第16話、尊重契約
「レイン!今の今までどこに居たんだ!!」
「何処って、スフィールノです。」
「スフィールノ?塔か!ってよく入れたな。」
「ラフテルさんの弟子っていう事で入りましたよ。」
確かにスフィールノから塔に渡る連絡橋の審査は厳しかったが。
まぁ、ラフテルさんやグローテルさんが盛大に脅していたから、権力は使いたくなかったけど、実質使ったようなものなのかな?
父とそう話していると獣人の男性が畏まって話しかけて来た。
確か、この人は外務大臣だったかな?
「あの、レイン殿下。とりあえずどいた方が良いかと思いますが・・・」
「え?どくって・・・あぁ!!フェルニールさん、すみません!」
「フェルニール兄様、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だ・・・帰ってきて、くれて、良かった。」
ティリファと2人でフェルニールさんの上に乗ってたの全く気が付かなかった。
フェルニールさんは精霊だし多分大丈夫だろう。
「陛下、とりあえず人員は撤退させます。」
「あ、あぁ。そうしてくれ。これにて議題は終了する。」
「れ、レイン殿下。転移を使えるという事は、ティリファ姫と契約したのですか?」
「う、うん。一応出来たけど。精霊魔力値分からないなぁ。」
精霊魔力値は180って表示されたのにティリファと契約出来たし、俺はいったいいくつなんだ?
と、ティリファと契約出来たと言うと一気に周りが騒がしくなった。
「おぉ!!ティリファ姫と契約出来たという事は次の王は決まりましたな。」
「ん?なんの事?」
「いえ、こちらの事です。」
「ぶ、無事、契約出来たんですね。良かったですティリファ姫?・・・」
歓喜の余り泣き出しそうなフェルニールさんだったが、俺を見て次にティリファを見ると涙は引っ込み、顔が驚愕の表情となっていた。
「ど、どうしたんですか?フェルニール兄様。」
「補佐官殿、どうしました?」
「ん?フェルニール、どうした。」
他の人が心配な余りフェルニールに聞くが彼は固まったままだった。
大臣や首相、国王まで彼に聞くが全く動かなかった。
そして、ようやく再起動した彼はティリファに向かって嘘だと言ってくれ、といった感じで質問した。
「・・・ティ、ティリファ姫・・・け、契約って通常契約ですよねぇ?」
「あ、」
「ん?どうしたの。」
「間違えちゃった。てへ。」
うん、可愛い。
じゃなくって通常契約じゃない?という事は主従契約?
精霊との契約は2種類あって対等な立場で契約する主従契約と一方的な立場で契約する主従契約がある。
主従契約は片方が奴隷みたいな形になる為、奴隷契約とも呼ばれており、精霊関連法により禁止されている。
もし破ったら重い罰則があるが、この世界では精霊は絶対的な存在であり、果たして主従契約した人が無事でいられるとは思えない。
が、次に聞こえて来たのは俺の記憶の片隅にしか残ってないような契約方法だった。
「ま、間違えたって!それ、尊重契約ですよね!!」
「尊重契約?どういう事だ?」
「尊重契約は通常契約とは違い、互いの精神などに大きく干渉します。副作用として強い影響力のある種族に変わる事があります・・・」
種族が変わる?俺の場合はつまり精霊になるって事?
仲の良い精霊に契約方法について教えてもらったけど、通常契約ばっかりで尊重契約に関しては殆ど聞かなかったなぁ。
確か、お互いが相手を絶対的に信用してないと弾かれるとか言う契約方法だった筈。
つまり、かなり珍しい契約方法だという事か。
「へ?つまり、どういう事?」
「精霊の血が入っているからとはいえ、人間と精霊の中でも特に強い始祖精霊とでは始祖精霊が勝ってしまいます。つまりその尊重契約をした時点でレイン殿下は半精霊になったという事です。」
「は、半精霊!?」
半精霊?パッと見てあんまり変わった様子はないが。
唯一言うなら魔力の量が増えたように感じるけど、これはティリファとリンクしたから流れているだけだし。
「は、半精霊という事はレインは人間では無いのか!」
「い、いえ。半精霊ですので半分精霊、半分人間なので一応人間です。精霊という存在自体が外見上の特徴は人間とそう大差ないので、分かるのは私のような始祖精霊や大精霊くらいでしょう。」
「何か問題があるのか?」
それが一番であった。
これで寿命が縮むや伸びるなど言われたら非常に困る。
死にたくはないが、エルフみたいに数千年も生きる自信は無いし。
って言うより力はそこまで求めてない。
普通に王族として生きていたいんだ。
「通常契約するような精霊では尊重契約しても半精霊になる事はまずあり得ませんが、神の血も入っている精霊女王の娘ですので、もし契約するなら精霊女王、いや女神セレスティア様の許可が必要です・・・」
「も、もし拒否されたら?」
「恐らく契約を破棄させられるでしょう。尊重契約はその性質上一度破棄すれば通常契約でも再度契約するのは不可能です。尊重契約はある種の呪いのようなものですので、レイン殿下が他の精霊と契約するのも不可能になります。」
フェルニールがそう言うと、さっきまで歓喜の渦に包まれていた出席者は途端に静かになった。
史上最高の出来事が一変、国の存続に関わる重要な事だからである。
