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学内格差と超能力  作者: 小鳥頼人
1巻 学内格差編
29/83

第10話 ①

 辻堂たちとの対決の日がやってきた。

 GWはバイトと今日に向けたNEW作戦を考えていたらすぐに終わってしまった。

 なんとも味気ないけど、星川さんとデートを楽しめたのでよしとせねば。

 対決開始時刻は午後五時から。

 今日は全部活動が休みの日で、なおかつその時間帯なら無関係な生徒にはほとんど火の粉がかからない理由から、1科側が指定してきた。

 ちなみに、対決時の戦闘服は全員ジャージだ。

 現在の時刻は五時十分前で、まだ少しだけ時間に余裕がある。

「ところで、辻堂はどうやって6組の教室の鍵を開けたんだろうね」

 辻堂の6組侵入方法が気になっていたので太一に尋ねてみた。

「考えられる可能性は三つ。辻堂もしくは知り合いがピッキングの技術に長けていた。これが最も現実的な手段かな。次に、窓から強引に侵入したか。君、扉の鍵は閉めたけど窓は放置してたでしょう」

「窓は平気だろうと高を括っておりました」

 2年の教室は三階にあるので窓の戸締りまではしなかった。1科と2科の教室はロの字の対角線上にある。窓の外から、しかも三階では侵入するのは容易ではない。

「三つ目。考えたくないけど、1科の中にも前のドリンク騒動が原因で能力を身につけた人がいて、それを悪用して扉を開けた可能性もゼロではないんじゃない?」

 いつもの面子には満さんが教えてくれた超能力の話は伝えてある。

 誠司は「ありえん!」と超高速で首を横に振っていたけど、太一と豊原はすぐに納得してくれた。

「星川兄は洞察力が優れているね。過去のトラウマなど嫌な記憶をエネルギー源として、ドリンクに混入されていた謎の物質を媒体に力を生み出している、か。どうりで強い負の感情を持ってそうな人が少ない1科では、能力者の存在が全く確認されないわけだ」

