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学内格差と超能力  作者: 小鳥頼人
2巻 2科分裂編
44/83

第2話 ③

「2科は1科と比べて暗黙の了解で色々と制限されているんですよ」

 中庭のベンチや学食を使っちゃいけない風潮やら、生徒会に入れないとか、色々とね。

「おまけに常日頃から人間的に格下に見られてますし」

 1科の中には2科を虫けら扱いする者もいる。その代表格が辻堂なんだけど――奴も先の騒動に懲りて少しは大人しくなってくれるといいんだが。

「なるほどね。そういう背景があるのなら、ドリンクの犯人は2科の生徒かもしれない――それならば、組織の目的とその動機が一致するか……」

 満さんの言葉は途中から独り言に変わってしまい、聞き取ることはできなかった。

「学園長は届いたドリンクをあえて生徒に飲ませたんだ。生徒に超能力を身につけさせるためにね」

「それってかなり危ない行為ですよね?」

 当然、学園長の判断にはなにかしら大きな意味があったのだとは思う。

 しかしだ。多感な年頃の男子生徒に超能力なんか与えて、乱用する輩が出るリスクは決して低くはないぞ。

「諸々のリスクも承知した上で超能力を生徒に託したんだよ」

「託す……?」

 満さんは鋭い眼光を見せた。心なしか眼鏡がきらんと光った気がする。

「そこまでは組織と同じ目的になる。組織としては身についた能力を使って生徒に暴れてもらいたいんだろうね。その力で人を脅したり、物を破壊したり――最悪、殺人を犯すことを望んでいるんじゃないかな」

「なるほど」

 立場が低い人間がそのような騒ぎを起こせば、周囲のその人を見る目は変わる。恐らく見下したりバカにしたりはされなくなる。でもそれっていいことか? そんなわけないよな。

「学園長はその超能力を破壊以外の何か、人の役に立つことに使ってほしいと願っているんだ。貴津学園の生徒は力を悪い用途には使わないと信じているからこそ、ドリンクを配ったのさ」

 学園長の想いはきっと生徒たちに届いている。なぜなら彼女の願いどおり、現状では公の場で超能力を使う生徒が出て騒ぎになっていないから。

「人の役に立つ……」

 俺の電撃を発生させる力を誰かのために使える機会なんてあるのかな?

