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第6話、今後の行動

 


 ティリア王城の一室で始まったレインの神事『個別適正検査』の結果についての報告は部外者であるテスニア学園長を巻き込んだまま国家機密満載の内容の話に突入していた。


「それで、どう致します?」

「どうもこうも、伝えなきゃならないだろう。ティリファ姫に関しては精霊女王様に任せよう。」

「それが、1番でしょうね。」


 結局、精霊女王フィスティアに押し付ける形で決定した。

 ティリファの母親な為、当たり前なのだが、こういう会話を聞くと何処か押し付けてる感が拭えない。

 だが、確かに神の血が濃く入っている、彼女の事に関しては人間では対処出来ないのも確かである。

 そして、もう国家機密満載の話についていけず、ソファーの隅で固まっているテスニア学園長に話が振られた。


「テスニア学園長。」

「ひゃいっ!」


 なんか変な声が出たが、国王と王妃と補佐官(日本で言う官房長官)の3人がいる部屋に一貴族である彼女には荷が重すぎた。

 その為、その声に関して気にする者はこの部屋に居なかった。

 そして、彼女にとって恐れていた事が聞かれた。


「レインは今、寮にいるのか?」

「あ、いえ・・・それがそのぉ・・・」

「貴方、レインは今落ち込んでいるのですから、無理に話すのは良くないですわよ。今は気持ちの整理が付くまでそっとしておくのが1番ですよ。」

「そ、そうだな。」


 学園長がレインは今は寮に居ないという事を伝えようとするが、王妃がそっとしておくべきと言って、中々言い出せなくなった。

 レインも婚約者のティリファと契約するのを楽しみにしていたので、それが出来ないと分かった今、落ち込みぶりは相当なものだと容易に想像がついた。

 そして、今はそっとしておこうという結論に至ったのだが。


「済まなかったな。レインに関しては落ち着いてから来るように伝えてくれ。」

「実は、それが・・・」

「ん?どうしたのだ?」

「非常に申し上げにくいのですが、」

「なんだ?構わん、申してみよ。不敬には問わん。」


 学園長の動揺ぶりに何かあったのかと聞くが、どうやら非常に言い難い事らしい。

 フィルナンド国王はそれを自分に対する不敬を心配していると勝手に解釈した。

 ちなみに王族に対する不敬罪は法律上存在するが、過去にそれが執行された事は殆ど無く、あくまでも慣習的に記載されているだけの法律である。


「レイン殿下は本日付で学園を退学なされ、寮も退寮しました!」

「・・・・・・」

「・・・退学?退寮?ど、どういう事だ!?」

「なるほど・・・」


 テスニア学園長が意を決して発言したその事は部屋の空気を変えるには十分な内容であった。

 王妃は理解できていないようでそのまま固まっている。

 国王も最初は理解出来ていなかったが、次第に理解してくると怒りと疑問を混ぜた感情でテスニア学園長に詰め寄った。

 この部屋で唯一、補佐のフィルニールだけがその事を理解していた。


「フィルニール、なるほどとはどういう事だ?」

「・・・恐らくこのスフィアナ王家で精霊との適正が無かったのはレイン殿下が始めてだと思います。」

「た、多分そうだな。」

「レイン殿下は非常に賢い為、精霊との適正が無い自分の存在がこの王家、国の不都合になると考え、王家としての繋がりを断ったのでは?」

「な、何故だ?それくらいの事でわざわざ繋がりを断つ必要があるのか?」


 フィルニールはレインの考えを完璧に理解している。

 というより、レインの性格とフィルニールの性格が似ている為、自分の考えとレインの考えがよく一致するのである。

 フィルニールは精霊界から派遣されてた精霊であり、精霊女王の連絡役でもある。

 最もフィルニールが精霊だと知っているのは王家の人間と国の上層部のみである。

 前国王の代から補佐に着いており、見た目は20代である為、感がいい人は気付いている可能性があるが、殆どの国民は寿命が長い種族としか思ってない。

 そもそも精霊はある一定の年までは人間や他の種族と同じ速度で成長するが、一定の年になると成長が止まり、そこから成長することは無い。


「もし自分が居れば精霊との関係にもヒビを入れる事にもなりますので、居なくなれば、居るよりマシだと考えてもおかしくありません。」

「ま、まさか自殺を!?」

「いえ、レイン殿下の性格を考えますと自殺は無いでしょう。恐らく行方不明という形にしていると思われます。殿下もステータスを見れば精霊魔力は高くなくても通常魔力と知力が高いのは分かりますし。」


