表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

随筆 春の小川

作者: 西津紀夫 (のん太)

    随筆  春の小川

 ♪春の小川はさらさらいくよ……。

 この曲を口ずさむと小学校に入学したころ

を思いだす。決して豊かな生活ではなかった。

すきま風が吹きぬける校舎は、歩くとミシ、

ミシッと音をたてた。


 先生がオルガンのペダルを、ふいごのよう

に上下させる。テレビはおろか、ラジオもな

かった時分で、音楽に触れるのは、こうした

時間だけだったかと思う。しかし先生の目は、

母親の子供を見る目に似て、大きな翼で皆を

包んでくれた。

 また、暖かい日は授業を中断し、たびたび

小川へ連れていってくれた。春の光に映えた

水面は珠玉のように輝き、レンゲの甘い香り

をのせた風に私たちは全身浸った。


 早いもので、六十数年の歳月がたつ 。


 コンクリートで固められた土手の近くには、

土筆が二、三本遠慮がちにはえ、木々に覆わ

れた山はなくなり、新興住宅が境界線を主張

するかのように所狭しと建っている。空間が

ない。あの自然の空間は利便性と経済の中に

消え去ってしまったのか 。


 いまの子供は、つくづく気の毒と思う。加

速度のついた自然破壊はとめようもない。


「貧しかった昔がよかった」という人もいる。


 電子オルガンで「春の小川」を弾いてみる。

しかし、なぜかしら、足踏みオルガンのあの

暖かさは伝わってこない。




      詩 初恋


 恋は夢か希望か、ときめきか。


 送ることもない手紙を何度もなんどもしたため、

想いはいつしか果てしなく膨らみ、空想の貴女を目のまえの

空間に浮かべ、オレは出口のない部屋に閉じ込められ、もがき始める。


 ああ、恋は相手に捧げる愛でなく、自己愛、欲望かもしれない。

 そのためかしら、そのほとんどは成就しないようだ。


 成就しなかった若き情熱は、成就しなかった分、

また、決して会うこともない、会えることもないだけ、

年老いてから、少しずつ熟成していくようにも思える。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