「まぁ、まだ深く考える必要はないよ。この件は俺や学園長に任せていち生徒の君は学業に専念してくれればいいさ」

 満さんは俺の肩に手を置いて微笑を零すも、

「ただ、少々気になる動きをしてる生徒がいるので俺は彼をマークしなきゃなんだがね」

 すぐに眉間にしわを寄せて不穏なことを口にしてきた。

「怪しい生徒ですか? 俺の知ってる人ですか?」

 俺の知り合いだとしたら、こちらでもできることがあるかもしれない。それに――もし交友がある人だったら……組織から脱退するよう説得しなくては。

「疑わしきは何とやらでね。詳しく情報を集めたら教えるよ」

 満さんはにこやかな表情で言ったけど、はぐらかされた感がある。

「呼び止めた上に長話になって申し訳なかったね」

「いえいえ、今回も色々教えてもらって感謝してます」

「また何かあったら声かけるよ」

 超能力周りの情報について、何も分からないよりかは分かっていた方がいいから。

「そうだ。せっかくだ、一緒にゲーセンでも行こう」

 満さんはポン、と手を叩いてそんな提案をしてきた。

「いいですね」

 満さんと普通に遊ぶのも悪くないな。

 こうして、俺は満さんとゲーセンに行くことになった。


    ★


「ただいま」

「おかえり、兄さん。遅かったね」

 初仕事から帰宅した兄さんの表情は生き生きとしていた。

「帰りに高坂君に会ってさ。寄り道してきたんだ」

「へぇ、こ、高坂君と」

 びっくりしたぁ……急に高坂君の名前が飛び出してくるんだもん。

「……どこに行ってきたの?」

「ゲーセン」

 二人でゲーセンかぁ。

 私も前に高坂君とゲーセンに行ったなぁ。楽しかったな。また一緒に行きたいな。

「高坂君はずっとクレーンゲームで景品を取ろうと頑張ってた。何千円と使ってたね。それでも結局取れなくて、また後日挑戦するって息巻いてたよ」

「そう、なんだ」

 高坂君は決して器用な人ではない。

 けど……いや、だからこそかな。なんだか気になってしまう。親密感を抱いてしまう。私たちはどこか似てるんじゃないかって、勝手に想像を広げてしまう。

「高坂君といえばさぁ」

 兄さんが何か企んでそうな表情を向けてきた。

 嫌な予感……。

「真夏は彼のことをどう思ってるの? 好きなの?」

「えええっ!? きゅ、急にどうしたの!?」

 ちょうど高坂君のことを考えていたところに踏み込んだ話題が振られたものだから、つい狼狽うろたえてしまった。なんだか顔も熱い。

「だってさぁ。真夏が初めて自宅に招いた男の子だよ? 絶対に特別な感情があるでしょう」

 確かに。

 兄さんの指摘通り、私は彼を特別扱いしている自覚がある。

「…………その、気にはなる、かな」

 これが、今の私の精一杯な気持ち。

「――そう」

「けれど、それが好きという感情なのかはまだ分からなくて……」

 初恋のなんたるかすら理解できていない私にとって、この気持ちの正体は全く分からない。安易に恋愛感情と決めつけるのはいささか安直だ。

「近頃溜息多いね。まぁ色々悩めばいいさ。焦らずゆっくり考えるといい」

 兄さんは穏やかな微笑と声音を向ける。

「なんせ君はこれまで俺も含めてロクでもない男とばかり出会ってきたからね」

 不遜ふそんな兄さんらしからぬ自嘲じちょう的な態度だった。

「高坂君はそんな連中とは違う。俺が保証するよ。彼は俺のような男にはない何かを持っている」

「――ありがとう、兄さん」

 私が素直に礼を述べると、兄さんは胸を反らして鼻を鳴らした。

「みくびってもらっては困るな。俺はやればできる男だよ? 今までやらなかっただけで」

「兄さんがニートから脱却する決意をしてくれたのはすごく嬉しいんだけど、自信過剰なところは相変わらず現役だね」

 兄の言動に思わず苦笑を浮かべる。使わない鬼才に意味はないでしょ。

「ははは、いましめるよ。じゃあ俺は風呂入ってくるから」

「分かった。その間に夜食を冷蔵庫から出しておくから上がったら食べてね」


 ………………。

 学科対決の翌日、私は後片付けを手伝うべく学園へと向かった。

 そこで佳菜が高坂君の袖口を掴んで嬉しそうに肩を並べて歩いてる光景を見て、胸がモヤモヤした。

 このモヤモヤの正体は分からないけれど、私も負けられないと対抗したくなった。ここで何もしなかったら、チャンスがついえてしまう気がしたから。

 内心ではドキドキしてたけど表面上は平常心を取りつくろった。外面そとづらを作るのは昔から得意なんだ。

「……チャンスって、なんなんだろ……」

 自分で思っておきながら疑問を抱く。自身の気持ちのはずなのに、それが分からない。

 分からないけど、少なくとも佳菜と高坂君の距離が縮まることに危機感を覚えた感じ。

 ………………。

「やっぱり私――……高坂君のことが好き、なのかな……?」

 一人で呟いてみるも、同然のことながら誰も回答などしてくれるはずもなく。

 分からないのでもう少し様子を見よう。

 恥ずかしくて今日学園の廊下で会った時はまともに彼の顔を直視できなかった。本当はすごく嬉しかったくせに。あんな態度、感じ悪いよね。

 もっと落ち着かなきゃダメだ。でないと次会った時も今日の二の舞になってしまう。

「今までのように、彼と普通に話せるように心がけないと」

 私はとくん、とくんと高鳴る胸に手を当てながら自室へと入ったのだった。

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