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《風雁》に復帰が認められたことにより、翔緒が最初に言い渡されたのは、ケータイを変えることだった。もともと支給されていたものは壊してしまって、現在使っているものは自分で適当に調達したものだ。組織の人間になる以上、完全な管理の物にする必要がある。
「いーなぁ。新しいやつ」
別件でのついでに寄ってもらってきたケータイを、陸がうらやましそうにのぞく。
「お前のはなんでそんなボロいんだよ」
「まー、そりゃ、雑だからでしょ」
「自分で言うなよ」
笑って言い返しながら、これで今度こそ凛に連絡しないといけないな、とぼんやり考える。
「でさ、翔緒、あの子に連絡すんの?」
「は?」
「凛だよ凛!」
なんとも、なれなれしい呼び方である。
「電話すんの? 受かったって」
「いや、試験とか自体話してないし……」
「まじで? じゃあ連絡しないの?」
「携帯が変わったことくらいは、一応伝えるつもりだけど……」
嫌な予感がして眉を寄せると、陸が弾けるような笑顔で言った。
「かわって!」
「なんで!」
「一応、あいさつを……」
「親かよ!」
「じゃ、じゃあ! せめてスピーカーにして話して! 声だけ!」
「気持ちわりぃな!」
「いいじゃん! 俺だって」
そこで、二人とも会話が止まった。廊下の前方から明斗が歩いてくる。来客だろうか、そう思って目を向けた瞬間、 ぞっとした。
「廊下で大騒ぎすんなよ、お前ら」
明斗はあきれ顔である。その後ろに、漆黒の少女がいた。
レースをあしらった黒のドレス。ウエストをきゅっと絞られたデザインが華奢な体躯を強調する。長い袖からもレースがのぞき、小さな手は隠れてしまっていた。
巻かれた柔らかい髪は、ヘアアクセサリーを飾ってハーフアップに結われている。
「――――凛……」
きれいにメイクした顔立ちは冷徹で見なれない。
凛の後ろから、聖が笑って手をあげて見せた。
なんで、こんなところに。
「翔緒、あとで彰人つれて指令室こい」
すれ違いざま、明斗がそう命じた。
「なんで……」
「あー、大丈夫大丈夫」
答えたのは聖だった。
「話しあいに来ただけだから。別にのりこんできたわけじゃないしさ」
軽口っぽい言葉を残して、あとでね、と行ってしまう。
「……今の子が凛?」
横から陸が訪ねてきた。
「え? ……あぁ、うん」
そんなあいまいな答えしか返せない。
歩いていく背中から目を離せずにいると、小さな頭が少しだけふりかえるようなしぐさを見せた。しかし、結局、凛は一度も翔緒と目をあわさなかった。