 能力が使える=何かしら暗い過去がある、という点から考えると毎日が充実していそうな1科の面々は能力とは無縁と言えるかもね、と太一は語った。

「確かに2科は他クラスでも何人か変な力がーって騒いでた奴がいたけど、1科からは全くそんな話は聞かなかったな」

 太一の話を聞いていた誠司は顎に手を当てて首を傾げた。

 1科と2科の生徒の学内地位と、能力者の数は反比例しているんだね。

 とりあえず俺たちにできることは、超能力を公の場で乱用しないことだけだ。


    ☆


「さあってと、約束の時間だ。今日は思い出に残る一日にしようぜぇ、ヒャハハハ!」


 いよいよ決戦の時だ。

 高校生になってまでこんな醜い争いを繰り広げることになるとは思ってもみなかったけど、2科の逆境パワーを見せつけるにはうってつけの舞台だ。

「ヒャハハ、高坂よぉ、少しは褒めてやるよ。1年の頃のテメェは俺等の煽りにただただビビってシカト決め込むだけだったもんなぁ。あの頃に比べりゃ骨はあるぜぇ」

「2科ってだけで理不尽な扱いを受け続け、抑圧されるのは限界なんだよ」

 同じ学費を払ってる同じ人間なんだから、学科関係なく同等の扱いをしてほしいんだよ。

「ただ、あの頃よりもクソ生意気になりすぎだな。悪者はしっかりと退治させてもらうぜ?」

「悪者退治はこっちの台詞だよ」

 絶対にこいつらに勝って二度と2科をバカにできないようにしてやらないと。

 争いに参加する全生徒は5組の教室に集結している。

 例外として、各学科の代表生徒は生徒手帳を隠している最中なのでここにはいない。

 代表が相手学科の手帳の隠し場所を告げ口しないように、二人のスマホにはロックをかけ、それを相手学科が確認した上で預かっている。

 生徒手帳の隠し場所は各学科で事前に決めてあるので、自学科の生徒手帳の隠し場所は把握している。

 勝負のルールはシンプルで、相手学科の生徒手帳を手にした方の勝利となる。

 ただし注意点が五つもある。一つ目は手帳が誰の手に渡っても手帳が取られた側の負けとなること。つまり2科が2科代表生徒の手帳に触れた場合も2科の負けとなってしまう。

 二つ目。参加生徒は配布されたシールをジャージの左胸に貼ることになっている。

 シールを剥がされた生徒は戦闘不能扱いでリタイアとなる。言わば参加者の心臓だ。

 このシールがちょい曲者で、粘着力が弱く剥がれやすい素材で作られている。

 万が一リタイアした生徒が相手の妨害をした場合は即、妨害した学科の敗北となる。

 どういう仕組みかは知らないけど誰かが手帳に触れたりシールが剥がれたことや、リタイアした生徒が妨害行為をした場合は、すぐさま本部(1科は1科側の空き教室D、2科は2科側の空き教室D――表現が面倒なので以下1科D、2科Dとする――の教室)に配置されたパソコンにその旨が通知され、モニタリング役の生徒にバレるようになっている。

 各科Dには各空き教室に誰がいるのかが確認できるノートパソコンが設置されている。

 ただし監視カメラとは違って鮮明な映像ではなく生徒の氏名のみが表示される簡易的な作りだ。つまり、居場所は分かるけど生徒の詳細な様子や座標位置、進行方向までは分からない。

 5組の安部あべ君という生徒が作ったシステムらしいけど――なんという技術力。

 三つ目。トイレ中の生徒や本部への攻撃は禁止。

 四つ目。リタイアした生徒は学科ごとに用意されたリタイア部屋で勝負が終わるまで待機すること。

 五つ目。スマホを用いたチャットのやりとりは個人相手ならOKだけどグループを作成して一斉に通知するのはNG。

 戦いの舞台として、2年の廊下と各学科三つの空き教室A~Cが割り当てられている。

「豊原、参加人数はどうなってる?」

 太一の指示で、豊原には各学科の参加人数を目視で数えてもらった。

「だ、大体の数だと、い、1科は三十五前後、に、2科は十九人だね」

「予想はしてたけど倍近くの人数差か。厳しいな」

 2科の参加生徒は6組だけ。対する1科は2年の全クラスから参加者がいるっぽい。

 おまけに上履きの学年色が1年の人までいる。

「何ジロジロ見てるんですか!」

 1科生徒を観察していたら、1年生の女子生徒に怒られてしまった。

 強い口調に加えて仇でも見るような目で睨まれ、少したじろいでしまう。

 ひとまず「すみません」と頭を下げると女子生徒は「ふんっ」とそっぽを向いてしまった。

「雫も加勢してくるとはね」

「太一、知り合い?」

 太一は彼女と面識があるようでやれやれと嘆いている。

「彼女は俺の幼馴染の蓮見雫はすみしずく。家が隣同士の腐れ縁だ」

 太一にあんな可愛い幼馴染がいたとか初耳なんですけど。隠し設定かよ。

 蓮見さんという女子生徒はとても端正な顔立ちをしており、特に気の強さをより強調するツリ目が印象的だ。

 ツインテールの髪にも目が行くけどそれ以上に――背の低さが印象的だ。身長は150センチを切っているんじゃないかな?

 更に言うと胸の辺りは主張が謙虚で、強気な性格とは裏腹にお淑やかな印象をいやが応でも植えつけられてしまう。

「ロリコン趣味の太一に幼女体型の幼馴染。もう立派なフラぐふぉッ!!」

「だぁれが幼女ですってぇーっ!?」

 なんだ!? 今、何が起きた!?

 てか、なぜ蓮見さんは片足しか上履きを履いてないんだろう。そしてなぜ俺の足元に1年生の上履きが落ちていて、俺は鼻血を流しているんだろう。

「身長やロリ関連の話題は雫の逆鱗に触れるから気をつけてね」

「五秒早く言ってくれてれば……」

 実体験済みの俺に太一の補足は全く役に立たなかった。

「生徒手帳、隠し終わったよ」

 鼻にティッシュを詰めていると、各学科の代表二名が戻ってきた。

「お疲れさん。じゃあ悪いけど、お前たちはこのまま下校してくれ。スマホは明日返すから、一日だけ我慢してくれな」

「うん、了解」

「それを承知の上で代表を引き受けたからな」

 誠司と代表二人のやりとりが終わり、二人は下校した。

 さて、いよいよ勝負開始だ。

(それにしても――)

