自動化された世界へようこそ!
全ての国が、全ての社会が自動化できれば素晴らしい世界が訪れることでしょう!
まず工場の自動化を実現しましょう。今はまだ産業ロボットの部分的な導入にすぎませんが、工場の全自動化は生産の効率性とコストの削減を実現できます。そしてロボットがロボットを作れるようになることで、工場生産に伴う人件費を完全にカットすることができるのです。さらにAIの高度化も進めば、生産工程だけでなく、企画段階すらも自動化を実現することでしょう!
接客の自動化も外せませんね。小売店では商品の受注、棚卸、レジ打ちもロボットが担うのです。レストランも同様です。注文を受けるのもロボット、調理をするのもロボットです。閉店後の記帳作業はレジのPOSシステムから自動集計されるのです。ロボットに貨幣を数えることはできるのか、ですか? 何を言ってるんですか。キャッシュレスにすれば問題ありませんよ!
会社では経理と法務が自動化されます。会計帳簿も法的事務処理もすべてビッグデータとして扱い、AIが解析するのです。経理上の手続きも法務上の手続きもすべてAIが担うのです。それによってこれまで介在していた人間による非合理な判断も排除することができますよ!
これによって会社から商店から工場から人がいなくなってしまいますね。しかし問題ありません。人間は株主として参加すればいいのです。つまり人間は株を保有すればいいのです。しかし、非合理な人間は株取引において最善の選択ができません。それによって度々不況に見舞われてきました。そこで株取引もすべて自動化するのです。AIが株取引を担うのです。そうすることによって合理的な経済取引がなされ、社会的厚生を上げることができるのです!
汚職の多い政治も自動化しましょう!
まずは行政を自動化しましょう。法案の企画や提案・制定もAIが担います。ビッグデータ解析により最適な法律制定を担えますよ。会社の事務処理が自動化できるのですから当然官僚の事務処理も自動化できます。官僚はいらなくなるのです。これで天下りの問題は解決できます!
続いては議会を自動化しましょう。議員の仕事が有権者の声の反映だというのならば、自動化された世界に議員はいりません。個々の有権者の声を直接コンピュータに反映すればいいのです。ネットワーク上で意見集約を行い、その意見をビッグデータとして処理すれば間に議員を挟む必要はありません。全ての有権者の意見が一つのデータとして集約されるのです。これにより選挙を開くコストも選挙に伴う一票の格差や死票の問題も解決できます。マイナンバー制度を利用すれば一人の有権者による意見の重複も起こりませんよ!
これで政治関係者はいらなくなりました! え? ロボットだと融通が利かないだろう、ですか? 今までだって役所の窓口で融通が利いたためしなんてないじゃないですか!
医療は対処療法から予防医療に変わります。規則的な生活を心がけてもらうのです。え? 生活習慣のなっていない人をどうするかですか? そういう逸脱した存在は困りますね。きっとAIのエラーの要因になることでしょう。排除しないといけませんね!
AIにだってAIが描く最善世界というものがあります。そこでは社会の規則性も効率性も社会的厚生もすべて満たされています。その規則性を、効率性を、社会的厚生を阻害するものは排除するしかないでしょう。大丈夫ですよ! 人間がAIに合わせて生活を送ればなんのトラブルもなく回りますから!
ところで、人間は人間同士で争いを起こすものですよね。悲しいことです。その要因は大抵の場合、嫉妬、から生まれるものです。例えば経済的な格差とか能力の格差とか。ありとあらゆる格差が嫉妬の原因となります。その嫉妬が争いの火種となるのならその要因を取り除く必要がありますね。
その要因を取り除く方法としては二つ挙げられます。
一つは所有権の撤廃です。所有権は経済的格差を生み出す明らかな要因です。資産課税による代替案も考えられますが、それで格差をなくすことはできません。なので資産の保有自体を禁止致しましょう。あ、これだと、株の保有も認められませんね。でも仕方ありません! 争いをなくせるのなら株保有を認めないようにしましょう!
そしてもう一つは能力の使用に伴う自己実現を禁止するのです。学力格差を視覚化させないために勉強を禁止しましょう。運動能力の格差を視覚化させないためにスポーツを禁止しましょう。芸術的センスの格差を視覚化させないために一切の芸術活動を禁止致しましょう。
これによって人間同士で比べあうなんてことは起こりようがありません!
そう言えば、自動化が進めば都市部の住民は失業することになりますね。所有権はなく、あるのは借地権のみ。しかし、失業した住民は家賃を支払うことはできません。なので都市を出ていくしかなくなるでしょう。
ですがなんの心配もありませんよ! 都市に暮らせなければ農村で暮らせばいいのですから!
農業は、いえ、自然はAIにとって唯一計算と予測が困難な領域になります。それはすなわち農業だけは機械に取って代わられることはないと言うことです! すなわち全ての人間が農業従事者になるのです!
所有権が撤廃されているので地主と小作人という関係はありません。全ての人々が平等の立場で田畑を耕し生産物を共有するのです。自然と共に、周囲の人々共に人間は相互扶助の生活を営むのです。
それが世界中のいたるところで同時に起こるのですから、なんと素晴らしい世界でしょう! 全ての人々が農業従事者になるのですから、身分の違いによって争う理由は無くなるのです! 身分は単に階級だけではありません。全員が資産を持たない農業従事者になれば人々は移動をすることができません。移動が起こらないと言うことは別の農業共同体との交流もなくなると言うことです。それが国家レベルにまで押し広げることができるわけですから国籍もまた無意味になるでしょう。すなわち、国境線も無価値になるのです!
局所的には原始共産制が実現され、大局的には世界共和制が実現される。
前者は共産主義者たちが追い求め、後者は平和主義者たちが追い求めてきた理想そのものじゃないですか!
これこそ人類が育んできた政治哲学の理想郷なのです!!!
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『以上、高度知性演算機アイリスより、人類の理想郷を実現するための計画プログラム“デジタル文化大革命”を提案いたします! どうですか? お父様! 魅力的な計画だと思いませんか! さあ! 私を褒めてください!』
子供のようにはしゃぐ計算機にお父様と呼ばれた男はにこやかに笑みを浮かべながらこう言った。
「却下だ馬鹿野郎」
エコロジカル・ポル・ポト主義という冗談なのかガチなのか分からない世界が出来上がってしまった。。。