王族が精霊と契約出来ないと、それは王族への不信感になり立ち所に変な噂が流れてしまう。
そもそも精霊女王の機嫌を損ねる行為であり、例え此方側に非は無くても問題であった。
「い、今すぐに伝えた方が良いかな?」
「いえ、もう既に伝わっていると思います。いや、ここに直接来る可能性が・・・」
「ひっ!せ、精霊女王と女神様が!?こ、心の準備がまだ。」
「もう来てるわよ。」
心の準備が出来ていない各出席者を他所に水上庭園みたいになっている会議場とは別の木々が植えられている場所から2人の女性が現れた。
片方の女性は白金色の髪であり、後ろで軽く束ねている。
もう1人は白銀色の髪色で、そのまま腰まである髪を伸ばしていた。
2人共腕や指はほっそりと伸び、きめ細かな真っ白の肌で姉妹のように、まるでお姫様のようなドレスを着ていた。
「久しぶりね、レイン君。」
「お、お久しぶりです。セレスティア様。」
「セレスティア様?」
僕がそう言うと白銀色の方の女性が怒気を交えた声で自分が言った言葉をそのまま言い返してきた。
周りを見るとティリファ以外は全員片膝をつき、忠誠を表していた。
大臣だけならともかく、父である国王陛下や、首相までもが忠誠を表して顔を下に向けていた。
そう白銀色の髪色をしている彼女こそが女神であり創造神でもあるセレスティアである。
ちなみに白金色の髪色をしている方はティリファの母親であり精霊女王でもあるフィスティアである。
「せ、セレスティア、義姉様。」
「まぁ、言い淀んでいるけど良いわ。貴方達も久しぶりね。10年?経ってないかしら、悪いわね。」
「い、いえ!滅相も無い。お姿をご覧にしただけでも非常に光栄です。」
緊張しまくっている首相の返答に「オーバーねぇ。」と2人で笑いあっているが、当の本人以外の人達は笑える余裕などある筈もなく縮こまって、ただ単に下を向いている。
ちなみに俺達も笑える余裕はあるが、他の人の気持ちもわかる為、2人顔を合わせはぁ、と溜息をついた。
そして俺達と女神、精霊女王以外で唯一緊張していない補佐のフェルニールが精霊女王に向かって口を開いた。
「あの、精霊女王様。ティリファ姫がレイン殿下と尊重契約を致しましたが、よろしいのですか?」
これで「契約破棄よ。」と言われたら大人しく契約は破棄するしかない。
他の出席者もその発言の重みを感じていると非常にアッサリと良い意味で場を裏切る返答が返ってきた。
「構わないわよ、別に。」
「え?よろしいのですか?レイン殿下は半精霊になってしまいましたが。」
「良いんじゃ無い。私、個人的レインの事は信用しているし、今更半精霊くらいでどうこう言ってもねぇ。」
「・・・」
「それに神の血筋でもあるティリファと精霊の血が入っているからといえただの人間じゃあ、結婚しても苦労するし。半分でも精霊の方が色々と都合良いから。」
女神セレスティアが個人的にレインを信用していると言った事は会議参加者達にとって衝撃的な事であった。
一個人を信用していると言う事は、それだけ女神であるセレスティアが気にかけているという事、何かあった場合に女神が出る可能性が少しながらあるからである。
だが、別にこのままで良いと言われた事に関しては皆一同、一安心だった。
「そうですか・・・」
「まぁ、レムリアに関しては面倒だと思うけど、私はむやみに干渉出来ないからねぇ。ただ一つ付け加えとくと、艦隊は1つだけじゃないから。気をつけてね。」
「え?という事は・・・」
「まぁ、ティリファも見つかった事だし、今日は帰るわ。ティリファ、別に地上界に居ても良いけど、ちゃんと帰って来なさいよ。」
「はい、お母様。」
「じゃあねぇ、レイン君。」
そう言い残すと女神と精霊女王の2人の女性は空間転移を使い消えていった。
2人が完全に消え去るとあちこちから溜息をつく声や倒れ込む人が出た。
「防衛大臣、聞いてたか?」
「えぇ、聞いてました。監視を強化するように言っておきますが、今はちょっと動けません。」
「ティリファ姫はともかく、なんで殿下は平気なんだ・・・」
「・・・レイン、何か対策とかあるのか?」
別に対策と言っても、俺自身ティリファと契約して半精霊になるまでは普通の人間だったし、やはり神だからオーラかなんかが出ているのかなぁ?
まぁ、アレしか無いと思うけど。
「多分、精霊界に行った時、何回か会って、話しをして、食事しているからかな?」
「・・・絶対に真似出来ない。」
「女神セレスティア様と食事?味を感じるのか?」
「俺は今日、10年分の精神を使い果たした。」
「なんとかしたいけど、そんな慣れ方はしたくない・・・」
この星の守護神は精霊女王であるが、姉のセレスティアはこの世界を創造した初期三神のうちの一神である。
数多いる神々の中でも最も高位の存在であり、絶対的三神と呼ばれている。
絶対的三神は創造神•中立神•破壊神であり、対極の立場にいる創造神•破壊神とバランスを取る中立神で成り立っていた。
対極の立場にあると言っても仲が悪いという事はなく、その辺の女子高校生みたいにどうでも良い話を永遠としている。
そして、俺は精霊界に行った時何度か三神に連れて行かれ(実質的な拉致)神界で暇潰しに話に参加させられたが、今は言わない方が良いだろう。