 星川さんはともかく、高沢君に遠藤さんまでが1科側に加勢してくるとは思わなかったな。他にも見知った顔がちらほらいる。

 なんだかんだ言っても学科間の壁は硬く、厚く、高いことを改めて実感させられる光景だ。

 戦いの場に生徒が日頃使用している教室は使えない。騒ぎに乗じて生徒の私物が物色されることを防ぐためだ。だから一端全員廊下に出て5組の教室を施錠する。


「ヒャハハハハ! 楽しいトレジャーパーティーのはじまりだぜぇ!」

 こうして戦いの火蓋が切って落とされたのであった。


「さてと。どこから乗り込むかな」

 今朝は早めに登校して罠や障害物として使えそうな物品を空き教室に設置しておいた。それは1科側も同じはず。

 幸い今日は部活動が休みなので、運動部や文化部の物品が拝借できた。

「無難に1科側の教室から攻めるのがセオリーか」

 太一の意見により1科側の教室からあたることにした。

 ちなみに俺と太一は探索組、誠司と豊原は防衛組と担当が分かれている。


 まずは1科Bに乗り込んでみる。

「おっと~? みそっかす2科どものおでましだぞ!」

 俺たちの訪問に気づくなり、教室で待機していた1科の男子数人はカゴに入ったバスケットボールやサッカーボールを教室の床にまき散らしてきた。

 たくさんのボールが所狭しと転がって俺と太一の進行を妨げる。

「うわー、教室の床がボールに埋め尽くされたよ」

「よくもまぁこんなに仕入れてきたものだね」

 ボールをばら撒いたところで避けてしまえば――

 ――あれっ?

 上履きに軽くボールが触れただけなのにボールは勢いよく転がり、バランスを崩した俺は床に転倒した。

「いてて、身体のあちこちをぶつけちゃったよ」

「床に滑り防止効果がないワックスがべったりかかってるね。ずいぶんと派手にかけてあるなぁ」

 太一はツルツルとする床を指でなぞりながら呟いた。

「ここまで来れるものなら来てみろやー!」

 1科男子が教室の窓側から挑発してくる。

「うわぁ、この床かなり滑るね。普通に歩こうとするだけでもツルツルするよ」

 凍結した路面以上に滑る床をなんとかツルツル滑りながら進んでゆく。

「頭の悪い策を講じたものだね。こんなにツルツル滑る、しかもボールの障害物付きの教室じゃあ君たちも大変でしょう?」

 俺と同じくおぼつかない足取りで進む太一は1科男子たちを煽り返した。

「バカが、俺らがいる位置にワックスはかけてねーっつーの!」

 1科男子たちは煽りには乗らず、余裕の表情を崩さない。

「君たちはトイレに行く時はどうするの? それに決着がついたらこの教室から出る必要があるよね。なんでわざわざ自ら身動きを取りづらくなることをしたのか分からないなぁ」

 ほくそ笑んだ太一がポケットから取り出したのは――水鉄砲? いつの間にポケットにそんなものを装備していたんだ。

「それじゃあこんなものが出てきても逃げられないね」

 太一は水鉄砲で1科男子の胸部を攻撃した。

 そうか、太一の狙いは――

「こんなもの――――ああっ、シールが剥がれた!?」

 この状況では相手も身動きが取れないため、遠距離攻撃をされたら為す術がない。逃げようものなら滑る床をボールも避けつつ進まなければならない。

 相手の策を僅かな時間で逆手に取るとはさすがは太一。

「ちいっ、粘着性のないシールだな!」

「おい、逃げるぞ!」

「いいのかよ!?」

「シールを剥がされるよりはマシだ! どうせここには手帳なんざないんだからな!」

 1科男子たちはシールを庇いつつスリップしながら教室から出ようとする。

 その有様を尻目に太一は水鉄砲アタックを続け、結局四人全員のシールを剥がしてしまった。

 シールを手で守っても手の上を攻撃されて少し水に濡れるだけでいとも簡単に剥がれ落ちた。

「まったく、勝負開始早々水を補給しないといけなくなったじゃないか」

 太一は空になった水鉄砲を振って嘆息した。

「飛び道具を忍ばせてたとは思わなかったよ」

 水鉄砲で相手のシールを剥がすとは考えたもんだなぁ。

 しかし、勝負に負けた場合を想像するとかなり恐ろしい。散らかった教室の後始末は負けた学科が土曜日にするルールだから。

「ここに手帳はないんだってね。ならもう用はないね」

「そうだね。他の教室に向かおう」

 俺たちはスケートをしながら1科Bを出て1科Cへと向かった。


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