない。

「何個ぐらい家があるのか、先に視察に行っておいた方が良いな」

 五分ぐらいたつと、立ち直った歩がそうつぶやいた。俺は、その五分、ずっと小説を読んでいた。

「アユ、一人で何でもやろうとしないでいいから。それに、視察に行くなら、ミノとタツをつれて行きなよ」

「うん。じゃあ、ミノとタツと、カケもつれて行こ」

「えっ? 俺も?」

「うん」

  まじか……、アユが立ち直ったら、寝る予定だったのに。

「じゃあ、ミノ、呼んできて」

  勝手に行くことになってるんですけど? まぁ、アユに一人でやるなって言ったの俺だし、仕方ないか。

「りょ」

 俺は、歩の部屋を出て、稔の部屋の扉をノックすると、すぐに返事が返ってきた。稔の部屋に入ると、特に何もすることがないような感じで、スマホをいじっていた。

「失礼、これから、女中たちの家の視察に行くんだけど、一緒に来てほしいって、アユが」

「いいよ。俺の他に誰か誘ってるの?」

 稔が、こちらを見上げながら言う。

「タツ」

「なるほど」

 稔は納得して立ち上がる。二人で部屋を出ると、廊下で歩と樹に会った。四人で屋敷を出て、門につながる道を歩く。

 少し歩いたところに、道の両側に十軒ずつぐらい家が並んでいる。手始めに、一番初めの家の扉を開け、四人で入る。

「本家だからか? 向こうより豪華に見えるのは。」

 稔が居間を見ながらつぶやいた。

「多分、そうだろ」

 樹が居間の扉のところに居る稔の後ろを通って、反対側にある、台所に向かう。

  やっぱり、台所に行ったか。そこが一番、その人の性格が分かると樹が言っていた。

「家電とか、すごい残ってる。これら、この後どうするんだろう」

「さぁ? 後々、他のところに送ったり、別荘が二つくっついていて、その家電が一つしかないところにでも送るとか、このまま残しておくとか?」

「まぁ、妥当なところだな」

 俺は、階段を上って二階に向かう。一番近いところの部屋の扉を開く。

 多分、超特急で追い出されたのだろう。女中が掃除をしないということはないから、布団が出しっぱなしだったりしているだけで、俺でも分かる。

  メンバーか。アユ、ノゾは分けるとして、他は……。

 先ほど、歩からいつものように、メンバーを決めておいてくれと言われた。俺は、兄弟の中ではそういう担当である。

「カケ、掃除当番、決まった?」

 歩が同じ部屋に入ってくる。

「まぁ、だいたい。いつも通りでいいんじゃね? 二組にして十軒ずつぐらいで」

「二組は?」

「一組目は、アユ、サツ、俺、トオ、スグ、シノ。二組目は、ノゾ、アキ、カナ、ミノ、サト、シズ。タツは別で」

「うん。それでいいと思う。タツは別にしておくのが良いな」

 樹は、情報収集したら、まとめるためにずっとひきこもってたりするから、別行動のほうが良い。

  別に、面倒だからはぶいてるとか、そういう感じじゃなくて、ただ単に、別のほうが楽だからだ。

「二人とも、次の家に行こう」

 稔が開きっぱなしの扉から顔を出す。

「タツは、もういいのか?」

「うん。下で待ってる」

「そうか」

  案外、早かったな。こういう時はたいてい三十分とかいるのに。見なくてもだいたいわかるとか、検討をつけていたのか?

 その後、俺たちは全部の家を回ったが、間取りはほぼ同じで、三十軒ぐらいあった。それぞれの家に個性があって、案外面白かった。

  こんなふうに感じてるの、俺だけかもな。

 その日は、そのまま、四人で買い出しに行き、元女中が住んでいた家に兄弟を全員集めて、ご飯をつくり、食べて、風呂に順番に入り、本家に戻って、解散した。

 俺は、自分の部屋に戻り、布団を引っ張り出して、寝っ転がる。今までだったら、小説を読んでいるところだけど、今は、三冊ぐらいしかないため、読んだらもったいないなとか、考えていたら、いつの間にか眠っていた。

 ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

 この物語は、「美少年の妹が女中に虐められるのは、どこも同じですか?」の続編です(作中終盤に出てきた、十三人兄弟の話です)。相川家の詳しい話については、そちらを読むことをお勧めします(読まなくても大丈夫だと思います)。


 正直に言ってしまうと、前の、「美少年の妹が女中に虐められるのは、どこも同じですか?」は、ただの前置です。僕的には、こっちの話を書きたくて、前の作品を書いたという感じなんです。


 第一話なのですが、十三人、全員に話させることができなかったです。何なら、名前ですら一回しか出ていないキャラもいます(どうなってるんだ!)。

 次回には、全員に話させることができるのでしょうか……。


 次回は、十三人の名前が全員出ます(略称しか出ていないキャラがいるので)。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