 と、言うより自分なら間違いなくそうする。

 精霊が自殺する事は有り得ない事である、という考えのせいでもあるのだが、レインが自殺するなど考えられなかった。

 もし国がレインを始末しようと暗殺者や軍隊を送る(有り得ないどころか不敬で命令した人が極刑になる)事があっても、彼の性格ならその刺客を潰す事はあっても自殺する性格では無かった。

 国王や王妃は気付いていないが、レインは目的や愛する人の為なら一切躊躇無く行動に移せる人間だとフィルニールは確信していた。


「じ、じゃあ、レインは何処に行ったんだ?」

「少なくとも、このティリア中央州には居ないでしょう。恐らく他の州に行かれたかと・・・」

「それでは監視カメラで追いかければ。」

「無理でしょうね、レイン殿下の固有スキルに『ミラージュ』がありました。顔識別機能でどうにかなるスキルでは有りません。恐らく鉄道で他の州に行かれたかと思いますが、『ミラージュ』は10時間程しか保たないので、これだけのカメラがあればどれかに映っている可能性はありますね。」


 このスフィアナ連邦国は現代の中国並みに監視カメラ網が張り巡らされており、AIとリンクされており、顔識別機能さえ使えれば連邦警察や公安警察などのデータベースで一瞬で判別出来る。

 しかしここからが地球とは違うところで、この世界には魔法が存在し、『ミラージュ』などの固有スキルなどを使えば一時的に顔を変えられるのである。

 幾ら最新技術を使っても、顔の形を変えられたら別人としてAIは認識してしまう。

 最も『ミラージュ』は☆3な為、このスキルを持っている人は世界中を探しても100人居ない。

 他にも気配を薄くするスキルや闇に溶け込むスキルなどが存在するが監視カメラと赤外線装置、そして熱感知装置で全てバレる。

 その為、1番厄介なスキルが『ミラージュ』なのである。

 更に厄介なのはここティリア中央州はこのスフィアナ連邦国の首都であり、鉄道だけでも数多くの私鉄やSIR(独立行政法人スフィアナ旅客鉄道)がターミナル駅を置いており、何処かに行くには一番便利な場所なのである。

 SIRの高速鉄道は各州に一つしか駅を設置していない為、そう時間は掛からずに遠くまで行く事が出来る。

 パスポートを使えば1発で王族とバレる為、国外には出てないと考えられるが、何せこのスフィアナ連邦国はオーストリア大陸の約1.5倍あるスフィア大陸全てを統治している国家である。

 つまり、非常に広いのである。


「保安隊を動かすか?いや、首相に掛け合い軍隊を使って捜索を・・・」

「もし、レイン殿下が行方不明とレムリアに伝われば誘拐などの手段を取る可能性があります。その場合でもレイン殿下は無事でしょうが、ティリファ姫や精霊が何をするか、もしかするとレムリアがノスヴァルナ大陸みたいになる可能性があります。」

「・・・それはそれで問題だ。」


 この世界はユーラシア大陸並みの2つの大陸とオーストリア大陸の約1.5倍あるこのスフィア大陸、そしてオーストリア大陸の同じ大きさのレムリア大陸の4つの大陸とその周辺の島々で構成されている。

