✤28
締めつけのある服装では寝ていても苦しいだろうと、ジスランはメイドにリゼットを着替えさせるように頼んだ。さすがにその間は外で待った。
そのままリゼットの看病をメイドに任せれば済む話なのだが、運んだついでというか、ジスランは部屋に残った。そして、メイドの方が躊躇いがちに出ていってしまった。
しんとした室内で、眠るリゼットを眺める。ここにジスランがいると目覚めた時にどんな反応をするのかと想像して、多分慌てるだろうと思い至る。事実、その通りだった。リゼットでなくとも慌てるかもしれないが。
熱があってつらそうなのに、リゼットはいつも以上に表情を見せた。他愛のない話もした。年頃の女の子らしく、重たい、太ったなどということを気にしていたけれど、リゼットは細身なので太ったようには感じられない。しみじみとそうしたことを考えるとロジーナに怒られそうだ。
慌てたり、照れたり、リゼットは色々な顔を見せる。
それを見ているのが、こんな時なのに新鮮だった。
本当に真面目に仕事だけしてきたようで、ジスランの言動のひとつひとつに驚いて動揺する。ジスランが一歩進むと一歩下がる。そういうところが可愛らしく思えた。
今までは近づいてくる女性の方が積極的で、ジスランの方が困って一歩引くことが多かったかもしれない。誰にもそこまで強い思い入れは持てなかった。
この時、ジスランは脇腹がチクリと痛んだような気がして、なんとなく摩った。この傷が今さら痛むのも調子が狂う。
ここにナイフを突き立てた彼女は、少なくとも人を刺すほどには強い感情を持っていたはずだ。ジスランにはわからないけれど、多分。
水が入った器を廊下でメイドに手渡していると、いつの間にかロジーナが怒りをあらわにして立っていた。ツカツカと歩み寄ってくると、腰に手を当てて言う。
「兄様、リゼットが熱を出したというのは本当ですの?」
「ああ、そうだが……」
「どうしてすぐ私に知らせてくださいませんでしたの?」
そこに怒っているらしい。
「リゼットが、大事な時だからお前にはうつしたくないと言っている」
それを聞くなり、ロジーナの怒りが萎んだ。
「そんなの、うつるかどうかわかりませんわ。それに、うつってもすぐに治せます」
「それでも、お前が寝込んだらリゼットが気にするだろう?」
正論だから、ロジーナも何も言えない。気の強い妹がしょんぼりとした。
「具合はどうなのですか?」
「まだ熱があるので寝ている」
すると、ロジーナは口に出す前に感情をすべて物語っているような嫌な顔をした。
「兄様は寝ている女性のところに出入りするのをなんとも思わないほど無神経だったのですか?」
「い、いや、動けなかったリゼットを運んだのは俺だから――」
「まあ、そうだったのですか。兄様がわざわざ?」
とてもわざとらしい言い方をする。ロジーナはやはり苛立っているようだった。
つい、リゼットが風邪をひいたのは自分のせいだから、責任を感じていると口走りそうになって口をつぐむ。そんなことを言った日には何を言われるかわからない。
刺々しかったかと思うと、ロジーナは急に嘆息した。それによって体の力を抜いたように見えた。
「体が弱っている時は心も弱っています。そんな時に優しくされると、頼りたくなるのは当然のことです。兄様が気まぐれでリゼットに構っておられるのなら、看病はメイドに任せてくださいませ。けれど、もし、兄様がリゼットを心底心配して付き添っていたいと仰るのなら話は別ですわ。その代わり、リゼットを傷つけないでください」
一気にまくし立てたかと思うと、ロジーナは階段を駆け下りていった。騒がしいけれど、ロジーナもリゼットのことが心配なのだ。
リゼットを傷つけるなと言う。
傷つけるつもりなど毛頭ない。穏やかに見守っていたいと思うだけだ。
ただの風邪ではあるのだろうけれど、念のため、家令に医者を呼ぶように言いつけた。リゼットが寝ているので、フィンとフリーゼも部屋に入れないようにしているのだが、二匹は心なししょんぼりと退屈そうに寝ていた。可哀想でも、リゼットは病人なのだから仕方がない。
ロジーナも近づかない、犬たちも近づかないとなると、まるでジスランがリゼットを独り占めしているようで妙な気分だった。




