悪役令嬢に追放された侍女長の御言葉
わたくしは、この伯爵家の侍女長を務めさせていただいている者にございます。
細かくは申しませんが、勤続して30年近くは経っているかと。
そんな折、お屋敷の坊ちゃま(26歳独身・彼女あり)に呼び出されたわたくしは、まさかの言葉を告げられたのです。
「ばあや。悪いけど退職してくれないか? 経費削減だよ。このところ、屋敷の資金繰りがさぁ……」
あろうことか坊ちゃまは、経費を削減するために人員を減らすと申したのです。
「坊ちゃま。よろしいですか?」
「なんだ」
「あの方とはお別れくださいませ。何度も報告をしている通り、あの方はお屋敷の資金を――」
お屋敷の資金が足りないのは簡単な話。坊ちゃまの彼女が資金を私物化しているからです。
過去から再三に忠告してきたというのに、盲目な坊ちゃまは信用してくださいません。
「ばあや、もうウンザリだ。……ばあやが嗅ぎ回ってくると彼女からクレームが来てる。察してくれ」
こうして坊ちゃまは彼女のために、邪魔者であるわたくしを追放なさいました。
それから田舎に戻ったわたくしは、のんびりとした余生を過ごしております。
退職金はございませんでしたが、こういうときに貯金というものが役に立ちます。
見渡す限りの草原に、静かなテラス。なかなかに悪くございません。
と、そんなわたくしの下に一本の電話が掛かってきました。
お相手はなんと侯爵家の方。
「もしもし。ええ、わたくしでございます。……なんと、わたくしをお雇いに……! 少し、考えさせてくださいませ」
あまりに突然な申し出に落ち着いて考えたく存じます。と、そこへ更に……
「まあ、公爵家ですか……!」
お次は……
「わたくしを、王宮に……!?」
さすがに目眩が……わたくしも年ですから。ですが、わたくしが余生を過ごすのはまだまだ先のようにございます。
こうして王宮に務めさせてもらうようになったとき、かつてのお屋敷の噂を耳にしました。
わたくしが去った後の伯爵家では、メイド達の総辞職が起こったそうです。
メイドを失った伯爵家はお屋敷の管理もままならなくなり、ホコリの舞い散るパーティーは誰もが倦厭して、貴族としての付き合いも無くなったのだそう。
ようやく慌てた坊ちゃまは、すぐさま彼女と婚約破棄をいたしましたが、時すでに遅し。
これからは過酷な人生が待っていることでしょう。
そんなお二人に、わたくしから一言申させていただきます。
「ざまぁっす」
これが『ザマス』誕生の瞬間である。
σ(^_^; うん、ザマス。