 そして現在、このスフィアナ連邦国とレムリア大陸にあるレムリア帝国は30年にも渡り戦争中なのである。

 しかしスフィアナ連邦国とレムリア帝国は約8000kmもの距離(東京•サンフランシスコ間とほぼ同じ)があり、戦闘は島嶼部と海軍の戦いである。

 つまりレムリア帝国とは敵対中なのである。

 レムリア帝国がスフィアナ連邦国を攻めてくる原因はスフィア大陸にあった。

 レムリア大陸は大陸の7割程が砂漠地帯であり、逆にスフィア大陸は8割が森林地帯である。

 つまりレムリア帝国は豊かなスフィア大陸を占領しようと戦争を仕掛けてくるのである。

 戦況はスフィアナ連邦国軍が一方的だが、それでも少なくない戦死者が出ている為、非常に悩ましい問題である。

 そしてユーラシア大陸並みの大陸のうちの片方の大陸はノスヴァルナ大陸と呼ばれており、この大陸は30年前のとある出来事により現在国家と呼べるものは一部分を除き存在しない。

 大陸全土で武装勢力同士が衝突を繰り返しており、国家を樹立しては滅ぼされてまた国家を樹立する、その繰り返しである。

 ちなみにもう片方はリディーラ大陸と呼ばれており、スフィア大陸と同様に自然豊かな大陸である。

 と言っても地球で言うシベリア地方みたいなツンドラ気候や永久凍土などの場所もある為、大陸の4割にあたる約2000万㎢は各国が領有権を主張する事を禁止する自然保護区(という名の放置区域)になっている。

 その為、国は北側以外の海岸線に沿うように位置する。


「・・・・3日だ。3日経ってもレインが戻らないようであれば保安庁を動かす。公安警察にも掛け合いレインを捜索させる。」

「それがよろしいかと。」

「・・・最悪、ティリファ姫に伝えれば同調でレインの居場所は直ぐに分かるのですが。」


 スフィアナ連邦国の警察は3種類存在する。

 まず各州毎にある州警察(地方警察)、州を跨ぐ犯罪や重大事件などを担当する連邦警察(国家警察、アメリカで言うFBI)、そして最後に国内の危険組織などを監視•捜査する公安警察である。

 公安警察は正式にはスフィアナ連邦国国家公安警察と言い、日本で言う各警察の公安部であり、その目的はほぼ同じである。

 同じ連邦警察庁の配下であるが、日本と違い組織は別物であり、旧秘密警察でもある。

 全国の右翼団体や左翼団体、カルト教団などの危険団体を監視しており、その職務上秘密捜査にはもってこいの組織である。

 ちなみに何故公安警察と保安隊なのかと言うと、首相には各大臣の任命権があるが、首相による独裁を防ぐ為に国家安全保障省大臣と宮内省大臣、保安省大臣は国王が任命する事になっている。

 理由は国会がある場所の隣に保安隊の駐屯地が存在する為、首相によるクーデターなどを防ぐ為という理由。

 だが、日本国を見ても分かる通り、これはあくまでも建前である。

 実際は単なる首相の力を持たせ過ぎないという議会と議会の思惑で予算や人員を削られたくない国家安全保障省と保安省の考えが一致した為である。


「陛下、では私はこのスキルを精霊女王に伝えて来ます。」

「あぁ、頼んだぞ。ティリファ姫に関しては・・・」

「えぇ、悟られないようにします。では、」


 そう言ってフィルニールは始祖精霊は全員使える転移を使用し、精霊女王にレインの結果を報告しに精霊界へと戻っていった。

 生まれて初めて転移を見たテスニア学園長が目を見開いて驚愕している中、もう見慣れて耐性が出来ている国王と王妃は溜息をつき、退出の準備を始めていた。

 その後、係の人が入室してきて、テスニア学園長に今日見た事聞いた事は一生漏らさず、漏らした場合は処罰の対象となる旨の誓約書にサインさせられ帰った。

 その後、国王夫妻は息子と娘達を集め、レインが短い期間だが留学に行った事を伝えた。

 当然ながらレインと会えない為、文句たらたら言っていたが、しばらくすると納得したのかそれぞれ自分の部屋へと帰って行った。

 そして子供達が出て行った部屋の中で国王夫妻は深い溜息を吐いたそうな。



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