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逆襲の花嫁  作者: 五十鈴 りく


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✤42

 リゼットは、眠るジスランの手を握ったままでいた。いつもあたたかかった手が冷たく感じられる。

 以前、寝込んだリゼットをジスランは献身的に看病してくれた。あの時のようにずっと付きっきりでいたいけれど、リゼットは魔女に会いに行かなくてはならない。

 しばらく離れることを許してほしい。


 問題は、いつ、どうやって魔女に会うかだ。

 今、部屋の中にはジスランとリゼットしかいない。セネヴィルたちは解決策を探すために戻った。この屋敷にいるのは、ロジーナとバディストだ。バディストを残したのは、ジスランがこの状態では不用心なのと、ロジーナやリゼットを支えるためだろう。


 朝になって、ロジーナが顔を見せた。


「リゼット、あなたも少し休んで。あなたまで倒れては困るもの」


 気丈なロジーナが、目を赤く腫らしている。この家に翻弄されているのはロジーナも同じなのだ。当事者がジスランだとしても、すべて忘れているジスラン以上に、ロジーナの方が苦しんだのかもしれない。


 リゼットに休めと言うけれど、ロジーナが眠れたようには見えなかった。リゼットは椅子から立ち上がると、ロジーナをギュッと抱き締めて背中を摩った。


「大丈夫よ。ジスラン様はすぐによくなるわ」

「そうね。セネヴィル先生やお義父様が何か解決策を見つけてくれるはず」

「ええ、そうね」


 そうであったらいい。

 リゼットもそう願いたい。

 けれど、多分それだけでは足りない。


「それじゃあ、少し休ませてもらうわ」


 リゼットがそう言うと、ロジーナはこくんとうなずいた。


「ええ、私がついているから」


 後をロジーナに託し、リゼットは部屋に戻った。眠たいのかどうかもよくわからなかったけれど、とりあえず横になることにした。

 軽く仮眠を取ってから、食欲があるわけではなかったけれど、今、リゼットまで弱るわけにはいかないと、無理やり食事もした。


 その一日は祈るような気分で過ごした。

 けれど、ジスランを救う手立ては見つからないままだった。デジレが報告に来ていたが、階段の踊り場からリゼットが顔を覗かせると、申し訳なさそうに顔を背けた仕草でわかった。


 それでも、セネヴィルたちは懸命に探してくれているのだろう。責めているつもりはない。

 今は誰もが無力感を抱えている。


 フィンとフリーゼも元気がなく、ジスランの部屋の隅で伏せていた。

 ――やはり、このままではいけない。



 リゼットは明け方にこの屋敷を出ることにした。それから森へ向かうつもりだ。

 さすがに夜動くのは危険だから、早朝を選んだ。それで魔女に会えるかはわからないけれど、会えるように祈るしかない。


 与えられた服の中で一番シンプルな動きやすいワンピースを選んで着替える。後は、部屋に置かれていたサンドイッチなどの軽食をハンカチに包み、ペーパーナイフやスカーフなど、役に立つのかもわからない道具をまとめてケープで包んだ。


 リゼットがいなくなってロジーナが驚くだろうから、机の上に『ジスラン様を目覚めさせる方法を探しに行きます。必ず戻ります』とだけ書置きを残した。


 未明、まだ使用人たちも動き出さないような時刻ではあるけれど、ジスランがあの状態だから、寝ずの番をしている人もいる。リゼットは気づかれないように灯りは持たずに動いた。


 扉ではなく、以前ジスランが夜中に庭へ出た時に使ったガラス戸を通ることにする。ここまでは誰にも気づかれずに済んだけれど、リゼットが戸を抜けた時に一緒になってフィンが庭に下りてきた。


「駄目よ、戻って。いい子だから」


 潜めた声で言い聞かせる。けれど、フィンはキュゥンと鳴いた。耳を下げ、それは悲しそうに。

 主人の不調を犬たちもちゃんと理解している。この上、リゼットまでどこかに行ってしまうのかと不安にさせたのだ。


「大丈夫よ、帰ってくるからね?」


 そう言って頭を撫でるけれど、フィンは中へ戻ろうとしない。ここでもたもたしていると、誰かが起きてくる。


 悪いことをしに行くつもりはないけれど、危なくはあるのかもしれない。だから、行先を知られれば止められてしまう。そうしたら、もう行かせてもらえない。

 待っているだけでジスランが目覚めるのなら、それでも構わない。むしろそうであってほしい。


 けれど、この時のリゼットには待っているだけでジスランは目覚めないと直感的に思えた。これがリゼットに与えられた試練で、リゼットが行動を起こさなければならないのだと、そんなふうにしか考えられなかったのだ。


 ここで無理にフィンを戻そうとすると、大声で鳴くだろう。

 仕方なく、リゼットはフィンを外へ出したまま戸を閉めた。


「フィン、ついてきちゃ駄目よ。待ってて」


 そう言いながら庭を進む。

 けれど、フィンはそんなリゼットについてきた。どこまでも。

 それは、ジスランが目覚めない今、リゼットを護るのは自分だという使命感を持っているかのように。

 

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